アナログ停波/あと3年/地デジ完全移行
「国民の協力」強調するが
買い替え・共聴アンテナ…課題は山積
地上アナログ放送を打ち切って、地上デジタル放送(地デジ)に完全移行する2011年7月24日まで、残り3年に迫りました。政府の諮問機関・情報通信審議会が先月まとめた第五次中間答申では、この3年間を「最終段階の中でも『仕上げ』の段階」と位置付け、国民の「協力」を強調します。しかし、課題は山積したまま。果たして国民の準備は間に合うのでしょうか。
高額TV
地デジテレビを見るためには、1)地デジ対応のテレビに買い替える 2)アナログテレビに専用チューナーや録画機を取り付ける 3)ケーブルテレビに加入する、のいずれかの対応を迫られます。最近ではNTTが光回線を使ったサービスを始めました。
家電量販店大手のビックカメラの販売員によると、「地デジテレビの売れ筋は、42型で20万円前後のもの。最新型だと30万円。一戸建てでアンテナの改修が必要な場合は3万〜10万円の工事費が別途かかる」といいます。異常な物価高が国民生活を襲うなか、簡単に買い替えられる額ではありません。
答申では、生活保護世帯(約107万世帯)を対象に、簡易チューナーの支給(1台)とアンテナの改修費の補助を打ち出しました。しかし、高齢者や障害者はじめ、400万人とも500万人ともいわれる生活保護水準にも達しない人たちは対象から外されました。
経済弱者対策の切り札″として、答申では「5000円程度の簡易チューナーの開発」をメーカーに求めています。たとえチューナーで急場をしのいだとしても、2011年7月以後にテレビが故障した場合、引き続き安いアナログテレビが手に入るかは不透明。総務省の担当者は「地デジテレビへの買い替えが基本。業界にアナログテレビの生産を要請することはない」と断言します。
改修遅れ
全世帯の約3分の1が利用している共聴施設のデジタル改修の遅れも指摘されています。
地方の辺地共聴施設(2万施設、140万世帯)は、改修費の半額を国が補助することになりましたが、「大規模改修が必要な施設では、実施のめどすら立たない」(山間地域の自治体職員)と危機感を募らせます。一万、マンションなど集合住宅の共聴施設(52万施設、770万世帯)の改修費の補助は一切ありません。
都市部のビル陰などによる受信障害対策共聴施設(5万施設、650万世帯)の場合はさらに複雑です。
電波障害に強い地デジ波でも障害が残った場合、対策の費用負担は当事者間で協議するよう総務省は指導しています。しかし、地デジ波が流される以前にビルなどがどんどん建ち、どの建物が障害を起こしているのか「原因者」の特定が困難な例も数多くあります。答申では、こうした事例での「支援措置」を盛り込みましたが、国はいまだ正確な実態を把握していないのが実情です。
低い関心
答申では「国民への周知徹底がカギ」と強調します。NHKでは、今日二十四日からアナログテレビの画面の右上に「アナログ」という告知マークを入れました。各局でも地デジのCMが盛んに流れていますが、国民の関心は今ひとつです。
総務省が今年の3月に実施した意識調査では、「アナログ放送の終了時期」を具体的に知っていた人は64.7%。1年前の調査から、わずか4.3ポイント上昇しただけでした。「アナログ放送を続けてもらいたい」という回答も、依然としてトップを占めています。
地デジ問題に詳しいジャーナリストの坂本衛さんは、「地デジ化は時代の要請であり、当然必要」としながらも、「国民が苦しまないようアナログ停波時期を延ばすべき」だと提起します。
「売れ筋の大型地デジテレビが1カ月働いても買えない金額なのに、あと3年で6000万〜7000万台以上のアナログテレビを地デジテレビに置き換えるのは無理な話です。そもそも、国民がテレビに求めているのは番組の中身であって、高画賃・高音質ではない。いったいテレビは誰のものか、現在の地デジ計画を推進した総務省、業界やメーカーなど関係者は大いに自問すべきでしょう」
地デジ不便なことも…
■「タイムラグ」発生
技術的な問題で、地デジ放送はアナログ放送より2秒程度映像と音声が遅れる「タイムラグ」が発生します。岩手・宮城内陸地震で緊急地震速報が間に合わなかった可能性も指摘されています。
■複雑なリモコン操作
アナログテレビのリモコンにくらべてボタン操作が複雑で「操作できない」という声も。また、視聴覚障害者が字幕や手話など補完情報が受信できるチューナーが地デジ化で使えなくなります。
■画面の上下が切れる
アナログテレビに専用チューナーを取り付けても、横長の地デジ映像に対応するためテレビ画面の上下が黒くカットされます。小さいアナログテレビだと、文字や字幕が見えにくくなってしまいます。