<第168回国会 2007年11月29日 総務委員会 第6号>


○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。
 きょうは、放送法につきまして、再発防止計画の提出を求める新たな行政処分についてお尋ねをいたします。
 今回の法案では、いわゆる捏造報道事案などがあった場合に、総務大臣が放送局に再発防止計画の提出を求め、意見をつけて公表する新たな行政処分を導入するということであります。
 そこで、大臣にお聞きしますが、この新たな行政処分の発動要件についてですけれども、これはだれが認定をしたときに行政処分が発動されるということになっているんでしょうか。

○増田国務大臣 お答え申し上げます。
 まず、番組の問題が発生をしたという場合に総務大臣が放送事業者に報告を求めるわけでありますが、本当に虚偽の説明による放送だったかどうか、それを放送事業者がみずから判断をしていただく、これがまず最初です。その上で、放送事業者から報告が上がってまいりますので、その報告を踏まえて総務大臣が最終的な判断をする、これが今回の改正法の建前、考え方ということでございます。
 なお、つけ加えさせていただきますが、自主的な放送事業者の判断というものを最大限尊重する必要があるということで、この規定についての運用というのはいろいろと私どもも抑制的に考えていく、こういうことでございます。

○塩川委員 大臣が最終的に判断をする、法文上は大臣が判断をすると書かれているわけですけれども、今おっしゃった、放送事業者がみずから認めた場合を適用の対象とするという点について、これは極めて発動要件にかかわる重要なポイントなんですけれども、そういうことを言われるのであれば法文上に書かれればよいと思うんですが、それをされないのは何でなんでしょうか。

○小笠原政府参考人 先ほど大臣の趣旨説明のところにもございましたけれども、放送事業者みずからが認めた場合のみを適用の対象とするという背景につきましては、ことしの五月に設けられましたBPO、民間のそうした自主的な機関の取り組みに期待するという背景がございます。そうした背景につきましては、要するに、BPOの取り組みが機能しているという期待を前提としてそうした運用を、つまり、放送事業者みずからが認めた場合に限定して適用するという運用を行うということでございます。
 したがいまして、法改正後の状況によりまして、こうした民間の自主的な十全の取り組みが必ずしも期待できない、そうしたようなことが生じない、実現しないという場合につきましては、こうした法の適用を考え直すということもあり得るということも含めまして、現行法の規定を提案しているところでございます。

○塩川委員 一番根幹にかかわる行政処分の発動要件の点について、放送事業者がみずから認めた場合のみを適用の対象とするということをおっしゃるのであれば、それが法文になるというのが本来ではありませんか。

○小笠原政府参考人 今回の御提案をしております自主的改善計画の作成、公表に関する規定につきましては、法律の文章としては、規定を適用する場合について、事業者みずからが認めた場合に必ずしも限定されるものではございません。社会的に別途の観点から提起された、あるいはそういったことも考えられます。
 ただ、要するに、民間の自主的な取り組みが期待できる状況を前提として運用をある意味では狭めるという考え方でございます。したがいまして、そうしたような状況が期待できない状況になりましたらば、我々がそういうことを期待するわけではございませんけれども、法の規定を、法本来の規定に照らして適用するということもあり得るということで明文化はしていないものでございます。

○塩川委員 法文上、問題があると判断するのは大臣というふうになっているわけです。
 運用という話がありましたけれども、BPOの話がありました。そこでお尋ねしますが、先ほどの提案理由説明の中でも、BPOの機能強化による取り組みが機能している間は再発防止計画の提出の求めに係る規定を適用しないとしていますけれども、機能しているかどうかというのを判断するのはだれなんでしょうか。

○小笠原政府参考人 BPOの取り組みが機能しているかどうかということについてだれが判断するかというお問い合わせでございますけれども、本規定の適用が想定される事案、例えばいわゆる捏造の報道事案でございますが、こういったことにつきましてBPOが取り組みを開始して、再発防止に向けた改善努力がなされる、そういった適切な取り組みが行われているか否かといった点について、総務大臣が判断するということになると考えております。

○塩川委員 総務大臣が機能しているかどうかを判断すると。その場合に、機能しているかどうかの判断基準というのも当然大臣が決めるということですね。

○小笠原政府参考人 そういうBPOの取り組みといったものが適切になされているかということにつきまして、総務大臣が判断するということでございます。

○塩川委員 BPOの対策が機能しているかどうかを判断するのは総務大臣自身でありますし、その判断基準も総務大臣が定めるということになると。そういう点では、運用という話がありましたけれども、総務大臣の考えに左右されるという仕組みになっております。
 そこで、加えてお聞きしますが、総務大臣は、計画を検討して意見を付し、公表するものとするとありますが、計画を検討するというのは何を検討するのか。その点、大臣にお尋ねします。

○増田国務大臣 放送事業者の方から計画が出されるわけでございますが、これに対して我々は、今先生のお話でございましたとおり、意見を付して公表するということになるわけですけれども、電波、放送を主管する総務大臣としての考えを示す、そして、公表された再発防止計画についての国民・視聴者による評価、判断に資するように、そういう内容の意見を付すわけでございます。
 具体的には、出てまいりました計画が国民・視聴者に対して十分な説明責任を果たしているかといった観点から見て妥当なものと判断できるか否か、そういうことについて検討するものでございます。

○塩川委員 計画が出たところで十分かどうかを見るという話で、国民に対する説明責任を果たしているかどうかということを検討するということなんでしょうけれども、では、国民に対して説明責任を果たしているのか果たしていないのかという判断基準はだれが判断するんですか。

○増田国務大臣 これは、総務大臣が意見を付すわけでございますが、総務大臣としての考えをそこに付す、こういうことで、それを国民の皆さん方に御判断いただくということでございます。

○塩川委員 懸念の声というのは、やはり総務大臣の付した意見というのが今後の番組制作への内容に対する介入となりかねないという声であります。
 ですから、今回の新たな行政処分の創設というのは、放送内容に問題があると判断するのも大臣ならば、再発防止計画を点検するのも大臣となっております。業界の再発防止対策が機能している間は発動しないと言うけれども、機能しているかどうかを判断するのも総務大臣であり、総務大臣の判断次第で運用されることになるということです。こういうやり方はやはりふさわしくない。
 ですから、きっぱりと新たな行政処分の規定は削除をすべきではありませんか。

○増田国務大臣 現実に、今、「あるある大事典」に見られるがごとく、これはあってはならないことでありますが、そうした捏造番組が放送されるということによって生じる被害、こういうのは大変大きなものがある。それだけテレビというものの影響力は強いということでございます。ですから、そうしたことによって生じた、これは現実に生じたわけですが、そうした生じた被害を防止するということについて、私どもはやはりきちんとした責任を果たしていかなければならないということがまず大前提としてございます。
 その上で、措置内容というものを私ども慎重に検討したわけでございますが、では今の規定で十分かどうかといいますと、やはり今の規定でいいますと放送の停止ですとかそういったことになるわけですので、大変強い措置でございますので、そこまで表現行為自体を制約するものではない、そうした放送事業者の自主性を尊重したものが必要ではないか、そういう観点に立ちまして今回の、再発防止計画の提出をしていただく、こういう規定を置いたわけでございます。
 また、再発防止計画の内容自体につきましても、これは、こういう事項を書きなさいということを決めているわけではございませんで、その内容につきましては放送事業者自身にゆだねてございますし、また、今先生の方から御指摘をいただきました大臣意見でございますが、私どもの方では、その大臣意見の中で、計画の内容について事細かにいろいろなことを、こうしなさい、ああしなさいと指示することは考えていないところでございます。
 したがいまして、今回のこの法改正の措置でございますが、これは、前段申し上げましたとおり、大変大きな社会的影響力のある放送ということでございますので、そういったことに現実に被害が起きたということから考えれば、公共の福祉の観点から必要最小限の措置であって、表現の自由という観点からも特段の問題は生じていない、このように考えているところでございます。

○塩川委員 今回の新たな行政処分というのが、先ほど言いましたように、政府の恣意的な運用に対する懸念がある、報道と表現の自由を侵害するおそれがある。番組の適正というのは、放送事業者の自律、世論の力によって確立されるべきであり、行政の関与は慎重であるべきだ。
 捏造の報道は許されません。その際に、捏造再発の防止のために政府が行うべきことは、何よりも放送事業者の自由、自律を尊重し、BPOなどの自主的な取り組みを支援することであり、やはり独立した行政委員会に放送行政をゆだねるという対応が求められていると思います。
 それに加えて指摘をしたいのが、このような捏造報道の番組をつくるような放送業界の制作環境、業界の構造上の問題の是正、こういうところにこそ政府が対応策をとるべきではないか。今、職安法や労働者派遣法違反のいわゆる偽装請負などの問題も放送業界で指摘をされております。加えて、元請、下請間の下請いじめの問題があります。
 関西テレビに、この事件が起こりまして、「発掘!あるある大事典」の調査委員会、第三者委員会が置かれ、三月の二十三日に報告書が出されております。この報告書を見ますと、捏造を招いた番組制作における構造上の原因と背景として、視聴率本位の制作態度とか、再委託契約におけるピラミッド形の制作体制の問題とか、制作費の削減措置による影響などの指摘があります。番組制作の会社でつくる全日本テレビ番組製作社連盟、ATPによる「あるある大事典2」捏造事件に関する緊急アンケート調査、これは三月の九日に行われておりますけれども、その中でも、この事件の背景として、予算不足とか、視聴率競争の弊害、孫請構造を挙げております。このような捏造を生みかねない業界の構造上のゆがみにこそメスを入れるべきであります。
 そこで、私はきょう下請いじめの問題を取り上げたいと思っております。
 「あるある」の調査委員会の報告では、「再委託契約による制作の問題点」、つまり、関西テレビが日本テレワークに発注をし、これ自身が親子関係ですけれども、日本テレワークからその下の制作会社に委託をする孫請構造になっているという話で、第三者委員会の報告書では、「契約内容に元請けによる下請けいじめとも受け取れる優越的地位を背景とした不当条項が入りやすい点が指摘できる。」とあります。「現に、テレワークが各再委託制作会社と結んでいた契約書によれば、専従義務と称して再委託制作会社が他の業務を行う場合はテレワークの承諾を得ることと規定され、再委託制作会社の従業員がテレワークの業務を履行するにあたって死亡・負傷・疾病にかかった場合でもテレワークは一切の責任を負わない旨規定されるなど、孫請けに対する優越的地位を濫用した不当条項ともいえる規定が設けられている。」このような指摘があります。
 加えて、「最も問題なのは、納品された放送制作物の委託料の支払いが、納品日からではなく、放送日の月末締めで放送月の翌々月の十日払いとされている点である。」「資金繰りが潤沢でない零細企業が多い下請け制作会社を苦しめる不当な取り決めといってよい」「下請代金支払遅延等防止法に違反する違法な取り決めであり、言語道断の措置」だと指摘をしております。
 こういった下請構造、下請いじめとなるようなこういう構造の指摘について、大臣はどのように受けとめておられますか。

○増田国務大臣 お答え申し上げます。
 第三者委員会が御指摘をなさいましたこういう事項は、やはり放送事業者として重く受けとめて、これは改めていただかなければならないというふうに思います。
 放送事業者でありますので、当然、その公共的な役割というのは十分認識した上で行動していかなければならないわけでありまして、関係の法令、今先生の方からもお話ございましたが、こういった下請関係法というのは現実にあるわけでございますので、これを遵守していただくということは大変重要でございますし、特に放送番組の制作に係る取引につきましては、こうした事項をきちんと放送事業者として徹底していただきたい、このように考えております。

○塩川委員 そこで、総務省としてどのような対応策をとったのかということなんですけれども、この「あるある」の第三者委員会の報告、これに基づいて総務省は三月に関西テレビに対して警告を出されておられます。ですから、当然この内容を熟知しておられるわけですけれども、ここで指摘をしているような下請いじめのような現状について、総務省として、下請取引の是正の観点でどのような対応策をとったんでしょうか。

○小笠原政府参考人 「あるある大事典」につきましては、先ほど来もお話に出ております警告というのを行政上いたしましたが、今先生御指摘の下請法に係る事案につきましては、先生御指摘のように、報告書の中で下請法に違反しているという旨の指摘が行われたことにつきまして、公正取引委員会事務局に御連絡をしたということでございます。

○塩川委員 公正取引委員会にお尋ねします。
 今、総務省からその旨公正取引委員会に伝えたということですけれども、申告として扱うのかどうかということもありますが、今回のこのような下請法違反と調査委員会の報告書が指摘をしているような状況ですから、こういう事案についてきちんとした調査をすべきだ。この点が一点と、もう一つ、やはりこういった下請いじめがまかり通っているような放送業界、情報成果物作成委託業務と下請法ではしているそうですけれども、これについて重点的な調査をすべきではありませんか、お尋ねします。

○鵜瀞政府参考人 御指摘いただきました点でございますけれども、個別の事案でございますので、下請法違反に該当し得るかどうか、どのような措置をとったかということにつきましては答弁を差し控えたいと思います。
 一般論として申し上げますと、支払い期日について御指摘がございましたので、その点の下請法の規定でございますが、親事業者は、下請代金の支払い期日を、下請事業者の給付を受領した日から起算して六十日以内で、かつ、できるだけ短い期間内に定めなければならない義務があり、また、この義務に反して支払い期日が定められたときは、親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過した日の前日が下請代金の支払い期日と定められたものとみなすこととされておりまして、親事業者が下請代金をその支払い期日の経過後なお支払わない場合は、いわゆる支払い遅延として下請法に規定する禁止行為に該当するものでございます。
 また、放送業界につきまして特別な調査を行うべきではないかという御指摘がございました。
 本年二月、政府の成長力底上げ戦略におきまして、下請取引の一層の適正化について早急に措置すべきこととされたことを踏まえまして、平成十五年改正下請法により新たに適用対象とされた分野から三つ選びまして特別調査を実施しておりますが、そのうちの一つが放送番組・映像制作に係る委託取引でございます。
 この特別調査の過程におきまして下請法に違反する事実が認められた場合には、厳正に対処してまいりたいと存じます。

○塩川委員 公正取引委員会にお聞きしますが、三つの分野、業種で特別調査を実施する。その三つをちょっと例示していただきたいのと、なぜその三つをやるのかという理由を聞かせていただけますか。

○鵜瀞政府参考人 三つの分野の選定理由でございます。
 三つの分野は、放送番組・映像制作委託と道路貨物運送と金型の製造委託の三つでございます。
 放送番組につきましては、いわゆるコンテンツ制作に係る下請取引について下請法の厳正な執行が求められていること、あるいは、放送番組やアニメ等の映像制作分野につきましては、書面交付の徹底により発注内容の明確化が必要である等の指摘を受けているからでございます。
 道路貨物運送につきましては、現在まで、私ども公正取引委員会による勧告が行われたものを含めて下請法違反事案が多く、下請法の厳正な執行が特に必要だと考えたものでございます。
 金型につきましては、親事業者の業種が広範にわたりますので、金型の製造委託取引全般について適正化を促すには特別調査の方法が効果的と判断したものでございます。

○塩川委員 今お話にありましたように、放送については、書面交付義務違反などが多い、下請法違反が実際まかり通っているということで特別調査ということであります。陸運関係もそうでありますし、金型についても同様にそういうことを指摘する特別な調査をやろうということになっているわけです。
 そこで、公正取引委員会と総務省にお尋ねしますが、公正取引委員会には、放送業を所管する総務省との連携強化を強めて、何らかの対応策を考えるべきではありませんか。
 それから、公正取引委員会に確認しますけれども、金型については対応する経産省が金型を含む素形材産業についての取引のガイドラインというのを策定しております、こういうものでありますけれども。あわせて、今、国土交通省では、陸運関係、貨物関係についてのガイドラインに取り組みつつあるというふうに承知をしております。その点の確認とあわせて、総務省とどう連携強化をするのかということをお聞きしたい。
 総務省に対しては、ほかの省がそれぞれ、陸運関係と、また金型についてはガイドラインという取引についての対応策についてきちんとつくっているわけですから、総務省としても放送業についてこういうガイドラインをつくるべきだ。その点、大臣にお伺いをします。

○鵜瀞政府参考人 平成十五年に下請法が改正されまして、規制対象が拡大したところでございます。このような幅広い分野における下請取引の適正化のためには、業所管官庁の協力体制の整備が不可欠であるというふうに考えまして、平成十五年七月以降、総務省を含む関係省庁連絡会議を設置して、これまで七回にわたり会議を開催して連携を図っているところでございます。
 また、先生御指摘になりましたように、成長力底上げ戦略の一環として、現在まで七業種のガイドラインがつくられて、さらにまだ現在作成途上のものもあるというふうに承知しております。その中には、既にできたものにつきましては素形材のガイドラインがございますし、今後作成予定のものとして貨物運送があると承知しております。
 今後とも、関係省庁との連絡を深めてまいりたいというふうに考えております。

○増田国務大臣 番組制作の実態をよく把握して、それから公正取引委員会ともよく連携をして、今後適切に対応していきたい、このように考えております。

○塩川委員 公正取引委員会が問題とした、特別調査をしている三つの業種のうち二つについては適正な取引のためのガイドラインをつくっている、あるいはつくろうとしているわけですから、総務省においても放送業についてきちっとガイドラインをつくるということを求めて、質問を終わります。