<第169回国会 2008年2月26日 総務委員会 第7号>


○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。
 地方財政に関連して、公立病院問題について質問をいたします。
 先日の本法案の本会議の質問の際に、私は、「今日、地域医療の中核を担ってきた自治体病院が、経営難を理由に、その存続さえ危ぶまれる事態が各地で進行しています。政府は、医療費抑制策をとり続ける一方で、九〇年代に、景気対策と称して相次ぎ公共投資を推進し、自治体病院にも過大な増築、改修計画を押しつけました。このことが、今日の自治体病院の経営難の要因の一つになっているのではありませんか。」こういう質問に対し、総理の答弁は、「いわゆるバブル経済崩壊後の景気対策として公共投資が大幅に追加される中で、公立病院においても、地方公共団体による自主的な判断ではありますが、積極的な施設建設が行われ、一部では、結果として後年度における減価償却費が増加し、経営悪化の一因となっている事例も見られます。」このように述べておられます。
 そこで、伺いますが、ここで挙げられております経営悪化の一因となっている事例というのは、具体的にはどこの病院のどのような事例なのかをお示しください。

○久保政府参考人 病院施設の増改築などを行いました場合に、後年度におきましては、減価償却費は増大をいたします。したがいまして、これを上回る収入の増加が図れないといった場合には、損益収支は当然悪化する結果となってまいります。
 公立病院の減価償却費は、かねてから民間医療機関との比較において高水準になっているといった指摘もございまして、私ども、昨年設けて検討いたしました公立病院改革懇談会という場がございましたけれども、この場におきましても、公立病院関係者から、病院の過大投資が経営を圧迫している場合があるといった意見が述べられております。最近におきましても、多額の施設整備を行った後に計画どおりに収入が確保できず、結果として経営悪化に至るといった事例も散見されると思います。
 具体例を言えということでございますけれども、例えば北海道の赤平市でございますけれども、赤平市では、平成五年、六年に行いました施設改築費の償還負担が経営悪化の一因であるといった形で分析をして、そういった旨、住民に対して説明をしておられます。

○塩川委員 赤平市の例も紹介をされました。これはNHKの「クローズアップ現代」でも紹介をされて、地域医療の存続にかかわって極めて重大な事態だということが大きく報道もされたところです。赤平市で出しております「広報あかびら」におきましても、病院の経営問題を紹介して、「平成五・六年に行った診療棟・管理棟の改築等による起債償還額が、毎年約二億五千万円あり、償還が平成三十六年度まで続き負担が大きい。」このように取り上げております。
 バブル崩壊後の景気対策として、公立病院においても積極的な公共投資が行われたことが経営悪化の要因となっている。これは一つ赤平の事例ではなくて、全国でもこのような事例が多くあるということが言えると思います。
 そこで、お尋ねしますが、バブル崩壊後の九二年、九三年当時、国の景気対策として、自治省は地方団体に対し、地方単独事業を後押しするためどのような施策を行ったのか、また、その中で公立病院に対してはどのような後押し策を行ったのか、この点についてお答えください。

○久保政府参考人 いわゆるバブル経済崩壊後の景気対策といたしまして、国、地方を通じて公共投資が大幅に増加され、国庫補助事業とともに地方単独事業につきましても積極的に、御指摘のように推進されております。このために、地方公共団体が自主的、主体的に取り組む地域づくりのための施設整備事業などにつきまして、地方債と地方交付税とを組み合わせた財政支援措置を一般的に講じてきております。
 この時期に、公立病院でございますけれども、公立病院に係る施設整備につきましては、これは地方公共団体からの強い要望といったこともございまして、そういった要望を踏まえまして、平成五年度から、病院建物の建築費に係る標準面積、標準単価といった制限がございましたけれども、これを廃止いたしまして、事業費全額を起債の対象とするといったことにいたしております。
 この制度改正は、病院事業に係ります施設整備をより容易にする効果を有したということにつきましては否定はできないと考えておりますが、その趣旨は、地方分権推進の流れも踏まえながら、地方債の発行についても、地方公共団体の自由度を高めるといった考え方に立って行われたものと認識しております。

○塩川委員 今お話がありましたように、公立病院の建設に当たりまして、標準面積、標準単価の廃止という形で、要するに起債をやりやすくする、こういう仕組みになったということは確かで、当時、全体を見てみれば、国としての積極的な公共投資も行われましたけれども、それを上回る規模で地方における単独事業が積み上げられてまいりました。
 当時の報道などを見ても、自治省は、全国財政課長会議、地方課長会議を開き、各自治体の九月補正予算編成に当たっては地方単独事業を大幅に追加計上するよう要請をするとか、臨時三事業、地方道、河川、高校などの全額起債を認めるとか、自治体がなかなか独自財源がないような際に、余裕のない自治体に対しては地方交付税の交付対象とする方向だとか含めて、積極的な支援策を行ってまいりました。その一つとして、公立病院への起債の柔軟化、このことも行われたわけです。
 資料でお配りしましたが、病院事業債の許可額の推移ということで棒グラフが立っておりますけれども、九〇年代の前半で、国が景気対策として地方単独事業の上積みを求めた時期に急速に起債が増加をしております。下に数字を並べてありますけれども、地方単独事業費全体を見ても、九一年、九二年、九三年、九四年と一〇%を超える前年比の伸びということで、大変急速に地方単独事業が積み上げられてまいりました。
 これらを見ても、国は地方公共団体による自主的な判断と言いますが、国の積極的な関与なしにはこのような地方単独事業の積み上げもなかったし、公立病院への積極的な投資も行われなかったことは明らかじゃないでしょうか。大臣、その点、いかがですか。

○増田国務大臣 ちょうどこの時期、一九九一年から単独事業費が二けた伸びてまいりまして、そして地方債の発行額も、公立病院につきまして、平成十年前後をピークとして大きくなっているということは、そのとおり事実でございます。
 そのときに、先ほど局長の方からお話ししましたとおり、ちょうど制度改正、これは事業費の実態をより一層反映する方向で制度改正を行ったわけでございますが、そうした制度改正ということもございましたので、各自治体の方でも病院の施設や設備の充実を図る方向でいろいろお考えになったということでございます。
 ただ、その際に、やはり病院事業経営の健全性を損なってはいかぬということは当然あるわけでありますので、例えば、平成五年に各都道府県知事あてにうちの方の次官から通知も出してございます。当時はまだ通知ということが行われていた時期でございますが、そのときの、平成五年の都道府県知事あての事務次官通知を見ましても、将来にわたる採算性の確保ですとか、それから一般会計の財政負担の見直し等を従来にも増して十分検討の上実施することということで、そうした公共団体の方に特に注意を促しております。
 そういったことを十分注意した上で、こうした病院事業債等も使うのであれば使うようにということでございましたので、やはり各団体の自主的な判断があって施設の建設の実施を決定された、最後はやはりそういうところに帰着をするというふうに思っております。

○塩川委員 地方に対してブレーキを踏んでいるかのようなお話もありましたけれども、アクセルの方が実際には全開だったというのが当時の状況だということです。
 例えば、当時の新聞記事などでも、「地方自治体の大型補正 景気への起爆剤期待」ということで写真が出ています。この写真は、自治体単独事業拡大のため、自治省は単独事業推進相談室を設置したというので、看板を掲げて、これを大きく加速させようと、写真に当時の大臣が写っております。塩川自治大臣で、同じ塩川でも大分違いますけれども。自治省が単独事業推進ということで大いにあおったということがあります。
 また、別な報道では、「地方単独事業の規模 自治体に報告求める」「自治省は地方自治体の補正予算で、各自治体が上積みをした地方単独事業の規模について報告を求め、上積み額が少ない自治体には積極的に上積みしていくよう指導していく方針だ。」自治省は上積み額を報告させることにしているというお話。報道でもありますけれども、このように、単独事業推進相談室を設置するとか、地方単独事業の規模について自治体に報告を求めるとか、当時行っていたと思いますけれども、その点、確認したいと思いますが、いかがですか。

○久保政府参考人 突然の御質問でございまして、資料を準備しておりません。後日御報告させていただきたいと思います。

○塩川委員 国は、地方自治体による自主的な判断と言いますけれども、実態は、ここにありますように、単独事業推進相談室ですとか自治体に報告を求めるというような形で、国が主導的な役割を果たしたことは明らかであります。
 改めて大臣に伺いますが、九〇年代前半の公立病院への過大な投資について、国にも責任の一端があるのではないか、国の責任は免れることはできないのではないか、いかがでしょうか。

○増田国務大臣 当時、私が知事に就任をする少し前の時期、あるいは就任してからもしばらくの間は、景気対策そして公共事業を随分大幅に各公共団体も実施した時期、それから、やはり箱物建設などがかなりやりやすくなった時期でもございましたので、実際に事業量の数字を見ましても、そうしたものを多く実施した、これはもうやはり紛れもない事実だろうと思います。
 そのときに、当然のことながら、起債によって資金手当てをしていますので、今、公共団体の財政運営がきつくなっているということについては、そのことが大きく影響してきている。このことはこれまでも申し上げてきておりましたし、そのことについて、やはり国一体として実施をしてきた当時の状況というものは私も理解をしているわけでございますが、最終的に責任云々ということになりますと、やはり自治体は自治体で、議会を経てどういう事業を実施しようとするのか判断をしたことでございますので、これは私も知事時代から申し上げておりますが、やはりそういったところに安易に乗ってしまった責任というのは自治体にある、そういったことを十分戒めておかなければいけないということを申し上げてまいりました。
 病院事業ということについても、やはり、当時住民の皆さん方からいろいろ施設整備の充実について御要望があって、いろいろ自治体の方で御判断されたんだろうと思います。国の制度改正等もございましたのでやりやすさがあったということで、個々の病院について甘い判断にどうしてもなびいてしまったということもあったのではないかというふうな推測もなされるわけですが、やはり最終的にそのことについて個々の自治体、自治体で決めたことでございますので、それはそれとして、当該自治体でその後の措置はやはりやっていただくのが前提であろう。
 ただし、国としてそれを全く見過ごしているということではなくて、公立病院のガイドラインを今回もつくりましたし、そういった公立病院の抱えております状況、これは、施設の点のみならず、医師不足等の問題も絡んでくるわけでございますが、そういったことを含めて、今置かれている公立病院の状況というのは私どもも十分受けとめておりますので、それについて総務省として的確な対策を今とっているところでございます。

○塩川委員 国の制度改正で起債のやりやすさがあったということですから、まさにそこのところで、推進室も設け報告もとることによって、地方のこういった起債、新たな設備投資をあおる仕組みに対して国がしかるべき役割を果たしたことは明らかですから、そういう経営悪化に対する国の責任を踏まえてこの問題に対処する必要があると思います。財政健全化法で地域に欠かせない公立病院事業を追い込むようなやり方であってはならないわけで、そういう点でも、過去のこのような借金、赤字に対する国の責任を踏まえた上での対応が求められていると思います。
 その上で、さらにこの間の普通交付税の措置額の減額というのは論外であります。
 お尋ねしますが、普通交付税措置額の減額が今の公立病院経営悪化の要因の一つとなっている、こういう認識はお持ちでしょうか。

○久保政府参考人 公立病院に対します一般会計の繰り出し金につきましては、地方公共団体における病院事業の実態などを踏まえながら、所要額を地方財政計画に計上して、地方交付税などによって措置をしております。
 近年、公立病院に係ります普通交付税措置額が減少傾向にございますけれども、これは病院施設の整備に係る地方債の発行額が、御案内のように平成九年度をピークとして減少に転じたことなどから、地方債の元利償還金に係る地方財政計画計上額が減少傾向にあるといったことを反映したものと考えております。
 また、公立病院に関する普通交付税措置は、各団体の病院事業に係る地方債の元利償還金の大小に応じて算定するものや、各病院の許可病床数に応じて算定するものがございます。病床当たりの算入単価が近年低下傾向にある、これは事実でございますけれども、この理由といたしましては、主として地方公共団体からの意見を踏まえて、地方債の元利償還金の状況を直接反映する部分、この部分のウエートを高めた結果によるものと考えております。
 したがいまして、近年の交付税措置額及び病床当たり算入単価の減少は、地方公共団体の財政需要の実態を反映しながら財政措置を講じてきた結果によるものと考えておりまして、これを経営悪化の要因ととらえるのは必ずしも当を得たものとは考えておりません。
 ただ、近年、医師不足等によって特に経営悪化が著しい過疎地域などに係る措置につきましては、公立病院に関する地方財政措置全体を見直し、その重点化を図る中で、その充実を検討してまいりたいと考えております。

○塩川委員 自治体病院の赤字数というのが、平成十三年が四八%、それが平成十八年は七九%ですから、急速に赤字の状況が拡大をしているわけです。そういう点でも、この交付税の減額の措置というのは経営悪化の要因の一つとしっかりと見ていくことが問われていると思いますし、さらに、今回の公立病院改革ガイドラインで交付税の算定指標を病床数から病床利用率に変更したということ、これは、病床利用率の低さは医師不足が大きな要因の一つではないかと思うんですが、その点の大臣の認識を伺います。

○増田国務大臣 今回の病床利用率の低下でございますけれども、医師の総数が確保できない、そういったことで、どうしてもそこの診療科を閉鎖しなければいけないといったようなことでそこがあいてしまう、こんなこともやはりあるんだろう、事例として、空きベッドの数がふえてしまう、そういう事例もあるんだろうというふうに思っております。
 そこで、一時的な医師不足なのか、あるいは、やはり恒常的にあいているということは資源の配分上もよくありませんので、その一時的か恒常的かということを判断して、今回、ガイドラインでは三年連続七〇%未満というような目安を示しましたけれども、やはり恒常的な場合にはそこは見直しをしていただく、一時的な場合には、これは厚労省の方の仕事とも大きく絡みますけれども、やはり何としてでも医師不足解消策を講じて、その上でお医者さんを配置する、こういう対応をとりたい、このように考えます。

○塩川委員 医師の確保ができなくて空きベッドが出てしまう、それが恒常的かどうかという点が問われるんだと言いますけれども、恒常的なのは医師不足であるわけで、医師不足が恒常的である以上、病床利用率が低いのも恒常的にならざるを得ない。そういう点でも、医師不足を招いてきた国の責任が免れないわけです。
 財政危機の要因をつくってきた国の景気対策の問題とあわせて、公立病院に経営責任があるかのように、交付税の算定指標を病床数から病床利用率に変更して、交付税をさらに減額して財政圧迫を与えるようなやり方は許されない、こういうことはやめるべきだということを申し上げて、質問を終わります。