<第169回国会 2008年3月24日 総務委員会 第10号>


○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。
 NHK及び経営委員会に質問をさせていただきます。
 最初に、NHK職員によるインサイダー取引事件の問題についてであります。NHK自身が、公共放送に携わる者、報道を担う者としてあってはならないこと、報道への信頼を損ねる行為と述べている重大な事件であります。
 そこで、もともと、インサイダー取引といいますと、二〇〇六年に日経の記者のインサイダー取引事件が大きな問題となりました。二〇〇六年二月に発覚をした日経記者のインサイダー取引事件、あのときも大きな報道もされました。マスコミ関係の中でも具体的な対策をとったところもありました。その際に、NHKはインサイダー取引防止のための何らかの対応策をとったのか、その点をまず最初に伺いたいと思います。

○福地参考人 NHKでは、平成十六年九月に、全役職員がみずからを厳しく律して行動していくことを誓約いたしましたNHK倫理・行動憲章それから行動指針を制定いたしました。
 また、平成十八年の三月にはNHK新放送ガイドラインを公表し、行動指針、ガイドラインそれぞれの中で、取材で得た情報を個人の利益のために利用することは許されないという規定を整備いたしております。

○塩川委員 NHKには、インサイダー取引禁止に関する内部規定はあるんでしょうか。

○福地参考人 判断の問題でございますが、平成十八年二月に発覚いたしました日経新聞のインサイダー取引事件につきまして、NHKといたしましては、これまでの規定で十分と考えていたようでございます。今回、同様のインサイダー取引事件を未然に防げずに、対策が不十分であったということを深く反省いたしております。

○塩川委員 二〇〇六年当時に、NHKとしては具体策を講じておらなかったわけであります。他の大手の新聞社、通信社また放送局などにおきましては、これを機に対策をとってきた。例えばフジテレビなどが、二〇〇六年十月から、企業の重要な情報を積極的に知り得る報道局員を対象に株式の六カ月以内の短期売買を内規で禁止をするとか、毎日新聞も、二〇〇六年十月に、インサイダー取引の禁止に関する規定を新設しております。主要な新聞社、通信社、放送局の中で、インサイダー取引禁止の内部規定がないのはNHKだけと承知をしております。
 福地会長に重ねて伺いますが、配付資料一枚目の方に、これはNHKのホームページにもアップされておりますが、「コンプライアンス活動の推進」ということで、平成十六年からずっといろいろな、コンプライアンス、コンプライアンスとやってきたわけであります。その中に、この日経職員によるインサイダー取引事件が発覚をし、逮捕もされるという経過がありました。まさにコンプライアンスの一つの大きな焦点となるべきインサイダー取引事件について、コンプライアンス、コンプライアンスと言っている最中に起こりながら、何らの具体的な対応策をとらなかった。
 なぜ、あれほどコンプライアンスを強調していたその期間中に起こったインサイダー取引事件について、コンプライアンスの重大なテーマとして取り上げられなかったのか、その点を内部的に深める必要があると思うんですが、会長としてはどのようにお考えでしょうか。

○福地参考人 御指摘のとおり、平成十六年の不祥事以降、いろいろな不祥事が続いてまいりました。その中で対策が練られてきたにもかかわらず続発したということは、これは、私は、いろいろな対策が形だけに終わって、それに心がこもっていなかった。心と申し上げますのは、全職員が、こういった不祥事を防ぐ、コンプライアンスを、まさに法令遵守をする、コンプライアンスというのは私は倫理も道徳もひっくるめておると思いますが、そういったものを守っていくんだという熱い思いに欠けていたというふうに思っております。
 それを防いでいくのは、やはりトップの姿勢にあるというふうに思っております。これからは、私は、私自身がそれを心がけて職員に話しかけていきたいというふうに思っております。
 以上です。

○塩川委員 心構えの問題ではなくて、他社において、同様の報道機関において、具体的にインサイダー取引事件が起こった、それをみずからの問題として何らかの防止策をとる、それこそが執行部に求められていたことじゃないでしょうか。職員の心構えの話、経営者の心構えの話ではなくて、具体的な対策をとらなかった執行部は、なぜこんなことになったのか、その点をお聞きしたいんですけれども、いかがですか。

○福地参考人 日を追って調べてみますと、コンプライアンス対策委員会から行動規範から、いろいろなものがつくられておりまして、つくられておりましたのに守れなかったというところが一番問題ではないかというふうに私は認識をいたしております。

○塩川委員 いや、当時を見ても、インサイダー取引禁止の内部規定はつくらなかったわけですから、そういう点での、他にそういう対策をとった報道機関と比べてのNHKの執行部の姿勢が問われているんだろうと思っております。
 古森経営委員長に伺いますが、この点で、経営委員会がまさにチェック機能を果たしていく、監督責任を果たしていく立場にあるわけで、二〇〇六年の九月に諮問機関としてコンプライアンス委員会の設置をしました。その直前に日経のインサイダー事件が起きていたわけであります。この二〇〇六年の日経の社員の事件が起こった当時、インサイダー取引事件の問題について経営委員会で議論にはならなかったんでしょうか。

○古森参考人 十八年九月でございまして、当時、私おりませんでしたので、伝え聞いたところによりますと、具体的にインサイダー取引について項目をどうしろこうしろという話はなかったというふうに聞いております。
 その点は、私、昔いたとかいないとかいう話じゃなくて、経営委員会として大変遺憾である、落ち度があったというふうに考えてはおります。今後は気をつけてまいりたいというふうに考えております。

○塩川委員 やはり、なぜそうならなかったのかということを教訓としていく必要があるという点で、なぜ議論にならなかったのか、改めてどのようにお考えですか。

○古森参考人 私、NHKの人間にいろいろ聞いてみましたのですが、これは余りにも当たり前過ぎて、そういうことをわざわざやらなきゃいけないということじゃなかったという認識があったというふうに聞いております。

○塩川委員 いや、そういう分析で本当にいいのかというところが問われてくるんだと思うんですけれども、私は、NHK執行部と経営委員会と、両者ともインサイダー取引問題へのチェック機能が働かなかったということについて総括をする必要があると思います。私は、NHKに対する主権者の立場にいる視聴者、受信料を支払う視聴者軽視の姿勢が問われているんじゃないのか、このことを申し上げたい。
 二〇〇六年六月十九日に、デジタル時代のNHK懇談会の報告書が出されました。その中では、「相次いだ金銭的不祥事や、政治的中立性を問われたりする行為は、一見別々に見えるが、いずれも視聴者の軽視という同根から発している。」「経費の不正授受等の金銭的不祥事は、主権者に対する明白な背信であったし、政治との距離に対する疑念は、いまだNHKが政府や権力から毅然とした独立をしてはおらず、それが結果として主権者たる視聴者をないがしろにする行為につながってきた」と指摘をしております。
 そこで、福地会長に伺いますが、執行部として、「ETV二〇〇一」問題のような、政府や与党に対する毅然とした対応をNHKが示さなかったことが主権者たる視聴者の軽視となり、結果として個々の職員のジャーナリスト精神を劣化させて、職員の士気を低下させたのではないのか、このように考えますが、お考えをお聞かせください。

○福地参考人 前会長時代も、不偏不党、これは貫いていたと思いますが、少なくとも私につきましては、これから先、不偏不党、公共放送としての立場を十分わきまえた経営をしていきたいというふうに考えております。
 以上でございます。

○塩川委員 経営委員会そしてNHK執行部に、より踏み込んだ総括をぜひしていただきたいと思っています。経営委員長も会長も経済界の出身の方ですから、こういうインサイダー取引事件のような経済犯罪、経済関連のこの不祥事に対し厳しく襟を正す、その姿勢をぜひとも見せていただきたいと思っております。
 次に、地上デジタル放送推進に関連してお聞きをします。
 まず、中継局の補完策でもあります共同受信施設、共聴施設の問題についてNHKに伺います。
 辺地共聴として、NHK共聴が行われています。あわせて、自主共聴が組織をされてまいりました。資料の二枚目をごらんいただくと、枠の中の右側に、辺地共聴ということでNHK共聴と自主共聴というのが挙げられております。
 NHK共聴には当然NHKが責任を負うわけです。一方、自主共聴は、設立の経緯から、アナログ放送についてNHKは受信できるけれども民放が受信できない、そういうエリアにおいて、住民の皆さんが組合をつくり、出資をして共聴施設を建設、維持してきたわけであります。この自主共聴のエリアにおいて、本当にNHKの地上デジタル波が届くのかどうかということがあると思うんですね。
 そこで伺いますが、この自主共聴組合の、実際にNHKの地上デジタル波が届くかどうかという受信点調査の費用は、先ほどの質疑にもありましたけれども、全自主組合分、約一万カ所ですね、NHKがその費用を負担するということでよろしいんでしょうか。

○永井参考人 お答え申し上げます。
 自主共聴には実は一万一千施設というのがありますが、その中で、大半はNHKの電波が受かるところであります。なぜつくられたかといえば、NHKだけが受かって民放が受からないということで自主共聴をつくられたというところがあります。
 ただし、その中で、大体三十五万から四十万世帯をカバーする自主共聴については両方とも受からないというところがありますので、その部分について、NHKは、受信点について調査をしようというので、二十年度には十億円相当を計上してあるということであります。

○塩川委員 自主共聴組合から受信点調査をやってもらいたいという要望があれば、それにNHKはこたえる、その受信点調査の費用負担を行うということでよろしいですね。

○永井参考人 調査は、申請があれば行います。

○塩川委員 その理由なんですけれども、なぜ自主共聴なのにNHKが受信点の調査の費用負担をするのか、それはどういう理屈、理由で行うという趣旨なんでしょうか。

○永井参考人 地上デジタルを普及促進するというのは、我々にとっても一つの大きな経営課題であります。今の状況を見ますと、自主共聴の中でなかなかそこまで手が回らないということがありますので、全体を促進するという意味でNHKもそこに援助していこうということであります。

○塩川委員 受信点調査の結果、NHKの電波が届かないという場所も当然あり得ると思うんですね。その際に、そういう自主共聴組合のその先の設備投資についてNHK側が負担するという考えはありませんか。

○永井参考人 基本的には、自主共聴ですので、自主共聴の皆さんが整備をするということでありますが、今後、NHKとしても、実態に即して最大限の協力ができるように検討を進めていきたいと考えています。

○塩川委員 福地会長にこの点をお聞きしますけれども、やはり自主共聴は、今までアナログ波ではNHKは届いていたかもしれないけれども、地上デジタル波になったら場合によっては届いていないかもしれない、そういうところについては自主共聴組合においてもNHKが何らかの負担をする、受信点調査に加えて設備費用の負担などについてもこれは前向きに考えるべきだ、負担をすべきだと思いますが、改めて会長のお考えをお聞かせください。

○福地参考人 まず、調査の方は、先ほど回答申し上げましたように、申請があればNHKが調査を実施いたします。
 その後の共聴の問題でございますが、これは、まずはNHKとしては地上デジタル放送一〇〇%化が一番重要でございます。もしこれが実現できなければ、私どもも、設備投資面から何から大変なことになってまいります。したがって、そういうことについては十分御相談しながら検討していきたいというふうに考えております。

○塩川委員 そこで、二〇一一年のアナログ放送終了時点で、現在NHKのアナログ放送が受信できるエリアにおいて地上デジタル放送の世帯カバー率は、NHKの予算の説明資料でも、NHK共同受信施設を含めると、二十二年度、約九九・五%とあります。つまり、二〇一〇年度末までには九九・五%ということなんですが、そうすると、その残り〇・五%というのは何なんだ、その残り〇・五%についてはNHKとしてはどのように対応する考えなのかをお聞かせください。

○永井参考人 先生御指摘の〇・五%という部分は、昨年の九月に総務省が公表しました市町村別ロードマップにありまして、二〇一一年までに中継局などでカバーできない世帯がNHKの場合は十九から二十六万世帯と試算されているということであります。これがアナログ放送の受信可能世帯の〇・五%に当たるということであります。
 この数字は、総務省、それと民放、NHKが共同して検討しているグループの中でいわゆるコンピューターのシミュレーションをやりまして、その中で、ひょっとすると見えなくなる可能性があるところがこういう数字があるというので、実際は、今デジタルの局を順次整備しておりますので、その実態を見ながらこの数字を縮めていこうということで努力しています。
 それと同時に、アナログ放送をとめないとデジタルの電波がどうしても良好に受からないというところもある可能性がありますので、緊急避難的に衛星を使って再送信でごらんいただいて、その後、早急に地上ネットワークの方でこういうところは見えるように整備していきたいというところであります。

○塩川委員 配付資料でも、二枚目の方にありますように、右下に、新たな難視・デジタル化困難共聴、約十九万から二十六万世帯、約〇・五%、ここについては、衛星を活用した補完措置、セーフティーネットを検討中ということなんですが、衛星放送では地域情報が提供されません。ですから、東京のを飛ばしても地域の防災情報というのは届かないわけですから、それら今まで受けていたサービスも受けられなくなるということであるわけで、この点では、地域放送の充実を掲げるNHKの方針にも逆行するものだと言わざるを得ません。
 衛星放送を容認したら地デジ投資そのものを行う動機というのは失われますから、放送事業者の責務を棚上げして視聴者にしわ寄せするようなやり方になりかねないという点は厳しく問われてくると思います。
 総務省、NHK、民放で構成する全国地上デジタル放送推進協議会でも「衛星によるセーフティネットに関する検討結果について」を昨年十二月に示していますが、この中でも、二〇一〇年から五年以内、二〇一四年度末までで解消するということを掲げていますけれども、そうであるならば、前倒ししてでも予算措置を行うべきだ。
 ですから、あまねく放送するというNHKの責務にふさわしい措置をとるという点でも、来年度予算は黒字になっていますから、その分についてもっと投入をするとか、前倒しで約〇・五%分についても一一年に間に合うようにやるということを行うべきだし、それについて困難だということであれば、もうそもそも間に合わないということなので、総務省として、二〇一一年のアナログ停波は延期をすべきだ。このことを申し述べて、質問を終わります。