<第169回国会 2008年06月03日 総務委員会23号>


○塩川委員  日本共産党の塩川鉄也でございます。
 NHK決算について質問をいたします。
 私は、二〇〇五年度のNHK予算案の審議の際に、受信料不払い問題について質問をいたしました。不正経理問題とともに、特定の与党政治家への事前説明問題が重なって、受信料の不払いが急速に拡大をしていた時期であります。そのため、受信料の不払い件数累計の数が、三月の国会でのNHK予算案審議の時点では、一月にNHKが予算案を提出した時点よりも一層深刻になっていたわけであります。
 そこでお尋ねしますが、二〇〇四年度の十二―一月期、二―三月期、それぞれの支払い拒否・保留数の累計が何件となったのかをお示しください。あわせて、二〇〇五年度における支払い拒否・保留数の累計のピークがいつで、何件となったのか、この点についてお答えください。

○大西参考人 お答え申し上げます。
 支払い拒否・保留件数の累計については、十六年度十二月―一月期は四十万件、二月―三月期は七十五万件でありました。
 十七年度の支払い拒否・保留件数累計は、四月―五月期が九十七万件、六月―七月期が百十七万件、八月―九月期が百二十七万件、十月―十一月期が百二十八万件、十二月―一月期が百二十五万件、年度末の二月―三月期が百二十万件でありました。したがって、ピーク時は十七年十一月末の百二十八万件でありました。
 以上でございます。

○塩川委員 そこで、重ねてお尋ねしますが、〇五年度の予算で見込んだ支払い拒否の件数と実際の件数の乖離はどのぐらいあったのか、それによる減収はどのぐらいだったのか、お示しください。

○大西参考人 お答え申し上げます。
 十七年度末の支払い拒否・保留件数は、十七年度予算編成時には二十三万件と見込んでおりました。しかし、その後も口座振替利用中止者の発生が続いたことなどにより支払い拒否・保留件数は増加し、十七年度決算では百二十万件となりました。
 支払い拒否・保留件数の予算と決算の乖離である数は約百万件であります。減収の影響は約百五十億円であります。
 以上でございます。

○塩川委員 予算と決算の不払い件数の乖離が百万件、予算についても百五十億とお話がございました。
 私は、二〇〇五年度の予算案の審議の際に、予算審議の段階で執行部が想定した以上の不払いが出ることが明らかになったのに、その内容を盛り込まない予算案となっていると批判をいたしました。結果としてそのとおりになったと思いますが、この点についての会長の御見解をお聞かせいただけますか。

○福地参考人 もう少し予算審議について慎重であるべきだった、当時私はおりませんので、そういった返事で申しわけありませんが、そう考えざるを得ないと思います。

○塩川委員 当時の質疑の中でも、落ち込みが予想を上回った場合はシビアな予算管理をその段階で行っていきたいと、まさに答弁の中で、この予算案は欠陥が出るかもしれないということを認めるような答弁を行っていた。そういう点で、国会における審議において極めて重大な答弁であり、そしてそれを踏まえた結果だったと思うんですけれども、この点についての会長としての率直なお考えをお聞かせいただけますか。

○福地参考人 御指摘のとおりだと考えます。

○塩川委員 極めて見通しの甘い予算の結果で大きな減収を招き、そのため、当然のことながら、削られるところも出たわけであります。
 国内放送費が当初予算額から三百四億円も削減をされました。NHKの一番の魅力でもあり、存在意義でもある、すぐれた番組を制作するその土台である国内放送費がしわ寄せを受けることになったのは極めて重大で、要するに、〇五年度の予算は欠陥予算だったということは明らかであります。この点を、この決算の審議に当たって改めて指摘をしておくものであります。
 次に、決算ともかかわり、インサイダー取引事件に関連して質問をいたします。
 インサイダー取引事件については、一昨年、日本経済新聞社の広告局員が逮捕されるという事件がありました。報道機関の関係ということで極めて重大だったわけですが、しかし、報道機関の記者が関与したインサイダー取引事件はNHKが初めてということであります。そういう点でも、このインサイダー取引事件を機に、NHKとしてそもそも論の議論が必要だということを痛感するものであります。
 そこで、会長に伺いますが、この間、国会でも、あるいはNHKの番組などを通じて、このインサイダー取引事件をどう受けとめておられるのかという御発言がございました。日曜日でしたか、一日の「三つのたまご」という番組の中でも、会長のコメントとして、インサイダー取引は報道に携わる者として絶対にあってはならないことで、視聴者の皆様に改めて深くおわび申し上げますと述べておられます。ここで御自身が述べておられる、インサイダー取引は報道に携わる者として絶対にあってはならないという、そのインサイダー取引を報道機関関係者が行ってはいけないのはなぜなのか。そもそも、その理由というのをどのようにお考えなのかをお聞かせください。

○福地参考人 御指摘のとおり、インサイダー取引というのは報道関係者でなくても違法行為であるわけですが、とりわけ報道に携わる者は、国民の知る権利にこたえるために国民にかわって一般の国民が知ることのできない最新の情報に触れることができる立場にある、そういうことでございます。さらに、公共放送に携わるということは、いわば国民の重大な負託を受けて仕事をしているということにもなります。その立場を悪用してみずからの私利私欲のために情報を使うということは、到底許されることではないということでございます。
 以上でございます。

○塩川委員 国民の知る権利にこたえるために国民にかわって最新情報に触れる、そういう機会にある報道機関の関係者が、その触れた情報をみずからの私的な利益に費やす、この点での問題と、公共放送として国民の負託を受けているその信頼を裏切るものだという点でのお話がございました。
 これは、第三者委員会の調査報告書を拝見しましても、「調査にあたっての第三者委員会の問題意識」が記されております。ここは私も拝見して、大変重要な指摘だと思っております。今お話がありましたように、報道の自由、国民の知る権利の立場から保障されている報道機関として、その報道の自由を担保するための取材の自由、そのもとで得た情報を、こんなインサイダー取引という形で私的に流用する、そういう点で報道機関としてあってはならない問題だ、こういう点での指摘もこの中に挙げられています。
 そこで、第三者委員会の調査報告書で指摘をしています調査に当たっての問題意識、三つの観点で述べておるわけですけれども、これに即して改めて会長にお伺いしたいと思っておるんですが、ここでは、取材の自由の重要性にかんがみ、第三者委員会は、「以下の三点から、本件インサイダー取引が、憲法上の権利を与えられた報道機関であるNHKの存在意義が問われる極めて深刻な事態であると認識している。」ということで、三点を指摘しています。
 その一点目について、記者が取材で得た情報によって私的に利益を得たことは、NHKに報道の自由を標榜する資格があるのかという疑いが生ずる、こういう指摘をしておりますけれども、この指摘について会長はどのように受けとめておられるでしょうか。
 
○福地参考人 まさに今回のインサイダー事件というのは、そういった資格に値しない事件であったと認識しております。

○塩川委員 どのように資格に値しないと思っておられるのかを、会長のお言葉でお聞かせいただきたいんですけれども。

○福地参考人 国民の負託を受けて、第三者が知り得ない情報を知っている、それを私利私欲に利用したという点が許されないということであります。

○塩川委員 続けて、二点目の問題意識として取り上げていますのが、同時多発的に行われたことは、NHKという報道機関に内在する組織的要因に根差したものではないかという疑念がある、こういう問題意識で調査に当たったということですが、このNHKの組織的要因に根差したものではないのかという問題意識、指摘についてはどのように受けとめておられるでしょうか。

○福地参考人 この指摘はまさにそのとおりでございまして、重く受けとめておりますが、東京と水戸と岐阜の三人が、お互いに連絡をとり合わないで、しかも同時に、それぞれがインサイダー取引を行った。したがって、今回の問題は、組織や体質にまで及ぶ構造的な問題をはらんでいるとして、厳しく深刻に受けとめております。
 以上です。

○塩川委員 構造的問題として厳しく深刻に受けとめているというお話です。第三者委員会は、この組織的要因について何点かの組織上の問題点を指摘しておられます。
 そこで、第三者委員会が取り上げた問題点に沿って何点かお聞きしたいんですが、「組織として職業倫理を確立する力が低下した報道部門の問題点」、要するに、インサイダー取引事件が行われた報道部門において職業倫理を確立する力が低下をしたという指摘なんですが、これは、実情に即してこの指摘は妥当なのか、会長としてはどのように受けとめておられるのか、お聞かせいただけますか。

○福地参考人 まさに職業倫理のあれも甚だしいというふうに考えております。やはり最もそういった職業意識を持たないといけない報道部門で発生したということが、この問題の大きさを物語っていると思っております。

○塩川委員 あわせて、問題点として指摘をしているのが、「膨大、煩瑣なコンプライアンス施策と現場の疲弊」というふうに述べております。「後ろ向きの形式主義的対応は、現場を疲弊させ、役職員の士気、プライドを低下させる。」つまり、コンプライアンス、コンプライアンスということで、不正経理事件以降いろいろな対策をとってきたけれども、その対策が形式的だったのではないか。それで、膨大、煩瑣な施策というのが、かえって現場を疲弊させてしまったのではないのか。
 こういう、執行部が行ったコンプライアンス徹底という趣旨での施策についての厳しい指摘についてはどのように受けとめておられますか。

○福地参考人 これも第三者委員会の指摘のとおりでございまして、たび重なる不祥事の後に、後追い式、後追い式にそういった組織がつくられたり、規定がつくられたり、しかもそれが、回を追うたびに詳細になってきて、とてもあれは見られない。
 私も、NHKに就職しまして、職員倫理規定、行動規範を見ました。私の年寄りの目ではとても読み切れないような小さい字で書いております。私はそれを、きょうはまだ持っておりませんが、できたらこの大きさで、いつでも持てる、そういうふうな簡単な、いつでも持って歩けるものにならないと、ポケットに入らない、持ち合わせできない、しかも眼鏡をかけないと見えない、そういった行動規範というのは実は役に立たないんだ、そういうふうに言って、今つくりかえさせております。
 以上です。

○塩川委員 第三者委員会の問題意識の三点目として、公共放送のNHKの報道情報は、公共放送である以上、国民共有の財産であり、インサイダー取引事件はまさに国民に対する背信行為だという指摘ですが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

○福地参考人 NHKの放送は、国民お一人お一人からいただいております、それもひとしくいただいております受信料によって支えられているわけでございまして、その存立基盤というものは国民からの信頼にあるというふうに認識をしております。
 国民の知る権利にこたえるための情報を自己の利益のために悪用したということは、国民がNHKに寄せる信頼への裏切り行為である、国民全体への背信行為と考えております。御指摘はそのとおりでございまして、真摯に受けとめまして、当然のことですが、二度と起こさないように、組織を挙げて、この第三者委員会からの提言に取り組んでいきたいというふうに考えております。
 以上です。

○塩川委員 今御答弁いただきましたように、会長から、第三者委員会の報告、問題意識を踏まえての考え方についてお聞かせいただきました。報道機関としてあってはならない、公共放送として国民の負託を受けて行っているのに、裏切るような行為だったと。
 そういう会長の御発言が、このインサイダー取引事件が発覚して以降、「三つのたまご」の報道に至る間、具体的に語られてこなかったわけです、今のような中身について。私が見ているだけでも、記者会見や「三つのたまご」というのは、報道に携わる者として絶対にあってはならないという一行で済ませているというのが率直なところで、私は、NHKの執行部として今会長が御発言になったようなことがどれだけ議論をされているのかということを率直に疑問に思ってきたところなんです。
 今会長が御発言になった、このインサイダー取引事件が、報道機関として、また公共放送として極めて重大な問題だということについては、執行部内で具体的な議論というのは行われてきたんでしょうか、一月以降現在に至るまで。どのようなものが行われたのか、その点についてお聞きしたいと思います。

○福地参考人 その辺は、執行部内のみならず、私は、もうこれは随分現場を歩きましたけれども、現場の中でも、各放送局の職員たちの間でも、そういった問題を話してきたつもりであります。

○塩川委員 私は、三月のNHK予算案の審議の際にもインサイダー取引事件問題は取り上げまして、一昨年に日経の事件が起こった際、このインサイダー取引事件について、経営委員会でもNHK執行部においても他山の石とするような議論が行われなかった、この点を指摘いたしました。
 ですから、まさにみずからの組織でこういう重大な事態が起こったわけですから、この機会に大いに執行部として議論が求められているわけですが、現場でやっていただくのはもちろん当然なんですけれども、執行部としてはいつどのような御議論が行われているのか。その形跡が、私、率直に見てとれないんですけれども、いかがでしょうか。

○福地参考人 それは、今回も第三者委員会から十項目の提言がなされましたけれども、発生いたしましてからすぐいろいろな再発防止策を練ってきました。例えば、特別な情報、秘密情報へのアクセスにつきましても、アクセス権者を減らすことにつきましても、いろいろな再発防止策を練ってきました。そういった再発防止策を練る中で討議をしてまいりました。
 以上です。

○塩川委員再発防止策の議論というのは、当然、結論として必要なわけですけれども、その前提というのが求められているわけで、なぜ起こったのかという総括というのは当然必要なわけですね。
 この第三者委員会の調査報告の中でも、職員の方の意見などが載せられて、私も、なるほどといって拝見しました。
 ある方は、「今回の事件は、報道人・報道機関としての「自律性」をNHKの記者職場が喪失している・育成できていなことを示したという点で、致命的と考える。なぜなら報道機関の自律性は、国民の知る権利を保障する手段としての「取材の自由」を担保するために不可欠だからである。」「事の本質は、報道機関としての存続をかけるものであることや、なぜ今回のことが報道機関としての存続を賭さねばならないものであるかは、議論が少ないように思われる。このことこそが今のNHKの不幸を象徴しているとも思う。」こういう指摘であります。
 これはまさに経営陣が受けとめなければいけない指摘だろうと思っております。
 その点で、私、率直に伺いたいんですが、第三者委員会に委託、お願いをして調査を行う、それで調査を踏まえた提言を受け取る、これはこれとして一つのあり方だろうと思っております。その提言自身をどう具体化するかというのはNHKの執行部として求められていることだろうと。
 同時に、今私が指摘した、第三者委員会で調査を行う上での問題意識についてのやりとりの際に、会長からは、第三者委員会の指摘のとおりという御答弁もあったわけですけれども、まさにその総括の部分について、NHK執行部としての発信がないんですよ。なぜ起こったのかということについて、NHK執行部として語る言葉がないんです。そこが欲しいんです。つまり、総括部分は第三者委員会に任せて、提言だけ受け取ってそれを具体化しますというのでは、これはやはり本当に身になるのかということを率直に思っているわけです。
 ですから、NHK執行部として自己分析もして、総括を行って、なぜ起こったのかということをNHKが執行部として発信することが必要だと思うんですが、そういうことはお考えにならないんでしょうか。

○福地参考人 そういったトータルの発信というのは確かに必要だと思います。
 私たちが取り組んできましたのは、そういった、なぜ起こったのかという原因を考えながら再発防止策を練ってきた。例えば、アクセス権者の問題は今お話ししましたけれども、指摘の中に、縦軸の組織が強過ぎる、もっと横風を入れるべきだというふうな提言がございます。これは、提言を受ける前から、私たちも、そこに原因があるじゃないかということも承知をしておりました。
 そういった中で、私が取り組んできたのもそうですし、それから、中堅、若手職員を中心とした横型のプロジェクトチームが、組織改革に向けて、組織風土をよくするための活動を開始したのもそういったことでございます。

○塩川委員 みずから執行部として総括を行ってそれを公表するということは、具体的にお考えになりませんか。

○福地参考人 確かに、いろいろな御指摘がございました。そういったものを総括して、今度、検証番組というふうな形で発信をしていきたいとも考えております。

○塩川委員 なぜ起こったのかという自己分析が求められている。
 その点で、この第三者委員会の報告での職員の発言の中で「ジャーナリストであれば、公務員や政治家といった公人を批判することも多い。ある意味で公人よりも「公性」を備えているべき。今回の事件が深刻なのは、これまでの不祥事のように社会人としてのコンプライアンスに欠けた問題である以上に報道の公性を完全に忘れた“汚職”だったことだと感じる。根底には“ジャーナリストとは”といった青くさい議論に対する冷やかな空気や、権力者を批判するという気概の消失がある気がする。」と言っております。
 私、この点は重要だと思っておりまして、やはり、権力者に対峙をするという気概、政府から独立していることが公共放送には求められているわけで、トップが権力の顔をうかがっているようでは、記者にジャーナリストとしての自覚や自尊心は育つはずがないわけで、権力と対峙する緊張感があってこそ、記者の倫理観も確立をされる。
 その点で、私、「ETV二〇〇一」の問題の対応のように、権力と対峙をする姿勢がNHK執行部からうかがえないということが、この記者の倫理観の劣化をもたらしているんじゃないのか。
 その点について最後一言伺って、終わりにしたいと思います。

○福地参考人 私は、NHKの会長就任以来、編集権の自律ということと、編集権の自律というのは、不偏不党ということによって、その義務によって担保されているんだということで、ひときわ不偏不党は自覚しているつもりでおります。
 以上です。

○塩川委員 終わります。