<第171通常国会 2009年05月13日 予算委員会 28号>


○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。
 締めくくり総括質疑に当たりまして、現下の経済不況下における国民生活の実態とその中での地方自治体の役割の問題について、主に質問をさせていただきます。
 この不況下で国民の暮らしの底が割れるような危機的な状況だからこそ、住民の福祉の増進を図るという地方自治体の役割が強く求められているところであります。昨年秋からの雇用危機で派遣切りなどが吹き荒れたときに、生活保護やあるいは生活資金の確保のために、仕事、住居を失った方が頼ったのが自治体の窓口でありました。また、新型インフルエンザ対策でも、感染防止の取り組みなど、保健所や公立病院を初めとした自治体の役割が一層重要になっております。
 総務大臣にまず伺いますが、今、このような命と暮らしを守るとりでとして、地方自治体の役割が極めて重要になっているときではないかと思いますが、御認識を伺います。

○鳩山国務大臣 この世界的な金融経済危機というものが我が国の実体経済にも大きな影響を与えているわけでありましょうが、それぞれの国民はすべてどこかの自治体で暮らしているわけでございますから、自治体の役割はある意味でいえば国以上に大きいと思うし、国の役割は、自治体が十二分に自主的、総合的にさまざまな行政が実施できるように、それを助けることだ、そういうふうに考えております。
 したがって、例えば、どんなに経済状態が厳しくても地方交付税はふやさなければいけないという総理のいわば執念のような御熱意で、平成二十一年度予算で一兆円ふやしていただいた、そういう影響が十二分に出てきていると私は思うわけでございますし、今度の補正予算でも、地域活性化・経済危機対策、このお金が一兆円、地方に配られていくわけで、これは極めて自由度の高いお金で、どのような形でも地方自治体に有効に使っていただこう、そうしたお金ですし、公共事業については一兆四千億、一兆三千八百億ですが、用意できていることは委員よく御承知のとおりだと思います。
 そういうようなことで、これから地方がさまざまな形でこの予算を使っていただくわけですが、重点的にやはり雇用とか安全、安心の分野に使っていただければありがたい、そう考えております。

○塩川委員 そこで、総理に伺います。
 今、総務大臣がお話しされましたように、国以上に大きな役割を担う地方、そういう地方に対して今まで国が何をやってきたのかという問題であります。
 まず、市町村合併の問題ですけれども、鳩山大臣が一月三十一日の発言で、地域の特色がなくなり、これ以上の市町村合併はどうかと思う、過去の市町村合併がいいものを壊してきた、このように述べましたけれども、その点での麻生総理の認識ですが、この間の合併を推進した総務大臣をお務めになったのが麻生総理であります。その結果の市町村合併がいいものを壊してきたのではないか、このことが問われているわけです。いいものを壊してきたと私は率直に思いますが、総理はどのように受けとめておられますか。

○麻生内閣総理大臣 これは、塩川先生御存じというか御記憶だと思いますが、これをスタートいたしましたのが平成十一年、三月末でしたから三月三十一日で三千二百三十二市町村だったと思います。今、一千四百五十六減りまして、きょう現在で一千七百七十幾つになっていると思います。これがさらに減っていくという方向なんですが、僕は、これは、市町村合併につきましては、町村におけますいわゆる財政基盤といったようなものが強化充実を図られたという面は確かに出てきたと思っております。
 具体的には、町村ごとではなかなか難しかった子育て支援とか税の徴収部門とか、そういった意味で、いわゆる組織の専門化が結構できたということも確かですし、また、適切な職員の配置ができるようになりましたので、職員の総数とか人件費の削減といったようなところにおきましては、中長期的に見ますと、そういう方向ができるような方向になるということだと思っています。
 ただ、今言われましたように、さまざまな事情がありますものですから、町村合併ができなかった市町村というのもありますし、どうしても県をまたいで合併するというような例、そういったこともありましたし、また、今までは旧町役場があった、村役場があったものが、それが市の支所みたいな形になったという周辺部と言われるところにおいては、これは間違いなく、地域の活力という意味において差が生じているのではないか。多分、塩川先生も同じような懸念を持っておられるんだと思いますが、これは地域によっていろいろございますので、差があることは確かだと思っております。
 そこで、第二十九次になります地方制度調査会というのが今開かれておって、市町村合併を含めたいわゆる基礎自治体のあり方についての審議をいただいております。
 私は、地域主権型の分権社会とか、いろいろな表現がありますが、地方分権、地方主権というものが進んでいったときに、それは県でするんですか、それとも市町村でするんですかという話が言われているところですけれども、やはり身近な行政といえばこれは市町村という部分が大きくなると思っておりますので、市町村という自治体のきちんとした体制が確立しているかいないかというのは非常に大きなところだと思います。
 これは確実に、その点を配慮した合併推進をした上は、そこらのところがきちんとならぬと所期の目的を達成したことにはならない、そう思いますので、おっしゃられたような点は十分留意して今後とも進めていかなければならないところだと思っております。

○塩川委員 合併のメリット、デメリットのお話がございました。
 いい面の筆頭に、財政基盤の強化の話がございました。財政基盤の強化などといって、財政効率化、財政健全化を進めてきたのが国であります。
 そこで紹介をしたいのが、全国町村会がまとめました「「平成の合併」をめぐる実態と評価」の調査報告でございます。これはダイジェスト版、昨年の十月ですけれども、ここでは合併によるプラス効果についても紹介をしております。合併によるプラス効果について、財政支出の削減とあります。
 しかし、この指摘には、「財政論としてはたしかに支出は減った側面があるが、これをメリットとしてそのまま捉えて良いのかは、甚だ疑問である。」と。どういうことかというと、実際には、財政支出を節約しただけであって、地域の特性に合った行政を行うことで生じる効率性や従来のサービス水準などを犠牲にしながら、財政支出を縮小しただけではないかと指摘をしています。地域の特性に合った行政効率化や住民サービスを犠牲にした財政支出削減は合併のメリットとは言えないという声であります。
 一方で、デメリット、負の側面について、役場が支所になる、住民から行政が遠くなる、地域の活力で差が生じてきているのではないのかというお話がございました。
 この点についても、全国町村会がまとめたこの調査報告では、合併によるマイナス効果を挙げております。五点挙げておりますが、行政と住民相互の連帯の弱まり、財政計画との乖離、財政規律の低下、周辺部となった農山村の衰退、過大な面積を持つ市町の五点を指摘しております。現場からは、議員や職員の削減で合理化は進んだが、行政に守られているという安心感が大きく後退をした、本庁舎がある地区から遠い周辺部が衰退をした、日常生活圏を超えた広域合併で周辺部に行政の目が行き届かなくなったという声が上がっています。
 こういう町村会における合併によるマイナス効果、こういう指摘について、率直にどのように受けとめておられますか。

○鳩山国務大臣 私は、平成の大合併を否定しているわけではありません。それは、行政基盤が強化されますし、効率化が行われるからよろしいのですが、大体この程度でよろしいのではないかと。
 私は、和辻哲郎さんの風土論というのを大変重視しておりまして、日本の国はそれぞれの地域に風土がある、そこで生きる国民の意識がまた違っている、幸せ観も違う、そういう風土というものを大事にしなければならないし、そこに我が国独特のいわゆるゲマインシャフト、精神共同体というのがある。それを無理にスケールメリットを追求して合併させると、今、委員が御指摘のようなさまざまなデメリットも生じてくるから、平成二十二年で合併特例法の期限は切れますが、これからも合併したいところは自発的に合併すればいいと思うけれども、もっと別の方法を考えたらいい場合もあるのではないか。
 例えば定住自立圏構想だし、あるいは、例えば福祉部門だけを、A市とB町がその部分だけ一緒にやるとか、A県とB市が保健所で一緒にやるとか、いろいろな選択肢のある方式というのをこれから考えたらどうかというようなことが、今、総理から御答弁があった地方制度調査会でも議論されているようでございまして、今後は、できるだけデメリットが生じないような新しいやり方を考えていきたいと思っております。

○塩川委員 鳩山大臣の答弁は総務委員会でさんざん聞いております。
 鳩山大臣以上に総務大臣の経験者が麻生総理ですから、麻生総理に伺いますけれども、今、鳩山大臣の方からもデメリットの話が改めてございました。私がお聞きしたいのは、これからどうするかという話の前に、こういう事態になってきた過去の合併の総括の問題をお聞きしているわけであります。このようなマイナスをもたらした合併を推進したのはだれかという問題です。
 この全国町村会の調査報告では、国の合併推進策の問題点を指摘しています。国が合併推進のために用いた手段は、合併特例債、地方交付税の削減など、その多くが財政措置、こうした行政手法は、分権時代の流れに逆行し、将来に禍根を残す、また、国と府県による強引な合併誘導策が目立ち、市町村の自主性が尊重されたとは言いがたい実態が顕在化、このように、現場の町村からこういう厳しい指摘が国に対して向けられている。
 この報告では、合併を選択しなかった町村についても紹介しておりまして、合併を選択しなかった町村では、地域に対する愛着と責任感の共有が生まれている、また、身の丈に合った地域経営が行われる、手ざわり感のある範囲での行政運営となっているといった、自治の新たな可能性が展望できる、このようにしております。
 合併しなかったことによる自治の新たな可能性もあったのに、国は合併を推進してきました。この報告でも指摘をしている、いわば国の押しつけ合併が市町村のいいものを壊してきたのじゃありませんか。そのことへの反省はありませんか。

○麻生内閣総理大臣 すべて一点非の打ちどころがないと言うつもりはさらさらありません。
 ただ、少なくとも、当時、そのまた昔は、今の四十七都道府県になる前、九十何都県あったんですが、そういったようなものからだんだん整理されて今の四十七都道府県になりましたのと同じように、三千二百三十二ありましたものが今一千七百台、約千四百五十幾つ減っておると思いますが、そういった形の中で、財政基盤といったものは、地方において丸々赤字がずっと続いておりましたものが、少なくとも市なり町というものを、自立して町を、市を、村を経営するという感覚を持っていただく首長さんが多く出てこられたことは事実だと思います。
 そういった意味では、私どもとしては、三兆円の税源移譲などという、地方税に国税を三兆円移譲するなどというような過去に例がないほどのことをやらせていただきましたし、いろいろな意味で地方分権は大きく進んだと思っております。
 そういった意味では、財政の健全化というものもそれなりに進めることができたんですが、傍ら、交付税等々は減らし過ぎではないかという御意見やら、もっと別にいろいろなことができるはずだったのにとか、これはいろいろ例を挙げていくと出てくるところなんですが。
 そこで、私どもとしては、先ほど鳩山大臣からの答弁もありましたように、地方に対して今後やっていくに当たって、平成二十年度の第二次補正予算におきましては、地域活性化・生活対策の臨時交付金をつくらせていただいて約六千億、それから、今般の補正予算におきまして約一兆四千億円の公共投資の臨時交付金とか、またさらに、地域を活性化するために今回の経済危機対策の臨時交付金などを創設して、地方がいわゆる自由裁量で使えるという財源を大幅に拡充しております。
 私どもは、これによって、地域をきちんと自分の手で、自分で経営するという意識が出てきたところが、きちんとした経営能力を持った人を首長さん、会社でいえば社長さんにして、その人がやる。こういうところで、うまくいっているところ、いっていないところ、いろいろございますので、塩川さん、一部だけ言うと確かに問題点があるかもしれませんけれども、うまくいっているところもあるんだという点も確かだと思っております。

○塩川委員 一点の非の打ちどころもないどころか、非ばかりというのが、この間の地方の実態じゃありませんか。財政健全化を口実にして市町村合併に追い込んだ国の責任というのがまさに問われているわけで、平成の市町村合併は大失政だと言わざるを得ない。
 そういう点で失政というのであれば、三位一体改革の総括も問われてまいります。
 鳩山大臣が三位一体改革は失敗だったと答弁をされましたけれども、総理に伺いますが、この三位一体改革による地方交付税や補助金の削減が、住民の福祉の増進を図る地方自治体の機能を大きく低下させて、住民サービスの後退や貧困と格差の拡大をもたらした。この三位一体改革は失敗だったんじゃありませんか。総理の答弁を伺います。いやいや、総理、過去の総括を聞いているんですから。

○鳩山国務大臣 では、私は一言だけ。
 私は三位一体改革が失敗だったとは言っておりません。三兆円の税源移譲のように画期的なこともなされてきたし、当時はいいと思っても、あのころは地方税がふえていた。ところが、ちょっと景気が足踏みあるいは後退してくると、やはり地方交付税の改革が、五兆一千億あったことが大変重くのしかかってきている。
 そういうことで光と影の部分があったと申し上げているので、きのう、阿部知子さんでしょうか、質問されましたけれども、例えば公立病院なんかもその影響で地方交付税が減ってきたけれども、麻生政治になってぽんと右にはね上がっているわけですね。だから、それが三位一体改革の影の部分を今消してきている、こう思っております。

○塩川委員 失敗だとは言っていないと言いますけれども、とんでもないですよ。本会議質問で答えていたじゃないですか。原口さんの地財に関しての本会議質問のときに、失敗だとはっきりおっしゃった、そのことについて否定はされなかったんですよ。だから聞いているわけで、この点について失敗だったんじゃないのか。
 三位一体改革の総括について総理に伺います。総理、二年も総務大臣を務めた方が何で答えられないのか。

○衛藤委員長 財務大臣与謝野馨君。その後、総理に。

○与謝野国務大臣 お答えいたしますけれども、三位一体改革は、実は地方六団体のおっしゃるとおりのことを苦労して実現したのでありまして、我々としては、地方団体の意見を最大限に尊重してつくったものだと考えております。

○麻生内閣総理大臣 私も、その前の政務調査会長を自由民主党でさせていただいておりました時代が二年半ほどございました。そのときから、この三位一体の話というのはずっと担当をしておりましたけれども、そのときに、地方六団体と言われるところから言われた話というのは、今、財務大臣のお答えされたのが基本だったということは、これはかなり地方の御意見を尊重して、財源移譲の話から、補助金の削減の話から、皆この線に沿って基本的にやらせていただいたというのがまず最初にありますので、その点だけをちょっと。
 いかにも、地方団体の意見を一切無視して、自由民主党が押しつけたとか、また政府が押しつけたとか、自治体が押しつけたという考えは違うと思います。

○塩川委員 では、なぜ地方から地方交付税の復元を求める声が上がっているんですか。三位一体改革というのは、結局は、地方交付税を削った、国の財政健全化のためだったんだというのが地方の声だったんじゃありませんか。
 だからこそ、今のこの問題について、今回の地方交付税の一兆円といったって、その半分というのは二年間の限定措置だと。そういう点でも、一時的な対策、いわばその場しのぎでやってきたというのがこの交付税についての実際の対応であります。
 そして、この間の地方において深刻な事態となっているのは、今回の市町村合併の問題もあり、そしてまた、三位一体改革もあり、社会保障費抑制政策もあり、いずれも、国が財政健全化を口実にして進めてきたことが、本来、今この危機に当たって、住民の暮らしを保持する上での一番の仕事をしなければいけない地方自治体の業務をずたずたにするような事態になっているんだ、このことが問われている。
 今回の補正予算案の中身を見ても、実際、地方に対して、人手もない中で国から山ほど仕事が来るじゃないですか。一方で、お金の面についても、相変わらず、今回の公共事業を見ても、直轄事業負担金についてもそのまま押しつけるし、維持管理費、きっぱりと地方がやめてくれと言っているものについてもそのまま続けているし、借金についても地方に対してどれだけ求めていくのか。九〇年代と同じような借金漬けにするような、地方にまた痛みを押しつけるようなことになりかねない。こういったのが今回の補正予算では大問題。
 この政治の転換を強く求めて、質問を終わります。