<第171通常国会 2009年05月21日 総務委員会 19号>


○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。
 人事院の異例の勧告について、質問をいたします。
 最初に、人勧の手続、ルールについて確認をさせていただきますが、国家公務員の特別給は、毎年五月から実施をされます職種別民間給与実態調査において、前年の八月からその年の七月までの一年間に民間で支払われた特別給の実績を精確に把握し、官民較差を算出した上で、八月に人事院が勧告を行ってまいりました。
 これまでも、景気の影響で民間の夏季一時金が削減された場合には十二月の特別給で調整をしてきた、このようなことになっていると思いますが、これでよろしいですね。
    〔森山(裕)委員長代理退席、委員長着席〕

○吉田政府参考人 お答えを申し上げます。
 通常の勧告の枠組みは、先生御指摘のとおりでございます。

○塩川委員 通常のルールは今のとおりだと確認をいたしました。
 ことし六月の特別給は昨年の人事院勧告で既に決まっているものであるにもかかわらず、今回突然四月に臨時調査を行って特別給を削減するという勧告は、これまでのルールを変更するものであり、こういうやり方はおかしいと率直に思いますが、総裁、この点についてお答えいただけますか。

○谷政府特別補佐人 ことしも、基本的には従来どおりで最終的な決定をするという方針に変わりはございません。
 ただ、三月十八日の民間の集中回答日以降の状況を見ますと、例年にない状況がうかがわれましたので、できる限りの調査をいたしました上で何らかの措置を講ずるべきかどうかを判断しようと思いまして、調査をいたしました。
 その結果、非常に大きく落ち込むという傾向が認められましたが、その段階ではまだ二割の従業員割合しか決定対象となっておりませんので、正式の勧告までの間、これをいわば保留する、凍結と申しておりますけれども、そういう措置を講じまして、最終的に従来どおりの方法で調整しようということを考えた次第でございます。

○塩川委員 大きく落ち込んでいる傾向ということで、これが正確な一時金の額ではないということは今お認めになったわけで、この調査の内容についてはこの後質疑をいたしますけれども、本来、もし下がるのであれば年末において調整をする、そういうルールでこれまで行ってきているわけですし、夏の一時金の額については、当然公務員の皆さんもそれを織り込んだ支出、消費の計画などを立てておられる。中には、今の地デジの問題がありますから、地デジのテレビを、夏のボーナスで一括払いをするというようなことを予定して支出をされる方なんかもいらっしゃるわけで、そういう公務員の期待を損なうものとなっているという点でも極めて重大であります。
 一方的なルール変更による勧告は認められないとまず最初に申し上げて、この勧告の正確性にも疑問があるということを申し上げたい。
 通常の職種別民間給与の実態調査と今回の特別調査の違いについて何点かお聞きしますが、いわば本調査においては何社を調査対象にし、今回の特別調査では何社を調査対象にしたのか。それぞれ調査方法はどのような形で行われたのか。この点について、まずお聞かせください。

○吉田政府参考人 お答えを申し上げます。
 例年の職種別民間給与実態調査では、企業規模五十人以上かつ事業所規模五十人以上の事業所のうち、全国で約一万一千事業所を抽出いたしまして、実地調査により行っております。
 一方、今回の特別調査におきましては、この職種別民間給与実態調査の対象企業、すなわち、企業規模五十人以上かつ事業所規模五十人以上の企業から抽出した二千七百社を対象に、通信調査の方法により行っております。

○塩川委員 通信調査を行った二千七百社に対して、いわばアンケートですけれども、回答が何社で、そのうち夏季一時金を決めたとする企業は何社、どのぐらいの割合だったのかについてお答えください。

○吉田政府参考人 お答えいたします。
 回答いただいた企業は二千十七社でございまして、調査完了率は七五・六%になっております。また、この集計企業のうち、夏季一時金を決定している、いわゆる妥結済み企業は三百四十社、企業数の割合で申しますと一三・五%でございますが、これを従業員割合で見ますと、全体の一九・七%になっております。

○塩川委員 今回の特別調査は、本調査に比べてサンプルそのものも五分の一と極めて少ないわけですし、また、実地調査、面接の調査ではなくて、郵送による書面、あるいは電話などでの確認の通信調査ということであります。しかも、実際に一時金を決定しているのは、企業数でいえば一割程度にすぎないわけで、大半が一時金について決まってもいない。決まっているところも、実際には当然払われておりません。
 ことしの夏の一時金についての実態調査と言うには、これは余りにもずさんな調査ではありませんか。総裁、この点についてのお考えをお聞かせください。

○谷政府特別補佐人 調査自体はずさんというものではなくて、それなりに精確な調査をいたしたわけでございますが、しかし、全体状況を精確に反映しているかと申しますと、そうはなりません。妥結額と実支給額とにはそう大きな差はないと思いますけれども、二割の従業員しかカバーしていないという点はそのとおりでございます。そういう意味で、今回の措置はあくまでも暫定的な措置として行うことを考えたわけでございます。
 それから、これまでも確かに十二月で精算してということではございますけれども、調査対象といたしましては、従来は前年の夏、冬を調査いたしておりましたが、数年前に前年の冬とことしの夏というふうに、できる限り調査内容をその時々に近い時点で反映させるような努力というのはしてきておるところでございます。

○塩川委員 人事院の報告自身でも、みずから「データ確保の精確性等の不確定要素がある。」と述べているとおりでありまして、いわば決まってもいない、実際支払ってもいないという一時金についての今回のような調査で引き下げを決めて行うというやり方そのものが極めて乱暴だということを言わざるを得ません。
 それが、単に国家公務員だけではなくて、他の労働者の一時金にも影響を与えかねないということもあわせて極めて重大であります。人事院自身も不正確と認める今回の調査結果が、関連労働者の一時金にもマイナスの影響を与えることになりかねません。
 そこで、人事院にお聞きします。人事院の勧告が他の労働者に影響を与える、その人数についてお聞かせいただきたいんですが、国家公務員を含め、地方公務員やその他の労働者について、どのような分野、職種の労働者にどのくらいの人数の影響が人勧において生まれるのか、この点について数字をお示しください。

○吉田政府参考人 過去において行ったものと同様の方法によりまして大まかに試算したところでは、公務組織で約三百六十万人、このうち国家公務員は約六十万人、それから地方公務員が約三百万人になります。このほか、独立行政法人、国立大学法人等で約八十万人、それから学校、病院等で約百四十万人というふうになっております。

○塩川委員 合計すると約五百八十万、六百万人近い影響が出てくるわけであります。
 この場合に、学校、病院等で約百四十万人ということですが、私立の学校や民営の病院あるいは社会福祉施設等ということでお聞きしておりますけれども、ここはいわゆる営利企業は含まないという中身ということでよろしいんでしょうか。こういういわゆる民間が影響を受けるというのは、どういう理由なんでしょうか。以上二点、お聞かせください。

○吉田政府参考人 今御説明いたしました学校、病院と申しましたのは、私立学校、学校法人であったり、民間病院、医療法人であったり、社会福祉施設等の社会福祉法人でありまして、いわゆる民間企業というものは含まれていないと考えております。

○塩川委員 この学校、病院等で百四十万人が影響を受けるというのは、どういう理由でここにそういう数字を盛り込んでいるのか、その点を聞かせてもらえますか。

○吉田政府参考人 正確に、この範囲でこういうことがあるということを確証を持って申し上げている数字ではございませんが、一般に、病院あるいは学校といいますのは、職種において公務員に準拠する職種、つまり、学校の先生であるとか、医療関係の労働者、お医者さんを含めまして看護婦あるいは薬剤師さんとか、そういった方々の賃金、従来、公務員の賃金がいわば目安になって決まってきたという歴史的なといいましょうか、そういったことがあるものですから、影響が非常に濃い。
 あるいは、社会福祉法人等におきましては、補助金等が公務員給与をベースに算定されていた時期もあった。現在どうなっているか、私、正確には存じませんが、そういう意味で、公務員給与がダイレクトにそのまま適用されているというものではございませんが、非常に歴史的に関係が深い。そういうふうに理解しております。

○塩川委員 俸給表などもそのまま使っているような法人もあるというふうにお聞きしていますけれども、いずれにせよ、その六百万人近い労働者に人勧が影響を及ぼすということになりますと、一時金の引き下げというのもこういう形で六百万人に大きく影響を与えることになるということも極めて重大であります。このこと自身、人事院は認めているわけです。
 そこで、総裁に質問いたしますが、今述べたような公務組織や独立行政法人、国立大学法人、民間の法人以外のいわゆる民間企業においても、人勧を念頭に置いて、参照して給与あるいは一時金などを決めている企業は少なからずあると承知をしておりますけれども、人事院の勧告が民間企業の給与や一時金に影響を与えるものとなっているということは総裁もお認めになりますか。

○谷政府特別補佐人 私どもの勧告いたしました内容あるいは取り扱っております内容が多くの方々に何らかの影響を与える、それは二つあると思います。一つは制度について。これはかなり影響を与える可能性もあると思います。それから、この給与ベースのようなものでございます。後者のものについて、どの範囲にどの程度の影響があるかどうかということについて私はつまびらかにはいたしませんけれども、御指摘のように、何がしかの影響はあり得る、それはそのとおりかと思います。
 しかし、法律で、国家公務員について情勢適応の原則に基づいて民間の情勢に合わせていくということを基本として私どもの役割が定められておるわけでございまして、私どもといたしますと、その法律に定められました役割、使命を果たしていくということは避けられないわけでございます。
 ただ、できる限りはそういう意味で今回の措置につきましても私どもの考え方を御理解いただけるように、今回はカットではなくて凍結措置であって、最終的には民間の方々全体の状況を把握した上で夏の勧告で措置をさせていただきますということもあわせてはっきり言明をさせていただきました。
 しかし、世の中一般の受けとめ方が、どのように受けとめられるかということも確かにあるわけでございますので、その点について御指摘のようなことがないということは言えないわけでございますが、私どもといたしましては、私どもの責めを果たしますために、できる限りのことを考えて措置をしてきたつもりでございます。

○塩川委員 給与ベースなどについて何がしかの影響はあり得るという御答弁でした。
 人事院の今回の特別調査でも、実際に一時金を決定している企業でいえば一割程度であります。中小の春闘は終わっておりません。そういったときに、今回の人勧による一時金の削減が民間の労使交渉において労働者の一時金にマイナスの影響を与えるということは当然お考えになることではないかなと思うんです。
 今回の人勧というのが民間の労使交渉の一時金の決定においてマイナスの影響を与えるのではないかということについては、当然認識をされておられますね。

○谷政府特別補佐人 その分野の専門家ではございませんので正確には申し上げられませんが、しかし、基本的には、民間は民間の個々の企業の状況によって対応される、特にボーナスについては個々の企業の業績によって対応される。ですから、同じ業種のところでも違いが出てくる。
 公務員の場合にはそういうものはございませんので、全体の平均値で見ていくということでございますので、ボーナスにつきまして、公務の部門の影響がどの程度出るかということについては、私は何とも申し上げられません。ないということを断言することもできないわけでございますけれども、民間はそれぞれの企業の経営状況ということを第一にお考えになる。
 それから、この言い方は先ほど私が申し上げたことと矛盾いたします、私は公務員の給与は適正な給与だと考えておりますけれども、公務員の給与は高いというふうに受けとめられているところがあるとすれば、そういうところが、高いところが下がったから低いところも下げるということにはならないんじゃないかというふうに思います。
 しかし、御指摘のような影響がないとは言えませんので、私どもとしましては、今回の措置は、民間全体の状況を見た上で決めたいという措置であるということをはっきり申し上げて、措置を決めた次第でございます。

○塩川委員 今回の人勧の措置は暫定的な措置だと、凍結ということで示しているんだということなんですけれども、では、民間のボーナスが引き下げられているときに、民間の一時金の決定において人勧の影響はあり得るとお認めになったわけですから、そういった形で、もし民間で一時金を決めたとした際に、その一時金のカットというのは凍結となるんですか。

○谷政府特別補佐人 私どもが決めました措置は、民間の状況を見なければならないからという必要性に基づいて、凍結でございますが、民間はそれぞれの企業の御判断で決定できるものでございますので、それぞれの企業の経営状況その他に応じて恐らく決定をされるであろう、そういうふうに一般的には推測いたします。

○塩川委員 労働組合のないような中小の職場においては人勧を賃金相場の参考としているような事例もあるわけで、今回のようなずさんな調査による一時金の引き下げというのが民間の一時金引き下げの口実に使われるということになれば極めて重大であるわけです。そういう点でも、今回のいわばずさんな調査がこういう形で民間に悪い影響を与えていく、民間準拠と言いながら、結果として人勧がまた民間にマイナスの影響を与えるようなことになるという点では、極めて深刻な事態につながります。
 あわせて、経済への悪影響ということも考えなければなりません。
 財務省に聞きますが、人勧を踏まえて夏季一時金を〇・二月分削減した場合の影響額について、国家公務員及び地方公務員でどのぐらいになるのかをお聞かせください。

○木下政府参考人 お答えいたします。
 今回の夏季ボーナスの支給月数の暫定的な引き下げが人事院勧告どおりに措置された場合の影響額は、国については七百四十億円程度と見込まれます。また、地方について仮に人事院勧告に準じた措置を行うこととした場合の影響額は千九百四十億円程度と見込まれます。

○塩川委員 合わせて二千七百億円に上るわけで、実際に六百万人に影響を与えるとすれば、その額はさらに広がるわけですし、さらにそれ以外の民間企業への影響を考えれば、今のこのGDPの戦後最大規模という落ち込みのときに、こういった人事院の対応に基づく今回の政府の給与法というのが、経済に対し大きなマイナスの影響を及ぼさざるを得ないという点でも、やっていることが極めてちぐはぐな対応になっているという点でも、極めて重大であります。
 今回のこの人勧の背景には与党の動きがあるわけで、与党は、ことし二月に国家公務員の給与の検討に関するプロジェクトチームを立ち上げて、四月初めに夏季一時金を減額する方針を決定しました。人事院の対応はこの与党の動きに追随するもので、いわば今回の人勧は与党の圧力に屈したものと言わざるを得ません。
 労働基本権制約の代償措置としての人事院の中立公平な第三者機関の立場を投げ捨てるものだということを厳しく指摘して、時間が参りましたので、質問を終わります。