<第174通常国会 2010年03月16日 国土交通委員会 6号>


○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。五人の参考人の皆様、貴重な御意見をいただきまして本当にありがとうございます。
 私ども日本共産党は、この八ツ場ダムにつきましては一貫して、無駄と環境破壊の計画ということで、住民団体の方とも協働し、国会でも地方議会でも中止を求めて取り組んでまいりました。ですから、鳩山政権のもとで八ツ場ダムの中止が表明されたのは当然の方向だと考えております。
 しかしながら、その表明というのが、中止の根拠や今後の対策について十分な具体的説明抜きに行われているために、住民の皆さんや下流都県の理解が得られない、反発を招く結果にもつながっていると思っております。
 ですから、私どもは、このような対応に対して、政府として住民の皆さんに真摯な姿勢で謝罪をすることと、住民の不安や要望に謙虚に耳を傾けると同時に、ダム中止の理由を丁寧に説明すること、また、生活再建、地域振興策を住民とともにつくり上げる、こういう住民の理解と合意を得る民主的なプロセスが必要だと国交省に申し入れ、対応してまいりました。
 そこで、最初に豊田参考人にお尋ねいたします。
 前原大臣が中止を表明された、その際の中止の理由について、できるだけダムに頼らない治水対策を行うんだ、こういうような形で、八ツ場ダムの中止の理由について、中止を表明する以上、利水面あるいは治水面、そういった八ツ場ダムのこれまで政府が述べてきた必要性についてその説明を転換することが必要であります。つまり、八ツ場ダム固有の中止の理由ということをしっかり述べてこそ、住民の皆さんのいわば話し合いの出発点にもなっていくものだと考えておりますが、この間の国土交通省、国の八ツ場ダム固有の中止理由の説明について、どのようなものだったのか、お感じのところをお聞かせいただけませんか。

○豊田参考人 中止の理由として聞いておりますのは、まず、少子高齢化であるということと、人口が減少しているということ、それともう一つは、やはり国の借金が多いので節約をせねばならぬというこの三つの理由によって、八ツ場を中止にしなければならないというふうなことを言われておりました。

○塩川委員 そういう点では、先ほど豊田参考人もおっしゃっておられましたように、下流の皆さんの治水上、利水上の必要性があるという話を聞くたびに、八ツ場ダムが必要だということをみずから納得させてきたということでお話がございました。
 私どもは中止の立場ではありますけれども、だからこそしっかりとした中止の理由について説明すべきだ、いわば先ほどのお話にあったような一般論ではなくて、一般論では絶対納得ができないというのは当然のことでありますので、私ども、その点でも理由について明確にする必要があると考えております。
 そこで、八ツ場ダムの中止の理由に関連して、治水対策について松浦参考人にお尋ねをいたします。
 先ほどのお話でもございましたが、治水対策についてのモデルの変更があったという話がございました。昭和五十五年、一九八〇年に、これまでの既往最大洪水主義にかえて超過確率洪水主義を採用したという話でございました。これが高度成長時代の考え方だという指摘をされておられますけれども、私は、基本高水ピーク流量が毎秒一万七千立米から二万二千立米へと増大したことが、この変更というのが過大なダム建設を容認するものとなってはいないのか、こういうことを思うところですが、松浦参考人のお考えをお聞かせください。

○松浦参考人 先ほども私が申しましたのですけれども、高度経済成長時代に治水の手法の大きな転換がございました。それで、かなり実績の洪水よりも大きな洪水を対象にしていったという経緯がございます。
 そうしますと、やはりその中で、河道で負担ができる量というのを決めていく、では残りは一体どうするかといったら、それは、具体的なダムも挙げずに、上流ダム群で洪水調節をやっていくんだ、そういう方向になってきます。それが結果的にはダムをどんどんどんどんつくっていくということになっていったということは否定できないというぐあいに思います。
 以上です。

○塩川委員 この点について虫明参考人にお尋ねいたします。
 八ツ場ダムは治水上必要ということでございますが、基本高水ピーク流量が毎秒一万七千が二万二千になったということが、結果として、過大な流量の設定ということでダムをつくり続けるものになったのではないのか、こういう御意見がございますが、その点についてのお考えをお聞かせください。

○虫明参考人 質問にしか答えられないんですね。

○川内委員長 説明の範囲であれば。

○虫明参考人 わかりました。
 先ほどの二百年確率に移行したという話ですが、少し補足したいと思います。
 一つは、治水は、戦後、御存じのように大変な水害があって、そのときは治水族という政治家がおられたわけです。地元誘導型の陳情が多過ぎる、客観的な基準のもとに治水を進めていこうという趣旨があって、実は確率が導入されました。それは、実績主義をそのときに少し脱したというのはあるんですけれども、そういう背景があったのは事実でございます。
 ただいまの御質問ですが、五十五年改定、私自身も、あれは過大な流量、大きい流量になっていると思うんです。ただ、その解釈の仕方なんですが、私は、それは当時の時代背景として、首都圏の人口、資産の集中があり、水需要の伸びがある、それにこたえようという意図があったのは事実であると思います。
 それが今、世の中は変わってきています。人口、資産の集中度は同じなんですけれども、少なくとも、水需要の伸びは低下しています。だから、多目的ダムとしての計画は、現に縮小されているし、見直しが当然必要だ。ただ、八ツ場ダムの治水効果としては、六千トンなんて調節すると言っているけれども今それはもう三分の一以下、その計画に入っているわけですから、いまだに八ツ場ダムの治水効果は期待されているというふうに思っております。

○塩川委員 過大ではあるけれども、当然、安全度を考えたら八ツ場ダムは有効なのではないかというお話……(虫明参考人「現在でも」と呼ぶ)現在でも有効だというお話です。
 嶋津参考人に伺いますが、この間、基本高水の流量につきまして、一万七千が二万二千になると過大なのではないのかという指摘に対し、国土交通省側の説明として、もちろん首都圏の人口や資産の集中、水需要の話もあるでしょうけれども、あわせて、そもそも変えたのは、五千もふやしたのは、上流で河川整備が行われますよということを理由として挙げておられたわけですけれども、これは本当に妥当なのかどうか。

 その点について、実際、群馬県の上流部を見ても、この間、堤防の改修などが行われているという話は伺えない。そういう点で、結果として、この変更というのが過大なダムづくりの理由になっているんじゃないのか、そのように考えますが、嶋津参考人のお考えをお聞かせください。

○嶋津参考人 昭和五十五年の改定によって、利根川の基本高水流量が一万七千トンから二万二千トンになったわけです。もともとカスリーン台風の再来ということで計算をしているわけですけれども、昭和二十二年の実績というのは公称値が一万七千トン毎秒、実際は、ちょっとこれは計算間違い、本当は一万五千なんです。
 それはともかくとしましても、この五十五年の改定で五千トンもふえてしまった。その理由は、今おっしゃったように、当時は上流ではんらんしていたからだ、今は群馬県の上流部の方では堤防は整備されて、はんらんしなくなってきているということで、これが二万二千になるという話なんですが、実際には上流部の堤防というのはそんなに変わっていないんですよ。あくまでこれは、机上のもので計算したら二万以上になった、それを使っているだけでありまして、実態に合わないものなんです。
 もう一つ気をつけなきゃいけないのは、二万二千という数字を踏襲する限り、八ツ場ダムだけでなくて、これから利根川水系ではたくさんのダムをつくらなきゃいけません。今のところ、河道で対応できるのは基本方針では一万六千五百、残り五千五百をダムということですが、そのうち既設のダムが千トン、八ツ場ダムで六百、残り三千九百あるのは手つかずなんです。この分をつくらなきゃいけないとなると、この二万二千トンという数字、大き過ぎる数字を踏襲する限り、これから十数基のダムをつくらないと利根川の治水計画は完結しないんですよ。この数字は明らかに過大であるということです。
 実際に、例えば多摩川なんかの場合ですと、やはり二百年に一回で八千七百トン、石原地点でそういう基本高水を設定しておりますけれども、実際に実施する河川整備計画はぐっと落として四千五百、これは「岸辺のアルバム」のドラマで知られる昭和四十九年洪水の実績に合わせているんですよ。利根川の場合もそういう、机上で求めた数字のままじゃなくて、実際にあった洪水、最近のですね、その数字を使って現実的な治水計画をつくるべきだということです。
 ただ、それを超えた場合どうするかということについては、これは先ほど申し上げた耐越水対策堤防を整備することによってより大きな洪水には対応する、こういう治水対策が現実的な意味のあるものだと私は考えております。

○塩川委員 松浦参考人に改めてお尋ねします。
 今お聞きした点について、虫明参考人、嶋津参考人からお考えをいただきました。そのお考えについて思うところがございましたら、一言、松浦参考人からお願いいたします。

○松浦参考人 私は、利根川の水害史といいますか、治水史というのを勉強してまいっております。それによりますと、では、その中で大きな洪水、大出水というのは一体どんなものがあるかということを調べてきました。その中で、いわゆる近世以来、徳川家康が入って以来、三大洪水というのがあります。寛保二年、天明六年、それから明治四十三年ですね。
 ですから、先ほども言ったんですけれども、百年前に起こった明治四十三年洪水というのは、非常に関東平野にとって大水害になった、そういう洪水です。その場合、降雨の継続時間が非常に長いんです。降雨の継続時間が非常に長いというのは、非常に長い洪水が、例えば一万トンぐらいの洪水が一週間も十日も続く。そういう洪水が来たとき、果たして現在の堤防は本当に大丈夫かな、そういうぐあいに考えております。やはり堤防強化というのは非常に必要じゃないか。
 そして、その場合に、明治四十三年は八ツ場ダム上流でも大豪雨がありました。ただ、あそこで水をためても、多分、下流にはそんなにかからないんじゃないか、そういうぐあいに考えております。
 それから、昭和二十二年の洪水ですね。やはりこれも、利根川水系でも一つの特異な洪水だったと思います。そして、それも非常に規模の大きかった洪水だったというぐあいに考えております。
 そういうぐあいに考えていきますと、明治四十三年洪水、それから昭和二十二年洪水に対応していったらかなりの安全度を持つんじゃないか、そういうぐあいに私自身は考えております。
 以上です。

○塩川委員 ありがとうございます。
 次に、地すべり問題について、奥西参考人にお尋ねをいたします。
 先ほど、八ツ場ダム、長野原町におきましての地すべり問題についての御指摘をいただきました。ダムの建設に当たりまして、やはり地すべりが問題となったのは各地にあるというふうに承知をしております。
 奥西参考人の方で、例えば、奈良の大滝ダムなどについても御見識をお持ちだと思います。過去、地すべり問題について、被害も生んだようなそういう事例について、ダム事業にかかわってございましたら、お話しいただけないでしょうか。

○奥西参考人 ダム湛水域における地すべりの災害として過去にある一番大きいと言われているのは、イタリアのバイオントダムの災害でありまして、地すべりによって生じた津波が洪水を下流に起こして、二千人ほどの人が亡くなっているということがあります。したがって、地すべりの問題は、下手するとダムの存在意義さえも失いかねないような災害を引き起こす、そういう観点で非常に慎重に考慮されてくるのが普通でした。
 この八ツ場ダムについての経過を見ますと、どうも途中からダム建設というのが先に立ってしまって、それに合わせて、ダム建設ができる範囲で地すべりの問題を考慮しよう、そういう傾向になってきているのではないかという気がいたします。
 先ほど申しましたように、地すべりが起こりますと、湛水域に住んでいる長野原町の人たちも大きな被害を受けることになって、それはそれとして、非常に大問題であると思います。

○塩川委員 現に、奈良の大滝ダムなどで、住民の皆さんが避難せざるを得なくなるという被害になったわけですが、これについては国土交通省が、事前にはわからなかった、だからその被害については責任がないんだという態度をとられているということも先ほどのお話でございました。
 これは余りにも無責任な姿勢ではないかと感じますが、そういったことについて、この八ツ場ダムの問題も想定しながら、問題点、お考えのところがありましたら、お聞かせいただけないでしょうか。

○奥西参考人 御指摘の点はまさにそのとおりだと思います。
 大滝ダムの場合は、たまたま有識者の委員会で、ダム湛水が原因となって地すべりが起こったというぐあいに判断されておりますが、地元からダム湛水が原因ではないかと訴えられている地すべりについて、ダム事業者が知らぬ顔をしているという事例は非常にたくさん報道されております。
 責任問題に関しては、多分に、ダム計画に当たった公務員の責任問題ということで、責任逃れのためにそういう主張がなされておって、そもそもダム計画というのはこういうものだという主張がされているわけではないと思うんですけれども、結果として非常に無責任なダム計画がまかり通っているということは、事実として認めなければいけないだろうというぐあいには思います。

○塩川委員 豊田参考人にお尋ねいたします。
 今、ほかの参考人の方から、ダム中止の理由にかかわって、妥当か妥当でないか、それぞれの御意見も伺いました。今、実際にお感じになっておられるところで、利水上、治水上でどうしても必要だ、あるいは、地すべり被害の問題についてなどは地元の皆さんはどのように受けとめておられるのか、その点についてお考えをお聞かせいただけないでしょうか。

○豊田参考人 私は、治水の専門家でも水行政の専門家でもありませんので、詳しいことというのははっきりわかりませんが、ただ、地元が水没して移転をするということは、やはり安全面ということは、移転代替の中にはもう織り込み済みで入っているというふうに思っております。
 ですから、安全でないよと言われてしまえば、これはもう全く我々としては、言葉は悪いんですが、詐欺に遭ったような、やはり我々は、先ほどごあいさつしたとおり、国を信じてやってきておりますので、今さっきお聞きしたことは、安全面はきちっとしていただけるものというふうに思っております。

○塩川委員 最後に、嶋津参考人にお尋ねいたします。
 今、ダム中止に当たって、実際、中止を踏まえた住民の皆さんへの補償を行う法案ということを国交省、前原大臣が表明しておられます。これは、かつて野党時代の民主党がそのような法案を準備されておられたわけですけれども、この前、現状を質問でお聞きしましたら、個人への補償というところまで踏み込むという答弁はございませんでした。また、あくまでもダムに限定するということで、公共工事一般ということになっておりません。そういう点では、かつての野党時代の民主党の案と比較をしても、非常に小ぶりといいますか、限定されたものになっているんじゃないのかなと思うんです。
 全国のいろいろなダム問題に取り組んでこられた立場から見て、こういう現行で国交省が考えているダム補償法案の内容についてのお考え、御感想、御意見をお聞かせください。

○嶋津参考人 八ツ場ダム予定地を初めダム予定地の人たちは、かつては反対であっても、今はダム計画を前提として将来の生活設計をされているわけですね。ですから、中止に当たっては、同じように、ダム中止後も生活再建ができるようにその補償をする必要があります。
 今おっしゃった個人補償も当然のことでありまして、今までそういう例がないというのはあるかもしれませんけれども、これは必須のことであります。ダムなしで地元の方々が生活再建の道を歩むことができるよう、また地域再生ができるように、それを裏づける制度はぜひとも必要です。
 ですから、今回、この国会でもその辺の必要性を強く主張していただきまして、来年度、もっと早くつくるべきだと思いますけれども、ダム中止後の生活再建支援法案というものが来年度、国会で出るということですけれども、その内容は、きちんと本当に生活再建ができるもの、地域再生ができるもの、個人補償も含めて、そういう内容のものをぜひ整備していただくようお願いしたいと思います。

○塩川委員 終わります。ありがとうございました。