<第174通常国会 2010年05月18日 総務委員会 17号>



○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。
 きょうは、ハード、ソフト分離に関連して質問をいたします。
 これまで放送の事業形態は、放送番組の編集というソフト部分と放送施設の設置というハード部分を一致させた形で事業者が行うのが基本原則でありました。ハード、ソフトを分離して放送番組の編集だけ行う事業者は、これまで衛星放送による委託放送事業者などに限られ、いわば例外だったわけであります。今回の法改正によって、放送番組の編集を行う基幹放送事業者は原則総務大臣の認定を受けなければならないとされております。基幹放送というのは、国民に広く普及し影響を持つ地上波の放送を含むものとなっているわけです。
 そこでお尋ねしますけれども、これまでハード、ソフト分離がいわば例外だったものが、今回の法改正によってハード、ソフト分離がいわば原則となるということだと思うんですが、その点、確認をさせてください。

○内藤副大臣 私からお答えをさせていただきます。
 委員が、ハード、ソフト分離が原則だということをおっしゃったんですが、答えを申し上げますと、そうではありません。本当にすべて中立的にしております。つまり、経営者に対してオプションをふやしたということでございます。
 もっと具体的に言えば、従来のソフト、ハード一致の状態で参入している事業者に対しても、別にそのままソフト、ハード一致のままいってもいいし、ソフト、ハードを分離していただいても結構。また、新規参入者に対しては、ソフト、ハード一致のまま参入していただいても構わないし、ソフト、ハード別々に参入していただいても結構。どれを原則とするものでもございません。
 以上、お答えをさせていただきました。

○塩川委員 九十三条の規定を見ますと、「基幹放送の業務を行おうとする者(電波法の規定により当該基幹放送の業務に用いられる特定地上基幹放送局の免許を受けようとする者又は受けた者を除く。)」ということで、この者は「総務大臣の認定を受けなければならない。」ということで、この書きぶりからいえば認定を受けることが基本である、そういうことははっきりしていますよね。

○内藤副大臣 括弧の中でその除外規定も設けておりますが、確かにそういう印象を受けるかもしれませんが、我々立法者の趣旨としては、すべて対等に扱うという思いを込めております。
 以上です。

○塩川委員 条文の規定に基づくわけですから、この書きぶりからいっても、認定を受けることが原則となって、いわばハード、ソフト分離が基本となり、規制方式の大きな転換になるものであります。
 そういうことを踏まえてお尋ねしますが、この放送局への監督権限を持つ総務大臣が放送番組の編集を行う事業者を直接審査、認定することになるのは、行政の恣意的な介入の余地を生むものになるのではないのか、大臣のお考えをお聞かせください。

○原口国務大臣 言論の自由を守るということについて、塩川委員と私はずっとこの放送法の修正についても同じ方向を向いて歩んできた、そういう認識を持っています。
 現行の放送法においても、既にハード、ソフト分離の制度が導入されている衛星放送と移動受信用の地上放送では、放送の業務についての認定制度が導入されています。
 今回の改正においては、経営の柔軟化、選択肢なんです、それを図る観点から、地上放送においてもハード、ソフト分離を可能とすることにして、これに伴い放送の業務の認定制度を地上放送にも設けることとなるわけでございまして、認定に当たっては、従前からのハード、ソフト一致の放送について電波法のもとで審査してきた事項のうち、ソフト部分に関する事項を用いることを想定しており、ハードを分離したからといって、そこで恣意的な国の介入を生むなんてことはあり得ないし、あってはならないというふうに考えています。ある余地がありません。

○塩川委員 二〇〇七年の民放連の意見書などでも、これまで「電波法に基づく放送局免許は施設免許であり、番組内容に対する行政の直接的な審査・関与を防ぐことで、放送の自由を制度的かつ厳格に保障してきた」、このように述べているわけで、電波法に基づくいわば施設免許という形での間接的な免許の規定の置き方をしているのを、今回変えて、あくまでも一致は括弧書きの中ですから、総務大臣が認定をしなければならないという制度になったという点での規制方式の大きな転換があるということを指摘せざるを得ません。
 そういうことを踏まえて、この百七十四条の業務停止命令の問題が出てくるわけです。この百七十四条の放送事業者に対する業務停止命令の規定を設けた理由は何なのかについて、まず確認の意味でお聞かせいただけないでしょうか。

○原口国務大臣 これは委員も御案内のとおり、業務停止命令の制度については、電波法を含む現行の放送法制においてもすべからく整備されているものでございまして、現行法制と比較して放送事業者が放送の自由を侵害される懸念が生じるものではございません。
 また、実際に運用に当たっても、法律の規定に違反した放送が行われたことが明らかであることに加え、その放送が公益を害し、放送法の目的にも反し、これを将来に向けて阻止することが必要であり、かつ同一の事業者が同様の事態を繰り返し、かつ事態発生の原因から再発防止のための措置が十分でなく、放送事業者の自主規制に期待するのでは法律を遵守した放送が確保されないと認められるといった、極めて限定的な、BPOがあるわけですから自主規制なんですよ、しかし、それでも今の放送法の規制があるというのは、このような極めて慎重な配慮のもとに運用するものであって、業務停止命令の制度自体が放送事業者の放送の自由の必要以上の制約につながるものではございません。
 先ほど放送法の三条を言いました。この三条の規定は何も変えていないんです。つまり、総務大臣がやれる範囲というのは、それは拡大をしているどころか、あの電監審によって逆にチェックを受ける対象だということを御理解いただきたいというふうに思います。

○塩川委員 先日の質疑でもやりとりしましたように、私は、独任制の行政機関の総務大臣が放送行政を監督する仕組みを存置したままで今回のような業務停止命令が行われることに強い懸念を覚えるわけであります。
 放送番組の編集を行う事業者を、直接審査、認定する立場にある総務大臣が業務停止命令をできる権限を持つということは、やはり放送の自由を侵害する懸念が生じることになる。これはぬぐえないと思うんですけれども、その点、いかがですか。

○原口国務大臣 そこは、塩川委員、少し飛躍じゃないでしょうか。
 私たちも、日本版FCCということで、今おっしゃったような、FCCという言葉は使わないけれども、しっかりとした独立の機関にそういったものについて御議論いただいているのは事実です。しかし、今の現状の中で、放送が、行政が行われていることも事実です。どこにもそういう独立委員会はございませんし、私たちが実際に番組の内容、報道の内容といったことに介入する、この業務停止命令をもってさまざまな報道の自由や表現の自由に介入するという、その論理立てが私には理解できないんですけれども、そういうことは絶対にあってはならないし、あるはずもないということを繰り返し御答弁申し上げます。

○塩川委員 実際にこれを発動する、行政処分を行うかどうか、それをおいたとしても、威圧的な効果をもたらすという意味でも、私は懸念をぬぐえないと思っています。番組内容を理由にした業務停止命令ができるようになるのではないかという懸念も実際にはぬぐえないところであります。
 そういうことになりますのも、認定の時点において審査事項がどうなるのかということもあるわけですね。ハード、ソフトの手続分離に当たって、ソフト部分の認定に対する放送法による審査事項というのは当然出てくるわけですけれども、この認定に当たっての放送法上の審査事項にはどのようなものがあるのかについて簡単に御説明いただけますか。

○内藤副大臣 まず大枠のことを申し上げさせていただくならば、現在、ハード、ソフト一致のもと、どのような審査事項があるかというと、外資規制等八つの審査事項があるわけでございます。ハード、ソフト分離を選んだ事業者に対しては、やはりそれぞれの審査項目がなければいけないということで、その八つを決してふやすこともなく、減らすこともなく、ハードにふさわしいもの、ソフトにふさわしいもの、また両方にあるべきもの、そういう観点で振り分けさせていただいたところでございます。
 そして、御質問のところでございますが、従来のハード、ソフト一致の放送について、電波法のもとで「総務省令で定める放送をする無線局の開設の根本的基準に合致すること。」としていた審査項目の中には、例えば放送番組の調和等を求める規定が定められており、改正放送法の「基幹放送普及計画に適合することその他放送の普及及び健全な発達のために適切であること」といった規定のもとで、基幹放送普及計画に盛り込まれることが想定をされますが、しかし、いろいろな関係者の意見も聞きながら慎重に検討してまいりたいと思っております。
 以上でございます。

○塩川委員 その点をもう少し条文に即してお尋ねしたいんですけれども、九十三条の五号で、「その認定をすることが基幹放送普及計画に適合することその他放送の普及及び健全な発達のために適切であること。」とされているわけですけれども、この認定の審査に当たってどのような要件を指すのかをお答えいただきたいんですが、この基幹放送普及計画ではどのような要件を求めるんでしょうか。

○内藤副大臣 お答えをさせていただきます。
 基幹放送普及計画には、一定の放送対象地域における放送系の数の目標等を基幹放送普及計画で規定すべきこととされております。基幹放送の業務の認定に当たっても、こうした基幹放送普及計画に沿ったものとなっているかどうか審査することとしております。このほか、基幹放送の業務に係る事業計画の実施が確実かどうか等、基幹放送の計画的な普及及び健全な発達のために適切であるか否かについて審査することを想定しております。
 具体的には、二点にわたって審査をさせていただくことが考えられますが、例えば基幹放送の業務の認定を申請する際に提出される事業計画や放送事業者みずから番組基準を定めていること、二つ目として、おのおのの放送事業者が放送番組審査機関を設置していること等、放送法上の規律を満たすことを審査することを想定しております。
 委員御懸念の点でございますが、私の答弁からも明らかになっておりますように、決して個別の番組について審査するものではないということを改めて明言させていただきたいと思います。
 以上です。

○塩川委員 今お話にありましたように、従来、放送普及基本計画におきましては、放送系の数の目標等を規定するものに限られて、それが中心だったわけですけれども、今回の基幹放送普及計画では、それをさらに追加して、事業計画の実施が確実かどうか等々、新たな審査項目、審査に当たる上での要件をその中に盛り込んでもらうということが御答弁でございました。その事業計画の中身ということでいえば、放送番組の編集の基準ですとか放送番組の審議機関に関する事項、こういったものも入っているわけです。
 そういう点では、今言いました認定に当たっての申請書に何を盛り込むのかということで、事業計画書その他省令で定める書類を添付しなければならないと法文で規定をされていますけれども、どのような中身を盛り込むのかということでいえば、ちょっと確認ですけれども、先ほどお答えいただいた放送番組の編集の基準とか放送番組の審議機関に関する事項以外に、放送番組の編集に関する基本計画とか週間放送番組の編集に関する事項とか放送番組の編集の機構及び考査に関する事項とか、こういったものについても盛り込むことをお考えなのかどうか、お聞かせいただけますか。

○内藤副大臣 あくまでも審査の基本的な考え方は、基幹放送の計画的な普及及び健全な発達のためにどうかという観点でございまして、先ほど具体的な例を申し述べさせていただいた次第でございますが、いずれにしましても、この審査基準等については大変多くの方々、関係者が関心を持っていることでもございますので、そういった関係者の意見をしっかりとお聞かせいただきながら、適切にその基準づくりを進めてまいりたいと考えております。

○塩川委員 基幹放送普及計画についての御答弁をいただいたわけですが、九十三条の五号の後段の部分、「その他放送の普及及び健全な発達のために適切であること。」という、この規定ではどのような要件を求めることを想定されておられるんでしょうか。

○内藤副大臣 済みません、先ほどの私の答弁がちょっと間違っておりましたので、訂正をさせていただきたいと思います。
 私、最初の先生の御質問、二点お答えをさせていただきました。基幹放送普及計画には、一定の放送対象地域における放送系の数の目標等を基幹放送普及計画で規定すべきこととされており、基幹放送の業務の認定に当たっても、こうした基幹放送普及計画に沿ったものとなっているかどうか審査をする。これを基本としつつ、多くの関係者が関心を持っている事項でもありますので、関係方面の意見を聞きながら審査基準等の決定をさせていただきたいというふうに答弁を訂正させていただきたいと思います。

○塩川委員 そうしますと、先ほど言ったような放送番組の基準、番組基準とか放送番組の審議機関に関する事項とか、これは基幹放送普及計画で求める要件には入っていないということですか。その他と言われる後段の規定……(内藤副大臣「その他の部分に入ります」と呼ぶ)その辺、整理してお答えできますか。

○内藤副大臣 失礼いたしました。
 委員御指摘の具体的な事案については、このほか、基幹放送の業務に係る事業計画の実施が確実かどうか等、基幹放送の計画的な普及及び健全な発達のために適切であるかどうかについて審査をすることを想定している、その枠の中で先ほど具体的なことを申し述べさせていただいた次第でございます。

○塩川委員 そうしますと、基幹放送普及計画に具体的な番組基準などを盛り込むのではなくて、九十三条五号の後段の「その他放送の普及及び健全な発達のために適切であること。」というところで読んでいるということでいいんですか。

○内藤副大臣 現時点では、あくまで想定ではございますが、そのように考えております。
 繰り返しになりますが、これは本当に多くの方々の、有識者、関係者の意見を聞きながら、慎重にその審査基準の策定を進めてまいりたいと考えております。

○塩川委員 そうしますと、今お話しされたような番組基準などを初めとして、これは番組準則とか番組調和原則というものについて、要は放送番組の編集に関する事項が認定に当たっての審査項目に盛り込まれることにはなるわけですね。もう一回。

○内藤副大臣 委員の御指摘は、現行のハード、ソフト一致の法体系のもとでも入っております。

○塩川委員 ですから、私は、現行そのものもどうなのかという問題意識でお聞きしているわけです。
 そういう意味でも、放送番組の編集に関する事項というのが認定に当たっての審査項目に盛り込まれるという御答弁でありました。
 その上で、先ほど内藤副大臣がお答えになりましたように、個別具体的な番組内容を判断するものじゃないというお話がありましたけれども、しかし、周波数の割り当てが決まっていて、その割り当て数を上回る事業者が認定の申請をしたような場合に、事業者を選別しなければならない。そのときに、放送番組の内容にかかわって事業者を審査することはないと言えるのかということであります。
 放送内容への介入があったり、割り当て数を上回るような事業者が出た場合に、認定の審査をする際に、要は、放送内容にかかわって選ぶ状況が生まれるんじゃありませんか。

○内藤副大臣 先ほど八つの審査基準をソフト、ハードそれぞれに振り分けるということを申し上げましたが、すべてを言っていると時間がかかってしまいますが、例えば表現の自由享有基準の合致だとか、基幹放送普及計画への適合その他放送の普及及び健全な発達のための適切さ、あるいは法律違反の有無といったように、そういった審査基準だけにとどめております。現行の審査基準をそのまま割り振っただけでございますので、個別番組への審査とか、介入と疑われるような審査は何一つございません。

○塩川委員 では、放送番組の審議機関に関する事項とか放送番組の編集の機構及び考査に関する事項などは現行でもあるわけですけれども、もしそれを当てはめた場合に、個別の番組内容についても、例えば番審で議論しているとして、どんなことを議論しているんですかという報告を求めることはないということが言えるんですか。

○内藤副大臣 我々が言うのは、番組審議会をつくるということのみでございます。
 以上でございます。

○塩川委員 その答弁は改めて精査して受けとめさせていただきたいと思っておりますが、過去の番組内容が審査に影響を与えることになりかねないという懸念が、私、率直に思っております。
 最後に、政府から独立した行政委員会が放送行政を所管するのではなくて、総務大臣が直接放送局を監督する日本の放送行政において、番組内容への介入や規制強化につながる措置を行うべきではないということを重ねて申し上げて、きょうの質問は終わります。