<第177通常国会 2011年04月15日 内閣委員会 6号>



○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。
 犯罪収益移転防止法案について質問をいたします。
 今回の法改正では、FATFの勧告を受けて顧客管理情報の確認義務を追加する改正等、振り込め詐欺対策として、電話転送サービス事業者を特定事業者に追加することや、預金通帳の不正譲渡等への罰則を強化することを内容としております。振り込め詐欺対策は急務であり、この部分の改正は必要なものだと考えております。
 しかし、顧客管理情報の確認義務の追加については、看過できない項目が含まれていると考えております。
 犯罪収益移転防止法のスキームは、金融機関などの特定事業者と顧客との間に疑わしい取引があった場合に、その情報を国家公安委員会の資金情報機関、FIU、警察庁刑事局の犯罪収益移転防止管理官に集約して分析をし、その情報が捜査機関等に提供されることになっております。
 今回の法改正の柱の一つは、FATFの改善の要請に基づいて、特定事業者に新たに顧客管理情報の確認義務の追加をすることです。これまでの氏名などの本人特定情報に加えて、取引目的、実質的支配者、職業、事業内容、資産、収入の確認義務が加わります。
 大臣にお尋ねしますが、これらの情報は疑わしい取引の届け出に記入が求められることになるんでしょうか。その点の確認をお願いします。

○中野国務大臣 お答えをいたします。
 今回の改正によって追加されます確認事項に関する情報は、捜査機関等が捜査等に利用するためのものではなくて、特定事業者が疑わしい取引の届け出を行うべき場合に該当するかどうかを的確に把握するためのものであります。
 疑わしい取引の届け出事項につきましては、下位法令で定めているところでありまして、今後、疑わしい取引に関する情報の分析に資するかどうかという観点も踏まえながら検討をしてまいりたいというふうに思っております。

○塩川委員 検討するということで、否定をされませんでした。疑わしい取引の届け出の中身に取引目的等々新たに追加される内容が含まれ得るということでもあります。
 そこで、届けられた疑わしい取引の情報ですが、資金情報機関、FIU、現行では警察庁の犯罪収益移転防止管理官のもとに集約、分析され、捜査機関等に提供されることになります。
 そこで、お尋ねしますが、これまでFIUにはどれだけの疑わしい取引の情報が集約をされ、どれだけの情報が捜査機関に提供されたのか、件数で教えていただけますか。

○小谷政府参考人 平成二十二年中の疑わしい取引の届け出の件数は約二十九万四千件でございます。犯罪収益移転防止法が施行されて以降、この数字は毎年増加を続けているところでございます。
 平成二十二年中は、総届け出件数のうち約七〇%に当たります約二十万九千件を捜査機関等へ提供いたしているところでございます。

○塩川委員 約三分の一の情報は捜査機関に提供されなかった、三割が提供されていなかったということであります。いわば犯罪の疑いがないと分析されたわけですけれども、これらの情報というのは破棄されるんでしょうか。

○小谷政府参考人 直ちに捜査に資すると認められなかったために捜査機関等に提供されなかった疑わしい取引の届け出情報につきましても、提供した情報と同様に、警察庁において保存しているところでございます。提供しないと判断した情報でありましても、それ以降の疑わしい取引の届け出を含めました他の情報との関連性を分析するなどによりまして、改めて捜査等に資すると判断されるケースが想定されますことから、保存しているものでございます。

○塩川委員 警察庁のデータベースに保管をされるということであります。
 資金情報機関、FIUは、当初、金融庁に置かれておりました。二〇〇七年の犯罪収益移転防止法によって、FIUは金融庁から国家公安委員会、警察庁に移管されることになりましたが、なぜ金融庁から国家公安委員会に移転することになったのか、この点、確認させてください。

○中野国務大臣 御指摘のとおりでございます。
 平成十九年以前は、FIU機能は金融機関を所管する金融庁が担ってきたところでありますけれども、その後、金融機関以外の業種も規制の対象となることを契機といたしまして、組織犯罪対策、テロ対策で中核的な役割を担う国家公安委員会、警察庁にその機能を移管することが適当であるとの判断になったものでございます。

○塩川委員 二〇〇七年の本法によりまして、特定事業者を金融機関からさらに拡大をする、特定事業者が金融機関だけでなくなったからFIUを金融庁から国家公安委員会に移したということであります。
 その上で、疑わしい取引の届け出の受理件数、二十九万四千件というお話がございました。その特定事業者ごとの所管省庁別の内訳がどうなっているのか、この点について、数字を確認したいと思います。

○小谷政府参考人 ただいまお尋ねのありました件数でございますが、国家公安委員会、警察庁といたしましては、各所管省庁から通知を受けた疑わしい取引に関する情報を集約、分析しておりますが、ただいまお尋ねの件数につきましては、とっていないところでございます。

○塩川委員 疑わしい取引情報の特定事業者、所管省庁別の届け出状況について、とっていないことはないと思いますので、所管省庁の区分で、金融庁が幾つとか財務省が幾つとか、その数字を教えていただけますか。

○小谷政府参考人 失礼いたしました。
 届け出を経由いたしました所管省庁の別で申しますと、これはすべて平成二十二年中の数字でございますが、金融庁が約二十九万件、財務省が約二千件、経済産業省が約一千八百件、総務省が約六百八十件、農林水産省が約三百六十件、厚生労働省が約二百四十件、国土交通省が約二十件、そして国家公安委員会が三件という内訳でございます。

○塩川委員 今御答弁ありましたように、特定事業者を金融機関から他の業態にも拡大したのでFIUを金融庁から国家公安委員会に移したということですけれども、実際の疑わしい取引の届け出の件数は、金融庁に二十九万件とありましたように、つまり、九九%が銀行など金融庁所管の特定事業者からのものとなっております。
 このFIUについて、諸外国ではどうなっているのか。諸外国では、FIUというのは警察、捜査機関に置かれているんでしょうか。その状況について教えていただけますか。

○小谷政府参考人 FATFに加盟している国・地域のうち、これは三十四の国・地域がございますが、FIUが捜査を所掌する機関に置かれている国・地域は、我が国を含め十八あるものと承知をしております。

○塩川委員 加盟国のうちの半数が警察にFIUを置いていないという状況であります。警察庁からいただいた資料を見ますと、例えば、アメリカは財務省、フランスは経済財政産業省、お隣の韓国は金融委員会などとなっております。
 私は、犯罪捜査に必要のない情報を警察が不必要に蓄積するべきではないと考えております。実際に、疑わしい取引として集約された情報の三分の一は、捜査機関に提供されなかったにもかかわらず、依然として警察庁のデータベースに登録、保管をされたままであります。また、都道府県警に提供されたものや犯罪が立証されなかった情報も多数存在しております。これに、今度の法改正では、資産や収入の情報などがつけ加わります。
 大臣にお尋ねしますが、私は、このように警察庁に情報が集約、集中をする、こうした情報は本来警察庁が保管すべきではない、データベースとして保管する必要があるのであれば警察以外の機関が行うべきだと考えますが、大臣のお考えはいかがでしょうか。

○中野国務大臣 先ほども部長がお答えをいたしましたように、確かに金融庁は圧倒的に取扱件数が多いのでありますが、財務省、経済産業省、総務省、農林水産省、厚生労働省、パーセンテージは低いかもしれませんが、件数としては、決して少ない件数ではないわけであります。
 それぞれの省庁にまたがっておりますので、そういう意味でも、警察庁にこれを保管する、しかし目的外使用はしないというけじめを持ちながら担当をしていく、そういう判断のもとに今日まで国会でも御了解を得ていただいてきたものと思っております。

○塩川委員 先ほども確認しましたように、疑わしい取引情報の届け出の九九%は、銀行などの金融庁所管の金融機関の情報であります。そういう情報についての知見があるのは金融庁でありますから、国家公安委員会に移されるまでは金融庁が所管をしていた、そういう実態があるということは、件数から見ても改めて考えるべきものだと思っております。
 あわせて、警察の個人情報の管理については、今重大な疑義が未解決のままに残っているということが問われます。
 言うまでもなく、昨年秋に発覚しました警視庁における公安情報の流出事件であります。この流出文書には、人権侵害の疑いが濃厚な個人情報のファイルが含まれております。また、この文書の中には、都内のレンタカー業界には照会文書なしで利用者情報の提供が受けられる関係が構築、個人情報保護法に配慮する業者については、そこはまさに皆さんの腕の見せどころなどとの記述があると指摘をされております。
 警視庁、警察庁は、いまだにこの流出事件について最終的な説明を行っておりません。こうした警察に、資産、収入といった情報が犯罪捜査と無関係に大量に蓄積させることになる今回の法改正というのは私は国民の理解が得られないと考えますが、改めて、大臣、いかがですか。

○中野国務大臣 国際テロ対策に係るデータのインターネット上への掲出事件が発生したこと、そのことは、公安委員会としても大変遺憾に思っております。
 既に、公安委員会としては、その真相解明、そして、そこに名前を連ねられた人たちの保護、そして、また再びこのような事態が起こらないようにという三点について、警察庁に公安委員会からの指摘として厳しく申しているところでございます。
 これを受けて、警察庁におきましては、情報保全に関し実地調査や今後のあり方の検討を行い、本年一月には、全国警察に対し情報保全の徹底、強化のための方策を指示したものと承知をいたしております。
 疑わしい取引に関する情報に関しても、外部への漏えいを確実に防止するために、引き続きセキュリティー対策に万全を期してまいりたいと思っております。

○塩川委員 今回の流出事件で重大な個人情報が流出をしたということについて、関係者の方から厳しい批判の声も上がっているわけであります。そういった疑義、問題があって、この問題についての最終的な総括、最終的な説明を警察庁として行っていない段階なんですよ。そういうときに、新たにこういった個人情報を集中するような仕組みを導入するということは、私はあってはならないと考えます。
 そういう点でも今回の法改正というのは理解が得られないということを申し上げ、警視庁の流出文書については、まず、個人情報にかかわらない部分について速やかに当委員会に提出すべきだ、このことを要求して、質問を終わります。