<第177通常国会 2011年04月21日 総務委員会 12号>



○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 地域主権改革推進法案について、保育所の最低基準に関して質問をいたします。
 保育所の最低基準の中に、耐火上の基準という防災上の基準が定められております。東日本大震災を踏まえて、今、この安全基準が問われております。
 厚生労働省、小林大臣政務官にお尋ねをいたします。二階建ての建築物の場合に、避難路の確保について建築基準法上の最低基準と保育所の最低基準に違いがあると承知をしておりますが、どのような違いがあるでしょうか。

○小林大臣政務官 建築基準法においては、二階建ての建物の場合、五十平米以上の保育所には地上に通じる直通階段が二カ所あればよい、このように規定されております。仮に五十平米以下の保育所があれば一カ所、直通階段については材質等の仕様は問われない、これが建築基準法でございます。
 一方、児童福祉施設最低基準においては、二階建ての保育所の場合、その面積によらず、常用する階段のほかに、一つは耐火構造であること、二つ目が壁面が不燃材料でつくられていること、三つとしては採光窓または予備電源を有する照明設備を備えるなどの要件を満たした避難階段または屋外避難階段を設けること、このようにされております。

○塩川委員 今御答弁がありましたように、避難経路についても、建築基準法上の規定よりも、より経路を確保するということが措置をされる、あるいは耐火構造や不燃構造にする、こういう措置になっているわけであります。
 重ねてお尋ねしますが、なぜこういう違いがあるのか、その点についてお答えください。

○小林大臣政務官 保育所につきましては、乳幼児は単独避難が困難でございます。職員の介助、誘導が不可欠である、そして、通所施設ではありますけれども、昼寝をしている時間帯がある、こういうことの特性を考慮して、二階以上に保育室等を設ける場合の耐火基準に関して、児童福祉施設最低基準において、建築基準法の規定に上乗せして規定をしているということでございます。

○塩川委員 ゼロ歳、一歳、乳児や幼児の場合について避難が困難だということはだれにもわかることだと思いますし、昼寝の時間もあって、そういう際にいち早く避難ができるという措置を行う上でも、一般の建築基準法上の基準に上乗せをして保育所の最低基準を設けているという話であります。そういう点でも、複数の避難経路を確保するということは当然、最低限の措置であります。
 その点で、今回の法案では、保育所の防災の基準について、条例委任をした上で、参酌すべき基準としております。国の基準は参考にすればよいということになります。安全基準を引き上げることもできるかもしれませんが、現行の保育所最低基準を引き下げることも可能となります。
 現行でも上乗せは当然できるわけですから、結局、今回の法改正は、安全を守る基準を引き下げることを可能とする法改正になるだけじゃありませんか。厚生労働省としてお答えください。

○小林大臣政務官 保育所については、その施設の運営の基準を適切に定めることなどによって、子供の健やかな育ちを保障することが重要である、このことが第一義でございます。
 現在御審議いただいている今回の法案において、参酌すべき基準と考えています避難階段等の基準についても、各自治体において、子供の安全、安心が守られるよう適切な基準を定めていただくことになり、引き続き保育の質が確保されるように適切な措置を講じていただきたい、このように考えているところでございます。

○塩川委員 措置を講じていただきたいというお願いベースの話ではなくて、こういう安全基準というのは地域によって差があっていいものではない。そういう意味でも、そういう点での差が生まれないような国のナショナルミニマム保障としての基準を設けるということが厳しく問われている問題であります。
 今回の東日本大震災のとき、保育所の避難はどうだったか。
 これは四月三日付の東京新聞が報道しております。「園児背負い三十人救う 岩手・大槌町 保育士ら、急斜面駆け」という見出しの記事であります。
 東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県大槌町の大槌保育園。園舎も避難場所も津波に襲われたが、必死の避難で園児を守った。
 八木沢弓美子園長によると、地震発生時は昼寝が終わったばかり。園児はパジャマのまま防災ずきんをかぶり外に。向かったのは国道沿いの小高い丘にあるコンビニ。町の指定避難所は空き地で寒さをしのぐ建物がない。保育園は、津波浸水想定区域のぎりぎり外にあるこのコンビニを独自の避難場所と決めていた。
 コンビニに着いて外を見ると、家の屋根をたくさん浮かべた高い波が迫ってきた。怖い、怖いと泣きじゃくる園児ら。覚悟を決めた。山に逃げよう。みんな、先生のそばにいれば大丈夫。
 国道は市街地から逃げる人や車で大渋滞。八木沢さんらは、一歳から年長まで残っていた園児三十人を散歩用の台車に載せて車道を駆け上がり約三百メートル先の山のふもとへ。
 さらに津波が迫ってきた。もう考えている暇はなかった。目の前には三十度を超えるような急斜面。でも登るしかない。八木沢さんら女性保育士二十人と男性保育士一人、さらに、近くに避難していたスーパー従業員の男女が手分けして園児をおんぶし、斜面に張りつくように四つんばいになって、切り株や木に手をかけて登り始めた。上へ上へ。
 必死だった。登りながら振り返った。大槌湾から押し寄せる波が、コンビニと園舎、指定避難所の空き地に向かう道路をのみ込んでいった。
 これが被災地における保育所の避難の実態なんですよ。まさに迫りくる津波のもとで、乳児や幼児を抱えて保育士の方々が避難をされる。そういう避難が、まさに一分一秒を争うような事態が現に起こったというのが今回の大震災であります。
 そういったときに、こういった安全についての基準、避難経路の確保について、こういう保育所の特殊性を踏まえた上乗せの基準を行っていたのを外すようなやり方をどうして認めることができるのか。
 改めて小林大臣政務官と片山大臣にお尋ねします。このような一分一秒を争うような事態が起こり得るのに、避難経路を減らすことを可能とするような法改正を行っていいのか、子供たちの命が守れるのか、このことが厳しく問われていると思いますが、それぞれお答えいただきたい。

○小林大臣政務官 先ほども述べましたけれども、各自治体において、子供の安全、安心が守られるよう適切な基準が定められるもの、このように承知しております。

○片山国務大臣 これは、今の例でいいますと、子供たちの安全というものについてだれが責任を持つのか、だれがその安全を担保するのかということでありまして、それを全国一律にすべて国が決めるというやり方なのか、それともそれぞれの地域で責任を持って決めるかという手法の違いであります。
 我が国は、そうはいっても、非常に広い国土で、地勢上も違います。環境もそれぞれの地域で違います。それから、地震とか津波なんかのリスク度も地域によって違います。そういう違いを踏まえて、それぞれの地域で責任を持って決めようということでありますから、私は、むしろ、全国一律になべて物事を律していくよりは、それぞれの地域で責任体制をつくって決めていくというやり方の方が妥当性が高いのではないかと考えております。

○塩川委員 これは、最低基準を全国一律に定めている、これを外すという仕組みなんですよ。全国一律の最低基準がまず前提にあって、それぞれの地域の実情に合わせて上乗せをすればいい。それは現行でもできるわけです。この地域のように地震、津波の被害が想定をされるような場所であれば、地震、津波を想定した上乗せの基準を自治体が行う、これは自由に現行でもできるわけですから、こういうことこそ本来行うべき話であって、最低基準を引き上げる方向での取り組みこそ国が求められているときに、最低基準を外して条例委任にするというのは逆行しているんじゃないですか。今回の事態を含めても、こういうことはあってはならないと思いますが、改めていかがですか。

○片山国務大臣 その発想ですけれども、国だけがそういうことをきちっと判定できるんだという考えではなくて、それぞれの自治体で責任を持って決める、そういう発想でもいいのではないかと私なんかは思うのであります。国が全部決めてあげなければ自治体はいいかげんなことをする、そういう考え方はこの際ぜひ改めていただきたいと思うんです。
 自治体の方がより住民の皆さんに身近な存在でありまして、子供たちの安全も、保護者により身近な存在である自治体の方が本来ならば親身に考えるはずでありますし、考えるべきであります。現状は必ずしもそうでないという認識をお持ちかもしれませんけれども、本来はそうであるべきで、ぜひ、こういう改革、改正をきっかけにして、これまで厚生労働省がずっと親身になって考えてきましたような事柄を自治体においてそれぞれの地域で責任を持って決める、そういう体制と習慣というものが身につくことの方が、長い目で見たらトータルとしての安全度合いは高まるのだろうと私は思います。

○塩川委員 それは違うと思いますね。私は、今回の事態を踏まえても、安全の基準について後退させることは認められないということを申し上げたい。全国一律の最低基準なんですよ。最低なんですよ。それに穴をあけるような仕組みというのが今回あるわけですから、それは違うでしょう。上乗せをする方向で、自治体はまさに現場をよく知っているから適切な措置をとれるということこそ信頼をすべきものであって、私は、今回の改正そのものが、この前の質疑のときにも申し上げましたように、国が地方を縛るという話ではなくて、主権者である国民が、この問題でいえば安全という立場から、国と地方にしっかりとした取り組みを行えと義務づける中身である、そういうものを後退させてはならないんだということを重ねて強く申し上げておくものであります。子供の命を守る安全基準を後退させるような仕組みをつくることは絶対に認められないと重ねて申し上げます。
 その上で、保育所の面積基準の緩和についてお尋ねをいたします。
 政府の説明によると、保育所居室の面積基準については、東京等の一部の地域に限り、待機児童解消までの一時的な措置として、合理的な理由がある範囲内で国の基準と異なる内容を定めることができるとあります。
 厚生労働省にお尋ねをいたしますが、どのような場合に国の基準と異なる内容を定めることができるんでしょうか。

○小林大臣政務官 保育所の居室面積の基準に関する特例措置は、待機児童の状況等に着目して、今後、省令事項として具体的に検討していきたいと思っています。あくまで特例措置として、一時的、地域限定的にすることを考えており、待機児童が多い地域で、かつ地価の高い地域を対象とするなど、保育所を整備するための場所の確保が困難な大都市部の待機児童解消に資する要件にしたいと考えております。
 なお、具体的な地域の指定については、さまざまな御意見があることを承知しており、この法律案の施行までの間に検討して、適切に対象地域を指定してまいりたい、このように考えております。

○塩川委員 この面積基準の緩和ということは待機児童解消が目的ですよね。そういうことであれば、当然のことながら、面積基準を引き上げる方向には働かない、面積基準を引き下げる方向にならざるを得ないということですよね。

○小林大臣政務官 先ほど答弁したとおりで、特に大都市部において待機児童の方が多い、あるいは地価が高くてなかなか保育所の建設が困難だ、こういうことなどを念頭に置いて検討していく、こういうことになります。

○塩川委員 では、もう一回聞きますけれども、待機児童解消という目的で、面積基準、一人当たりの児童の面積について広げるということはあり得るんですか。

○小林大臣政務官 先ほど言った特例措置ということの前提では、先ほど言ったような地域を想定して考えているということでございます。

○塩川委員 結局、その中に含まれているわけですけれども、待機児童解消ということになれば、面積基準を引き下げる方向にしか働かないということを認めているということになります。
 そこで、待機児童が非常に多い地域というのは、五十人以上の待機児童がいる、いわゆる保育計画を策定している百一市区町村はもちろん対象になるということでよろしいですか。

○小林大臣政務官 先ほど答弁したとおり、具体的な地域の指定についてはさまざまな御意見がございます。したがって、この法律案の施行までの間に検討して、適切に地域を指定してまいりたい、このように考えます。

○塩川委員 地価が非常に高い地域とありますけれども、これはどういう地域か。地価が非常に高いということについて、これはまさに厚労省お任せの話ですから、この場できちんと聞いておかないと。役所任せの話になりますので確認しているわけです。地価が非常に高い地域というのは具体的にどういうものを指しているんでしょうか。

○小林大臣政務官 これはさまざまなところも考えられますけれども、おおむね大都市部においてそういう傾向がある、このように承知をしております。

○塩川委員 大都市部ということに当然なる。もともと保育計画を策定している市区町村は、現段階では百一区市町村と承知をしておりますけれども、ほとんどが三大都市圏や政令指定都市という大都市部に当たるわけであります。ですから、政府のペーパーなどを見ると、東京等でこういった緩和の措置をとるということですけれども、東京だけではなくて、まさに全国展開をするということが起こり得る話で、これをいわばアリの一穴にして全国展開をされるようなことにもなりかねないという極めて重大な中身であります。
 ですから、大臣にお尋ねしますけれども、先ほども小林大臣政務官にお尋ねしたわけですが、この面積基準の緩和についていえば、待機児童解消が目的ですから、当然のことながら面積基準を、一人当たり引き上げる方向ではなく、引き下げる方向になるということに働かざるを得ないというのは明らかですよね。

○片山国務大臣 それは、現実に即して考えてみればそうだろうと思います。

○塩川委員 その点が問われているわけであります。
 今回、全国の保育・福祉関係の団体から、この法案に対し厳しい意見が多数寄せられております。
 例えば全国福祉保育労働組合からの意見としても、施設の設備や職員配置は、子供やお年寄りの発達、既得能力の維持向上などに係る保育、教育、介護、発達などの科学的知見と福祉現場からの要請によって不十分ながらも積み上げられてきたもので、各分野からの検証抜きに一括に行われるべきものではありません、実際には、諸外国と比較して、世界的に見ても最低レベルの水準だと言われているもので、関係学会や福祉現場からは改善の課題こそ提起されているものです、先日の東日本大震災でも、職員配置が少ないために避難がおくれ、多くの福祉利用者が命を落としています、地方自治体の独自性がその基準に上乗せする形で実現されるよう、十分議論を尽くし、最低基準の条例委任を再考されますよう要求します、このように出されております。
 こういう声にこたえてこそ、関係者の意見を聞き、関連委員会との連合審査を行う。参議院では、厚生労働委員会や内閣委員会との連合審査を行いました。参考人質疑も行いました。地方における公聴会、地方での参考人質疑も行いました。この衆議院の総務委員会でも審議を尽くすべきなのに、きょう、質疑終局、採決という日程は許されない、こういう法案は撤回をすべきだと改めて申し上げて、質問を終わります。