<第177通常国会 2011年06月15日 内閣委員会 14号>



○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 障害者基本法の改正案について質問をいたします。
 この法案の中身に入る前に、こういう障害者に係る立法過程において障害者の声がどのように反映をされているのか、その手続の問題について申し上げたい。
 私たち抜きに私たちのことを決めないでというのは、今回の法案などの国内法の整備を求めている障害者権利条約の基本的な精神であります。ところが、障害者基本法改正に係る今回の国会審議において、その障害当事者の方の意見を聴取する機会もない、このまま採決に至ろうとしている、このこと自身が極めて重大ではないでしょうか。また、関連の委員会、例えば厚生労働委員会とか文部科学委員会などとの連合審査を行うべきなのに、こういうことも行われないということであります。
 さらには、東日本大震災や福島原発事故といった未曾有の大災害に当たって、障害者の皆さんがどのような状況に置かれていたのか、こういう実態についてつぶさに現場で把握をし、あるいは当事者の方のお話を聞くような地方への視察、委員派遣や地方公聴会なども当然行われてしかるべきなのに、そのことも行われないまま、わずかな審議時間で質疑を終了しようというのは極めて不十分であり、法案の性格からいっても極めて問題だと言わざるを得ません。荒井委員長がいらっしゃいませんので、岡島理事が委員長代理でありますけれども。
    〔岡島委員長代理退席、委員長着席〕
 ぜひ荒井委員長に一言御発言いただきたいんですが、こういう委員会運営でいいのか。障害者の方の意見を聞く、権利条約に基づいて、私たち抜きに私たちのことを決めないでということが問われている、まさに障害者基本法の委員会審議に当たって、その障害者の方の参考人質疑も行わないような委員会運営でいいのか。こういうことについて、委員長として一言御発言をいただきたいと思います。

○荒井委員長 昨日の理事会で先生からの御指摘がございました。
 できるならば、そういう時間をとって、参考人として意見をお聞きする機会をつくれればというふうに思いましたけれども、国会会期末であるということから時間的な制約があること、それから、政府及び各政党が修正案を議論する過程で参考人から、各団体から十分意見を聴取した、そういう証言もございましたので、今回は、各党と議論をした結果、大勢が、この委員会では、きょうじゅうの審議、決定をしようということになった次第でございます。
 その件に関しては、理事会の中でも御承認いただいたというふうに理解をしてございます。

○塩川委員 私は、意見を申し上げて、承服しているわけではありません。
 その上で、障害者関連の法案の審議の際には、それぞれの委員会審議において、障害者の方の意見聴取の機会というのは設けられてきているわけであります。ましてや障害者基本法ですから、障害当事者の方の意見を聞くというのは当然行われなければならないのに、法案提出そのものは四月ですから、国会においての十分な期間もあったわけです。
 各党での御議論は御議論で結構でしょう。それぞれの各党各会派が障害者団体からお話を聞く。我が党もお話をお聞きしました。こういうことをやっていただくのと同時に、国会の場においてしっかりとした障害者の方の声を聞くということは大前提だ、このことを強く申し上げ、このような委員会運営について厳しく指摘をしておくものであります。
 その上で、あわせて、政府の対応がこの点でどうだったのかということについても一言指摘をしておきたいと思います。
 政府が障害者基本法の改正案を準備する過程も、この権利条約を踏まえた精神が貫かれていなければならないはずであります。
 政府は、障がい者制度改革推進会議を設置し、推進会議は精力的な議論を行ってまいりました。昨年六月には障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)を取りまとめ、十二月の第二十九回の会議では、障害者制度改革の推進のための二次意見を取りまとめました。二月十四日の三十回の会議では、障害者基本法改正の改正要綱のイメージが提出をされ、この三十回の会議では、二月二十八日に引き続き議論を続けるとされたわけであります。ところが、政府は、引き続き議論を行うことなく、三月十一日に本法案の原案を障がい者制度改革推進本部で了承してしまいました。
 こういう肝心な要綱が出されるときに障害者の皆さんを中心とした推進会議が意見を表明する場をつくると言っていたにもかかわらず、それすらもやらずに骨格について本部決定を行ったというあり方について、問題だと思いませんか。

○蓮舫国務大臣 お答えいたします。
 先生御指摘のように、障害当事者の声をしっかりと聞くということは、私どもも、大切であるし、重要だと考えております。
 そこで、障害当事者が過半数を占めます障がい者制度改革推進会議、三十回会議をしていただいて、それぞれの立場から、まさに闊達な御議論をいただきました。そして、昨年の十二月十七日に、同会議としての障害者基本法改正に向けた考え方を示した第二次意見を取りまとめていただきました。この意見をもとに、政府においては障害者基本法の改正作業を行ってきたところでございます。
 推進会議の意見をさらに酌み取るためにも、政府案の決定に至る前の二月十四日の推進会議を開きまして、この時点までにおける政府の、各省との調整状況も踏まえて、素案を提示させていただきました。
 結果として、三月十一日、地震があった日ではございますが、この障がい者制度改革推進本部決定よりも前に推進会議は開催はされておりませんが、既に、今述べたように、推進会議の意見を十分に聞いて改正案の検討は行ってきておりまして、改正案にも推進会議の意見を十分に反映させることができたと私どもは考えているところでございます。

○塩川委員 要するに、イメージが出されて、意見を聞いた、それを踏まえて各省との調整に入ったわけですよ。そこが問題なわけじゃないですか。各省との調整の上で出されてきた法案の要綱そのものがどんなものかということについて、やはり当事者の皆さんが聞きたいと。その要綱について推進会議の意見をしっかりと聞くことこそ必要だったんですよ。
 推進会議の皆さんからたくさんの要望が出されて、意見が出された、それが本当に法案に反映をされているのかということをしっかりとただす機会がもたらされなかったということにおいても、この政府の対応が極めて重大だということを言わざるを得ません。
 今回の基本法の対応もそうですけれども、今国会では、障害者に係る立法措置について障害当事者の声を聞かずに進められたものがほかにもあります。
 例えば、これは総務委員会にかけられた案件ですけれども、第一次地域主権改革法案などは、障害者運動の成果により厳格になった身体障害者療護施設の居室定員に関する国の基準が、この法案により、緩和された基準で定められることになりました。そのため、障害当事者の人権侵害のおそれが大きいと障害者団体から批判の声が上がっていたものであります。それなのに、この法案についても、閣議決定前に障害者の方の声を聞くことなく国会に法案が提出をされました。国会においても、総務委員会で障害当事者の意見を聞くことなく審議が進められ、可決、成立となったわけであります。
 さらには、今、第二次の地域主権改革の法案が出されていますが、ここには市町村における計画の策定について住民の意見聴取の義務規定があるものを、努力義務に変える、そういう法案の変更が行われています。障害当事者の意見について聞くという規定を、いわば努力義務、聞いても聞かなくてもいいという規定に変えるというものであり、この点でも極めて重大な中身であるにもかかわらず、この法案の閣議決定前には障害者の方の意見の聴取も行われないまま国会に提出をされている。
 重ね重ね障害当事者の声を聞かないままでの法案提出が行われてきたという点でも、極めて重大であります。こういうことはやはり繰り返してはならないということを強く申し上げたいと思います。そういう障害当事者の方の意見が十分に反映されていないということが、今回の法案の不十分さにもあらわれている。
 法案の中身でお尋ねしたいのが、今回の障害者基本法の改正では、第一条の目的規定の中に、「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有する個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため」との規定が入りました。
 この共生する社会の実現に向けて、第三条が全面的に書きかえられております。第三条では、「第一条に規定する社会の実現は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提としつつ、次に掲げる事項を旨として図られなければならない。」となっています。
 第三条は、第一条の目的を実現する上で不可欠の条項となっているわけですが、その第三条の二号の規定を見ると、「全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。」となっています。
 そこで、大臣にお尋ねしますが、共生する社会を実現する上で、地域生活についての選択の機会を「可能な限り」という形で制限、制約するような規定というのはそもそも不必要なんじゃありませんか。必要ないんじゃありませんか。

○蓮舫国務大臣 お答えいたします。
 改正案では、まさに法の目的におきまして、「全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現を掲げておりまして、第三条において、そのような社会の実現を図る上で基本となる事項を規定しております。
 御指摘いただいたこの第三条の第二号ですが、「地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。」を規定しておりますが、ここに「可能な限り」という文言を入れておるのは、例えば、障害が重度でありまして必要な設備の整った施設で適切な医療的ケアを受けなければならない者等は、必ずしも、どこで、だれと生活するかについての選択の機会が確保できない場合もあり得ることから、こうした規定をしているところでございます。御理解いただければと思います。

○塩川委員 いや、そもそも基本法ですから、選択の機会が確保されるように努めるというその方向こそ基本法で示すべきなんだ、このことがまさに問われているんじゃありませんか。「地域社会において他の人々と共生することを妨げられない」としている、住みたいところに住むという当然のことを規定しようとしたにすぎない規定であり、それなのに、「可能な限り」という規定を入れる必要があるのか、このことが厳しく問われるわけであります。
 そもそも、権利条約の十九条は、この条約の締約国は、すべての障害者が他の者と平等の機会を持って地域社会で生活する平等の権利を認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に受け入れられ、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとるとしております。
 大臣にお尋ねしますけれども、障害者権利条約には、当然のことながら、「可能な限り」という文言などはないわけです。ですから、この障害者権利条約を本当にこの日本で具現化していく、そのいわば土台となる障害者基本法に「可能な限り」という規定を入れる必要があるのか、このことが厳しく問われるわけですが、いかがですか。

○蓮舫国務大臣 御指摘の「可能な限り」においてでございますが、先ほど来、私ども、園田政務官からも御答弁をさせていただきましたが、できればすべての皆様方が、どこで、だれと生活できるか、障害を持っている、持っていないにかかわらず、分け隔てなく共生する社会を実現すること、それを私たちは障害者基本法の法理念と考えているところでございますが、現実問題として、医療的な部分でその理念において生活できない方たちもおられるということを考えて「可能な限り」という文言を入れさせていただいたことについては、ぜひ御理解をいただきたいと思っております。

○塩川委員 四月十八日の推進会議では、地域で重度の障害者の方の生活を進める実践が進んでいることが紹介されていたと承知をしております。まさに、重度の障害を持っていても、限定なく、どこに住むか、選択の機会が確保されることを宣言することによってそうした実践を促進することが権利条約に基づく障害者基本法の改正だ、そここそ問われている、このことを申し上げたい。
 障害者権利条約の規定との関係でも、地域での共生を進めている障害者や、その支援を行っている方々の実践から見ても、「可能な限り」という規定はない方がいい、これが多くの方の声であります。障害者権利条約や推進会議の二次意見をより反映した法案こそ求められているということを求め、障害者基本法の改正に当たって、障害者団体の意見がより反映される、そういう審議こそ行われるべきだったということを改めて指摘をし、時間が参りましたので、質問を終わります。