<第179臨時国会 2011年11月24日 総務委員会 5号>



○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 きょうは、人勧質疑に関連して、国家公務員給与臨時特例法案の内容について質問をいたします。
 国公法第二十八条では、「給与、勤務時間その他勤務条件に関する基礎事項は、国会により社会一般の情勢に適応するように、随時これを変更することができる。その変更に関しては、人事院においてこれを勧告することを怠つてはならない。」と規定をしています。
 勤務条件の変更に関しては人事院においてこれを勧告することを怠ってはならないとあるのは、憲法で保障されている労働基本権が制約されたことにより規定されたものであり、労働基本権制約の代償措置であります。国公労働者の勤務条件を一方的に引き下げることになる今回の給与特例法案は憲法上の疑義がある、このことを申し上げたい。
 そこで、大臣にお尋ねしますが、今回の給与特例法案は三年間にわたって給与を引き下げるものとなります。川端大臣は国会の答弁におきまして、政府として人事院勧告制度を尊重する、その基本方針は変わらない、その姿勢は変わらないと繰り返し述べておられます。そこでお聞きしますが、政府として毎年毎年の人事院勧告を尊重する、そういうお立場ということでよろしいでしょうか。

○川端国務大臣 毎年毎年出てくる人事院勧告は、その時々において、その対応について真摯に対応するという基本的姿勢は変わりございません。

○塩川委員 いや、真摯に対応するということではなくて、お聞きしたのは、毎年毎年の人事院勧告を尊重するというお立場かと聞いたんですが、お答えください。

○川端国務大臣 尊重をする立場で、その具体的対応について真摯に対応するということでございます。

○塩川委員 人事院勧告制度を尊重すると言いながら、毎年毎年の人勧を尊重するということは言っていないわけであります。毎年毎年の人勧を尊重すると言えない、ことしの人勧も尊重しない、来年の人勧も尊重すると言えないようでは、労働基本権制約の代償措置が機能していないと言わざるを得ません。
 要するに、この給与特例法案が成立を前提にすれば、七・八%引き下げになります。そうなりますと、来年の人勧はどうなるのか。七・八%下がって、それと民間の給与較差を調べた場合に、場合によっては七・八%引き上げという勧告が出るかもしれない。そういうことになれば、尊重すると言えないということを前提の答弁ということを言わざるを得ません。
 あわせてお尋ねしたいんですけれども、政府として、ことしの人勧は実施しないというのが政府の方針ということでよろしいんでしょうか。

○川端国務大臣 人勧に基づいて、それをそのまま法律として対応するということはしないということでございます。したがいまして、人事院勧告に基づいた法律改正は提出しないということを決めました。

○塩川委員 確認しますけれども、十月二十八日の閣議決定「公務員の給与改定に関する取扱いについて」におきましては、「人事院勧告を実施するための給与法改正法案は提出しないこととする。」つまり、人勧実施の具体策としての給与法改正案は提出しないということは、人勧の不実施ということですね。

○川端国務大臣 文字どおり、人事院勧告を実施するための給与法改正法案は提出しないということに尽きております。

○塩川委員 人勧を実施するための給与法改正案を出さないということですから、人事院勧告を実施しない、人勧の不実施ということであります。
 そこでお聞きしたいのが、昭和五十七年度、一九八二年度の人勧の不実施に関する全農林人勧凍結反対スト訴訟最高裁判決との関係であります。
 この判決では、「政府は、人事院勧告を尊重するという基本方針を堅持し、将来もこの方針を変更する考えはなかったものであるが、」「やむを得ない極めて異例の措置として同年度に限って人事院勧告の不実施を決定したのであって、これをもって違法不当なものとすることはできず、」と述べ、「昭和五七年度に限って行われた人事院勧告の不実施をもって直ちに、公務員の争議行為等を制約することに見合う代償措置が画餅に等しいと見られる事態が生じたということはできない」としています。
 この判決を是とする立場ではないことは断っておきますが、この判決では、人勧の不実施が昭和五十七年度に限って、つまりその年度に限って行われた場合には代償措置が画餅に等しいとは言えないとしているのであり、複数年度にわたって人勧の不実施、つまり毎年毎年の人勧を尊重しないという場合は、まさに代償措置が画餅に等しいということになるんじゃありませんか。この点についての大臣のお考えをお聞かせください。

○川端国務大臣 来年、人事院勧告がどのように出されるかは当然まだ想定できないわけでありますけれども、出されたときに、それを最大限尊重する立場で、どういう給与体系があるべきかというのを政府において判断することでございますので、現時点においてこのことを真摯に対応している状況が直ちに判決とは違って画餅に帰するものであるということは、違うのではないかというふうに思っております。

○塩川委員 この全農林人勧凍結反対ストの訴訟最高裁判決では、当時の経過を述べておりまして、内閣総理大臣は労働団体と会見をし、今回の措置は極めて異例なものであり、このような措置が繰り返されることのないよう最善の努力をする旨を述べていると。繰り返されないように。来年度以降の人事院勧告の取り扱いについては、それが政府に提出された時点で国政全般との関連において検討することとなるが、政府としては、今回のような措置が繰り返されることのないよう最善の努力をすることとしていること等を内容とする見解を表明している、このように述べて、当該年度に限って行われる臨時異例の措置だということで、代償措置が画餅に等しいということにはなっていないという判決であるわけであります。
 しかし、今回、政府が出している給与特例法案は三年間にわたって賃下げを行うというものですから、ことしの人勧も尊重しなければ、来年の人勧も尊重しない。ことしの人勧を不実施ということであれば、当然来年の人勧の不実施ということにもなりかねない。これは、この判決をもってしても憲法違反と言わざるを得ない、こういう事態ではないのか、その点についてどのようにお考えですか。

○川端国務大臣 申し上げたように、複数年度にわたって人勧を尊重しないという立場で決まっているわけでもございませんので、そういう部分でいえば、現時点においても、人勧に伴う給与改正法案は提出いたしませんでしたけれども、人勧を尊重する立場で、最大限効果としてもたらされるようなことも含めて、目的は異なりますけれども、そういう結果をもたらすということで最大限尊重した結果としてのことであります。
 来年以降も続けているという前提に立っていないこと、したがいまして、そのことにおいて、判決はその都度その都度の状況によって出されるものでありますので、このことに直ちに云々ということの議論にはなじまないというふうに思っております。

○塩川委員 いや、給与特例法案は、三年間にわたって給与引き下げを行うものでありますから、三年間にわたって人勧に基づかない勤務条件の引き下げを国公労働者に強いるものとなっている、このことが問われているわけであります。
 ですから、毎年毎年検討するということはあっても、結果として人勧が尊重されない、人勧が実施をされないということが続けば、この全農林の判決をもってしても憲法違反と言わざるを得ないというのが今回の法案の中身だ、このことを指摘せざるを得ません。来年以降についても毎年毎年の人勧を尊重すると言えない、複数年度にわたる人勧の不実施となれば、代償措置が画餅に等しいものと言わざるを得ない、このことを強く指摘しておくものであります。
 次に、人事院も指摘をしておりますが、組合と合意をしたという経緯の話ですけれども、過半の公務員の賛同を得ないで提出をしているということも指摘をしております。この点について、大臣に確認でお聞きしたいんですが、政府が交渉相手としました労働組合との間で給与減額措置についての合意というのは得られたんでしょうか。

○川端国務大臣 御案内のように、二つの労働組合があります。そこと真摯な話し合いの場を持ち、一つの組合とはこの減額の部分において合意が得られ、もう一方とは同意が得られなかったという状況でありました。

○塩川委員 国公労連とは合意をしていないということであります。
 そういう合意をしていない場合に対して、国公労働者に対する救済措置というのはあるんでしょうか。

○川端国務大臣 ございません。

○塩川委員 労働者が活用できる救済措置というのは何もない。労使間で交渉が決裂した場合に、使用者側が一方的に勤務条件を変更しようとしたときに、労働者側の対抗手段、救済措置がない。労働基本権の回復のないままでの一方的な賃金切り下げ、こういうことになっているんじゃありませんか。

○川端国務大臣 先ほども若干類似の議論がございましたけれども、最終的に、民間の場合ですと、そういう部分の救済措置というのは当然、労働組合法含めて、あるいは中労委や地労委あっせん等々の仕組みがありますが、これはございません。
 そういう中でありますが、先ほどお触れになりましたように、国家公務員法で、この法律に基づいて定める給与、勤務時間その他勤務条件に関する基礎事項は、国会により社会の一般情勢に適応するよう、随時これを変更することができる、この変更に関しては、人事院においてこれを勧告することを怠ってはならないということであります。
 そういう意味で、最終的には国会が決めるという制度の担保を持つことによって動かされているというものでありますので、労働組合との合意あるいは協議は、いわゆる法に基づく、制度に基づく交渉等とは性格を異にいたしますが、できるだけ意思疎通を十分に図りたいということでやったという前提でございますので、制度的には、その部分では国会において最終的に判断をしていただくということで政府としては対応することにしたところでございます。

○塩川委員 もともと、国会での判断云々の前提というのが人勧だったわけであります。それ自身が守られていないわけですから、その前提が崩れているわけであります。そういう点でも、憲法違反の法律を通していいのかというのが国会の意思として問われているんだ、このことを改めて申し上げておくものでありますし、国会云々とはいっても、別にそれは労働者が活用できるわけじゃありません。国公労働者が活用できる救済措置が何もないままで、いわば手足を縛るような形で一方的に使用者側の政府が賃下げを強要する、こういう法案を決して認めることができない、憲法違反の法案は国会では認めることができない、こういう意思こそ示すことだ、このことを強く申し上げておくものであります。
 次に、憲法解釈、憲法問題との関係で、十一月二十一日に参議院予算委員会で枝野大臣が答弁をしております。
 枝野大臣は、人事院勧告は憲法に保障する労働基本権の代償措置という側面を持つということで、憲法上の意味を持っている、ことしの人勧は引き下げを勧告しているが、それを超えて引き下げを政府として行うことになる、その限りにおいて労働基本権との関係で憲法上の問題が生ずると述べています。
 このように、労働基本権との関係で憲法上の問題が生ずると言っていることについて、どのような憲法上の問題が生ずるということなんでしょうか。

○川端国務大臣 答弁されたのは、人事院勧告でも引き下げを勧告しておりますが、それを超えて引き下げを政府としてお願いするということになるわけで、その限りにおいて労働基本権との関係で憲法上の問題が生じてまいりますと。
 単に、何も経過がなくて給料を下げるということにおいては、先ほどおっしゃるように、労働基本権の制約ということで、人事院勧告とセットでこういうものが担保されているということからいうと、一方的にすることには憲法上の一定の制約が生じるという議論はあるということを申されたのであります。
 しかし、その後、先ほどの判例を引用されて、客観的にやむを得ない措置等々、判決でもお触れになった状況に対応しているので、現下の状況の中でやむを得ない措置でありますので、憲法上の問題は生じないというふうに答弁している部分の引用だというふうに思います。
    〔内山委員長代理退席、委員長着席〕

○塩川委員 その後段の、憲法上の問題は生じないという点については、先ほど申し上げたような経緯として批判をしたところであります。
 要するに、ことしの人勧は引き下げの勧告でした、しかし、それを超えて引き下げを政府として行う給与特例法案を出している、これが憲法上の問題が生ずることになる、そういうことでいいわけですよね。

○川端国務大臣 前提条件も客観状況もなく給料を下げるということになると、人事院勧告にもよらずにということであれば、一般論として言えば、労働基本権の制約という部分でいえば憲法上の議論になるということを言われたんだというふうに申し上げまして、今回の場合は、そういういろいろな危機的な状況を含めて、そして中身も含めて対応するという意味では、憲法上の議論にはならないというふうに申し上げたところでございます。

○塩川委員 国公労働者にとって不利益な決定がされたときに、それを争う手だてもない中で、一方的に引き下げしか行われない。そこにおいて、そもそも労働基本権制約の代償措置が機能していないということを明らかにしたわけですから、この点が憲法違反として問われるわけで、まさにこの点こそ議論していかなければなりません。
 以上のとおり、来年以降についても毎年毎年の人勧を尊重すると言えないということでは、複数年度にわたる人勧の不実施となり、代償措置が画餅に等しいと言わざるを得ません。労使間で交渉が決裂した場合に、使用者側が一方的に勤務条件を変更しようとしたときに、労働者側の対抗手段がない。労働基本権の回復のないままでの一方的な賃金切り下げとなっている。そもそも政府側が一方的に国公労働者に不利益となる措置を行うこと自体が憲法違反であります。
 労働基本権制約の代償措置が機能することなく、国公労働者に不利益となる措置を実施しようという給与特例法案は憲法違反と言わざるを得ませんので、これはきっぱりと撤回をしていただきたい。改めて大臣の答弁を求めます。

○川端国務大臣 未曾有の震災対応と危機的な国家の財政状況の中で、人事院勧告も出されている環境ではありますけれども、国家公務員の皆さんに大変厳しい、身を切る思いをしていただくということで、ぜひともにこの法律の御審議と成立をお願い申し上げたいというのが私の基本的な立場でございます。

○塩川委員 厳しい財政事情と言われますけれども、その原因については、昨年六月の財政運営戦略でも、非効率的な公共投資と歳入確保策の欠如にあると指摘をしています。つまり、大型公共工事の無駄遣いと大企業、大資産家減税こそ問題であって、国公労働者の責任ではありません。
 そもそも、この十数年間で国家公務員の給与は約二割削減をされています。規制緩和による雇用破壊で民間の賃金が下がり、自公政権のもとでの国家公務員給与引き下げの圧力に屈した人事院の一連の措置がもたらしたものであります。その給与をさらに引き下げることは容認できない。削るべきは、米軍思いやり予算や八ツ場ダムのような無駄遣いこそ削る、このことを強く申し上げ、質問を終わります。