<第180通常国会 2012年05月18日 内閣委員会 7号>



○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 死因究明関連二法案について、最初に動議提出者にお尋ねをいたします。
 警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律案ですけれども、この概要のペーパーを見ましても、背景として、「時津風部屋力士傷害致死事件の発生 警察が病死と判断した後、遺族の要望により行政解剖を実施した結果、犯罪行為によるものを見逃していたことが明らかに。」ということが書かれているわけです。
 ただ、この法案が新設する解剖の制度の仕組みでは、遺族の要望による行政解剖の制度ということではなくて、遺族の承諾を得ることなく解剖を行う制度ということになっているわけで、この背景となっている事件と法案との関係がどういうふうに説明されるのかよくわからないんですが、その点をまずお尋ねします。

○細川委員 今御指摘があった点でありますけれども、法案の背景といたしましては、事故や犯罪の見逃しの発覚を契機といたしました国民的な関心の高まりがあった。時津風部屋の力士の件につきましては、そういういろいろな事件の一例だということで挙げさせていただいております。
 この法案につきましては、警察等が取り扱う死体のうち犯罪によらないで死亡したと認められる死体について、現在、死体を傷つけて死因やあるいは身元を調査する根拠規定というものが必ずしも十分に整備をされていないことから、この整備をするものでございます。
 御指摘のようにこの法案では遺族の承諾がなくて解剖ができるということにしておりますが、これは、死因を明らかにすることによって、その死因が災害とかあるいは事故、犯罪などによって起こるものであるという場合に再発の防止あるいは被害が拡大するのを防止する、そういうための措置を講ずることにつながりまして、遺族などの不安の緩和とか解消、そしてまた医学的な知見を集積いたしまして公衆衛生にも寄与をするものだということで、高い必要性あるいは公益性を有するものだというふうに踏まえたものでございます。
 提案者といたしましては、法案に基づいて適切な調査、検査、解剖が実施されることによりまして、事故や犯罪の見逃しが減少するということを期待いたしているものでございます。

○塩川委員 時津風部屋の事件が推進法案の背景として説明されるのはわかるわけですけれども、なぜこちらの方の、警察の死体の死因・身元の調査に関する法案の背景となっているかというのは、直接の御説明になっていないと今お聞きしました。
 それで、そもそも警察が犯罪死を見逃していたというところが問題であるわけで、そこで警察庁にお尋ねしますが、時津風部屋力士傷害致死事件について警察が当初誤って病死と判断した要因、原因は何なのか、同様の誤りを繰り返さない対策はどうしたのか、その点についてお答えください。

○舟本政府参考人 お尋ねの事件につきましては、平成十九年六月、愛知県犬山市内の稽古場におきまして力士が稽古中に倒れ、病院に搬送され、死亡した事案であると承知をしております。
 愛知県警におきまして、所轄警察官による現場の実況見分、死体の見分、関係者の事情聴取、また医師によるCT検査等の結果を総合的に勘案し、その死因を病死と結局は判断した、見誤ったということであります。
 本事案は、亡くなられた力士の御両親からの相談を受け、行政解剖の結果、外傷性ショック死と判明し、七名を検挙する傷害致死事件として立件したものでございます。
 本事案を踏まえまして、警察庁では、検視官の増員と積極的な検視官の現場臨場によるきめ細かな検視、また関係者の事情聴取の徹底、また薬物検査キットなど装備資機材の整備、活用、また解剖の積極的な検討の対策につきまして実施をし、そうした犯罪性の有無につきまして慎重に見きわめるよう努めてまいったところでございます。
 今後、引き続き同様の措置を講ずる所存でございますところを、本日御審議いただいております新法に規定する検査、解剖等の新たな措置を効果的に活用し、犯罪死見逃しの絶無を期してまいる所存でございます。

○塩川委員 警察が見誤った、警察が行うべき解剖を行わなかったことによって見逃されたもので、その反省なしには、新たな解剖の制度を設けても意味がないわけであります。
 重ねて警察庁にお尋ねしますが、警察庁の方で、犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方に関する研究会が提言を出されております。その中では、「平成十年以降に発覚した犯罪死の見逃し等事案四十三件についての警察庁の分析においても、「死因について誤った事案」を二十二件確認しており、その大半については、解剖を実施していれば犯罪死を見逃すことはなかったのではないか」というふうに指摘をしております。
 しかし、これは実際に表を見ますと、死因について誤った判断がなされたもの二十二件のうち八件というのは、薬物検査や保険金の照会が行われていれば犯罪死であることを見抜けたんではないのか、つまり、解剖する以前に行うべき捜査、薬物検査ですとか保険金照会が行われていれば犯罪死であることを見抜けたんじゃないかと思うんですが、この点はどうですか。

○舟本政府参考人 委員御指摘のとおり、犯罪死の見逃し事案を防止するためには、解剖だけではなくて、いろいろな調査、あるいは、それからさらに犯罪があると思料した場合には捜査ということを徹底しなければならないことは当然でありまして、現在、こうした反省に立ちまして、警察庁としては、都道府県警察に対しまして、保険金照会を初めとしたもろもろの調査あるいは捜査の徹底を指示しているところでございます。

○塩川委員 基本的な調査、捜査が行われていれば犯罪死を見抜けた事件でもあったわけで、警察の死因究明に関する能力そのものが問われているということも指摘をしなければなりません。
 次に、動議提出者に、この法案で規定されている検査や解剖の件について、その検査や解剖の結果について警察はどのような遺族への説明責任を果たすのかということについてお尋ねをしたいんですけれども、警察が行った検査や解剖に関する資料、データというのは、これは全て遺族の方に開示されるものなんでしょうか。

○細川委員 お答えをいたします。
 本法の第十条に規定をいたしておりますが、これには、死因を明らかにするために必要な措置がとられた取扱死体について、その身元が明らかになったときは、すなわち本法に定める死因及び身元調査が終了した段階では、速やかに遺族等にその死因その他参考となるべき事項を説明し、死体を引き渡すべきことを規定いたしております。
 死因が明らかになった場合においては、遺族がその詳細を知りたいというのは当然のことだろうと思いますので、このような遺族の感情にできるだけ配慮いたしまして、警察における運用において遺族に適切な説明が行われるものだというふうに思います。

○塩川委員 遺族の感情に配慮して適切な説明が行われるものと考えるということですけれども、このフローにもあるように、検査とか解剖、このデータというのはきちっと開示される、そういうような情報開示の規定というのはあるのか、それとも今後つくるのか、その点についてはいかがですか。

○細川委員 それは、解剖の結果について開示というような直接的な規定はございませんけれども、先ほども御説明いたしましたように、十条では、死因及び身元の調査が終わった段階で速やかに遺族等に死因その他参考となるべき事項を説明しなければならない、こういうことになっておりますから、当然、遺族の皆さんがその結果を要求されれば、開示をするものであると思います。

○塩川委員 情報開示の規定がないということなんですけれども、要するに、犯罪の場合で、あってはならないことですけれども、例えば警察がその犯罪に関与しているような場合であって、その警察が検査や解剖を担うといった場合に、その情報がきちっと遺族の方に開示をされることなしに本当の意味で遺族の尊厳というのが保障されるのか、権利利益が尊重されるのかという点だと思います。
 死因究明推進法案の二条にも、死者及びその遺族等の権利利益を踏まえて死因究明についての措置を行うことが必要だという趣旨のことが述べてありますけれども、そういう点でも、警察による検査や解剖の結果についての情報公開の規定を設ける、そういうお考えはありませんか。

○細川委員 その点につきましては、今後、この死因究明推進法の方で、二年間という時限法で、理念や基本計画、あるいはそれに伴って実施をしていくというような、そういうことを検討していくということにもなっておりますので、その際に、いろいろと先生が今言われたことについても検討をしていくということになると思います。

○塩川委員 しっかりとそういう仕組みをつくるということを求めたいと思います。
 最後に、法案に対する意見を申し述べます。
 死因究明等の推進に関する法律案については、諸外国と比較して解剖率が低いなど、貧弱な死因究明のための組織体制の強化を図ることが急務となっており、そのための総合計画の作成を政府に義務づけることでその改善が期待されるということで、賛成をいたします。
 次に、警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律案についてです。
 遺族の承諾なしに解剖を可能とするなど、警察に新たな権限を付与するものですが、犯罪死体及び変死体以外の死体の解剖には監察医による解剖制度もあり、その制度設計には議論があるところです。警察庁の研究会報告でも、遺族の承諾なしの解剖制度については、そのための専門機関として、警察庁と厚労省共管の法医学研究所を新たに設置することとしています。
 また、法案は、警察に調査、検査などの広い行政警察権限を独占的に付与している点や、遺族に対する情報開示、死因究明を行った結果や資料に対する遺族その他の利害関係人のアクセス権の問題についての論点も提示されており、必要な国民的議論が不足していると考えます。
 死因究明の総合的な施策整備を目指す死因究明等の推進に関する法律案では、死因究明を行う専門的機関の全国的整備を総合的、計画的に進める重点施策としていますが、これから総合的な計画を立てようとする中、議論が不足をしている警察の権限の整備だけを取り出して法制度化することは、全体的な計画をゆがめることにもなりかねません。
 死因究明のための解剖制度は、そのための人員体制が決定的に不足しており、増員強化が可能となるまでは、その限りあるマンパワーを効率的に活用することが求められておりますが、時津風部屋力士傷害致死事件のように、初動で警察自身が誤った判断を行い、みずから死因究明の道を閉ざす失敗をするなど、警察の死因究明に関する能力そのものが問われております。新たな制度の導入を最優先するのではなく、そうした警察の問題も検討の俎上にのせて全体の計画を作成すべきです。
 さらに、今回の法案は、警察官による死因又は死体の身元の調査等に関する法律案として警察庁によって検討されてきたものをほぼ法案化したものとなっています。国民的な議論も不十分な上、閣法として提案されるまで詰め切れていないものをあえて委員会提出の形式で行うことも疑問であり、以上の点を踏まえ、本法案には賛成できません。
 なお、全会派の合意がないもとで委員会提出として扱うことには同意できないという点も申し述べ、質問、発言を終わります。