<第180通常国会 2012年06月01日 本会議 23号>




○塩川鉄也君 私は、日本共産党を代表して、国家公務員制度改革関連法案について質問をいたします。(拍手)
 日本国憲法は、公務員を含む全ての労働者に、基本的人権として労働基本権を保障しています。ところが、憲法制定の直後、一九四八年に、公務員の争議行為の禁止を日本政府に押しつけたマッカーサー指令によって、この基本権が公務員から剥奪をされ、以来、その回復が我が国公務員制度の根本的な課題となってきました。国際的にも、ILOのたび重なる勧告によって、公務員の労働基本権制約の解消が指摘をされてきたのであります。
 今求められているのは、憲法で保障される基本的人権としての労働基本権及びILO条約などの国際基準に沿って、労働基本権の回復を図る立場に立つことであります。
 総理の基本的姿勢を伺います。
 今回の法案は、争議権を制約したまま協約締結権を付与するものです。
 協約締結の前提は労使の交渉ですが、そもそも、争議権を制約された労働者と当局の交渉は、対等な交渉とならないのではないですか。
 労使の交渉が妥結しなかった場合、法案は、中央労働委員会の仲裁裁定を規定しています。ところが、この仲裁裁定により法律や政令が必要となる事項について、政府には、法案の提案、政令の制定、改廃が義務づけられておりません。政府に実施義務がなければ、仲裁裁定としての意味がないのではありませんか。
 なぜ義務規定にしなかったのか、答弁を求めます。
 政府は、昨年、今回の法案の先取りとして、国家公務員賃下げ法案をめぐって労働組合と交渉してきましたが、一方の組合は合意をし、他方の組合は合意をしませんでした。このケースでは、仲裁裁定に従う義務が政府になければ、合意しなかった組合の争議権制約の代償はどこにあるのですか。答弁を求めます。
 次に、団結権を制約された職員についてです。
 ILOは、消防職員や刑務所職員などへの団結権の付与を再三指摘してきました。これらの職員への団結権付与はどうするつもりですか。
 警察、海上保安庁及び刑務所など、四万人に上る職員は、団結権もなく、もちろん団体交渉権もないまま、基本権制約の代償措置とされてきた人事院勧告制度も、今回の法案で廃止されます。これらの職員の労働条件は、使用者当局が一方的に決定することになるのではありませんか。
 人事院勧告制度廃止の代償措置はどこにあるのか、答弁を求めます。
 次に、認証労働組合についてです。
 法案は、一定の要件を満たした労働組合を認証労働組合とし、その認証労働組合との団体交渉について、当局が正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁止しています。
 こうした規定を置いたのはなぜですか。認証されない労働組合とは交渉しないということなのですか。
 現在、当局が交渉義務を負う労働組合は、約千六百と聞いています。これらの労働組合の交渉権は保障されるのですか。答弁を求めます。
 国家公務員が全体の奉仕者として役割を果たすためには、労働条件の改善が欠かせません。
 自公政権の総人件費削減路線は、職員と給与の削減を推し進め、サービス残業の蔓延や、官製ワーキングプアと言われる非正規職員問題を深刻にしてきたのです。ところが、民主党政権は、こうした問題にメスを入れるどころか、平均七・八%の給与削減や、公務員の新規採用の大幅削減などを、国民に消費税増税を押しつけるための身を切る改革として、強行しているのであります。
 総理、この十年間で非正規職員がどれだけ増加したか、御存じですか。総人件費二割削減として、自公政権以上に国家公務員の給与を削り、職員削減を推し進め、労働条件を引き下げることは、結局、国民への行政サービスを低下させるのではありませんか。答弁を求めます。
 次に、人事行政の公正性の確保についてです。
 新たに設置される人事公正委員会は、内閣総理大臣の所轄とされております。人事院は、内閣の所轄のもとに置かれるとともに、予算や組織などについて独自の規定を国家公務員法に規定されていましたが、こうした規定が、今回の法案では削除されております。
 こうした改正は、第三者機関としての独立性を後退させるものではありませんか。
 人事院の廃止に伴い、人事院の事務であった試験、研修、任免などの事務を使用者側の機関である公務員庁に移管することとしています。
 試験、研修、任免は、時の政府の意向によって左右されてはならないものであります。これらの事務は、公務員庁ではなく、第三者機関の事務とすべきではありませんか。
 法案は、幹部人事を一元管理するための制度の創設を盛り込んでいます。この制度は、幹部候補者の適格性を、政治家である内閣官房長官が判断するというスキームになっております。
 政治家が公正な審査を行えるのですか。答弁を求めます。
 最後に、天下りについてです。
 政官業の癒着、天下りの害悪を断ち切ることが必要です。
 その害悪が最も深刻な形であらわれたのが、福島原発事故です。歴代政権、経産省、電力業界、学者などが、原発安全神話を振りまき、原発を推進し、規制対策をおろそかにしてきたことが、重大な事故につながりました。
 私は、電力業界を監督する経産省から東電に対し、五代連続、五十年間続く天下りの実態を明らかにしました。原発推進という電力業界の要求に応えた人物が、それを手土産に、天下っていました。いまだに、電力業界には経産省からの天下り幹部が多数います。
 こうした原発をめぐる政官業の癒着構造が日本のエネルギー政策をゆがめてきたという認識が総理にありますか。この癒着をどのように断ち切るのか、答弁を求めます。
 今回の法案では、退職管理の適正化を掲げています。適正化とは、天下りそのものは容認して、天下りのあっせんを禁止するだけではありませんか。
 そもそも、民主党は、野党時代に、国家公務員の民間企業への再就職を退職後五年間禁止する法案を出していましたが、どうなったんですか。天下りあっせんではなく、天下りそのものを禁止すべきであります。
 防衛省・自衛隊の天下りについて聞きます。
 これまで、自衛隊法は、民間企業への再就職を二年間禁止していましたが、今回、この法案では、この規定を削除して、天下り解禁に道を開くものです。
 数々の腐敗事件を起こした防衛省・自衛隊は、そのため、天下りの自粛措置を現在も続けています。それを、なぜあえて解禁するのですか。
 また、あっせんなどの違法行為を監視するのは防衛省の機関となっていますが、身内でまともな監視ができるのですか。
 以上、明確な答弁を求め、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣野田佳彦君登壇〕

○内閣総理大臣(野田佳彦君) 共産党塩川議員から、十二問、御質問をいただきました。
 まず、労働基本権回復に関する認識についてのお尋ねでございました。
 公務員の労働基本権問題については、これまでもさまざまな議論がなされてきた重要な問題であると認識をしています。
 今回の法案は、非現業国家公務員に協約締結権を付与し、自律的労使関係制度を措置するものであり、ILOからの勧告も参考にしつつ、国家公務員制度改革基本法を踏まえて検討を進め、昨年六月に国会に提出しているものであります。
 十分に御審議いただき、できるだけ早く成立をさせていただきたいと考えております。
 次に、争議権を制約された職員と当局との交渉、仲裁裁定に関する実施義務についての御質問をいただきました。
 今回の法案においては、非現業国家公務員に協約締結権を付与するとともに、争議権については、新制度のもとでの団体交渉の実施状況や、制度の運用に関する国民の理解の状況を勘案して、今後検討を行うこととしております。
 法案においては、争議権制約の代償措置として、認証された労働組合は中央労働委員会に仲裁を申請できる仕組みを設けることとしており、これにより、当局と対等な団体交渉が可能と考えております。
 中央労働委員会の仲裁裁定については、厚生労働大臣のもとに置かれる機関の決定により、内閣に法案の閣議決定等の法的実施義務を課す規定を設けることは適当でないことから、法案においては、仲裁制度の趣旨に鑑み、仲裁裁定の実施について、内閣の努力義務を明文で規定しているところでございます。
 次に、仲裁裁定の効力と争議権制約の代償についてお尋ねがございました。
 自律的労使関係制度のもとでは、当局と複数の認証労働組合との間で、合意を形成して、統一的、整合的な団体協約を締結することが基本となるべきと考えております。
 しかしながら、仮に御指摘のようなケースが生じた場合にも、争議権制約の代償措置としての仲裁裁定制度の趣旨に鑑み、通常、内閣は、仲裁裁定どおりの措置を講ずることになると考えております。
 次に、警察職員等に対する団結権制限と代償措置についてのお尋ねがございました。
 警察職員等は、国民の財産生命の保護や治安維持に携わるため、厳しい服務規律が課され、上司の命令に従うことを特に要求されるため、当局との対抗関係を前提とする労働組合の結成、加入を認めることは適当でないとの理由から、法案においても、現行制度と同様、団結権を制限しているものであります。
 また、これらの職員については、最高裁判決で代償措置の一つとされている法定された勤務条件を享受することや、勤務条件について、その職務の特殊性及び協約締結権を付与される職員の勤務条件との均衡を考慮して定める旨の原則を新たに法定することなどから、必要な代償措置は確保されていると考えております。
 なお、御指摘の消防職員については、地方公務員であり、その労働基本権のあり方については、現在検討を行っているところであります。
 次に、不当労働行為の禁止についてのお尋ねがございました。
 今回の法案では、当局と認証労働組合との間の団体交渉を通じて勤務条件を決定することとしていることを踏まえ、団体協約を締結することができる認証労働組合との団体交渉の拒否を禁止しています。
 一方、認証されていない労働組合については、不当労働行為に係る規定は適用されませんが、団体交渉を行うこと自体は可能であると考えております。
 なお、現行制度において当局が交渉応諾義務を負う登録職員団体については、国家公務員の労働関係に関する法律の施行の日において経過的に認証労働組合になりますが、一定期間内に改めて認証を受けることにより、引き続き当局が交渉応諾義務を負うこととなります。
 次に、総人件費削減による行政サービス低下の懸念についてのお尋ねがございました。
 現下の厳しい財政状況や、社会保障・税一体改革で国民の皆様に御負担をお願いしていることを踏まえると、政府としては、総人件費削減のため、あらゆることに取り組まなければならないと考えております。
 そして、国民の皆様及び職員の皆様には、この国難に当たり、給与の臨時特例措置や新規採用の抑制などの措置がやむを得ない事情によるものであることを御理解していただけるものと思います。
 なお、最近十年間の非常勤職員の総数は、減少傾向にある一方、例えば、厳しい雇用情勢に迅速的確に対応するため、非常勤職員によってハローワークの相談員を増員するなどしていることから、特定の分野では非常勤職員の数が増加している場合もあるものと承知をしています。
 今後とも、総人件費削減を進めると同時に、国家公務員一人一人が持てる力を最大限発揮し、行政サービスの維持向上が図られるよう、職員の意欲の向上や組織の活性化にも十分に配慮してまいる所存であります。
 続いて、人事公正委員会の独立性についてのお尋ねがございました。
 人事院については、労働基本権の制約にあわせて、内閣の所管のもとに置かれることとなり、予算や組織に関する独自の規定が設けられることとなったものと承知をしています。
 今回の法案においては、自律的労使関係制度の措置に伴い、人事院勧告制度及び人事院を廃止して、人事給与制度全般を所掌する公務員庁を設置することとしており、国家公務員の人事行政は、公務員庁が広範に担うこととしています。
 また、人事行政の公正の確保が特に不可欠な事務については、内閣総理大臣の所轄のもとに置かれる、第三者機関たる人事公正委員会が担うこととしています。
 人事公正委員会の委員長及び委員は独立してその職権を行うこととしており、人事公正委員会における職権行使に当たっての独立性は明確に確保されていると考えます。
 続いて、試験、研修、任免などの事務の所掌についての御質問がございました。
 人材の確保、育成等に使用者が責任を負う体制を整備することが今回の改革の目的の一つであり、採用試験、研修、任免等の人事制度は、公務員庁が所掌することが適切であると考えております。
 なお、人事行政の公正の確保については、職員に関する人事行政は公正に行われなければならないことを国家公務員法に明記していること、採用試験等について、公正な実施を確保するために必要な規定を整備していることなどにより、図られると考えております。
 続いて、幹部人事一元管理についてのお尋ねがございました。
 今回の法案では、内閣官房長官が幹部職に係る標準職務遂行能力の有無を適格性審査において判定する仕組みとしていますが、この審査が公正に行われることが極めて重要と考えています。
 このため、適格性審査は公正に行うことを法律に明記した上で、その具体的実施に当たっては、必要に応じて人事公正委員会や民間有識者等の意見を聞くこととしています。
 また、内閣総理大臣及び内閣官房長官と任命権者との任免協議により、複数の視点によるチェックが働く仕組みとしており、人事の公正性を確保しつつ、官邸主導で適材適所の人事を柔軟に行える仕組みとなっていると考えております。
 続いて、今回の原子力事故とエネルギー政策についてのお尋ねがございました。
 今回の原子力事故については、地震や津波に関する想定が不十分だったことなど、これまでの原子力安全行政が十分でなかったことは認めざるを得ません。原子力に関する安全神話にとらわれていたという事実は謙虚に反省すべきであると考えており、こうした反省に立ち、現在、規制と利用の分離の観点から、新たな規制機関の設立を含めた、原子力安全行政の抜本的な見直しを進めているところであります。
 なお、天下りについては、民主党政権発足後、府省庁による天下りあっせんを全面禁止するとともに、独立行政法人の役員公募を実施するなどの取り組みを行ってきたところであります。また、今回の法案においても、新たに再就職等監視・適正化委員会を設置し、監視機能を強化することとしており、引き続き厳格に対応してまいりたいと考えております。
 続いて、天下りそのものの禁止についてのお尋ねがございました。
 公務員OBの再就職において問題なのは、OBの口きき、予算、権限を背景とした再就職の押しつけ等の不適切な行為であり、国家公務員の再就職規制の目的は、公務の公正性、効率性を害する、官民の癒着を根絶することにあります。
 こうした観点から、公務員OBの再就職自体を禁止するのではなく、先ほど申し上げたとおり、再就職等監視・適正化委員会を設置し、監視機能を強化することにより、再就職のあっせん等を禁止する現行規制を厳格に運用していくことが重要であると考えております。
 最後に、改正後の自衛隊法の再就職規制に関するお尋ねがございました。
 今般の自衛隊法の改正は、自衛隊員についても、特別職としての特殊性を十分考慮した上で、一般職に準じて退職管理の一層の適正化を図るものであります。
 再就職の規制の内容は、これまでの事前規制から行為規制に転換した上で、隊員等の違反行為に対する監視を厳格に実施し、不正な行為に関しては罰則を科すものとなっています。すなわち、事務官及び将官などに対する監視は、一般職の国家公務員と同様に、先ほど申し上げた再就職等監視・適正化委員会において厳格に実施します。
 一方、若年制自衛官、任期制自衛官などに対する監視は、防衛省に置かれる、隊員歴のない有識者から成る審議会により行われることで、その実効性が確保されるものと考えています。
 なお、民主党政権になってから、天下りあっせんは全面禁止しており、このことは自衛隊員についても同様であります。
 以上でございます。(拍手)