<第180通常国会 2012年07月27日 内閣委員会 12号>
○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
構造改革特区法改正案について質問をいたします。
最初に、具体の事例でお尋ねいたしますが、厚生労働省にお伺いします。
特別養護老人ホーム等の二階建て準耐火建築物設置事業、この特区事業としてありました特例措置の概要、要件はどのようなものだったのか、この点についてお答えください。
○西藤政府参考人 お答えいたします。
特別養護老人ホーム等の耐火基準につきましては、原則として耐火建築物とし、二階及び地階に居室等を設けない場合は準耐火建築物も可能としておりましたが、構造改革特区での要件におきましては、火災の際に利用者等が円滑に避難可能な避難経路を二階から地上に通ずるよう屋外に確保すること、避難訓練を行う際には、火災の際に利用者がこの避難経路を利用して円滑に避難できるよう適切に行うことの二点を満たせば、二階または地階に居室等を設けることができることとしておりました。
○塩川委員 二階から避難をする、そういう場合でも、特養ホームなどの入所者の方、例えば車椅子や寝たきりのような方の避難というのはなかなか難しいという際に、耐火建築物だったものを準耐火でもいいよ、必要な手だてを打っておれば可能とするという特区の中身ですけれども、この間、特別養護老人ホームや老人保健施設、グループホームなど、高齢者が入所をする福祉施設での火災事故が相次いで、消防法改正など対策が強化をされてまいりました。高齢者の入所施設の場合、要介護度が高いとか認知症を患うなどの入所者が多数で、一般に自力避難が困難な高齢入所者を避難させることは極めて難しいことであります。
この特区に関しては、かつて、総務省の行政評価局が利用低調評価というものを行っております。利用の少ないものについて総務省行政評価局として調査を行う。平成十八年度下半期実施分に関する調査でこの件について調査を行っていますが、事業者からは、準耐火建築物を選択した場合、火災等が発生したときの入所者の安全性が懸念をされるとか、建築コストや維持コストが割高となる、つまり、木造にするということになりますから、RCなどに比べて高くなるということがありますし、経営効率性等からは三階以上とするので耐火建築物にする、そういう声が上がっております。
具体的な意見でも、ある県は、寝たきりの利用者が多い特別養護老人ホーム等において火災が発生した場合、全員を避難させるには相当な時間を要することが予想される、利用者がより安全であることを考慮すると、準耐火建築物に比べてより安全性の高い耐火建築物の方が望ましいとか、ある事業者の方は、避難には施設職員の介助が不可欠であるほか、初期避難はベッドごと防火区画への避難、次いで外への避難とならざるを得ない、そのためには耐火構造であることが必要だ、こういう声が寄せられておるわけであります。
そこでお尋ねしますが、現場からの声には、高齢者入所施設での火災対応への重大な懸念の声が出されている、今紹介したとおりであります。特区のこの事例の実施件数はわずか一件であるのに、この特区事業についてことしから全国展開となったわけであります。こういった事例について、重大な安全への懸念があり、実施例もわずか一件なのに、なぜ全国展開する必要があるのか、この点についてお答えください。
○西藤政府参考人 先ほど構造改革特区においての要件を申し上げましたが、全国展開の際に、私どもといたしまして、できるかどうかということで、構造改革特区において事例としてございました施設を中心に、平成二十年度から二十二年度までの間に調査を実施させていただきましたところ、対象施設について安全性が確保されていた、一方、滑り台の使用については、車椅子などの介助を要する入居者については自主的な避難が一部困難なケースがあること、スロープの設置については敷地面積確保の必要があること、それから、夜間を想定したマニュアルの作成、夜間時の人員体制の強化、地域の消防、住民との連携が重要であることなどが報告されております。
これらを受けまして、私どもといたしましては、全国展開の際の要件といたしましては、滑り台などの避難経路の確保については必須とはしませんが、消防長または消防署長と相談した上で避難マニュアルを作成すること、日中、夜間を想定した避難訓練を行うこと、避難や消火等の協力に当たって地域住民等との連携体制の整備をすること、この三点を満たす必要があるというふうにいたしました。
そして、さらに、新たな要件を実施するに当たっては、より具体的に、施設事業者が基本設計段階において消防長等に、適切な避難活動を行えば安全の確保が可能であることを示す資料を提示すること、具体的には、最も困難な時間、状況を想定した避難時間が建物の火災時の滞在可能時間を上回らないこと、仮に上回る場合は、設備、構造等について見直しを行うことなどの点につきまして、実際に所在地の消防長との相談を適切に実施したことを確認した上で認可、指定等をするよう各自治体にお示しをしておりまして、そうしたことによって安全性が担保されるのであれば全国展開も可能であるということとしたわけであります。
○塩川委員 今お話があったのは、そもそも特区として決めた規制緩和の措置というのは、木造でつくったような場合に、二階、準耐火でもいいよと。その際に、いろいろ避難で懸念があるという声が上がったということで、滑り台とか設けますという話なんですけれども、実際に、高知である一つの実例でいえば、二階から一階に滑り台でおりるといっても、寝たきりのお年寄りをおろすというのはかえって危ない、らせんの滑り台ですから。そういうのが実証として出たわけですよね。この施設そのものは傾斜地にあるものだから、二階の部分といっても、実際にはフラットなルートで公道に出られるんですよ。そういう意味では、施設そのものについて、いわば安全対策面で重大な懸念があるということにはなっていないという状況があります。
そういうのに対して、もともとの規制緩和、二階から滑り台を設けるとかいうことを脇に置いちゃって、新たに別な基準を設けてこれを全国展開したというのが今回の事例なんですよ。こういうあり方でいいのか。そもそも規制緩和を設けた特区での規制緩和の要件そのものを変えてしまって、それを新たに一から特区でやるならまだしも全国展開をしてしまう、こういう仕組みというのが今のこの制度となっている。木造建築物でのこういう開設要望がもしあるのであれば現行の特区申請という選択肢も可能であるわけで、全国展開を急ぐ必要はないわけであります。
実際にこういった高齢者の入所施設においては、例えば、この問題を審議しました社会保障審議会の介護給付費分科会でも、委員の中では、二十四、五年前に、東京都内の特養、東村山の松寿園で火災事故があって、死傷した高齢者四十数名、以来、耐火建築物あるいは避難誘導が厳格に取り組まれてきた、構造的な問題については慎重に考えるべきとの意見が出されています。
今回のこの規制緩和も、構造基準を性能基準に切りかえるという中身となっている。その要件そのものの中身を変えてしまって、それを全国展開する。これは、二重の意味で安全対策として問題ありと言わざるを得ません。そういう点でも、なぜ全国展開ありきなのか、構造改革特区の仕組み自体に問題があるんじゃないのか。
内閣府にお尋ねしますが、評価委員会の評価の結果、全国展開した特例措置、特区で当分の間存続する特例措置及び特例措置の廃止の件数はそれぞれ幾つか、この点についてお答えください。
○稲見大臣政務官 数字でお示しをいたします。
これまで、評価の実績として、七十件の特例措置については全国展開を図るとともに、どぶろく等三件の特例措置については特区において当分の間存続をする、こういうことにしております。
なお、これまで廃止という評価をした特例措置はございません。
○塩川委員 ほとんどが全国展開という結論になっているわけです。
今、六十三の特区がありますけれども、そのうち、計画がそもそもゼロなんですよ、計画がゼロなのに廃止ということも一つもないということが実態で、結果とすると、全国展開を目指す、そういう仕組みとなっているのがこの特区法であり、その具体化の評価委員会の役割となっているということであります。
さらにお尋ねしますが、この評価委員会では、全国展開という結論が出るまで何回でも評価を行っております。原則一年間に一回評価を行うとなっていますけれども、この特区事業に対する評価委員会の評価回数が五回以上に上るような特例措置というのはどのようなものがあって、その評価回数というのは何回ぐらいか、この点についてお答えいただけますか。
○稲見大臣政務官 これまで五回以上評価の検討を行った規制の特例措置としては、公立保育所における給食の外部搬入方式の容認事業等、七件の特例措置が挙げられております。
あと、この評価の回数が多い特例措置は、一つは、特区における特例措置の活用事例、実績が少ない、こういうことにおいて、一定の活用実績を踏まえて再度評価をすることが適当、こういうふうに判断をされたものがあります。また、特例措置の一部を全国展開した上で、他の部分については再度評価をすることが適当という判断をされて評価が続いている、こういうものも挙げられております。
○塩川委員 丸めてお答えいただきましたけれども、具体の事業でいいますと、例えば学校設置会社による学校設置事業、この特区について、全国展開に向けた評価委員会の評価は八回に及んでおります。また、病院等開設会社による病院等開設事業についても五回の評価が行われております。
これは、要するに、株式会社による学校の設置、そして株式会社による医療機関の設置、このことを全国展開を求めることについて、何度も何度も何度も繰り返し作業が行われているということを示しているわけであります。
大臣にお尋ねしますけれども、例えば学校において営利企業が参入をする、こういうことについて、この間文科省は厳しい対応をされてきたんではないでしょうか。というのは、学校が設置されたけれども、営利企業であるために、もうけが上がらないとなると撤退をしてしまう、これでは学生生徒の皆さんの授業、学校生活における継続性、安定性が保障されないということについて、文科省としてはこの間対応を厳しくとってきたと承知をしております。
また、医療機関についても、営利企業が参入するということについては、アメリカのように営利企業によって行われるところでは、もうかればつくるけれども、もうからなければ撤退をするという形での医療過疎が生まれるような事態も生じている。そういう懸念の声も上がる中で、命の沙汰も金次第となるんじゃないのか、国民皆保険を損なうのではないのか、こういう重大な懸念が上がっているのが医療機関への営利企業の参入ではないでしょうか。
ですから、こういった学校や医療機関への営利企業の参入については、厳しい国民の批判があるにもかかわらず、規制緩和だけを目的に評価が繰り返されている、これは制度としても余りにも一方的で、ゆがんだものと言えるのではありませんか。
○川端国務大臣 制度の仕組みとして申し上げれば、特段の問題が生じていないと判断されたものは全国展開を速やかにする、もう一つは、地域性等が強くて、地域の活性化として意義が大きいものは特区として当分の間存続させるということで、何か、全部特区は全国展開しなければならないという方向でやっているものでないということは御理解をいただきたいというふうに思います。
今の、学校や医療においての株式会社の問題は、今議論を参議院でされています社会保障・税の一体改革での保育園の問題もありました。学校の問題も医療の問題も含めて、これはそれぞれ医療法人、学校法人あるいは社会福祉法人という、それぞれの役割を担った者と株式会社をどう考えるかというのは、幅広い議論の中でさまざまな意見がある中でありますので、何か、その方向を規制緩和ということだけで無視して進めるというふうな立場に立っているわけではございませんので、御理解いただきたいと思います。
○塩川委員 特区法そのものが、結局は全国展開を目指すということになっている仕組みであるわけです。特区法においては、所管省庁が特例措置を全国展開することによる弊害について立証できなければ、その特例措置は全国展開をされるということですから、特区の効果の実証というのはそもそも必要とされていないわけです。
結局、評価委員会が全国展開することを目的としている組織となっており、客観的な政策評価を行う第三者機関ではない。そういう点でも、全国展開ありきという構造改革特区法の仕組み自体に問題がある、このことを指摘し、質問を終わります。