国会質問

<第183通常国会 2013年05月17日 経済産業委員会 12号>




○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 消費税転嫁法案について質問をいたします。
 中小企業は消費税の価格転嫁が困難だという現状認識について、総理にまずお尋ねしたいと思います。
 資料でも配付いたしましたが、本法案の参考人質疑におきまして、日本商工会議所の大和田達郎参考人、茨城県の石岡商工会議所の会頭でございますが、配付資料でこのような中小企業の価格転嫁の状況が厳しいという声を紹介しておられました。
 これで、読み上げるのが、「取引先から消費税の転嫁が認められない事例」、つまりBツーBの関係ですね。事業者間の話ですけれども、「取引上の立場が強い取引先から、納入額の引き下げ圧力がある。(卸売業) 公共工事では見た目では五%消費税額を上乗せできるが、実態は見積もり原価をその分圧縮していることから価格転嫁ができていない。(建設業) 見積もり段階で税抜き金額で提出したが、最終的な支払い時点で見積金額を税込み金額とされた。請求書等の表面上は価格転嫁ができたように見えるが、実質的にはできていない。(製造業)」。
 こういう声を挙げて、要するに、消費税が事業者間の取引で価格が転嫁できていない、強い立場の親事業者や大手の小売業者との関係で下請中小企業、納入業者が価格転嫁が困難となっているということを紹介しておられました。
 総理にお尋ねしますが、こういった事業者間の取引において、消費税を価格転嫁できていないというのが実態であります。この点は、総理も同じ認識でしょうか。

○安倍内閣総理大臣 消費税の引き上げに際して、取引上立場の弱い中小零細企業者や下請事業者が消費税を転嫁しやすい環境を整備していくことは重要な課題であると認識をしております。
 このため、本法案では、消費税の転嫁拒否等の行為に対して、公正取引委員会だけでなく、中小企業庁や事業を所管する大臣にも調査や指導を行う権限を付与しており、政府一丸となって実効性のある強力な転嫁対策を実施してまいる所存でございます。
 また、立場の弱い中小事業者はみずから違反行為を申し出にくいという現実にも十分に配慮していかなければならないわけでございまして、大規模な書面調査を行うなど、政府の側から積極的に情報収集を行うなどにより、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保に努めてまいりたい。
 つまり、政府としては、中小零細企業の皆さん、小規模事業者の皆さんは、大変転嫁がしにくい、いわば商行為の中において弱い立場にあるということを十分に認識しながら、この法案によって、転嫁が適切に、円滑に行えるようにしていきたい、このように考えております。

○塩川委員 事業者間の取引においても転嫁がしにくい、困難な現状があるという御認識でよろしいですか。

○安倍内閣総理大臣 事業者間によって、優越的な地位にある事業者とそうでない事業者という関係において、そういうことが生じる。ですから、そういうことが生じないようにするために、この法律を今皆様にお願いしているということでございます。

○塩川委員 立場の強い事業者によって立場の弱い事業者が消費税の価格転嫁ができないという事態があるということでの御答弁がありました。
 中小四団体の実態調査でも、価格転嫁が極めて難しいという声が多数だと言っておられます。価格転嫁できない事業者はどうするのかといえば、結果として、納税をしなくちゃいけない納税義務者の事業者とすると、事業者が身銭を切って納税せざるを得ないという状況があります。これが大企業と下請中小企業の取引実態においてどのようにあらわれてくるかということについてお聞きしたいんです。
 二〇一二年十二月二十九日付の朝日新聞に、トヨタ自動車の事例が紹介されておりました。トヨタは半年ごとに下請から買う部品の価格を見直している。要求する値下げ幅は、その半年前よりも最大一・五%。しかし、超円高を背景に二〇一一年十月からは円高協力の名目でさらに一・五%の追加値下げを要求していた。つまり、通常、半年に一回のコストダウン要求があって、一・五%、一・五%といく。加えて、超円高のときには、あわせてその半年ごとに一・五%の上乗せという形でのコストダウン要請というのが行われていたということであります。
 こういうような、トヨタによる一律で一方的な単価の引き下げが重層的下請構造のもとで中小零細事業者にも押しつけられる。そういう点で、中小零細事業者にとって深刻な事態が生じている、そういう認識というのはお持ちでしょうか。

○安倍内閣総理大臣 確かに、大企業とその下請業者という関係においては、いわば大企業が納入業者に対して相当強い立場に立っているのは事実なんだろう、このように思う次第でございますが、同時に、いわば製造業においては、そうした周辺の納入業者がしっかりと高い技術水準を持って継続的、安定的に部品を納入していくということも、それはいわば企業にとっての信用につながっていくわけでございます。
 そういう中において、正しくこの消費税においても転嫁されていくということを、これは産業界全体においてしっかりと認識していただくことが大切だろうと思いますし、私も、消費税を実施する上においては、経済界、産業界にこれはしっかりとお願いしますというのは、つまりそれを、例えば納入業者にこれをのみ込んでくれというようなことはやめていただきたいということについては申し上げていきたいな、このように思っているところでございます。

○塩川委員 継続的、安定的な取引関係というのが、そういう意味では下請事業者にとってメリットがあるという側面はあると思います。同時に、やはり取引ですから、そういう下請事業者に適正なもうけが保障されているのかというところが問われてくるわけで、今回のように、超円高のときに一律のコストダウン要求に加えて円高協力金という形でのコストダウン要求が行われているということが、実態としてそういう適正な利潤を保障するものとなっているのかということになります。
 トヨタ自動車の二〇一三年三月期の連結決算が発表されました。営業利益は前年前期の三・七倍の一兆三千二百億円。うち、円安効果だけで利益は一千五百億円押し上げられたということです。為替レートの対ドルを八十三円で設定していたということですね。また、二〇一四年三月期の見通しは、営業利益一兆八千億円を見込んでいる。うち、円安効果だけで利益押し上げは四千億円に上る。為替レートの対ドルは九十円で設定をしているということですから、この先のレートによってはさらに上乗せされるのではないかという報道もあります。
 先ほどの二〇一二年十二月二十九日付の朝日報道では、円安が進んだために円高協力分の一・五%の追加引き下げを取りやめたということが報道されていますが、さらなる円安効果もあって収益を大幅に改善したトヨタですから、円安効果による利益が下請に還元されているのかということをいっても、そういう話は聞いたことがありません。
 円高のときは負担を下請に押しつけて、円安のときはその利益を下請に還元しないようなやり方、これでいいのか。これが下請取引の実態なのではないかということを言わざるを得ません。
 地元の愛知におきまして、愛知県労働組合総連合、愛労連が、二〇一二年二月に中小企業アンケートをトヨタの下請が集積している西三河地域で行いました。その中で出ている声としては、単価の切り下げは当たり前のように行われている、断ると仕事がなくなるとおどされる、この手法に問題はないのでしょうか、アンチ・トヨタにならざるを得ない、こういう声や、大手企業は下請企業の内部事情を知る必要がある、話し合いの場を設けて、特に単価の改善をしてくださいと。
 いわば協議することもなく、一方的に単価切り下げが押しつけられている実態、これは重層的下請構造ですから、二次、三次、四次、五次、六次とあるわけです。そういった中でこういう事態が生まれています。
 この間でも、三・一一の大震災でサプライチェーンの寸断、このときにコストダウン要求が行われる。タイの洪水がありました、そこでもコストダウン要求が行われる。超円高ですと、コストダウン要求が行われる。今回の消費税増税も、それもコストとみなして単価の引き下げを要請されることになるのではないかという危惧の声があり、現場では既にそういう動きがあるという話も出ています。
 稲田大臣、お尋ねしますけれども、こういうように、大震災とかタイの洪水とか円高などを口実とした単価引き下げと一体に、親事業者が消費税の転嫁を拒否するような場合に、この法案というのは有効に機能するんでしょうか。

○稲田国務大臣 まさに、今委員がるる御指摘されたような優越的な地位を濫用して、そして、買いたたきですとか減額ということがこの消費税の増税のときにも集中して起こるだろうということで本法案を策定し、御指摘のような、第一次下請、二次下請、三次下請のようなそれぞれの取引段階における各中小零細事業者が本法案の保護の対象になると考えております。

○塩川委員 実際に、現場でいえば、こういった事態が起こっている。
 この委員会での参考人質疑で、舟田参考人が、消費税の転嫁を拒否するから単価を引き下げてくれと言うはずがないわけで、そうしないと売れないからとか、いろいろな理由で仕入れ値の引き下げを下請業者に対して要請することになる、不当な買いたたきなのか自由な価格交渉なのかの判断が非常に難しいということを言っているわけです。
 もちろん、体制として強化しますという話ですけれども、しかし、三年間の臨時の職員であっても、なかなか買いたたきを見定めるというのは、技量も要るし、時間もかかるし、そういった際に、臨時職員を幾らふやしても、実際に機能し得ないのではないかということが問題となっているわけであります。
 トヨタ系列の場合は、半年に一回のコストダウン要請が行われて、実際に下請との間でやりとりが行われるということがありますけれども、私が直接愛知でお話を聞いた、これは五次、六次ぐらいに当たると思うんですけれども、縫製業の事業者の方は、つまり、自動車のシートとかのカバー、そういうものをつくっているわけですけれども、縫製でも、ストップウオッチを持った親会社が来る。何センチ縫うのに何秒かかると計測していく。車のシートは立体縫製なので縫い方も難しいが、向こうが見るのは、簡単な直線縫いでも立体縫製の部分でも、同じように縫った長さと時間しか評価しない。三カ月たってなれてくると、単価一枚四百三十円だったのが、百二十円に引き下げられる。トヨタは年二回単価引き下げ要請を行っているということですが、末端では、三カ月ごと、年四回コストダウン要請が行われることになる。
 総理にお尋ねしますが、こういったトヨタのような重層的下請構造のもとで、トップダウンのコストダウン要請が行われている現状では、下請事業者が消費税を転嫁するということが実態としても困難だと思いますけれども、総理の認識はいかがでしょうか。

○安倍内閣総理大臣 恐らく、重層的な構造であるとすると、例えば私がトヨタにお願いしますよと言っても、この重層的な構造の中においてそれは実現されないのではないかという御指摘も含まれているんだろう、このように思うわけでございます。
 まずは、我々、消費税を上げるという判断において、転嫁しやすい経済状況にしていくということも極めて重要な点でございます。いわば非常に経済の状況が悪くて、デフレがずっと続いていく中において、転嫁をしようとしてもできない中において、デフレがさらに深刻化していくという危険性があるわけでございますが、そうはならないような経済状況をまずつくっていくという中において、今委員のおっしゃった問題意識も含めて、いわば一番上にいる大企業、そしてその次、一次、二次、三次、四次、五次、こういう下請構造になっているということにも鑑み、いわば協力会全体でしっかりと転嫁が図られるように協力も要請していきたいし、そのためにこの法律をしっかりと活用していきたい、こう考えているところでございます。

○塩川委員 下請代金法というのは、三億円、一千万円と親下関係で切っていますから、こういうものでは対応できないというのが実態であります。そういう点でも、現状は、消費税の価格転嫁も困難という事態が生まれている。
 一方で、大企業の場合には、輸出戻し税という形で、輸出については消費税分について輸出事業者に返すという仕組みがある。総理が冒頭言いましたように、事業者間の取引で下請企業が消費税の価格転嫁ができないということを認められたわけで、そうなると、下請中小企業が身銭を切って払った消費税分までも大企業が還付を受けるという仕組みになってしまう、こういうのは極めて理不尽だ。
 こういった消費税そのものを中止すべきだということを私は申し上げて、時間が参りましたので終わります。