国会質問

<第183通常国会 2013年05月31日 経済産業委員会 16号>




○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 電気事業法改正案の審議に当たりまして、日本の電力供給の三分の一を担い、福島原発事故を起こしました東電のあり方が問われているわけであります。きょうは、その東電改革について質問をいたします。
 原発事故被害者への財物賠償が三月から始まりましたが、賠償額が低いなど、被害者から厳しい批判の声が上がっております。この財物賠償基準がどのような経緯でつくられたのかを確認したいと思います。
 最初に、文部科学省にお尋ねをいたします。
 原子力損害賠償紛争審査会が、中間指針第二次追補で財物価値の喪失または減少等の賠償基準を示したのが昨年三月十六日の第二十六回の会合です。その次の会合というのはいつになっているでしょうか。

○鬼澤政府参考人 お答えいたします。
 原子力損害賠償紛争審査会の開催状況についてのお尋ねでございますけれども、御指摘のとおり、平成二十四年の三月十六日に開催され、中間指針の第二次追補が決定されました第二十六回審査会の次の第二十七回審査会は、平成二十四年の八月三日に開催されてございます。

○塩川委員 間が大きくあいております。
 資料をお配りいたしました。一枚目にありますように、左側が原子力損害賠償紛争審査会の会合の経緯ですけれども、二〇一二年の三月十六日に第二十六回の会合がありまして、中間指針第二次追補としての取りまとめ、その後、八月三日に第二十七回となっています。
 その間に賠償基準について議論していたのが、お隣の枠にあります原子力損害賠償円滑化会議であります。経産省が主導しておる会議であります。
 経産省、エネ庁の方にお尋ねします。
 昨年七月二十四日に東電が財物賠償の基準を示しましたが、この東電の財物賠償の基準というのはエネ庁が一緒につくったものだと思いますが、その点いかがですか。

○高原政府参考人 経済産業省では、土地建物を含む財物の賠償基準につきまして、被害を受けられた自治体あるいは住民の方々の御意見や実情を伺いながら、それを東京電力の賠償基準に反映すべく、関係市町村などとの協議会を開催いたしました。協議会の開催の頻度につきましては、ここにお示しのとおりでございます。
 この協議を通じてできました建物の賠償基準等につきまして、例えば、公共用地の収用時と同程度の長期の耐用年数の設定でございますとか、築年数が相当程度経過した固定資産税評価額が低い建物につきまして、建築統計における福島県の直近の平均建築単価を用いることができるようにするなどといった工夫を行ったところでございます。
 これを踏まえまして、東京電力が昨年の七月二十四日に賠償基準を公表いたしました。さらに、基準公表後も、ことしの三月末まで、その詳細につきまして継続的に協議を重ねまして、幾つかの、御要望を踏まえた、可能な限りの改善を行っているというところでございます。
 以上でございます。

○塩川委員 一緒になってつくった、地方の声も聞きながら東電の賠償基準に反映したということですけれども、年表のところにありますように、円滑化会議の第五回が四月の二十三日となっています。その会合の中でも、東電からの賠償基準の考え方が出されています。
 それについて議論する際に、エネ庁の担当者の発言が議事録にも紹介してありましたけれども、そこでは、それでは東京電力から説明をお願いしたいと思いますが、あらかじめ申し上げますと、東電の方から説明をいただく案は、私どもが各市町村を回った上で、できるだけその範囲で、問題点を尽くしたいといいますか、問題点の解決に資するようにということで、一緒に相談しながらつくったものということをまずあらかじめお断りしておきたいと思いますということで、いわば東電の財物賠償基準はエネ庁と一緒につくったということの経緯がここでも示されております。
 そういう点では、本来、紛争審査会の賠償指針に対して、実際には、この審査会のやりとりというのが蚊帳の外に置かれて、エネ庁と東電の方で取りまとめられたということがこの中でも見てとれるわけであります。
 こういった東電の財物賠償の基準について、固定資産税評価額などをもとに住宅の価値減少などを支払うこれまでの賠償では、住宅が損傷しているために帰還を断念して、別な場所に住宅を再建する費用と支払われる賠償額の差額が大きく、被災者や県市町村などからは、十分な救済とは言えないとして指針見直しを求める声が強く出ているところであります。
 大臣にお尋ねします。
 東電の財物賠償基準に対して、被害者の方からは、これでは家が建てられないという批判の声が上がっております。東電と一緒に財物賠償基準をつくった経産省の責任は大変重いと思うんですが、この点についてどのように受けとめておられますか。

○茂木国務大臣 議事録のつくり方も工夫をしなければいけないというか、発言の仕方についても、単に東電任せにするわけではなくて、経済産業省としても責任を持って、東電を指導しながら賠償を加速していきたい、進めていきたい、こういうことが正しく表現できているかどうか、こういうことがまず大前提としてあると私は思っております。
 その上で、本年三月末に、東京電力によって、宅地や建物といった財物賠償の請求手続が開始されたところでありますけれども、その賠償基準については被害者の方々から、生活再建に不十分、こういう指摘もある、このように伺っております。
 今般の財物の賠償基準策定に当たっては、賠償金が被害者の方々の今後の生活再建に資するものとなるよう、国としても関係自治体とも密接に協議を重ねてきたところであります。
 特に、宅地の賠償につきましては、被害者の方に迅速な賠償を行うため、適正な取引価格とされている公示価格をもとに支払うこととしております。また、建物の賠償については、中間指針第二次追補では、同等の建物を取得できるような価格とすることに配慮する等、個別具体的な事情に応じて合理的に評価するものとされているものであります。これに従って、東京電力が実際に建物の賠償額を算定する際には、事故発生前の価値からの損失分を賠償する損害賠償の中で、できる限りの工夫を行っているところであります。
 ただ、難しいのは、個々人の方によって、同等の建物を取得できるような価格とするということに対してどう考えるかということは、それぞれあるんだと私は思います。また、どこに建てるかによっても同等の建物というのも変わってくる、こういったこともあるんだと思っておりまして、現在の賠償基準がこうした被害者の方々の実態を踏まえたものであるか改めて検討を行い、追加的な措置が必要であれば東京電力の賠償基準に反映させるなど、経済産業省としても対応してまいりたいと考えております。

○塩川委員 被害者の実情を反映していないという厳しい声がある。そういう経緯がこの間あったわけで、今後においてしっかりと対応を求めるということを改めて要請するものですが、経緯とすれば、やはり東電の賠償基準に対して、エネ庁が一緒になってつくったということについて、やはり被害者の皆さん、あるいは避難している自治体の皆さんからも厳しい声が上がっているわけであります。
 例えば日弁連の意見書などでも、そもそも加害者である東京電力が賠償基準を定めるべきではない、こういう指摘もあるわけで、これに手をかしてきた、原発推進の責任が問われる経産省についても同様の指摘もあるわけであります。
 この間、朝日新聞の連載でも、浪江町の馬場有町長の話が紹介されておりました。東電とエネ庁の対応を批判して、まるで二人組の詐欺に遭ったようだということが報道として取り上げられておりました。東電が被災者の声を聞いてくれないと思っていたところにエネ庁が出てきた、救いの神だと思ったら住民の期待に真っ向から反する提案をしてきた、エネ庁に何を言っても賠償にはちっとも反映されません。
 こういう声があるということをやはりしっかりと受けとめていくことが必要だ。つまり、信用されていないということが今厳しく問われているわけであります。そういう点でも、財物賠償を含め、被害の全面賠償や生活再建にこそ全力を挙げるべきであります。
 そういう点で、この賠償の問題についても、原賠機構法に基づくスキームのあり方も問われてまいります。東電の特別事業計画があります。政府による資金援助や原発再稼働が織り込まれている特別事業計画です。
 経産省にお尋ねしますが、この原賠機構による東電への国の資金面の支援策というのはどのようになっているんでしょうか。

○高原政府参考人 お答え申し上げます。
 平成二十三年の八月に成立をいたしました原子力損害賠償支援機構法に基づきまして、政府は原子力損害賠償支援機構、機構と言わせていただきますけれども、これまで総額で五兆円の交付国債を交付いたしております。また、本年度当初予算の予算総則におきまして、四兆円の政府保証枠を設定いたしております。

○塩川委員 交付国債五兆円、政府保証枠四兆円ということで御答弁がありました。
 資料の二枚目に、「原子力損害賠償支援機構による賠償支援の実績」ということで、スキーム図が載っております。ここにあるとおりであります。
 しかしながら、二〇一二年の十一月七日に東京電力が「再生への経営方針」を出しておりますが、そこにおいては、交付国債五兆円では足りないということを言っている。東電はこの賠償に関してどのぐらいかかるとこのときに言っているんでしょうか。確認します。

○高原政府参考人 ただいま委員が御指摘の、昨年の十一月七日でございますけれども、東京電力が発表いたしました「再生への経営方針」の中で、「被害者への賠償と高線量地域の除染費用を合計すると、原子力損害賠償支援機構法の仕組みによる交付国債の発行額五兆円を突破する可能性がある。さらに、低線量地域も含めた除染、中間貯蔵費用などについて、同程度の規模の費用が、今後、追加で必要となるとの見方もある。」と記載されておることは承知いたしております。
 これまで機構は、東京電力に対しまして約三・一兆円の資金交付の決定を行っております。五兆円の交付国債枠までには、なお一・九兆円の枠が残っているところでございます。
 いずれにいたしましても、今後とも、東京電力が賠償などを適切に実施していけるように、政府としても適切な対応を検討していくことが必要であると考えております。
 以上でございます。

○塩川委員 今読み上げていただいたところは、資料の三枚目でアンダーラインを引いたところでもあります。
 現行の交付国債五兆円に加えてさらに同規模ということですから、合計すると十兆円規模という話になってくるだろう。その下に、アンダーラインで、「一企業のみの努力では到底対応しきれない規模となる可能性が高い。」ということを述べているわけであります。
 次に、原発の再稼働の問題なんですが、特別事業計画でも、原発の再稼働の位置づけも書かれております。昨年の東電の電気料金の値上げ認可申請の際に、原発の稼働日を想定しておるわけですが、既にこの想定どおりいかなくなっている現状があると思うんです。その点を確認したいと思います。

○高原政府参考人 総合特別事業計画におきまして、柏崎刈羽原子力発電所につきまして、今後、安全、安心を確保しつつ、地元の御理解をいただくことが大前提とされております。その上で、二〇一三年四月から順次再稼働すると仮定されております。
 以上でございます。

○塩川委員 資料の四枚目に電気料金の値上げ認可申請会社の原子力発電所稼働織り込み状況の一覧を載せておきました。東京電力のところ、柏崎刈羽について、一号機が四月八日、七号機が五月十七日となっておりますが、この稼働の想定日自身がもう既に過ぎているということがこの表でも見ていただけると思います。
 原子力規制庁も、この運転再開に向けた安全審査については六カ月程度かかるとの見通しを示しているということを見ても、予定どおりにいかないだろうということが言えると思いますし、何よりも立地自治体の厳しい声があるわけであります。
 経産省にお尋ねします。
 この東電の特別事業計画そのものがもう行き詰まっている、破綻しているという現状にあると思うんですが、その点はいかがですか。

○茂木国務大臣 電気料金の値上げの申請につきましては、単に原発の再稼働だけではなくて、それぞれ、最大限の経営コストの削減努力、それは燃料調達費の引き下げであったりさまざまなものを行っていく、その総合的な中で判断されるべきものだと私は思っておりまして、いつも先生と意見が合わないのは、私は、電力料金はできるだけ安くした方がいいと思うんですね。先生は何か、これを見ると、電力料金は高くなってもしようがないんだ、こういうことをいつもおっしゃるように聞こえるんですけれども、そういった総合的な努力の中でやっていくものだ、そのように考えております。

○塩川委員 そういうふうに聞こえるならそら耳だと思いますけれども、後でまた御質問いたします。
 この特別事業計画について、実際にはもうそのとおりいかないという現状があるのは明らかであります。東電自身もそのことを認めているからこそ、資料の三枚目で紹介しました、昨年十一月七日の「再生への経営方針」でも述べているところで、この後段のところに、アンダーラインを引いたところですが、「ダイナミックな民間企業に早期に復帰する」、そのために「現行の賠償機構法の枠組みによる対応可能額を上回る巨額の財務リスクや廃炉費用の扱いについて、国による新たな支援の枠組みを早急に検討することを要請する。」ということですから、交付国債五兆円じゃもう足りません、何とかしてくださいというふうに、泣きついているというか開き直っているというか、私は思いますけれども、こういう現状にあるわけであります。
 そこで、ことしの四月の二十六日に、東電の経営陣が安倍総理を訪れました。その懇談の際には茂木大臣も同席をされていたと承知しております。その際に総理が、報道では、国が一歩前に出るという言い方をしておられましたけれども、これは何をやるということを表明されたということなんでしょうか。

○茂木国務大臣 総理が、国が一歩前に出る、こういうことを下河辺会長を初め東電の社外役員の皆さんに申し上げたわけでありますが、福島の一日も早い復興のためには、事業者任せにするのではなくて、賠償、廃炉、生活再建、こういった問題について、国もやれる分野についてはしっかり前に出て果たすべき責任を果たしていく、こういう趣旨で発言されたと理解をいたしております。
 例えば廃炉の問題について申し上げますと、国としても、廃炉に関する研究施設の整備等で、平成二十四年度の補正予算において八百五十億円を措置しております。また、二十五年度予算でも、遠隔操作ロボット開発等の研究開発のために八十七億円の措置を計上しております。
 それから、廃炉を進める上でも、汚染水の問題、そして地下水の流入の問題は大変大きな問題でありまして、昨日、汚染水処理対策委員会におきまして、地下水流入抑制策についての取りまとめが行われまして、それを受けて、私から東電の広瀬社長に対しまして、凍土方式による陸側遮水壁の早期建設、運用、そして、タンクの十分な確保に関し、緊張感とスピード感を持った取り組みを指示いたしたところであります。
 この面におきましても、特に、遮水壁の建設のフィージビリティースタディーから入るわけでありまして、こういった研究につきましても国が支援をしてまいりたいと考えております。

○塩川委員 東電が要請、要望しているような、交付国債が足りないよと言っているわけですから、そういう資金面での支援をさらに考えるのか。
 あるいは、原発の再稼働などについても、地元について、国として前面に立って万全な取り組みを進めていくということが求められる、国として地元をぜひ説得してくれというのが東電の特別事業計画にも書いてあるわけです。
 そういう点でも、さらなる資金面の支援、また、原発の再稼働について、地元に対しての働きかけを行っていく、こういうのを受けとめていくというのが、この国が前に出るという中に含まれているということですか。

○茂木国務大臣 原発の再稼働につきましては、その安全性は規制委員会において判断をすることになっております。規制委員会において安全であると判断された原発について、地元、立地自治体等関係者に対する説明等で国がさらなる役割を果たしていかなければいけない、このように考えております。
 同時に、福島の復興、これには福島第一原発の廃炉といった問題が欠かせません。この中で国がやり得る役割、これをきちんと果たしていきたい、このように考えております。

○塩川委員 柏崎刈羽原発が立地する新潟県は、事故原因が未解明であることや集中立地の問題点などを指摘もし、知事が事故の検証が先だと言っている。そういう点でも、再稼働を認めるものではないということがあります。
 そういった状況の中で、問題の根本には、国の責任を曖昧にしたままに、東電は潰さない、国費で支える、あるいは原発再稼働とか電気料金の値上げで原資を賄うというこの機構のスキームにこそ問題があるわけです。それこそ見直す必要がある。
 ですから、賠償ですとか除染とか生活再建、廃炉の費用について、電気料金の値上げとか、あるいは税金投入とか原発の再稼働で賄うのではなくて、原賠機構法の附則第六条二項には、東電の株主その他の利害関係者の負担のあり方を含め、国民負担を最小化する観点から、必要な措置を講ずるものとするとあります。
 つまり、電気料金の値上げとかじゃなくて、東電の経営責任、株主責任、そしてメガバンクの貸し手責任、これをしっかり問う、これこそ必要なんじゃないですか。

○茂木国務大臣 恐らく、機構がなかったら賠償はさらにおくれることになると思います。我々は、被災者の皆さんに対する賠償を速やかに適切に行っていく、そのために万全の対策をとっていきたい、そんなふうに思っております。
 その上で、メガバンク等々の対応でありますが、原賠機構法の附則の第三条の第二項において、この法律の施行前に生じた原子力損害に関し資金援助を機構に申し込む原子力事業者は、当該原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施のため、当該原子力事業者の株主その他の利害関係者に対し、必要な協力を求めなければならない、このようにされております。
 これを踏まえ、東京電力の総合特別事業計画では、金融機関に対して、与信の維持や約一兆円の追加与信を行うことを要請し、金融機関もこれに応じてきている、このように承知をしております。
 東京電力をめぐる現在のさまざまな状況を考えますと、通常であれば民間の金融機関が融資に応じることは困難な面もある、そういう状況である中で、こうした対応をとることで、金融機関はステークホルダーとしての一定の責任は果たしている、このように考えております。

○塩川委員 責任を果たすというのであれば、例えばJALの際にも、八割、金融機関が債権放棄をするということもあるわけで、東電のこの件について言えば、金融機関は、債権放棄どころか、社債とか借入金に対して利息をもらっているわけですよ。それが、あの事故以降だけでも、合計すると二千三百五十五億円も受け取っているわけで、そのほとんどがメガバンクであるわけです。
 結局、東電に金を貸しているメガバンクは債権放棄もしないで利息を受け取り続ける、被害者の皆さんはまともな賠償もされず家も建てられない。これはおかしいと、メガバンクに債権放棄を求めるということで、機構法の見直しそのものを行って、利害関係者に対する負担を求める東電改革が電力システム改革の出発点であるべきだということを申し上げて、質問を終わります。