国会質問

<第183通常国会 2013年06月04日 総務委員会 10号>




○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 今地方でも都市部でも医師不足が深刻な社会問題となっております。今全国で医師増員を求める取り組みが広がっております。その中で、医学部新設抑制方針の見直しを求める声も広まっております。
 首都圏の埼玉県などからも要望が出され、例えばことし三月二十七日、埼玉県議会は、医師不足の解消に不可欠な医学部新設の方針決定等を求める意見書を全会一致で採択しております。医学部新設を認可する明確な方針を速やかに決定することを要望しています。市町村議会でも同様の意見書が採択されておりますが、新藤大臣、埼玉では深刻な医師不足を背景に医学部新設を求める運動が広がっている、こういうことは御存じでしょうか。

○新藤国務大臣 所管としては、私どもにその意見書をいただいているわけではありませんが、県議会や県政においてそういう動きがあるということは私も承知をしています。

○塩川委員 埼玉県内の七十市町村のうち二十四の市町村議会で医学部新設を求める意見書が採択されていると承知しています。東日本大震災の被災県からも医学部新設要望が出され、京都や栃木、神奈川、千葉でも新設を求める動きがあると承知しております。
 そこで、医学部定員に関するこれまでの国の取り組みの経緯を文部科学省に確認したいと思います。
 一九八一年、昭和五十六年までの医学部新設の取り組みについて、まず説明していただけますでしょうか。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 医学部の新設につきましては、昭和四十八年の閣議決定がございまして、その時点では、医学部であるとか医科大学がないという県がまだ存在してございました。そういう県をなくそうという閣議決定がございました。
 それを受けまして、そういう医学部がないような県におきましては医学部の整備というのが進んできてございまして、昭和五十六年でございますが、最後には琉球大学に医学部ができたということで、四十七都道府県に全て、まあ県によっては、例えば東京のようにたくさん大学があるというところもあるんですが、全ての都道府県において医学部ができたというようなことになってございます。

○塩川委員 医科大学、医学部のない県を解消することを掲げ閣議決定が行われて、昭和五十六年までに全国に医学部が整備された。
 そこで、重ねてお尋ねですが、こういった医科大学、医学部のない県を解消する、このことを掲げた理由というのは何なんでしょうか。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 当時の状況を言いますと、人口もふえており、経済も発展しており、医療も昔に比べれば高度化していったというような状況の中で、やはりそれぞれの地域においてきちんと医師の存在というのが重要であるというふうな趣旨だと理解してございます。

○塩川委員 それぞれの地域にしっかりと医師を養成することが必要だという趣旨ということであります。
 そこで、引き続きお尋ねしますが、この医科大学、医学部のない県を解消するというのは国立大学においてという方針だと承知していますが、その点を確認したいということと、実際に医科大学、医学部のない県において国立大学によらず整備された県がどこに当たるのか、この二点についてお答えください。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 当時の方針は、別に国立大学だけに限ったところではございません。例えば、委員御出身の埼玉県は埼玉医科大学という私立でございますし、当時新設したというわけじゃないですが、岩手県なんかも岩手の医科大学は私立でございます。
 そういうことで、基本的には国立大学で有しているところも多いのは確かなんですが、国立だけでやったというような事情はございません。

○塩川委員 岩手の医科大学は昭和二十七年ですから、ない県ではありませんけれども、要するに、国立ではなくて私立大学で医学部、医科大学のない県を解消するというところがあるということでのお話でした。
 一九八一年までに全国の都道府県に医学部、医科大学が設置をされました。各都道府県の医師不足解消に当たって、その都道府県、その地域に医師の養成を図ることが必要、医学部を設置することが重要だという認識があったわけであります。
 そこで、続けてお尋ねしますが、その後、医学部定員の抑制策がとられましたが、その中身がどのようなものだったかについてお答えください。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 その後、厚生労働省におきます医師の需給推計なんかも踏まえまして、昭和五十七年でございますが、閣議決定がなされてございます。その中で政府全体の医師抑制方針というものが打ち出されたということで、その後、医学部入学定員を抑制してきたということでございます。その方針は、平成九年においても閣議決定がございますが、それでも維持されてきているというような状況でございます。
 それを受けまして、当時でございますが、そういう方針は昭和五十六年から平成十九年まで続いたわけなんでございますが、その過程におきまして、定員の数でいいますと八千二百八十名から七千六百二十五名ということで、六百五十五名の削減が行われたというようなことでございます。

○塩川委員 中身の確認ですけれども、昭和五十七年、一九八二年、行革方針がありまして、医師養成数については一〇%の削減目標、また医学部の新設はこれを認可しないということを方針として確認したと承知していますが、そのとおりでいいでしょうか。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 今委員御指摘のとおりでございます。

○塩川委員 医学部の定員を減らす、医学部の新設は認めないという方針だったわけですが、それが転換をしまして、医師の養成を図るという方針がこの間進められてきているわけです。平成二十年度から、医学部の入学定員増が図られてきております。
 その点について、なぜこれまでの医師養成の抑制政策を転換し、医学部入学定員の増加を図る方針へと転換したのか、その理由についてと、実際どのような取り組みをこの間行ってきたのか、この二点についてお答えください。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 委員御指摘のように、近年は、地域の医師不足でありますとか、地域偏在というものが指摘されるような状況になってきたということでございまして、平成十八年度に、厚生労働省の医師需給推計というものがなされました。そこらの動向も踏まえまして、平成十八年でございますが、総務省、財務省、文部科学省、厚生労働省の四大臣合意というものがございまして、その中で、やはりこういう地域の医師不足にはきちんと対応しようということで、平成二十年度より医学部定員の増加を行ってきてございます。
 その結果といたしまして、平成十九年度には七千六百二十五名だったわけなんですが、今年度におきましては、そこから千四百十六名増員を図ってきてございます。
 その過程において、増員の仕方につきましては、初年度の平成二十年度には、医師不足が深刻な十県でありますとか、医師養成数が少ない県なんかを対象に増員を行って、近年では、御案内のとおり、地域枠と称していますが、各自治体が学生に対して奨学金を出す、そのかわりその学生は卒業した後そこの県に残って医者として働くという条件で奨学金を出すというような、多少県によってばらつきはありますが、そのような地域枠を中心にいたしまして、一部は研究医枠とか歯学部の振りかえ枠なんかもございますが、基本的には、そのようになるべく高校を卒業した後に地元に残ってもらうということにインセンティブを与えるような施策と連動しながら、定員の増加を図ってきているというような状況でございます。

○塩川委員 こういった抑制方針を転換したという背景として、地域の医師不足、医師の偏在の問題がある。私に言わせれば、この間の行革方針によって社会保障抑制政策がとられて、地域医療の崩壊が社会問題となって、世論と運動に押されて医師養成の増員に踏み出さざるを得なかったということであります。
 ただ、その医師養成増員の仕組みについては課題があると考えています。
 今御答弁にもありましたように、医師不足県に対して措置をするとか、あるいはこの間の医学部の定員減をもとに戻すだかとか、あるいは地域枠の話もありました。その点、ちょっと中身で確認をしたいんですが、新医師確保総合対策では医師不足県における暫定的医師養成増についての方針を決めましたが、この医師不足県の基準というのはどうなっていたんでしょうか。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 当時、委員御指摘の点は平成二十年度の増員部分だと思いますが、そのときの医師不足が深刻な十県といいますのは、人口当たりの医師数及び面積当たりの医師数という両方の計数から見て医師が不足しておるような県として十県が選定されてございます。
 また、あわせて医師養成数が少ない二県、当時でいうと和歌山県とかでございますが、そういうところも入ってございます。
 以上でございます。

○塩川委員 つまり、医師不足県という場合に二つの要件がかかっていると。一つは人口当たりの医師数で、平成十六年の人口十万人当たり医師数が二百未満。また、面積関係の要件として百平方キロ当たり医師数が六十以上の県は除外をするということですから、対象となった医師不足県というのは、青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重、東日本の県を中心に増員が図られました。これ自身は重要なことであります。
 ただ、面積要件がありますと、人口当たりの医師数が少なくても、都市部では対象とならないということもここで生まれてくるわけであります。
 次に、緊急医師確保対策における医師養成増員の方針がどのような仕組みとなっているのかについて御説明ください。

○山野政府参考人 お答えします。
 一番初年度は、そのように一つの指標を用いて、医師が少ない県というのを特定しながらそこを重点的にとやったわけなんですが、その後は、全ての都道府県、やはりそれぞれの事情がございますので、今言いましたような自治体の奨学金とかとパッケージにしながら、必要なところにふやしていったというようなことでございます。

○塩川委員 緊急医師確保対策においては、地域における医師不足の状況に鑑み、将来の医師の養成を前倒しするとの趣旨のもと、全都道府県を対象に、最大五名まで、北海道は十五名まで上乗せすることを可能とする。つまり、実質、都道府県一律の上乗せ措置となっていたということでよろしいですね。

○山野政府参考人 お答えします。
 御指摘のとおりでございます。

○塩川委員 ですから、都道府県一律の上乗せ措置が基本となっています。
 さらに、骨太方針の二〇〇八では、過去のピーク時の医学部定員まで増員することを可能とする仕組みもつくりました。これは、医学部抑制方針も続いて、減らしてきました、だから医学部の過去のピークの定員までは戻しましょうということを可能とする仕組みを骨太でも入れたわけであります。
 これら一連の措置がとられたわけですが、その上で、厚生労働省に確認をします。
 人口十万人当たりの医師数について、都道府県ごとに見た場合に、その医師数が少ない都道府県、下から五つ挙げるとしたらどこになるでしょうか。

○高島政府参考人 お答えいたします。
 医療施設に従事する人口十万対医師数、これは全国平均で今二百十九人でございますが、少ない県でございます、下から、埼玉県が百四十二・六と、最も少なくなっております。その次が茨城県百五十八人、千葉県、新潟県、岩手県、これが少ない五県でございます。

○塩川委員 全国平均二百十九人に対し、最も少ないのが埼玉、次が茨城、その次が千葉ということで、下から三つ、ワーストスリーが首都近郊の三県になっております。つまり、首都近郊を中心に、東日本で人口当たりの医師数が少ない傾向にある。
 文部科学省にお尋ねしますが、都道府県単位で見た場合に、人口当たりの医学部定員数を見ると、人口当たりの医学部の定員が少ない県というのは下から五つ挙げるとどこに当たるでしょうか。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 医学部の定員ということを考える場合には、実際上は、その県だけでなくて、近隣県の状況とかいろいろ考える必要があろうかと思いますが、非常に単純に各県の人口当たりの医学部定員数、入学定員数を下から言いますと、順番に、埼玉県、千葉県、静岡県、茨城県、兵庫県の順になってございます。

○塩川委員 首都近郊など、都市部において人口当たりの医学部の定員が少ない、医師養成数が少ないということが見てとれるわけであります。
 医師不足県への増員策といいながら、面積当たりの医師数という要件をかけているために、都市部が対象外となっていた。また、都道府県一律の上乗せ措置を加えても、そもそも人口の多い埼玉や千葉、茨城などにおける医師養成のおくれを打開することができない。つまり、この間の国の医学部定員増加策では対応できない問題があるのではないのか。
 一九八二年の行革方針を受けて、医師養成数の削減とともに、医学部新設を認可してこなかった。医師養成数は増員措置をとることにしたが、医学部新設抑制方針は変更していないわけであります。
 そこで、文科省にお尋ねしますが、今までの医学部定員の増加策では、医師数の少ない県において医学部定員が小さいという状況が変わらないもとでは、このような首都近郊での医師養成のおくれに対応できないんじゃないのか、このように考えますが、いかがですか。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 恐らく、そういう医学部の入学定員をどうするかという問題につきましては、やはり複層的な要素を加味する必要があろうかと思います。
 埼玉県であるとか千葉県と言いましたが、近隣の東京にはたくさんの医学部がございます。そういうことも加味しながら対応するし、例えば、埼玉県であっても、埼玉医科大学も、最近では、地域枠なんかを活用しまして、たしか二十一名ぐらいの定員増を図っているところでございます。そういうことを、単純に形式的に人数がどうというのも、もちろんそれがまず重要なんでございますが、やはりいろいろな要素を加味しながら、どうやって地域の医師不足とか地域偏在というものをなくしていくかということを総合的に考える必要があろうかと考えてございます。

○塩川委員 東京に医学部が集中しているといっても、別に東京の医学部に埼玉の医師枠なんてあるわけじゃないですから。
 そういう点でいっても、もともと医学部が限られている、人口がふえる都市部においては、決まった医学部の定員の枠内で増員策を、幾ら都道府県一律の上乗せ策をやっても、実際、首都近郊などにおける、都市部における医師不足の解消につながるような増員策を図れないのではないのか、これがやはり大もとにあるわけであります。
 ですから、医学部の定員については削減を改めて増員としたわけですから、医学部の新設を抑制する方針もぜひとも改めるべきだと考えますが、この点について、文科省はいかがですか。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 今るる議論がありますように、地域の医師確保につきましては、まず医師の養成数の増加というものに加えまして、最近では、それに合わせて、地域枠なんかも踏まえながらでございますが、偏在解消のためのいろいろな取り組みとか、あと、卒業した後の研修医制度のあり方をどうやって見直していくか、定着するようにしていくかとか、例えばでございますが、今の医学部の学生の三分の一は女性でございますから、そういう女性の医師になる人がいかに定着していけるかというような施策も含めて、いろいろな物事をパッケージで、総合的に考えていく必要があろうかと思います。
 ちなみに、御指摘ありましたような医学部の新設につきましてでございますが、委員御指摘のように、やはり中長期的な医師確保策として医学部をつくるべきだ、そういう強い意見もございます。
 その一方で、長期的には、少子化であるとか人口が減ってくるわけですから、やはり医師数が過剰になっていくんじゃないかというようなこと、そういう場合に調整ができないんじゃないかというような懸念があるとか、医学部新設に合わせまして、今医学部では教育に合わせて附属病院なんかも設置する必要がございますが、それに合わせて実際上、医療現場から医師を引き抜いてつくっていく、そういうことで地域医療を壊すんじゃないかというような議論もございます。
 そのような両論が、まさにそれぞれ両論ともかなり強い意見としてあるわけでございまして、そういう意見も踏まえながら、今私が言いましたように、医学部の定員をどうするか、新設をどうするかという問題につきましては、例えば、我が国が高齢化が進んでいくとか人口が減っていく、そういう中で今後の医療体制をどうするかとか、社会保障体制をどうするか、そういう大きな議論も踏まえながら、やはり総合的に、文科省だけじゃなくて、厚労省などとも連携しながら対応していかなければならないと考えてございます。

○塩川委員 首都近郊の各県などは、急速な高齢化という問題も実際に生じてくる、そういう点での必要な医師の確保の問題も出てくるわけで、私は、改めて、医学部をつくると医師教員が必要だとかという議論なんかもあるわけですけれども、そもそも、日本の医師数というのが国際的に見ても少ないんだという現状認識から出発する必要があるんじゃないのか。
 例えば、OECDの調査などを見ても、国際比較で、OECDの人口千人当たりの臨床医師数を見ると、平均が三・一に対し、日本が二・二。OECD加盟国の平均よりも十四万人も少ないという現状があります。
 こういった点を踏まえて、しっかりとした増員策を大きく打ち出していく、医師養成を拡大すると同時に必要な場所に医学部の新設を認める、こういう方向にこそ、今改めて踏み出していくときだと思っています。
 この点で、文科省、もう少し工夫の余地があるんじゃないのかと思うんですけれども、どうですか。

○山野政府参考人 お答えいたします。
 委員御指摘の点を排除するとかというんじゃなくて、そういうことも含めて、今の地域の医師不足であるとか、今後の我が国の医療体制を、高齢化が進むとかそういう中でどうやって対応するかということの中で、委員御指摘の点も含めてパッケージで、本当にどういう施策がいいかということを検討していきたいというふうに考えてございます。

○塩川委員 医師養成の増員策を図る最初の四大臣合意の当事者の一人が総務大臣であります。新藤大臣にお尋ねしますが、やはりこういった医師養成に当たって、医師不足の県において、しかるべく医学部の新設を求める、そういう地方の要望に対して、真摯に国として受けとめていく、しかるべく対応を行っていく、このことが求められていると思いますが、この点についての大臣のお考えをお聞かせください。

○新藤国務大臣 医学部の設置に関しましては私の所管ではありませんが、しかし、そもそも、委員も私も住んでいる地域でもありますし、それぞれの地域において医師不足というものは解消をしていかなくてはならない、安心の医療体制を構築するというのは日本全体の課題である、このように思っています。
 そして、そういったことを含めて、地域の実情等も踏まえたそういうきめ細やかな対応、これは政府としてやっていくべきであるというふうに思っておりますし、政府内においてそういったことを働きかけをしてまいりたい、このように思います。

○塩川委員 医師不足の根本原因というのが、医者がふえると医療費が膨張する、こういう理屈のもとで医師抑制を図ってきた歴代政権の責任は極めて重大だと言わざるを得ません。抜本的な医師養成、そして医学部の新設、これを可能とするような国の支援策を強く求めて、質問を終わります。