国会質問

<第185臨時国会 2013年11月12日 経済産業委員会 5号>




○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 参考人の皆さんには、貴重な御意見をいただきありがとうございます。
 きょうは、私は、労働規制の緩和問題を中心に、佐々木参考人と神津参考人にお伺いをしたいと思っております。
 日本経団連の提言の中でも、労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制というのが挙げられております。それを拝見しますと、労働規制の見直しについても一気に実施する必要がある、正社員に対する使用者の雇用保障責任が諸外国と比較して厳しいとされる、このように述べておられます。
 政府は、日本経済のゆがみの一つとして過剰規制ということを挙げておられますが、佐々木参考人は、日本の労働者保護ルールは過剰規制だとお考えなのか、その点をお聞きしたい。あわせて、神津参考人にも、日本の労働者保護ルールが過剰規制なのか、この点についてお考えをお聞かせください。

○佐々木参考人 言葉の話の中での過剰という言葉と、実際の運用の中での労働の流動性というお話では、若干その趣が違うというふうに認識してございます。
 リーマン・ショック直後でも、先ほどお話をしましたように、日本の場合は五・一%ぐらいまでしか実は失業率が上がってこない。それはやはり、日本の労働法制もありますし、もう一つは、日本の企業の特質として社員を大事にしていく、こういった二つの特性から出てきているというふうに認識をしてございます。
 そういったものが若干いろいろな競争力には影響しておりまして、非常に大きな日本の企業は、エレクトロニクスでも自動車でもいいんですけれども、やはり利益率を諸外国の同等の企業と比べたときに差がついている、そういうことも、過剰にとは言わないんですけれども、自分たちが抱えている労働力そのものを大事にした上で、社内にキープしていくことも含めて、一つの原因になっているというふうに思います。
 では、そのときに法制を変えてどうするかという話、これが非常に難しいところでございまして、労働市場そのものが固定化しているままで実際のグローバルな競争の中にさらされますと当然競争力に差がついてくるわけでして、そこのところで、ある程度、実際のビジネスそのものの新陳代謝に合わせた形で、労働移動が失業なくうまくできる仕組みがあれば、我々自身はそれを補完するような法制をぜひ立案していただきたいと思います。
 それには、一時的な状況もありますので、例えば政府がセーフティーネットを構築するとか、やはり流動に対して、受け入れた相手方に対していろいろな補助をするとか、いろいろな仕組みがあるというふうに思っております。
 そういった全体の施策を含めて、労働法制そのもののフレキシブル化のようなものはぜひやっていきたいということが経団連の趣旨でございます。

○神津参考人 雇用に関する規制、諸外国との比較ということでありますけれども、私ども連合として、さまざまな海外の国の制度を把握しておりますけれども、特にヨーロッパの諸国と比べて日本の解雇にかかわるところの規制が厳しいという認識は全く持っておりません。むしろ、ドイツなどに例をとると、よほど日本よりそこについての規制は厳しいというふうに認識をしています。
 そういう意味では、同じく海外のマーケットに向けて製造業を中心に展開しているような、加工貿易立国的な共通点というのは多々あると思うんですが、もう御案内のように、ドイツ経済はヨーロッパの中でも比較的堅調さを保っているということを含めていえば、我が国が過剰規制であるということは全く当を得ていないというふうに私どもは認識をしております。
 それと、例えば北欧において解雇規制は比較的緩い、そういう認識はあります。ただ一方で、雇用について、働く者の立場からのセーフティーネットということの観点でいえば、これは全く日本とは比較にならないほどしっかりとしているというふうに認識をしています。
 そういう意味では、やはりリーマン・ショック直後にああいう年越し派遣村というような状況が出来したわけでありまして、そういったことについて本当に我が国の法制面できちんと手当てがなされているのかということ、大いにそこは改善すべきではないのかというふうにむしろ思うところであります。

○塩川委員 ありがとうございます。
 続けて、佐々木参考人と神津参考人にお尋ねします。
 今回の法案の企業実証特例制度の問題であります。
 先日の質疑におきましても、茂木大臣は、この企業実証特例制度について、労働規制緩和提案も排除されないと答弁をしておられます。
 スキームとして、企業みずからが安全性等を確保する措置を講じることを前提にということを掲げておりますけれども、経団連の会員企業などにおきまして、企業実証特例制度を労働規制緩和を求めるツールとして使うということはあるのかどうか、この点についてお考えをお聞かせください。

○佐々木参考人 今、法案を実際に審議している最中に、経団連の会員企業が、この時点で、それを労働法制のいわゆる特例として採用するかどうかについての検討をしていることはございません。
 ただし、茂木大臣がおっしゃるとおりに、可能性としてそういう使われ方をするということに関しては、やはり我々としては、労働法制に関するフレキシビリティーの追加というような形と捉えております。
 これは、今お話にありましたように、安全性の実証というものに対して、労働に対する安全というものを何と捉えるかということはもちろん定義として非常に難しいところはあると思いますが、これをちゃんとしっかり規制所管の大臣に説明ができて、なおかつセーフティーネットが確保されるというふうなことも含めて認可されることがあれば、可能性としては、ないということはないというふうに認識しております。
 今の時点では、ちょっと時期尚早の議論というふうに考えております。

○塩川委員 ありがとうございます。
 神津参考人に同じ問いです。
 今お話ししましたように、茂木大臣としては、労働規制緩和というのも排除されないという話があります。そういう点で、私は、フレキシビリティーのお話もございましたが、やはり労働法制の最低基準の問題ですから、そういった形で、企業実証特例制度のように、企業単位での労働規制の緩和ということがあっていいのかと率直に思います。
 参考人の御意見をお聞かせください。

○神津参考人 冒頭の意見の中でもお話を申し上げたんですが、基本的に労働者保護ルールにかかわるところの問題であります。やはり、全ての国民にひとしく適用されるべき生存権的基本権であるということの中で、法のもとの平等の観点から、そういった形で、雇用の問題、労働者保護ルールにかかわるところについて、これを取り上げることについては私どもとしては認められるべきものではないというふうに考えます。
 また、これも前段で申し上げたんですが、基本的に経済的な規制とそこは峻別されるべきだというふうに思っておりまして、それとこれとを混同した議論が進められると、肝心なところの経済的規制の緩和、前向きな内容も逆に滞ってしまうのではないのかな、こういった懸念を持つところであります。
 以上です。

○塩川委員 ありがとうございます。
 続けて神津参考人にお尋ねします。
 今回の法案は、産活法の主要な部分を取り込んでいるものであります。事業再編を大きな柱とする産活法におきましては、雇用についてもさまざまな影響が出たと私たちは承知しております。冒頭の意見陳述の中でも、雇用の安定を盛り込むべきではないのかというお話もございました。
 一九九九年から始まった産活法におきます事業再編の総括として、雇用の安定というのが図られたものだったのか。産活法についてのお考えをお聞かせください。

○神津参考人 実際に適用された事例においてさまざまなケースがあると思いますので、私は今この場で、全てを把握しているわけではありませんから、そこについては一概に言えるということではないのかなというふうに思います。
 ただ、間違いなく言えるのは、やはり基本的に良好な労使関係を持って、そこでしっかりとした話し合いが行われて、働く者の立場で納得のいくような形での転換が図られているケースであれば、その法の趣旨ということについては、基本的に、円滑な形での経済の活性化なり、産業構造のあるべき形での進捗ということに資しているということはあったのかなと思います。
 私はやはり、労使関係においてきちっと納得のいく形を追求する、そういう形こそが重要なんだと思います。
 私どもの事務局の中でもこの問題についていろいろ議論、検討しておるんですが、スピードが求められる経営ということで、それはトータルで考えるべきだと思います。たとえ労使関係の中でこの問題についてどういうふうに最終的な解を見出すかということで時間がかかったとしても、しかしながら、そのことはトータルで、実行面でスピードアップが図られるわけでありますから、やはりそういった観点を織り込んで捉えられるべきではないのかな、こういったふうに考えるところであります。

○塩川委員 ありがとうございます。
 残りの時間で、佐々木参考人にインフラ輸出戦略、原発輸出の問題についてお尋ねをいたします。
 佐々木参考人は、経済財政諮問会議の議員でもございますし、また産構審のインフラ・システム輸出部会の委員でもございます。
 政府が、日本再興戦略、今回の法案のベースの戦略においても、三つのプランの一つとして国際展開戦略を挙げ、海外市場の獲得としてインフラ輸出、その中には原発も挙げているわけであります。二〇一〇年十兆円を二〇二〇年に三十兆円、その中で、原発の占める割合が二〇一〇年〇・三兆円に対して二〇二〇年に二兆円という規模になっているわけです。
 お尋ねしたいのは、政府として、総理、閣僚による強力なトップセールスを実施すると言っている、この政府方針についてはどのように評価しておられますか。

○佐々木参考人 原発に限らず、国際的なビジネスの中では、トップセールスが非常に重要な地位を占めているということは否定できないというふうに認識してございます。
 その中で、原子力を取り上げてトップがやるのはいかがなものかというようなお話だとすると、原子力そのものは、三月十一日の東日本大震災も含めていろいろな経験の中で、我々はこれから安全性も確保しながら事業を推進していくというポジションにあります。
 やはり、今いろいろと海外に輸出するに当たっては、我々自身の安全に対する基準というのは、世界標準、例えばNRCですとか、あとはヨーロッパの規格ですとかIAEAですとか、そういったものも含めて、世界標準の安全性を確保した上で確実に輸出していく。
 そのときに、輸出すること自身が一つのビジネスではありますけれども、本来は、輸出したビジネスによって得られたお金で、しっかり例えば経常収支の黒字なりなんなりを確保していかない限り日本の今の財政状態というのは守れない、そういうふうに認識してございます。
 今、原発がとまっていることによって貿易収支が赤字になっていますね。だから、ああいうような三・六兆円もの火力たき増しをしなきゃいけない、こういうような状況の中で本当に、貿易収支の改善、さらには経常収支を確実に黒字をキープしていく、そういった日本の方針も含めて、トップセールスという意味での国際展開の拡大というのが必要だというふうに認識しております。ただし、それが原発だということではなくて、原発もワン・オブ・ゼムである、そういうふうに認識をしてございます。

○塩川委員 福島第一原発事故のお話が今ございました。
 一号機プラントの主契約者はGEですけれども、圧力容器の供給者は東芝でございます。また、二号機のプラントの主契約者はGEと東芝、三号機の主契約者は東芝ということで、炉心溶融の事故を起こした三つの原子炉について、製造者としてかかわっているのは東芝で、佐々木参考人自身は、東芝でまさに原子力部門の中心として仕事をされてこられた方と承知しております。
 今の原発の状況はどうなっているのか、炉心の状況はどうなっているのか、プラントメーカーとして炉心の状況の把握についてどのようにお考えか、今の時点で事故原因が究明されたと言えるのか。この点についてお考えをお聞かせいただけますか。

○佐々木参考人 実際に炉心溶融が起きたときの、溶融した炉心そのものの現状については、まだ実際に見ているわけではないので、確実にこうであるということは言いにくい部分がございますが、実際の解析ですとか、核分裂、それによる発熱も含めて、いろいろな評価をしたときにこうなっているであろうということ、それから、現実の冷温停止の状態でいろいろ温度をモニタリングしていますが、そういった外的な状況の中で、安定的に冷温停止ができているというふうに認識をしてございます。
 これからいろいろ廃炉の作業その他に入るわけですけれども、その前に状況をどういうふうに確認していくかということについて、今、技術開発をロスアラモスと一緒にやっています。宇宙線にミューオンという粒子があるんですが、ああいうものを利用して、炉全体を透過してしまうんですけれども、溶融した炉心がどうなっているかを見る。いわゆるレントゲンのようなものですけれども、それを宇宙線規模でやるような開発もしておりまして、現実の炉心のところの廃炉の作業の開始前に、そういうことについては確実に技術的な開発をしていこうというふうに捉えております。

○塩川委員 炉心の状況が、実際に例えば圧力容器が損傷している、結果として水を流しても漏れていくわけですから、どこに亀裂があるかという状況も今の時点では把握できない。そういうことを含めて、事故原因が究明されたと言える段階なのか。
 その点について、改めてお聞かせいただけませんか。

○佐々木参考人 原子力発電所の場合は、確実に冷却材でずっと冷やしていかないと発熱するという特性があります。津波で電源が喪失して水が送られず、冷却が不可能になったことで炉心が溶融した、こういう形のものの大きな原因については捉えられていまして、その原因に基づく解析によって、現実にどこまで炉心が溶融しているか、そういうことについての評価をしっかりしております。
 それを後は確認するという作業が残っているわけで、その確認する作業というのはこれから廃炉の中でもやらなきゃいけないですし、廃炉の前に先ほど言ったような形での確認もしていく。こういう形で、あるプロセスをステップ・バイ・ステップ、踏みながら確実に実行していく、そういうことだと思ってございます。

○塩川委員 時間が参りました。
 参考人は、経済財政諮問会議で、安全性の確認された原発の再稼働については総合的に判断すべきと、再稼働推進の立場での議論もあります。しかし、いまだに十四万人の方々が避難生活を送っておられる。事故原因が真に究明されたとは言えないような段階で、再稼働推進あるいはまた原発の輸出というのはあるべきではない。
 日本の産業戦略のあり方がそもそも問われてくる、そういう点でも……(発言する者あり)いや、重大な問題ですから。東芝の製造者責任を含めて、きちんとした責任のあり方も明らかにする、それ自身が日本の産業戦略を進めていく上での土台となるということを申し上げて、質問を終わります。