国会質問

<第185臨時国会 2013年11月13日 経済産業委員会 6号>




○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 産業競争力強化法案の質疑に当たりまして、本会議において、私は、ファンドによる野放しの企業支配とリストラの是正を求めました。我が国における内外ファンドの摘発事件数をただしたところ、二十三件の行政処分の勧告等を行っているとの答弁でありました。
 そこで、証券取引等監視委員会にお尋ねします。
 ファンドの運用業者に対する検査等を踏まえて、二〇一二年度に二十三件の行政処分の勧告等を行っているということですが、その内容について御説明をいただけますか。
    〔渡辺(博)委員長代理退席、委員長着席〕

○太田政府参考人 お答え申し上げます。
 近年、ファンド等の販売、勧誘による個人投資家・消費者被害が拡大いたしまして、社会問題化いたしております。
 しかしながら、適格機関投資家等特例業務届け出者に対する検査におきましては、金融商品取引法上行政処分の勧告ができないということになっておりますので、証券取引等監視委員会におきましては、平成二十四年七月以降、届け出者に対する検査等の結果、重大、悪質な法令違反行為等があり、投資者保護上広く周知することが適当であると認められます事案につきまして、検査対象先の名称等を公表するということにいたしております。

○塩川委員 適格機関投資家等特例業務届け出者に対して、重大、悪質な事例について投資家等国民に広く情報提供を行うということで措置を行っているという御説明がございました。
 投資家保護の観点からも、より踏み込んだ規制が必要だと考えます。同時に、投資家保護や金融システム維持の観点からのファンド規制にとどまらず、企業の持続性の維持や、また労働者保護の観点に立った規制に踏み込むべきときだと考えます。この立場から質問いたします。
 十一月一日に、証券取引等監視委員会は、ウェッジホールディングス株式に係る偽計に対する課徴金納付命令の勧告を行いました。この勧告の内容及び法令違反の事実関係について御説明をいただけますか。

○太田政府参考人 お答え申し上げます。
 お尋ねがありました事案につきましては、十一月一日金曜日、証券取引等監視委員会から、内閣総理大臣及び金融庁長官に対しまして、ウェッジホールディングス株式に係る偽計事件として、金融商品取引法に基づく課徴金納付命令を発出するよう勧告を行ったところでございます。
 本事案の課徴金納付命令対象者は、ウェッジホールディングス等の取締役としてAPFグループを統括いたしておるものでございます。
 この者は、ウェッジホールディングスの株式等の価格上昇を企て、同社がAPFグループの関連会社発行の社債を引き受けるに当たり、資金を同グループ内で循環させて払い込みを仮装するなどいたしました。その上で、同社債の引き受けにより収益が増加する旨の虚偽の業績予想数値等の公表を行い、同社の株式等の価格を上昇させたものでございます。
 今後の手続につきましては金融庁で担当いたすこととなりますけれども、勧告と同日の十一月一日に審判手続開始決定がなされており、金融商品取引法の規定に基づき適正に審判手続が進められることになっております。
 本件は、国境をまたがるいわゆるクロスボーダー取引を用いた事案でありますが、証券取引等監視委員会といたしましては、こうしたクロスボーダー取引等を利用した不公正取引の調査を強化してきたところでありまして、今後とも、このような違反行為が判明した場合には厳正に対処していく所存でございます。
 以上でございます。

○塩川委員 資料をお配りさせていただきました。
 一枚目が今お話しいただいた内容、証券取引等監視委員会のペーパーであります。
 今お話がありましたように、課徴金納付命令対象者は、ウェッジホールディングス、昭和ホールディングス、APFホスピタリティの取締役等として、これら法人等で構成するAPFグループを統括している人物であります。
 偽計を用いてウェッジホールディングスの株式の価格上昇を企図したということで、監視委員会は、架空取引の情報で関連会社の株価をつり上げたとして、金融商品取引法違反の疑いで課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告したということであります。
 そこで、金融庁にお尋ねします。ぜひしっかりと厳正に対処すべきだと考えますが、いかがですか。

○遠藤政府参考人 今委員御指摘ありましたように、この問題は、現在、適正なプロセスを経て審判手続に来ております。金融庁といたしまして、この事案が監視委員会から上がってきましたので、その事案をよく見て、厳正に対応するようにいたしたいと思います。

○塩川委員 課徴金額が過去最高の約四十億円ということですけれども、こういう事件となっている、その重さという点についても一言御説明いただけますか。

○遠藤政府参考人 お答えいたします。
 委員御指摘のように、まさに課徴金額四十億超ということでございまして、課徴金額の計算としては史上最高の事案でございます。そうした重い事案であるということを我々は真剣に受けとめまして、適正な手続を経まして対応を検討していきたいと思います。

○塩川委員 投資家保護の観点からも厳正に対処すべきだと考えます。
 今回の監視委員会の勧告、法令違反の事実関係は、資料の一枚目、上の四角囲みの「二、法令違反の事実関係」を見ていただきますと、上から四行目の右側に昭和ホールディングス株式会社という会社の名称も出てまいります。これは、これから御紹介いたします昭和ゴム株式会社の持ち株会社であります。
 昭和ゴムは、創業一八八六年、ゴム製品の一貫製造企業であります。売り上げは三十数億円前後を確保し、東証二部に上場しておりました。かつては明治製菓のグループ企業であり、扱う商品は、製造設備のゴムライニングですとかテニスボール、哺乳瓶の乳首と広い範囲に及んでおりました。ゴム事業及びスポーツ事業の従業員数は合計で約二百名ということで、今この昭和ゴムはアジア・パートナーシップ・ファンドというファンドの支配のもとにあります。先ほど紹介しました課徴金納付命令の対象者である此下益司氏が代表であり、彼は昭和ゴムの社外取締役でもあります。
 資料の二枚目をごらんいただきますと、有価証券報告書及び同社の公表資料に基づいて、「昭和ホールディングス(旧・昭和ゴム)関係企業の概要図」を上に示しております。
 昭和ゴムは、APF、アジア・パートナーシップ・ファンドが支配権を握った二〇〇八年六月に純粋持ち株会社昭和ホールディングスに社名を変更し、同年十月に会社分割を行い、昭和ゴム株式会社という同名の子会社に再編されています。また、二〇一一年五月には、異業種であるウェッジホールディングスの株式を過半数保有することになり、連結することとなりました。APFグループによる昭和ゴムの経営資源収奪の事例も重大であります。
 昭和ゴムは、十一年ほど前から幾つかのファンドによって財産と信用が奪われ、その後、タイに本部を置くAPFのグループ企業が第三者割り当て増資を引き受け、APF代表此下益司氏が社外取締役に、また実弟が代表CEOに就任し、その他の役員も相当数がファンドから送り込まれたものであります。
 下に「「プロミサリノート」による貸付け金二十七億円の流れ」という図がありますけれども、いわゆる約束手形に相当するものを譲渡不能なのに可能と、うそでAPFグループ内で資金を還流させて、昭和ゴムの資産規模八十七億円の三割に相当する二十七億円もの資金を流出させたということが問題となっております。
 こういった企業の経営資源の収奪の問題と同時に、APFグループ支配のもとで昭和ゴムの経営者は不当労働行為を繰り返し、労働者の権利をじゅうりんし、生活や健康に不安を与えている、この点でも極めて重大であります。
 そこで、厚生労働省にお尋ねをいたします。
 昭和ホールディングスに対して、都労委が一部救済の命令を出した事件があります。申立人の労働組合による救済申し立ての内容について説明をいただけますか。

○熊谷政府参考人 お答え申し上げます。
 お尋ねの事件でございますけれども、持ち株会社である昭和ホールディングス株式会社が会社分割後に昭和ゴム株式会社等の子会社三社の従業員の使用者ではないとして団体交渉に応じないこと、あるいは、子会社三社が組合員に対し懲戒処分を行ったことなどが不当労働行為に当たるか否かが争われた事案でございます。
 本件は、昨年十一月に東京都労働委員会から一部救済命令が交付されましたけれども、当事者双方から再審査の申し立てがあり、現在、中央労働委員会において係属中でございます。

○塩川委員 昭和ゴムの労働組合であります全労連・全国一般昭和ゴム労組は、昭和ゴムのホールディングス化、会社分割により昭和ホールディングスとの団交を行えず、子会社化された昭和ゴム経営者と団交を行ってまいりましたが、昭和ゴムの社長は団交の場において、昭和ゴム経営者には夏季一時金を上積みする裁量がない、このように述べるなど、実態は昭和ホールディングスとAPFグループが昭和ゴムを支配しているということは明らかであります。
 昭和ゴムの職場では重大な労災事故も発生しておりまして、組合役員に対する強引な人事異動が行われた結果、新たに職場に配置された三十歳の男性職員が右腕を失うという事故に遭いました。八月十六日、昭和ゴムの柏工場において、ゴムの精練工程でスクリューに右腕が巻き込まれて挟まれたまま一時間、一時間後に救出されドクターヘリで病院に搬送されたそうですが、出血が多いために右上腕部からの切断という痛ましい大事故となりました。
 労働基準監督署は、昭和ゴムらが安全保護策を講じなかったとして、労働安全衛生法違反で地検に書類送検いたしました。地元紙の報道を見ますと、製造部長は、社員には回転中のスクリューに手を入れるなと注意していた、金がかかるので設備を設置できなかった、このように述べております。
 組合役員に対する強引な人事異動により熟練労働者が職場を離れ、危険の伴う精練職場の熟練工の要員不足のもとで作業に従事した労働者が事故に遭いました。まさに人災であります。安全対策を軽視した会社側の責任は極めて重大であります。このような不当労働行為を行ってきた昭和ホールディングス及びAPFの使用者責任こそ問われなければなりません。
 企業の内部留保や保有資産、労働資源など、ファンドによる経営資源の収奪が社会的な問題になっております。株主の利益と労働者その他のステークホルダーの利益が相反する、こういう事態が生じております。事業会社を支配している持ち株会社に対して労働組合が団交を申し入れても、持ち株会社には団交応諾義務がないことが問題となっているわけであります。ましてや、その持ち株会社を実質支配しているファンドと交渉することはできません。
 今回の昭和ゴムの事例を見ても、二枚目の資料でごらんいただきましたように、製造現場として労災の話もしたのが昭和ゴム株式会社です。上の図の真ん中の上下に四角い箱がありますけれども、ゴム事業と書いてある二つ目が連結子会社の昭和ゴム。ここの労働組合が団交を行おうと思っても、実質支配しているその上の持ち株会社、昭和ホールディングスとの交渉は行えない。さらに、昭和ホールディングスを支配しているファンド、APFグループとの交渉は当然のことながら行えない。
 そういう点でも、二重に実質経営している者と団体交渉が行えないということが、労働組合、労働者にとって権利を侵害するものになっているということを言わざるを得ません。労働者に不利益変更を強いる持ち株会社及びファンドに対して団交応諾義務を課すことが今必要ではないのか、まさにこの昭和ホールディングス及びAPFグループも同じ事態になっている、このことを指摘するものであります。
 そこで、厚生労働省にお尋ねをいたします。
 純粋持ち株会社を解禁とした一九九七年の独禁法改正には、当時の衆議院商工委員会、当委員会です、当委員会で附帯決議がついております。一九九七年の五月十四日であります。
 この附帯決議におきましては、「持株会社の解禁に伴う労使関係の対応については、労使協議の実が高まるよう、労使関係者を含めた協議の場を設け、労働組合法の改正問題を含め今後二年を目途に検討し、必要な措置をとること。 なお、右の検討に当たっては労使の意見が十分に反映されるよう留意すること。」と、労働組合法七条の団交応諾義務にかかわっての法的な措置を含めて検討するということが掲げられておりましたが、この附帯決議を踏まえてどのように措置をされましたか。

○熊谷政府参考人 お答え申し上げます。
 今ほど委員から御指摘のございました附帯決議を踏まえまして、当時は労働省でございますけれども、持株会社解禁に伴う労使関係懇談会という場を設けまして検討を行ったところでございます。
 平成十一年十二月に検討結果が取りまとめられておるところでございますけれども、団体交渉当事者としての持ち株会社の使用者性等の問題については、これまでの判例の積み重ね等を踏まえた現行法の解釈で対応することが適当だということ、それから、純粋持ち株会社の今後の動向を見つつ、引き続き本問題について検討していくことが必要、このような結論が取りまとめられたところでございます。

○塩川委員 判例の積み重ねを踏まえて現行法で対応ということですから、団交応諾義務に踏み込むような法改正は行わないという結論だったわけであります。このこと自身も問題ではありますが、当時は持ち株会社そのものがほとんどなかったということがあるわけであります。今はホールディングスの形態が大変ふえているという実態にあるということを指摘しなければなりません。
 一九九七年の純粋持ち株会社を解禁とした独禁法の改正において、つけられた附帯決議には幾つもの項目がありました。私は当委員会でもそのことを議論いたしましたけれども、一連の企業組織再編の措置については、その後みんな丸がついている。それなのに、一方の、企業組織再編の影響を強く受ける労働者の保護を図る、こちらは全然措置がされていないという点で、もう明確にくっきりと対応が分かれている、このことがまさに労働者の権利を侵害する今の深刻な事態につながっているということを言わなければなりません。
 一方、持ち株会社を実質支配しているファンドに対しても団交応諾義務を課すことが必要ではないのか、この点についての検討がどうか。
 厚生労働省に重ねてお尋ねをいたします。
 東急観光事件を契機として、厚生労働省は、投資ファンド等により買収された企業の労使関係に関する研究会を開き、二〇〇六年五月に報告書をまとめております。その結論はどうなったのかについて御説明ください。

○熊谷政府参考人 ただいまお尋ねのございました研究会の報告書でございますけれども、この報告書におきましては、投資ファンド等の労働組合法上の使用者性については、最高裁の判例において示されたとおり、基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかどうかにより判断すべきであること、二つ目といたしまして、どのような場合に投資ファンド等が使用者に当たることになるかを一律に決定することは困難であることとされておるところでございます。

○塩川委員 過去の最高裁判決の考え方に基づいて、要するに個別事案ごとに判断するのが適当だということであるわけで、団交応諾義務を課すような法改正を行うという立場には立たなかったわけであります。この点でいえば、経団連などは、日本経団連の主張が反映されたというふうに述べているわけであります。
 このような持ち株の労使関係懇談会の報告から十四年、ファンドの労使関係研究会の報告からは七年半、その後、持ち株会社の設立が大幅にふえ、ファンドによる企業支配の弊害も明らかになってまいりました。持ち株会社及びファンドによる労働者に対する不当労働行為が多数発生しているにもかかわらず、それに対する改善策が放置されたままであります。
 厚生労働省にお尋ねします。
 この十年前後にわたって、持ち株会社あるいはファンドが大きくふえる中で労働者の権利を侵害するような事例も生まれている、こういうときに当たって、改めて持ち株会社及びファンドへの団交応諾義務を課す措置に踏み出すときではないのか。この点についてお答えください。

○熊谷政府参考人 お答え申し上げます。
 投資ファンドや純粋持ち株会社の使用者性につきましては、先ほど御説明申し上げました最高裁の判例が判断基準として確立しておるところでございまして、実務もこれに従って取り扱われているものと承知しております。
 厚生労働省といたしましては、投資ファンドや純粋持ち株会社の使用者性に関する裁判例や労働委員会の命令例の動向等を通じまして、投資ファンドや純粋持ち株会社の実態や労働条件決定へのかかわり方を適切に把握してまいりたいと考えております。

○塩川委員 この間、ここで紹介しました昭和ゴム事件を初めとしまして、アデランスの事件やカイジョー事件やユニオン光学事件など、幾つものファンド支配による労働者への不当労働行為がまかり通っております。持ち株会社が増加し、ファンドが増加し、企業への支配が強まっているのに、労働者保護の制度が全く変わらないままでは、労働者の権利を守ることはできません。
 今、実態の把握に努めたいという話がございましたけれども、実情が大きく変わっているんです。ファンドについて検討、あるいは持ち株会社について検討、もう十年前後たっているわけですから、改めて実態調査をしっかりと行うべきときにあるんじゃないのか。実態調査をしっかりと行う、このことについて改めて対応を求めたいと思いますが、いかがですか。

○熊谷政府参考人 お答え申し上げます。
 純粋持ち株会社につきましては、報告書の取りまとめの後、平成十五年に調査を行ったところでございますけれども、その際には、持ち株会社の解禁の際に憂慮された労使関係上の問題は特に生じていないという結果だったわけでございます。
 いずれにいたしましても、先ほども申し上げましたように、裁判例や命令例の動向を通じまして、私どもは、投資ファンドや純粋持ち株会社の実態、労働条件へのかかわり方についてはきちんと把握してまいりたいと考えております。

○塩川委員 持ち株の調査をやったといっても十年前ですから、もう十年一昔で、今の状況は大きく変わっている。改めて、持ち株やファンドによる企業支配の実態について、しっかりとした実態調査を政府として行うことを強く求めておくものであります。
 ファンドの利用が拡大する一方で、ファンドの規制がこのままでいいのか、このことが今問われているときです。今、欧州では、この点で、ファンド規制に踏み出す措置を始めているところであります。
 金融庁にお尋ねをいたします。
 ことしの七月十九日、金融庁と欧州証券監督当局は、クロスボーダーで活動するファンド業者に対する監督協力に関する覚書に署名を行いました。その内容と趣旨について御説明をいただけますか。

○遠藤政府参考人 お答えいたします。
 今委員御指摘の欧州当局と我々の間の覚書でございますけれども、欧州当局におきまして、新しい指令、ディレクティブが出ました。これは代替投資ファンドマネジャー指令というものでございます。
 これは、二〇〇九年四月のG20ロンドン・サミット、それから二〇一〇年六月のトロント・サミットでヘッジファンドの規制を強化しようということがうたわれまして、それを受けて二〇一一年七月につくられた代替投資ファンドマネジャー指令というものがございますが、この指令に基づきましてファンドが活動を行っている監督当局同士で監督協力の枠組みをきちっとつくろうということがここで書かれておりまして、監督協力の枠組みという形でお互いにこの覚書を結んだわけでございます。

○塩川委員 代替投資ファンドマネジャー指令、ヘッジファンド規制強化を目指す指令として、これに基づいて日本側と欧州側で枠組みをつくるというのが今回の覚書の中身ということであります。
 続けてお尋ねいたします。
 この欧州の代替投資ファンドマネジャー指令の内容と、制定の経緯について御説明をいただけますか。

○遠藤政府参考人 お答え申し上げます。
 繰り返しになりますけれども、二〇〇九年四月のロンドン・サミット、二〇一〇年六月のトロント・サミットにおきましては、ヘッジファンドの登録制導入あるいは適切な情報開示の義務づけなど、ヘッジファンドの透明性、監督を改善する措置を国際的に実施するということが提言されております。こういった動きを受けまして、欧州におきましては、代替投資ファンドの運用や販売を行う業者への規制を目的といたしました代替投資ファンドマネジャー指令が二〇一一年七月に公表、施行されております。
 この指令におきましては、G20で提言されたヘッジファンドに対する規制・監督制度の導入に対応するとともに、代替投資ファンドの金融市場におけるプレゼンスの影響や、影響力の増大に伴うリスクの増加を踏まえまして、これまで欧州各国において個別対応をしていたわけでございますけれども、その個別対応にかえて、代替投資ファンドマネジャーに対して、包括的で共通した、より適切な規制を欧州全体で導入するために新たに策定されたものでございます。

○塩川委員 ヘッジファンドに対する措置として適切な情報開示などを行っていくということで、この指令の五十四項では、ファンドマネジャーに対して経営者が労働者代表に情報提供するよう最善の努力をなす規定も設けていると思いますが、その内容について御説明いただけますか。

○遠藤政府参考人 お答え申し上げます。
 委員御指摘のとおり、この代替投資ファンドマネジャー指令におきましては、代替投資ファンドが非上場企業を買収もしくは支配権を取得した場合に、当該企業の経営陣に対して労働者代表もしくは労働者への情報開示を行うよう促すことを代替投資ファンドマネジャーに対して義務づけるといった規定がされているものと承知しております。

○塩川委員 今御説明いただきましたように、ファンド運用者は、企業買収を行う際に、その買収意図や、雇用や労働条件に与える影響についての情報を事前に開示するとともに、その情報を買収された企業の経営者を通じて労働者代表に提供させるよう、最善の努力を行うことが定められているものであります。
 このように、間接的ではありますけれども、労働者に対して適切な情報提供、情報開示を行うということを求める内容になっている、その点で、ファンドにも一定の義務を負わせるものとなっているわけであります。
 そこで、大臣にお尋ねいたします。
 冒頭、証券取引等監視委員会におけるファンドに対しての規制について、投資家保護の観点での取り組みの話がございました。こういった投資家保護や金融システム維持の観点からのファンド規制もしっかり行うと同時に、それにとどまらず、企業の存続維持、収奪をするようなファンドはもうお断りだと、あるいは労働者保護をしっかり行う、そういう観点に立った規制に今踏み込むべきときではないのか。このことについて、経産大臣としてのお答えをいただきたいと思います。

○茂木国務大臣 今、塩川先生と政府参考人の議論を聞いておりまして、非常に議論の進め方が先生はお上手だなと思いました。
 三つの議論をしているんですね。最初は、クロスボーダーの違反取引とか架空取引にかかわりますファンドの違法案件にかかわる金商法の問題。最後は、ヘッジファンドの透明性であったりとか代替投資ファンドマネジャーのあり方等々に関する問題でありまして、ファンドそのものをどう管理していくか、そこの中で国際協調をどうするか、こういう議論をしているんですね。その間に、うまい形で労働法制の問題を入れているわけですよ。最初にあれは悪いと言って、それで労働法制の話が入ってくるわけなんです。
 労働者の権利の保護につきましては、御案内のとおり、金商法でやるわけじゃないわけです。労働基準法であったりとか、労働組合法、労働契約法、こういった労働関係法制によって行われるべきものである。
 これは、日本国内の企業であれば、日系企業であれ、外資系企業であれ、あるいはファンドが買収した企業であれ、そうでない企業であれ、ひとしく労働関係法制の遵守が求められるところでありますけれども、あくまで企業に求められるものでありまして、ファンドも含めた株主の行為を直接規制するものではない、そのように考えております。
 他方、投資家と企業の間で、企業の持続的成長や企業価値の長期的な向上に向けた対話を行うことは重要であると認識いたしております。東急観光の件、これは御案内のとおり、第一組合、第二組合の問題もありました。そういったことで若干複雑な面はありましたけれども、最終的にはファンド側、そして企業側、組合側の話し合いが行われた、このように私は記憶をいたしております。
 日本再興戦略においても、英国におけます取り組み等を参考としながら、機関投資家が対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど受託者責任を果たすための原則、いわゆる日本版のスチュワードシップ・コードについて検討し、年内に取りまとめる旨盛り込まれているところであります。
 議論については非常にうまい展開をされていると思います。

○塩川委員 質問が褒められたと前向きに受けとめながら、私は、ファンドや持ち株会社が企業を実質支配していることに対して、労働者、労働組合との団交応諾義務が必要だということで厚生労働省とやりとりをしているわけで、大きな枠組みとしてはファンドをどう考えるかという話をしたわけです。当然それは大臣もよく御承知の上で、投資者保護の観点と同時に、労働者保護や企業の持続性維持という観点から、ファンドに対してきちんとした規律を求めていく時代ではないのか、そういう観点での御意見を伺ったわけで、そういう方向での対応をぜひ強く求めておきたいと思います。
 残りの時間で、税制の関係で何点かお尋ねをいたします。
 国際展開している多国籍企業に減税を行っても、グローバル資本としての彼らが当該国の投資や雇用に振り向ける企業行動をとる保証はあるのか、このことが今問われているわけであります。
 そこで、経済産業省にお尋ねします。
 日本の国・地域別対外直接投資残高、資産について、二〇一二年末時点の上位十カ国の名称とその金額を挙げていただけますか。

○鈴木政府参考人 お答え申し上げます。
 統計は、財務省、日本銀行が公表しています国際収支統計に載っておるものでございますけれども、二〇一二年末における対外直接投資残高の上位十の国及び地域は、米国、オランダ、中国、オーストラリア、英領ケイマン諸島、英国、シンガポール、ブラジル、タイ、韓国でございます。
 金額ということでございましたので、投資残高についても御答弁申し上げます。
 米国につきましては二十四兆七千三百三十二億円、オランダ八兆一千五百二十四億円、中国八兆四百六十三億円、オーストラリア五兆二千九百五十二億円、英領ケイマン諸島五兆一千六百七億円、英国四兆六千五百七十四億円、シンガポールが三兆一千百三十億円、ブラジルが三兆五百五十九億円、タイが三兆二百四十七億円で、最後、韓国が二兆二千九十三億円でございます。

○塩川委員 アメリカや中国への直接投資が多いというのは当然でありますけれども、ケイマン諸島が五番目に入っているわけです。これはなぜなのか。人口四万人のケイマン諸島に対する直接投資残高が五番目に多い理由について御説明いただけますか。

○鈴木政府参考人 一般的に言われておりますのは、ケイマン諸島はいわゆるタックスヘイブン地域でございまして、そこにおいて投資会社などをつくることに対する投資が多いというふうに言われております。

○塩川委員 そういう投資が多くなる理由について、もう一歩踏み込んで説明いただけませんか。

○鈴木政府参考人 今申し上げたように、タックスヘイブンということで、法人税がかからない地域だということで投資が多くなっていると思っております。

○塩川委員 租税回避を可能とするタックスヘイブン、情報開示が非常に弱いということも背景にあるわけであります。
 先ほど御説明しました昭和ゴムを支配するAPFグループというのは、英国領のバージン諸島であります。人口十万人の地域でありますが、ここもタックスヘイブンの一つと言われております。
 金融庁にお尋ねします。
 「会計・監査ジャーナル」という雑誌で、二〇一〇年五月号に「不公正ファイナンスへの対応」という論文が出ております。
 そこで執筆者の方が、英領バージン諸島は、数あるオフショア金融センターの中でも、特に金融機関での口座開設時やSPCを設立する際の顧客の本人確認に関する規制が緩く、例えばペーパーカンパニーであるSPCの裏にいる真の所有者についての情報を秘匿するために利用されることが多い、そのため、国際金融界では、英領バージン諸島については、金融証券犯罪やマネーロンダリングに悪用されるリスクが高いというのが常識であり、まともなビジネスを行おうと考える場合には、英領バージン諸島を利用することは通常ない、このように指摘しております。
 金融庁にお尋ねします。
 国際金融界では、英領バージン諸島については、金融証券犯罪やマネーロンダリングに悪用されるリスクが高いというのが常識であり、まともなビジネスを行おうと考える場合には、英領バージン諸島を利用することは通常ない。これは金融庁としても同じお考えでしょうか。

○遠藤政府参考人 お答えいたします。
 英領バージン諸島を経たビジネスが今御指摘のようにマネロン等に利用されて、そもそもおかしなものだということを前提に、我々は、そういう目で見ているといった認識はございません。
 あくまで、さまざまな事案において、どのようなお金の流れがあるか、どのような金融機関が活動しているか、それが現行法令、我々の法令に基づいて適正に行われているかどうかということを個別に見てまいりますので、それぞれの国において、あるいはそれぞれの地域において法律に基づいて設定されたお金の流れについて、我々は日本の法律に基づいて適正に見ていく、おかしなことが行われたら、それは厳正に対応するといった対応をしております。

○塩川委員 この論文で、まともなビジネスを行おうと考える場合には英領バージン諸島を利用することは通常ないと書いている執筆者の方は、二〇一〇年の時点では証券取引等監視委員会事務局総務課長、今は金融庁の審議官ですから、まさに金融庁の立場だと思うんですけれども、もう一回、いかがですか。

○遠藤政府参考人 お答えいたします。
 申しわけございません、ちょっとその記事を私自身は読んでいないものですから、何とも評価できないところがあるんですけれども、英領バージン諸島に対するアプリオリの偏見があるわけではございません。
 あくまで、英領バージン諸島等を利用したさまざまな企業活動というのが我が国の法制に照らして適正なものかどうかということを、証券取引等監視委員会も含めまして見ていきたいというふうに考えております。

○塩川委員 現在の金融庁の審議官がこのようにおっしゃっておるわけですから、金融証券犯罪やマネーロンダリングに悪用されるリスクが高いというのは常識だ、そこまで述べているわけで、私は、こういう立場でのしっかりとした規制策を行うべきときだと思います。
 大臣、直接の所管ではないんですけれども、私も、ベンチャーファンドなど、しっかりとした、いいファンドが企業活動を支援する、こういう取り組みは極めて重要だと考えます。同時に、ファンドによって投資家の権利が、利益が侵害されるとか、言いましたように、企業の持続性の維持を損壊する、あるいは労働者保護に欠けるようなファンドに対しては、しかるべく規制を行っていくことが必要だと考えております。
 まともなビジネスでは使わない、バージン諸島などタックスヘイブンを利用した情報隠しとか租税回避に対する規制強化策を改めてとるべきじゃないのか。そういう点について、最後にお考えをお聞かせください。

○茂木国務大臣 バージン諸島は、観光で行ってみるとなかなかいい場所ですよ。
 ただ、その一方で、ベース・エロージョン・アンド・プロフィット・シフティング、BEPSですが、これは国際協調の中で対応していかなければいけない問題だ、このように考えております。
 タックスヘイブン対策、我が国独自でも行っていきますが、海外に実体のない企業を設立して課税を逃れようとしている企業に対しては、当然、追加的な課税を行う制度であります。ただ、実体があるかどうかというのは、どうしても、個々の案件について判断する、こういう要素は出てくると考えております。

○塩川委員 ファンドのあり方として、述べましたように、昭和ゴムの事件のように会社の存続を毀損するような資産の収奪を行うことは当然認められないわけですし、労働者の権利を侵害するような企業支配についてはあってはならない、こういう立場で、監督官庁などがしかるべく対応を行うことを強く求め、また、こういう規制策をしっかりととることを改めて求めて、質問を終わります。