国会質問

<第186通常国会 2014年02月21日 総務委員会 3号>




○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 NHK問題の集中審議に当たりまして、籾井会長の就任記者会見の発言をめぐって、きょうは質問をいたします。
 籾井会長にお尋ねをいたします。
 この間の一連の国会答弁などでも、会長就任の公式会見の場で個人的な見解を発言したことは不適切であり、大変申しわけなく思っている、その場で取り消したが、誤解を招いたことについて改めて深くおわびをする、また、従軍慰安婦問題、特定秘密保護法、靖国参拝、番組編集権、国際放送の五項目は個人的見解を述べたもので取り消すと述べておられますが、このとおりですか。

○籾井参考人 お答えします。
 そのとおりでございます。

○塩川委員 ここで、五つの個人的見解が誤解を招いたことについて改めて深くおわびするというんですけれども、この誤解というのは何なんでしょうか。

○籾井参考人 その一つ一つの問題並びにその一つ一つの問題についての真意がしっかりと伝わっていない、しかし、これは説明し切れないので、言ったことを取り消させていただいたということでございます。

○塩川委員 真意が伝わっていない、だけれども、この場においてはそこを十分伝え切れないという趣旨で、誤解を招いたというふうにおっしゃったと。
 真意が伝わっていないということですけれども、そうしますと、籾井さん御自身が個人的見解とされている、この五項目の個人的見解そのものを変えたというわけではないということですね。

○籾井参考人 五項目については、取り消しをさせていただきました。

○塩川委員 参議院の総務委員会で片山虎之助参議院議員の、撤回した個人的見解はその後変わりましたかという質問に対して、籾井会長は、個人的な思想がどうかということについては、ここでもう一度言うことは控えたいと述べておられますが、そのとおりですね。

○籾井参考人 お答えします。
 述べました個人的見解については、再びここで繰り返すことは控えさせていただきたいというふうに申し上げたと思います。

○塩川委員 籾井会長は、個人的な見解を述べたことは取り消したけれども、みずからの個人的な見解、個人的な思想を変更したわけではないということですね。

○籾井参考人 ただいま申し述べましたように、その個人的見解については取り消しておりますので、さらにここで申し上げることは差し控えたいと思います。

○塩川委員 個人的な見解について変更するということについてはお答えがなかったわけであります。
 そこで、就任記者会見では、秘密保護法について、一応通っちゃったので、もう言ってもしようがない、必要があればやりますよ、かっかかっかする必要も僕はないと思うし、昔のような変なことが起こるとも考えにくいですとか、靖国参拝について、どうだこうだと言うつもりもないですよ、ただ淡々と、総理は靖国に参拝されましたというだけでしょう、ピリオドでしょう。従軍慰安婦問題では、ドイツやフランスやオランダなどの名前を挙げて、戦争しているところは大体そういうものがつきものだった。番組編集権については、最終的には会長が決めるわけですから、そういう問題についてはちゃんと、きちんと私の了解をとってもらわなきゃ困る、NHKのガバナンスの問題ですから。国際放送については、政府が右と言うものを我々が左と言うわけにはいかない、日本政府とかけ離れたようなものであってはならない、このように述べておられます。
 こういった発言について、個人的な見解、個人的な思想としては変更されておられないということになります。
 NHKオンラインの中に、よくある質問集というのがございまして、そこで、「NHKとはどういう事業体なのか」という問いに対して、「NHKは政府から独立した公共放送事業体」とあります。
 籾井会長にお尋ねいたします。
 NHKは政府から独立した公共放送事業体だとNHK自身が説明しておりますけれども、なぜ政府から独立していることが求められているのか、その理由は何なのかについてお答えいただけますか。

○籾井参考人 お答えいたします。
 放送法によりまして、我々は、不偏不党、表現の自由、それから公平公正ということで律されております。そのほかにも細かい規定がございますが、我々は何人からも影響されないというのが我々の役目でございますので、それに沿って、そういうふうにお答えしているわけでございます。

○塩川委員 それはそういう立場だということをおっしゃっているだけで、政府から独立をしている、その理由は何なんですかということを御質問しているんですが、お答えいただけますか。

○籾井参考人 お答えいたします。
 NHKは、法律に基づく、国民の信託を受けた公共的放送事業体として、政治的中立性を確保するとともに、いかなる私的利害にも左右されることなく、公共の福祉のために放送を行うことを任務とすべきものと認識しております。
 そのために、政府や特定の企業などから影響を受けないようにする必要があるものと考えております。

○塩川委員 政府や特定の企業から影響を受けないと。そういう意味では、あらゆる権力からの独立、そういうことがうたわれているわけですけれども、それは放送法の条文に照らすと、どこにはっきり示されているものなんですか。

○籾井参考人 お答えいたします。
 放送法第一条、放送の目的、「この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。」一は省略させていただいて、二、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。」第四条にもいろいろございますけれども、一応こういうことで独立しているというふうに思います。

○塩川委員 この三の「放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。」そういう点も当然含まれているということでよろしいですか。

○籾井参考人 お答えします。
 御指摘のとおりでございます。

○塩川委員 放送法一条にありますように、健全な民主主義の発達に資する、こういうことを原則として、健全な民主主義を育てることが放送の目的だとして、そのためにはあらゆる権力からの自立が求められているということを示しております。公権力からの自立がNHKの生命線であります。
 それは、戦前の社団法人日本放送協会は、政府の強力な一元的統制のもとで、事実上の国家管理に組み込まれ、軍国主義的な世論主導の国策宣伝機関となって国営放送の役割を果たした。こういう役割に対して反省があり、政府からの独立を掲げるというのは、国策放送として国家の起こした戦争に加担した、この戦前のNHKの歴史への反省があるからじゃありませんか。

○籾井参考人 お答えいたします。
 前身の社団法人日本放送協会の時代には、放送内容に対する政府からの指示や検閲などが行われており、今委員がおっしゃったとおりでございますが、戦後民主主義のもとで、自由な放送を保障するために現在の形になったものと承知しております。

○塩川委員 ですから、国家が管理をするということへの反省が戦後のNHKの出発点としてあるということでよろしいですか。

○籾井参考人 お答えします。
 理由が、戦前のことの反省に立ってかどうかはわかりませんが、多分そうだと思います。けれども、今はもう、前身の日本放送協会の時代には放送内容に対する政府からの指示や検閲などが行われておりまして、戦後民主主義のもとでは、自由な放送を保障するために現在のような形になったものと承知いたしております。

○塩川委員 国策放送として国家の起こした戦争に加担した戦前のNHKの歴史への反省があるという点で、その戦後政治の出発点、原点というのは、この侵略戦争への反省を踏まえた日本国憲法であります。日本国憲法は、国民の基本的人権を保障するために権力を縛るもの。その民主主義の健全な発展に貢献するNHKが政府からの独立を求められるのは、当然のことであります。
 ですから、放送法の定める公共放送の使命とは何か。それは、権力からも、商業主義の論理からも自立をして、国民の知る権利に応え、文化、ジャーナリズムの大衆メディアとして日本に健全な民主主義を育てることであります。
 そうなれば、NHK会長に求められる資質はどうなるか。それは、不偏不党、政治的公正、自律の見識と気概だと言っていいと思います。不偏不党と自律の核心は、政府からの独立にほかなりません。NHKは、このようなさまざまな有識者の皆さんも含めた国民からの指摘をしっかりと受けとめることが必要であります。
 籾井会長にお尋ねをしますが、あなたの秘密保護法や靖国参拝、従軍慰安婦問題といった歴史認識問題など、安倍内閣に迎合するような一連の発言は、政府からの独立という立場と相入れないのではありませんか。

○籾井参考人 お答えします。
 そういうことは全くありません。

○塩川委員 全くありませんというのは、どういう答弁ですか。一連の発言が、政府からの独立という立場と相入れないのではないかと聞いているんですけれども。

○籾井参考人 何度も申し上げておりますが、まず、私の個人的見解というものは本当に取り消させておりますから、私は、私の個人的見解でもってNHKを運用することはございませんし、政府からも何の指示も受けておりません。そういう意味におきまして、全く私は、NHKは独立していると思います。

○塩川委員 問題は、そういう中で、そんたくと言われるように、時の政権の意向に迎合するような報道をするということが問われるということを言わざるを得ません。
 重ねてお尋ねしますけれども、国際放送に関して、政府が右と言うものを我々が左と言うわけにはいかないとか、日本政府とかけ離れたようなものであってはならないという発言も、公権力からの自立を投げ捨てる発言になっているのではありませんか。

○籾井参考人 今の点につきましては、もう何回も申し上げておりますが、私は個人的な見解として取り消させていただいておりますので、この場でさらにコメントすることは控えさせていただきたいと思います。

○塩川委員 籾井会長は、個人的な見解を述べたことは取り消しましたが、みずからの個人的な見解、個人的な思想を変更したわけではありません。
 NHKに求められる公権力からの自立について無理解な個人的な思想を持っている籾井氏に、NHK会長の資格はないと言わざるを得ないのではないでしょうか。そのことの自覚がありますか。

○籾井参考人 お答えいたします。
 私としましては、NHKの会長の重みをしっかり受けとめ、放送法に基づきまして公共放送の使命を果たしていくことで、引き続き会長としての責任を全うさせていただきたいと思います。

○塩川委員 それでは、浜田経営委員長にお尋ねいたします。
 このような籾井氏を会長に選んだわけであります。その点で、経営委員会が定めた次期会長の資格要件の内容についてお尋ねをいたします。
 私は、昨年のNHK決算審議の場で、放送による表現の自由を確保するためには公権力からの自立が前提となる、会長任命に当たっては、公権力からの自立への深い理解が求められると考えるが、この点は資格要件とされているのかということを質問いたしました。浜田経営委員長は、放送法の趣旨にのっとって判断をして資格要件をまとめたと申し上げたが、今の御質問の件については、当然その中に包摂されているというふうにお述べになりました。
 お尋ねしますが、この公権力からの自立についての放送法上の根拠を、経営委員会として資格要件を定めた際にどのように位置づけられておられたのか、お答えいただけますか。

○浜田参考人 お答えいたします。
 NHKは、個々の条文ではなく、放送法全体の規定により、公共放送として視聴者・国民の期待に応える放送が実施できるよう、財政、組織、人事などの面において、公権力から自立した運営が担保されております。
 今回の資格要件は、こういった放送法の趣旨にのっとりまとめたことからも、御指摘の点が包摂されていると考えております。

○塩川委員 公権力からの自立への深い理解というのが次期会長の資格要件に入っているということですけれども、これについてはどのような議論が、経営委員会の中で選考に当たって行われたんでしょうか。

○浜田参考人 先ほど申し上げましたように、具体的には、例えば経営委員会制度でありますとか、自主的な財源を確保するための受信料制度などをもって、NHKの公権力からの自立というのは担保されているというふうに思いますし、議論の中で、ある意味ではNHKの会長の資格要件に必ず求められる要件だというふうな理解をしております。

○塩川委員 公権力からの自立への理解について、この選考に当たって、籾井氏御本人からその見解をお聞きするということはあったんですか。

○浜田参考人 放送法を遵守する旨の発言を何度もいただきましたし、あわせて、今までの国際人としてのキャリア、ビジネスマンとしてのキャリアから、総合的に判断をさせていただきました。

○塩川委員 放送法を遵守するという言葉を繰り返せば、公権力からの自立への深い理解があるということを意味しているんですか。

○浜田参考人 放送法を遵守するということが原点だろうというふうに判断をいたしました。

○塩川委員 その放送法についての無理解も含めた個人的な思想というのがあらわれたわけですけれども、個人的な見解を述べたことは取り消しましたが、みずからの個人的思想を変更されたわけではない籾井会長であります。
 その個人的な思想というのは、公権力からの自立への深い理解ということが求められるNHK会長の資格要件に当たらないということを示しているんじゃありませんか。NHK会長の資格がないような個人的思想を持つ人物が会長を務めることができるのであれば、経営委員会が次期会長の資格要件を掲げる意味もない、要するに、誰でもやれるということになりはしませんか。

○浜田参考人 籾井会長は、業務執行に当たっては放送法を遵守すると明言し、不偏不党の立場をとっていく旨も表明しております。反省の上に立って、資格要件に込めた趣旨に沿って会長としての職務を執行していただけるものと期待をしております。
 経営委員会といたしましても、今後の業務執行が放送法の自主自律の精神を遵守したものとなるよう、一層しっかり監督してまいりたいと思います。

○塩川委員 ジャーナリズムやあるいは放送法の学識経験者の方々からは、会長の選考基準のあり方として、やはり第一義的に、放送のジャーナリズムと文化的役割について高い見識を持ち、言論報道機関の長として自主自律の姿勢を貫ける人物かどうかを重視すべきだと述べておられます。
 こういった放送のジャーナリズムと文化的役割について高い見識を持つことというのは、私は、今回の選考過程においてはっきりと示されたものはなかったと率直に思いますが、いかがですか。

○浜田参考人 御指摘のように、NHKの会長には、当然、経営のトップという側面とジャーナリズムのトップという側面が求められておるわけで、私どもは、その両面を含めて論議をし、選考をいたしました。

○塩川委員 私は、放送法の五十五条、会長罷免条項及び六十二条に基づく役員の服務準則、その役員の服務準則の第五条に、「会長、副会長および理事は、日本放送協会の名誉や信用を損なうような行為をしてはならない。」とあります。ですから、今回の一連の問題というのはこの条項に相当する、籾井氏がNHK会長の任に当たるものではないということを思いますが、改めてお尋ねします。

○浜田参考人 経営委員長といたしましては、会長に対して、厳しく自覚を促し、説明責任を果たすとともに、事態の収拾を速やかに行うよう要請をいたしました。会長からは、反省の言葉と、業務執行に当たっては放送法を遵守するとの明言を得、役職員一丸となって事態の収拾に当たる決意も示されました。
 経営委員会といたしましては、今後の動きを監督し、助言し、必要に応じて苦言も呈して、経営委員会の職務を一層果たしてまいりたいと思っております。

○塩川委員 視聴者の代表であります経営委員会は、視聴者・国民からの厳しい指摘があるということに正面から目を向けるべきだ、その声を聞くべきだということを申し上げます。
 その上で、NHKの政府からの独立との関係で、その根本が問われるような過去の具体的な問題について、時間の範囲で何点かお尋ねをいたします。
 一つは、「ETV二〇〇一」番組改編問題であります。
 二〇〇〇年代の前半に一連のNHK職員の不祥事が相次ぎ、また、この「ETV二〇〇一」番組改編事件にかかわって、政治家の番組内容への介入の疑惑の問題、また、それをそんたくするようなNHK側の動きの問題について厳しい批判が寄せられたわけであります。
 そういった一連のNHKの危機的な状況におきまして、デジタル懇談会というのが設置をされて、この中で真摯な議論が行われました。二〇〇五年から議論が始まりまして、二〇〇六年にその報告書がまとめられたわけであります。政治介入疑惑や一連の不祥事について、政治との距離に対する疑惑は、いまだにNHKが政府や権力から毅然として独立してはおらず、それが結果として主権者たる視聴者をないがしろにする行為につながっていると問題提起をしております。
 このデジタル懇の報告書は、籾井会長それから浜田経営委員長としては、その内容についてはどのように受けとめておられるでしょうか。

○籾井参考人 お答えいたします。
 デジタル時代のNHK懇談会では、平成十六年に発生しました不祥事からの信頼回復を図る中、デジタル時代における公共放送のあり方について、部外の有識者の方々に検討していただきました。
 報告書の中では、信頼回復の努力の核心は、公共放送は視聴者のものであり、視聴者のためにあり、視聴者のみに責任を負うという信念であるとの指摘もいただきました。
 私は、公共放送の役割は、視聴者・国民からの信頼があってこそ果たせるものと認識いたしております。放送法に基づきまして、不偏不党、自主独立の立場を守り、何人からも干渉されず、番組編成の自由を確保して放送することが何よりも大事だと考えております。

○浜田参考人 恐縮ですけれども、私はその懇談会の報告書は読んでおりませんけれども、基本的に、今、籾井会長が申されましたけれども、NHKの役目は、よい番組をつくり、よい放送をし、よい経営をし、そして、結果として視聴者の皆様に返していくことだ、そういう形で公共放送の役割を果たしていくべきだというふうに思っておりますので、今のデジタル懇の中身について、特に異論はございません。

○塩川委員 この問題については、BPOが「ETV二〇〇一」についての意見を出されております。大変傾聴に値する中身だと思います。次の機会に、その中身を含めて、引き続き議論を重ねてまいります。
 終わります。