国会質問

<第186通常国会 2014年04月10日 本会議 16号>




○塩川鉄也君 私は、日本共産党を代表し、地方自治法改正案について質問します。(拍手)
 今、地方自治は、どのような状態にあるのでしょうか。
 一九九〇年代から、地方分権改革の名のもとに、国は、さまざまな制度改正を行い、平成の大合併や三位一体改革を進めてきました。
 その結果、どうでしょうか。日本国憲法が、地方自治を明記し、住民が主人公を実現するため住民自治と団体自治の充実を求めた方向に、ますます逆行する、深刻な事態が生まれているのであります。
 第一に、国による市町村合併の推進が何をもたらしたのか。
 一九九九年三月末、全国で三千二百三十二だった市町村の数は、千七百十八へと、ほぼ半減しました。合併自治体は、面積は平均で約二倍になりながら、地方財政措置は縮小され、自治体職員も大幅に削減されました。
 宮崎県は、昨年三月、市町村合併に関する調査報告書をまとめています。
 その中で、合併に伴う課題として、職員と地域住民のつながりが弱くなった、地域住民の意見を施策に反映させる仕組みが十分に確立されていない、地域独自の施策や取り扱いができなくなった、地域に対する愛着の希薄化や地域の問題への関心の低下が進み、将来のコミュニティー機能の低下に対する懸念が大きいなどと指摘をしています。
 これは、宮崎県に限った問題ではありません。市町村合併で、全国の自治体がこうした事態に直面しているのです。
 こうした市町村合併の問題点が端的にあらわれたのが、東日本大震災でした。
 震災で甚大な被害を受けた多くの自治体が、この十年間余りの合併で、災害への対応能力の後退を余儀なくされていたのであります。
 多くの自治体職員が懸命の努力をしました。しかし、防災対応能力の後退が、被害状況の把握のおくれとなり、救援活動を初め、復旧復興に影響を及ぼしたのであります。
 これは、まさに、市町村合併がもたらした重大な弊害ではありませんか。総理の認識をお聞きします。
 総理は、市町村合併をどのように総括しているのですか。
 全国町村会は、平成の大合併についてのしっかりした検証もされていない中、道州制の推進には反対と、自民党の進めようとする道州制推進基本法案に強く反対し、その動きを批判しています。総理は、この地方の声にどう応えるのですか。
 第二は、この間国が進めてきた、基礎自治体への事務・権限移譲の問題です。
 例えば、保健所設置の問題です。
 神奈川県相模原市は、権限移譲を受け保健所を設置しましたが、市の規模では人員の配置や専門性の発揮が困難で、その結果、例えば、飲食店への立入検査は、県が年一回実施していたのを、実情に応じてと変更し、実質的には、数年に一回と、後退させる事態となっています。
 また、国は、社会福祉法人の指導監督の権限を、都道府県から市へと移しました。
 ところが、兵庫県では、権限移譲を受けた大半の市で、指導監督のための専門的な知識、人材がないことから、二十一もの市が、改めて県との委託契約を行い、移譲された権限を県に戻しているのであります。
 権限移譲に人的、財政的な保障がないことが、こうした事態を生んでいるのではありませんか。総務大臣の見解を求めます。
 人的、財政的な保障がなければ、弊害は一層広がらざるを得ません。
 今回の地方自治法改正案では、中核市の人口要件を三十万から二十万程度に引き下げ、四十ある特例市を新中核市にしようとしています。
 新中核市になるためには、保健衛生、福祉行政のかなめとなる保健所設置が条件になります。
 ところが、全国特例市市長会アンケートでは、四十の特例市の中で、保健所設置を積極的に検討していくと答えたのは、わずか九市、四分の一にとどまっているのであります。保健所設置に必要な多額の運営経費や専門人材の確保などの保障がないからではありませんか。
 結局、今回の新中核市は、必要な人的、財政的な裏づけがなされないまま、事務・権限移譲のための新たな受け皿づくりにならざるを得ないのではありませんか。
 こうした一方的、機械的な権限移譲ではなく、広域的な自治体である都道府県の役割、機能の発揮こそ、求められているのではありませんか。
 第三は、大都市制度の問題です。
 指定都市制度のもとで、大都市における住宅問題や交通問題、貧困や福祉、教育など、大都市特有の問題の解決が求められてきました。
 ところが、国が行ってきたことは、指定都市の人口要件を引き下げて、周辺市町村との合併を促すことでした。結果として、大都市といいながら、過疎地域をも含めた、いびつな巨大自治体をつくり出してきたのであります。そのもとで、行政は、主権者である住民からどんどん遠くなり、都市が抱える問題を解決する住民自治の力を弱めてきたのであります。
 この問題を、総理はどのように認識していますか。指定都市において、住民自治を強化するための具体的な方策が必要ではありませんか。
 今回の改正案は、指定都市と都道府県の事務処理を調整するために指定都市都道府県調整会議を設けるとしていますが、住民代表を加えることは、最低限必要だとは考えないのですか。
 以上、地方自治の現状を踏まえた真摯な答弁を求め、私の質問を終わります。(拍手)
    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 塩川鉄也議員にお答えをいたします。
 市町村合併に関する評価についてのお尋ねがありました。
 東日本大震災で被災した合併市町村においては、被害が甚大過ぎたために十分な対応ができなかったとしている自治体がある一方で、合併による災害への対応力向上によって、有効に対処がなされたとされている例もあると承知しています。
 平成の合併について、市町村の規模が拡大したことにより、行財政基盤の強化が図られるという効果が認められる一方で、住民の声が届きにくくなったとの課題も指摘されています。
 今後、合併をした市町村が一体感を醸成するような努力を続け、名実ともに一つの自治体となっていくことにより、市町村合併の効果がさらにあらわれてくるものと考えております。
 道州制についてお尋ねがありました。
 道州制の導入は、国のあり方を根底から見直す大きな改革であり、その検討に当たっては、当事者である地方自治体の声も聞きながら、国民的な議論を深めていく必要があると考えます。
 現在、与党において、道州制に関する基本法案について、地方団体とも丁寧に意見交換を重ねるなど、精力的に議論を行っており、今後、政府としても、連携を深めて、取り組んでまいります。
 指定都市における住民自治の拡充についてお尋ねがありました。
 指定都市は、基礎自治体であるにもかかわらず、人口規模が都道府県並みに大きいことから、合併によるもののみならず、全ての指定都市において、住民自治の強化は共通する課題であると認識しています。
 今回の地方自治法改正案は、指定都市制度について、区の役割の拡充など、住民自治の強化に資する見直しを行うものであります。
 残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
    〔国務大臣新藤義孝君登壇〕

○国務大臣(新藤義孝君) 塩川議員から、五点のお尋ねをいただいております。
 まず、権限移譲に伴う人的、財政的な措置についてのお尋ねであります。
 これまでの基礎自治体への権限移譲に際しては、地方公共団体において専門性を確保し、移譲された事務、権限が円滑に執行できるよう、都道府県等と連携し、技術的な助言や職員の研修、派遣等の支援を行うとともに、移譲に伴う財源措置についても、地方交付税等により確実な財源措置を講じているところであります。
 今国会に提出した第四次一括法案による事務、権限の移譲におきましても、昨年十二月に閣議決定した見直し方針を踏まえ、住民サービスの低下につながらないよう、引き続き、適切な人的、財政的な対応を行い、着実な地方分権改革を進めてまいります。
 次に、中核市制度と特例市制度の統合の目的についてのお尋ねをいただきました。
 中核市制度と特例市制度は、市町村への権限移譲を規模、能力に応じて段階的に進めるため設けられたものであり、今回の改正は、これまでの特例市の実績を踏まえ、中核市の権限を十分に行使できると判断したことから、人口二十万以上の市に権限移譲を進めることとしたものです。
 今回の見直しにより、人口減少社会において、人々の暮らしを支え、地域経済を牽引していく核となる都市の形成に資するものと考えています。
 次に、都道府県の役割、機能についてのお尋ねをいただきました。
 都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、地域における事務等のうち、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの等を処理する役割を担うものであります。
 第三十次地方制度調査会答申においては、都市機能が集積した都市から相当離れていること等の理由から市町村間の広域連携によることが困難な場合には、都道府県による補完により対応することも選択肢の一つであると指摘されているところであります。
 本法案により創設する連携協約や事務の代替執行の制度は、このような都道府県の役割を果たすための有力な手段となるものと期待をしております。
 次に、指定都市における住民自治を強化するための方策についてお尋ねをいただきました。
 今回の地方自治法改正案により、指定都市における住民自治を強化するため、区の役割を強化することとしており、具体的には、区の事務所が分掌する事務を条例で定めることとする、区にかえて総合区を設け、議会の同意を得て選任される総合区長を置くことができることとしています。
 これにより、住民に身近な行政サービスの強化が図られるものと期待をしております。
 最後に、指定都市都道府県調整会議の構成員についてのお尋ねをいただきました。
 この会議は、指定都市と都道府県の二重行政の問題を解消し、事務処理に必要な協議を行うものであるため、市長と知事を最低限必要な構成員とし、地域の判断により、住民の代表としての議会の代表者や学識経験を有する者等を加えることができることとしたところであります。
 具体的な人選については、それぞれの地域で適切に判断すべきものと考えております。
 以上です。(拍手)
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