【「しんぶん赤旗」掲載】行政のデジタル化は何をもたらすか/塩川鉄也衆院議員に聞く(4)

「しんぶん赤旗」12月11日付・8面より

自治体を鋳型に収め

 ▶菅首相は、システムの統一・標準化を行うと言っていますが、どういうことでしょうか。

 デジタル化による行政サービスのシステムの統一・標準化は、重大な問題です。

 菅首相は、「2025年度末までに自治体の業務システムの統一・標準化を目指す」と述べています。現在、政府は、地方自治体のデジタル化を進めるために、複数の自治体の情報システムを集約し共同利用し標準化する「自治体クラウド」(※↓)の導入を推進しています。

標準化強要しサービス抑制

富山県上市町の事例をあげて行政手続きを原則オンライン化するデジタル手続き法案の問題点をただす塩川議員=2019年4月26日、衆院内閣委

 富山県上市町では、日本共産党町議の「3人目の子どもの国保税免除、65歳以上の重度障害者の医療費窓口負担免除」との提案に対し、町長が「自治体クラウドを採用しており、町独自のシステムのカスタマイズ(仕様変更)はできない」と答弁しています。「自治体クラウド」によって、「システムに行政の仕事内容を合わせる」ことが目的となり、自治体独自のサービスは抑制されているということです。

 システムの統一で情報共有がしやすくするともいっていますが、実際には情報抑制になりかねません。例えば、コロナ感染情報の公表について、内閣官房のIT総合戦略室が統一化を図ろうと、東京都のコロナ情報サイトのシステムを各道府県に押し付けましたが、公開情報が少ない東京がモデルのため、各道府県は別サイトでも情報を公開しています。一方で、「個人保護条例が厳しい自治体があるため、政府のシステムに乗らない」といって、条例の統一化も狙っています。

 このような自治体への統一・標準化の押し付けは、サービス低下を引き起こし、地方自治の多様性をなくし、自治体の自立性を失わせます。これは、「住民の福祉の増進を図ることを基本」とした地方自治体の住民自治・団体自治を侵害するものです。

 また、標準化の問題でいうと、引っ越しや死亡の際、民間を含め、複数の手続き・サービスを一括で実現させるコネクテッド・ワンストップを政府が進めています。しかし、決められたメニューから利用者がサービスを選ぶことになるので、選択肢が減ることになり、一概に利便性が向上するとは言えないのではないでしょうか。

 行政サービスの統一・標準化が引き起こすのは、官邸・デジタル庁がつくった鋳型にぴったりと収まるものでしか、サービスは受けられないということです。結果として、行政サービスは抑制的になりかねず、「自己責任」を押し付けることになります。

国会審議なし強力な支配も

 さらに、行政のデジタル化を急ピッチで進めることも問題です。デジタル庁をはじめとして、政府のデジタル化をどのような機能・権限を構築していくのか、設計の段階が重要です。

 特にデジタル技術は強力な支配をもたらすことが指摘されています。例えば、デジタルコンテンツの違法コピーを防止するには、複製を不可能とするプログラムをメディアに埋め込めばいいとなり、著作権法は実質不要となります。しかし、複製を拒むプログラムは、著作権法上合法な私的複製まで不可能にするということです。結局、国会審議を通じて行われる立法過程を飛ばして、システム設計によって、法的に認められている権利まで制約する、法を超えることを可能にするということです。

 拙速なデジタル庁創設ではなく、国民に開かれた形で、立法府が関与する必要があることは言うまでもありません。

※自治体クラウド=複数の自治体の行政に関するデータを、データセンター内にて管理・運用し、システムを共同利用すること。

(つづく)