【「しんぶん赤旗」掲載】デジタル関連法案/国民には“害”しかない

「しんぶん赤旗」3月20日・3面より

企業利益にデータ活用/個人情報漏えいの恐れ/地方自治への介入招く/低下する住民サービス

 菅義偉首相肝いりのデジタル関連法案の問題点が早くも浮き彫りになっています。財界の求める個人データの「利活用」推進を優先し、住民サービスの低下や地方自治への介入、個人情報保護体制の後退などを招く内容です。

●拙速対応が際立つ
 今回のデジタル関連法案は、デジタル社会形成基本法案、デジタル庁設置法案など大きく6本あり、その中の整備法案に59本の法改定案を詰め込むなど膨大な内容です。

 衆院内閣委員会付託の5法案には関係資料に45カ所もの誤りが見つかり、国会と国民への報告が放置されていたことも判明しました。菅内閣の看板政策として拙速な対応の結果であり、国会での審議と国民的な議論を軽んじる対応が際立っています。徹底審議こそ求められています。

●対面サービス後退

質問する塩川鉄也衆院議員=17日、衆院内閣委員会

 菅首相は行政のデジタル化で「住民サービスの向上を徹底していく」と述べてきました。しかし、デジタル申請のみとした持続化給付金などでは支援を受けられない事業者が多数生まれました。自治体を含め、デジタル化を口実に窓口を減らしたり、紙の手続きを取りやめ、対面サービスを後退させる事例が相次いでいます。

 日本共産党の塩川鉄也議員が9日の衆院本会議で、手続きの簡便化にデジタル化を生かすとともに、住民の多面的な行政ニーズに応える対面サービスを拡充し、住民の選択肢を増やしてこそ利便性の向上につながるのではないかと迫ったのに対して、菅首相は「デジタル化による効率化で真に必要な窓口業務等に職員を振り向ける」などと述べました。

 その一方、総務省幹部はデジタル化で「無人窓口も実現可能なのではないか」(『月刊地方自治』昨年8月号)と主張。基本法案は、自治体に対しても行政サービスのデジタル化施策を「責務」とするなど2019年成立のデジタル手続き法より踏み込んだ内容となっています。

●独自施策を抑える
 基本法案では、国と自治体の「情報システムの共同化・集約の推進」を掲げ、国が整備するガバメントクラウド(別項)を全省庁だけでなく、全国の自治体にも使わせようとしています。これは、自治体の業務内容を国のシステムに合わせていく問題を引き起こし、地方自治を侵害する恐れがあります。

 現に複数自治体が共同で使っている「自治体クラウド」を利用している富山県上市町では、町議の「3人目の子どもの国保税免除、65歳以上の重度障害者の医療費窓口負担免除」との提案に対し、町長が「自治体クラウドを採用しており、町独自のシステムのカスタマイズ(仕様変更)はできない」と答弁しています。

 滋賀県湖南市では、市議会で市長が、事務については無理にカスタマイズするよりは簡素化を図って業務を減らしていくことも大事だと答弁。同県甲賀市でも、市当局が、自治体クラウドの標準パッケージからのカスタマイズは、大きなコストが発生すると受け入れませんでした。

 衆院内閣委員会で平井卓也デジタル改革担当相は、「自治体の政策判断を制約するものではない」と答弁していますが、政府は昨年「カスタマイズを無くすことが重要」とした方針を閣議決定しており、カスタマイズを抑えた自治体に助成金を出す仕組みまでつくっています。

●コントロール権を
 「何のためのデジタル改革」かが問題です。菅政権はデータが競争力の源泉であり、政府・自治体などの行政機関は国内最大の「データホルダー(保有者)」だとして行政のデジタル化で個人データの利活用を進めるために、今回の関連法案の成立を狙っています。

 データ利活用の手段となるのが国・自治体のシステムの集約・共同化とマイナンバー制度の拡大です。

 国と自治体の行政システムが置かれることになるガバメントクラウドは、デジタル庁が統括・監理します。政府は、データを所管する行政機関以外はそのデータにはアクセスできないとして、デジタル庁職員が全てのデータにアクセスできるわけではないと答弁していますが、法的な根拠を示していません。ガバメントクラウドの設計は検討中だとされており、まったく不透明です。

 また、政府が運営しているウェブサイト「マイナポータル」では行政だけでなく民間サービスも含めて情報連携を進めています。マイナポータルを通じて、個人の所得、資産、医療、教育などの膨大なデータを集積しようとしています。

 さらに、基本法案の基本理念に、「個人情報保護」の文言がないことが重大です。いま、対話アプリLINEの利用者情報が中国の委託企業で閲覧できる状態だったことが発覚し、本人同意のあり方が問われています。

 個人情報は個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきであり、プライバシー権は憲法が保障する基本的人権です。情報の自己コントロール権を保障する仕組みこそ求められています。

 15年の改悪で、個人情報保護法は、いわば「ビッグデータ利活用法」に変えられました。今回はさらに利活用の方向性を強めようとしています。自治体独自の条例や制度に縛りがかけられ、個人情報保護よりも、データの利活用を優先する仕組みになり、個人情報保護を求める住民に応えた自治体独自の取り組みを掘り崩すものです。

●新たな官民癒着に
 デジタル庁は、各行政機関への勧告権をもつ、データの利活用を推進する司令塔です。政府全体のデジタル化に関する重要な基本方針を策定し、施策の達成時期を定める重点計画の作成を担い、国の省庁にとどまらず、補助金を出している自治体、医療機関、教育機関といった準公共部門に対しても、予算配分やシステムの運用について口を挟むことができるようになります。

 同庁は発足時の人員約500人のうち100人以上を民間出身者とし、事務方トップの「デジタル監」にも民間出身者の就任を想定。民間企業在籍者による兼業やテレワークも可能とされています。

 デジタル庁の母体となる内閣官房IT総合戦略室で、民間企業在籍者が非常勤職員として勤務をしていること、デジタル関連の委託事業で随意契約などが横行し、不透明な契約であることが問題となってきました。デジタル庁では、特定企業の利益を優先するような政策の推進や特定企業に都合のよいルールづくり・予算執行など新たな官民癒着が広がる恐れがあります。

【ガバメントクラウドとは】
 クラウドとは、ソフトウエアやデータなどをインターネット上におき、さまざまな場所にある機器から活用する方法。ガバメントクラウドとは、「政府の情報システムについて、共通的な基盤・機能を提供する複数のクラウドサービスの利用環境」とされています。