【内閣委員会】警察の交通事故負傷者数統計/実態と乖離/交通安全政策の信頼性損なう

 警察の交通事故統計の負傷者数が実態と乖離している問題を追及しました。

 交通事故に関する統計は、警察庁による交通事故統計と、損害保険料率算出機構による自賠責保険の統計の二つがあります。(下図・クリックで拡大)

 死亡者数は継続してほぼ一致していますが、負傷者数は06年以降乖離が大きくなり、19年には自賠責保険約106万に対し、警察統計は約46万と半分以下になっています。

 乖離が生じているのはなぜかと質問。

 警察庁高木勇人交通局長は「自賠責保険では、人身事故として警察に届出がなされなかったものでも、実際に負傷したことが確認できれば支払いを行うため」と答弁。

 私は、負傷者数の実態を反映しているのは警察の統計ではなく、自賠責の統計だと事実上認めるものだと追及。

 内閣府難波健太大臣官房審議官は「指摘は承知している」として、最新の交通安全基本計画では、目標を「死傷者数」から「重症者数」に変更したと答えました。

 私は、これまでの警察統計の検証が必要だと強調。交通安全基本計画で初めて死傷者数の目標を立てて以降乖離が生じており、交通事故犯罪に詳しい青野渉弁護士が「警察が人身事故扱いを回避しようとしている」と告発していることに触れ、政府目標達成のために交通事故統計を意図的に操作したのではないかという疑念がある。これに基づいて作成された交通安全政策の信頼性を損なうものだと批判しました。

 小此木八郎国家公安委員長は、乖離が生じている背景について「把握に努めるよう警察を指導する」と検証する考えを示しました。

 私の質問に対し、交通安全問題に取り組む市民団体からは「取り上げていただき感謝申し上げる。現実と乖離すると、科学的な評価や政策提言に大きな負の影響を与える」との声がよせられました。


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「議事録」

<第204通常国会 2021年6月4日 内閣委員会 第30号>

○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 銃刀法改正案について質問します。
 法令改正に基づくクロスボウの所持禁止や許可制の導入、経過期間における措置等については、是非積極的な広報啓発に努めていただきたいと思いますし、国民の皆さんに十分に周知することが非常に重要だと考えております。どのように取り組むお考えか、この点についてお聞かせください。
○小此木国務大臣 改めまして、改正法において、クロスボウによる危害の防止を図るため、クロスボウの所持許可制の導入等の措置を講ずることとしておりますが、改正法の円滑な施行を図るためには、まずもって国民の方々への改正内容の周知を図ることが必要と認識しております。
 警察においては、改正法の公布後速やかに、広く国民に対し、ホームページ、SNS、ポスター等により、今回の法改正によってクロスボウの所持が原則禁止され許可制となること等を周知すること、現にクロスボウを所持している方に対し、業界団体等からも協力を得て、施行日から六か月以内に許可の申請や廃棄等の処分をするよう呼びかけることとしており、円滑な施行に向け警察を指導してまいりたいと存じます。
 また、クロスボウの廃棄に当たっては、警察に持ち込んでいただければ無償で廃棄を行うこととする予定であり、この点もしっかり周知するよう警察を指導してまいります。
○塩川委員 クロスボウを実際に入手する経路というのは、多くはインターネット上とされております。このインターネット上の取引の取締り、監視をどうしていくのか、クロスボウの輸入に係る審査、検査体制の強化が必要ではないか、この点について御説明をいただきたい。
○小此木国務大臣 インターネットを通じたクロスボウの入手が多い中、インターネット上の不正流通をいかに防ぐかは重要な点であると考えています。
 まず、今回の改正においては、クロスボウの不正な流通を防止するため、クロスボウを販売する者は、クロスボウを購入しようとする者から所持許可証の提示を受けた後でなければクロスボウを譲り渡してはならないとしております。警察としては、このような規制の実効性を確保するため、サイバーパトロールあるいは一般の方々からの情報提供を通じ、インターネット上で違法な取引が行われていないか、不断の状況把握に努め、違法な取引が認められれば厳正な取締りを行うこととしております。
 また、クロスボウの輸入に関しては、改正法の施行後、クロスボウを輸入しようとする者は、関税法により、税関に対し所持許可証等クロスボウを適法に所持することができる者であることを証明する書類を提示しなければ輸入が許可されないこととなります。
 クロスボウの違法な流通の阻止を図るため、税関等の関係機関との連携を一層強化するよう警察を指導してまいります。
○塩川委員 しっかりとした対応を求めたいと思います。
 関連して、警察行政の信頼性の問題についてお尋ねをいたします。道路交通の人身事故統計の負傷者数が実態と大きく乖離しているのではないかという問題であります。
 資料をお配りいたしました。警察と自賠責の交通事故統計ということで、死亡の場合と負傷の場合とのグラフを出してあります。
 交通事故統計について見た場合に、青が自賠責で、赤が警察庁の統計ですけれども、左側の死亡の方を御覧いただきますように、ほぼ一致しています。左下に注記があるように、警察庁と損害保険料率算出機構のそれぞれの数字というのは、暦年、会計年度の違いも含めて若干の差異は当然ありますけれども、死亡の例を見ていただきますように、ほぼ対応しているわけです。ですから、同じようなカウントをされているということはここで見ていただけると思うんです。
 一方、右側の負傷の事例を見ますと、二〇〇六年ぐらいまでは大体同じような傾向であったわけです。二〇〇六年では、自賠責の百十九万に対して警察の方は百十万、九万の開きだったのが、二〇〇七年以降大きく乖離をして、二〇一三年ぐらいですと、自賠責が百二十六万に対して警察が七十八万、四十八万の開きがあります。さらに、直近の二〇一九年で見ると、自賠責が百六万で警察の方が四十六万、その差が六十万にも開いております。
 このように、交通事故統計の負傷者数は大幅に減少し五十万人以下にもなっておりますが、一方で自賠責の数字は百十万前後ということで、このような統計数値の大きな乖離が生じているのはなぜなのかについて御説明いただきたい。
○高木政府参考人 警察庁の交通事故統計では、令和元年度中の自動車等による交通事故負傷者数は四十三万一千四十六人でありました。
 一方、自動車損害賠償責任保険、いわゆる自賠責保険は、自動車等の運行によって人の生命又は身体が害された場合に交通事故の被害者等に支払われる保険であると承知しておりますけれども、令和元年度中の傷害による損害への自賠責保険支払い件数は、損害保険料率算出機構が公表している統計によれば、百一万八千二百七十四件となっております。
 警察の交通事故統計におきましては、交通事故によって被害者が負傷したことが認定できたものを負傷者数として計上しているのに対し、自賠責保険の支払い件数については、損害保険料率算出機構の資料によれば、人身事故だけでなく物件事故として警察に届出がなされたものなどを含め、保険金を支払った件数が集計されているものと承知をしております。
 また、同資料によれば、交通事故が発生した場合、基本的には、人身事故又は物件事故として警察に届出がなされるところ、自賠責保険では、人身事故として警察に届出がなされなかったものであっても、実際に負傷が確認された場合には支払いを行うことが必要であり、近年、このような支払いの占める割合が増加しているとのことでありまして、このような統計数値の集計上の違い及び自賠責保険の支払いの動向のため、統計数値の差が大きくなっているものと考えております。
○塩川委員 ですから、自賠責の場合であれば、実際に負傷していればこういった形での請求も行う、それで支払いが出るわけですから、実質的にはこちらの方が負傷者に対応する数字として見て取る数字だろうと思うんです。それが警察の場合には、人身事故として届け出られればそうだけれども、物件事故のところは含まないとなっていますから、今の答弁にあったように、自賠責の場合には、物件事故の場合であっても、負傷している場合については支払いを行うわけですから、負傷者数をカウントするのであれば、その実態は自賠責の支払い件数で見るのが実態に近い、実態を反映をしているということが言えると思います。
 こういうのは、政府の第十一次交通安全基本計画の策定に当たってのパブリックコメントでも、加藤久道氏の著作なども紹介をして、政府統計が、二〇〇七年以降、実際の人身事故の一部を統計に加えず、隠れ人身事故をもたらしているのではないかと指摘をしております。
 今回の、四月からスタートしています新しい基本計画についての専門委員会議が昨年も行われておりますけれども、その資料でも、「軽傷者数について、自動車損害賠償責任保険審議会において、人身事故として警察に届出がなされなかったものであっても、実際負傷したことが確認された場合、自賠責の保険金支払いを行っており、近年、このような支払いが増加している、との指摘がある。」今答弁した中身と同じですけれども、という指摘であります。
 つまり、負傷者数については、自賠責保険の支払い件数の方が実態を反映しており、警察の交通事故統計は実態を反映していないのではないのか。ですから、本当は負傷者数はこんなに大きく減っていないんじゃないのか。この点についてはどうですか。
○高木政府参考人 警察におきましては、交通事故発生時に負傷が認められず物件事故として届出があったものにつきましても、事故当事者に対して、後日負傷が判明した場合には警察に届け出るよう必要に応じて教示するなど、適正な交通事故の取扱いに努めているところでございます。
 また、人身事故として認定するに当たっては、医師の診断に基づいて傷害の程度を判断するなど、正確性の確保に努めているところでございます。
○塩川委員 診断書のあるなしという話をするんですけれども、実際に、自賠責での支払いというのは、そういう実態を反映して、負傷しているということで行われているわけですから、こんなに開きがあるのはどう考えてもおかしいんですよ。大臣はそれをおかしいと思いませんか。こういったことについて大きな乖離がある。
 現状は、この警察の統計を使って、基本計画に基づく死傷者数の減少とかの目標をカウントしているわけです。そうしますと、こういう乖離を承知しながら政府の目標が達成していると本当に言えるのか、こういったことも問われるわけで、率直にこういったことについて何らの検証もしないでいいのかということが問われるんですが。
 この点、じゃ、内閣府、まずどうですか。
○難波政府参考人 お答えします。
 人身事故として警察に届出がなされなかったものであっても、実際に負傷したことが確認された場合、自賠責の保険金が支払われている、近年このような支払い件数が増加しているという御指摘については承知をしております。
 交通安全基本計画を策定するに当たりまして、内閣府では、道路交通分野の統計としては、これまで警察庁のものを用いております。
 本年三月に決定した第十一次計画における目標値の設定におきましては、従来用いておりました死傷者数に代えまして、命に関わり優先度が高いと考えられます重傷者数に関する目標値を設定することとしたところでございます。
 新しい交通安全基本計画の下で、関係省庁と緊密に連携を図りながらしっかりと取り組んでまいりたいと存じます。
○塩川委員 人身事故でなくても、実際に負傷している場合については自賠責の支払いをしているということですから、負傷者数のカウントは自賠責の方が実態に合っているということを認めているということですよね。そういう延長線上で、今度の計画は目標そのものを変えちゃったわけですよ。死者と負傷者を足した死傷者数はもうやめちゃって、重傷者数ということに置き換えるということなんです。
 これはこれで、もちろん障害を残すような場合も当然ありますから、こういうのを少なくしていくというのを目標で掲げるというのは道理のあることだと思いますけれども、これまでのこの死傷者数の削減という政府の目標の基礎的な統計となっている警察の負傷者数が余りにも実態と乖離しているのでないかという問題については、これはしっかりと検証することが必要だと思います。
 その点で、警察庁として、警察官が被害者に診断書を提出しないように勧め、人身事故扱いしないケースが増えているんじゃないのか、こういう指摘もあるんですが、この点についてはどうですか。
○高木政府参考人 警察におきましては、交通事故発生時において、交通事故当事者の身体に交通事故に起因する明らかな負傷が認められた場合はもとよりでありますけれども、明らかな負傷はないものの、事故の状況や当事者の言動等から負傷のおそれがあると認められる場合には、人身事故としての捜査を行うべく、当事者に対して負傷の有無を確認を行い、診断書の提出の協力を求めるなど、適正な捜査による事案の解明に努めているところでございます。
○塩川委員 実態をお聞きすると、交通犯罪に詳しい弁護士の青野渉氏によりますと、警察署の交通事故対応として、被害者から警察に診断書が提出されると人身事故の扱いになるが、診断書が提出されなければ物件事故として扱われるということで、最近は、警察官が診断書を提出しないように被害者に促すことが多いという。負傷した被害者に対し、診断書を出すなら事情聴取があるので、警察署に来て事情聴取に対応してもらいますとか、警察で人身事故扱いしなくても交通事故証明書は出ますし、自動車保険は出ますよとか、相手を処罰したいわけではないでしょうとか、診断書を出すとデメリットがあり、診断書を出さなくてもデメリットがないかのような説明をしているということであります。
 小此木国家公安委員長にお尋ねします。
 被害者は、軽傷であれば、わざわざ仕事を休んで警察署まで出向きたいと思う被害者は少ないし、自動車保険も支払われることが通常ですから、あえて人身事故扱いしなくてもデメリットはないことが多い。その結果、警察統計上の人身事故の負傷者数が激減している。しかし、こういう数字をもって政府の計画の政策目標の基本的な統計に使っているということは大きな問題があったということではありませんか。
○小此木国務大臣 警察において適正な捜査による事案の解明に努めているところでありまして、交通安全基本計画における死傷者数の削減目標に合わせるために人身事故としての取扱いを回避するなどということはありません。
 もとより、交通事故を認知した場合には、適切に捜査を行って事案を解明し、その結果を交通事故統計に正確に反映させるべきことは当然であると考えています。
 一方で、自賠責保険の支払いに当たっては、例えば、軽微な負傷が後日判明したような場合には、保険会社等において、交通事故に遭われた方の手続的な負担にも配慮して、警察への人身事故の届出がなされていなくても保険の支払いが行われるケースが増えているとも聞いております。警察の交通事故統計と自賠責保険の支払い件数に差が生じてきた理由については、このような自賠責保険の支払いの動向によるものと考えられますが、具体的にはどのような背景があるのか、関係省庁とも連携して把握に努めるよう警察には指導してまいります。
 いずれにしても、交通事故捜査を適正に行うとともに、交通事故の実態をしっかりと把握、分析し、交通事故のない社会を目指してまいりたいと存じます。
○塩川委員 是非検証してもらいたいと思います。
 そういう点で、何で人身事故扱いを警察が回避しようとするのかという点について、青野弁護士は、一つは、人身事故に係る膨大な書類作成事務を軽減したいんじゃないか、二つ目には、検察庁が軽傷の事案は不起訴にするため、わざわざ労力をかけて捜査する手間を省きたいとか、三つ目には、統計上の数値を下げることが政府目標達成につながるからではないかと指摘をしております。
 これまで交通安全基本計画では、以前から死者数削減の目標を立ててきましたが、二〇〇六年の第八次交通安全基本計画で初めて死傷者数の削減目標を立てました。死傷者数を百万人以下にするということだった。その目標の立て方自身は必要なことだと思いますけれども、この死傷者数の目標を立てたのが二〇〇六年で、そのため、二〇〇七年以降、目標に合わせるように負傷者数が減少していき、自賠責の傷害件数と大きく乖離するようになったのは、冒頭で紹介したグラフで見ていただいたとおりであります。
 つまり、警察が、このような政府の基本計画の死傷者数の削減目標に合わせて人身事故を回避する、こういう対応を取るようになっていたのではないのか。この点について、内閣府、警察庁の認識をただしたい。
○難波政府参考人 目標設定の考え方について御説明を申し上げます。
 第八次の計画の策定当時、交通事故の発生件数、負傷者数は増加の一途をたどっておりまして、平成十六年には、発生件数が九十五万二千七百二十件、負傷者数は百十八万三千六百十七人と過去最悪を記録したところでございます。
 そういった状況に鑑みまして、交通事故そのものの減少、また死傷者数の減少にも一層積極的に取り組むといった観点から、死傷者数について目標値を設定するということにしたところでございます。
○高木政府参考人 先ほど申し上げましたとおり、警察におきましては、適正な捜査による事案の解明に努めているところでありまして、御指摘のような、交通安全基本計画における死傷者数の削減目標に合わせるために交通事故事件捜査において人身事故としての取扱いを回避するというような対応は行っていないところでございます。
○塩川委員 まあ、やっていないからやっていませんという話だけでは納得いかないわけで、大臣、検証するとおっしゃいましたので、是非やっていただきたい。
 この交通事故統計を意図的に操作したんじゃないかという疑念が湧く話ですので、警察庁の対応は法律違反のおそれがある。事故の捜査結果に納得できない被害者にとって大きな不利益となる問題であり、誤った統計に基づいて作成された政府の交通安全政策の信頼性を損なうものだ。徹底した検証、総括を求めて、質問を終わります。