米国を除く11力国の環太平洋連携協定(TPP11)の関連法案について参考人質疑が行われ、政府の作成したTPPの影響試算の評価について質問しました。
鈴木宣弘東大教授は「影響試算は、これだけの影響が出るからこれだけの対策が必要だという順序で進めなければいけない。政府の試算は“影響がないように対策するから影響がない”と計算している。対策を検討するための試算になりえない」と指摘しました。
わたしはまた、TPP11で多国籍企業が投資先国を提訴するISDS条項など22の「有害条項」が「凍結」された効果を尋ねました。
NPO法人アジア太平洋資料センターの内田聖子共同代表は「有害条項は22条項以外にも、食の安全や金融サービス等、非常に多くある。TPPの危険性は基本的に変わっていない」と答えました。
わたしは、そもそもTPPはなんのために行われるのか?として、日米のグローバル企業の利益追求のためではないかと聞きました。
鈴木教授は「ご指摘の通り、アメリカのグローバル企業が自分たちがもうけられるルールをアジア・太平洋地域に広げたい、これが端的なTPPの本質だ。日本のグローバル企業にとっても同じこと。アジアで直接投資を展開できる。グローバル企業の利益は増えるが、現地の人は安く働かされる。国内の人々は安い賃金で働くか失業する」と説明しました。
「議事録」
第196通常国会 2018年05月17日 内閣委員会 17号>
○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
参考人の皆様には、私どもの視野を広げ、また、それぞれの課題を掘り下げる貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。
最初に中川参考人に、TPP11における凍結項目について、なぜ凍結をされたのかについてお尋ねをいたします。
ISDSの対象を絞り込むことや政府調達に係る労働条件など、米国が強く要求し日本も同調したものの一部が凍結をされたと述べておられましたが、このような凍結項目が決められたのは参加国のどんな事情があったのか、お願いします。
○中川参考人 お答えいたします。
TPP11の交渉プロセスについては、情報が十分公開されておりませんので、私、その間の個々の項目が決まった事情については、率直に申し上げて通じておりません。
今から申し上げるのは推測でありますけれども、郵便独占に係る急送便サービスの義務でISDS、これはISDSでやはり投資受入れ国として訴えられることを想定して、それは嫌だという抵抗感というのはあるわけですね。
日本の立場としては、特に、世界じゅうでグローバルに投資を展開するということでありますので、投資受入れ国で、ISDSがなければ、受入れ国の国内裁判所で紛争を解決してもらうということになるわけですけれども、投資受入れ国の国内裁判所が果たして中立公正な判断をしてもらえるかどうかということに対する懸念もあるということで、アメリカと同調してISDSを主張したわけであります。これに対して、受入れ国として抵抗があったということだろうと承知しております。
知的財産権関係のルール分野は多いと思いますけれども、これはかなりアメリカが主張し、また、日本もそれに同調して高水準の知的財産権保護を主張したわけですから、現行法から見て、受け入れるためにはたくさんの法律改正をしなければいけない国というのが、先進国であるニュージーランドを含めてTPP11の締約国の中にありましたので、それを少し猶予してほしいということだったんだろうと理解しております。
○塩川委員 ISDSや知的財産権の関係についてのお話がありました。
内田参考人にお尋ねをいたします。
TPP11における二十二の凍結項目について、内田参考人が、TPPの有害条項の代表格と述べておられます。今お話も出ましたけれども、知的財産権の規定も多数あるわけですし、ISDSの問題もあります。
では、TPP11で有害性が除去されたと言えるのかということと、当然、国内法整備との関係でも問題はないのかということがあるわけですが、この点で、知的財産権、医薬品の特許関係についてお考えのところをまずお聞かせいただけないでしょうか。
○内田参考人 ありがとうございます。
まず、凍結項目について、二十二に絞られたわけですが、その背景には多数あったと思います。
プロセスは私も承知しておりませんが、途上国側、新興国側からすれば、とりわけ医薬品の特許関連、これに関しては、交渉の時点から非常に反対の声が強くありました。大筋合意をした二〇一五年十月のアトランタでの交渉、私も現場に毎回行っていますのでおりましたが、ここで最後の最後までもめ込んだのが、バイオ医薬品という、新しい生物製剤、医薬品の特許をめぐる規定でした。
なぜ、これに途上国、新興国は反対するのかといえば、これはとてもシンプルです。命にかかわるからです。途上国では、アメリカの製薬会社が要求するレベルで特許権を強化してしまえば、もちろん、国内法を変えるとかそういうテクニカルな問題はたくさんあったんですが、受け入れられない理由はそうではありません。それが自国の国民の命に直結する問題だからです。
今、どのメガFTAであれ、二国間であれ、この知的財産、とりわけ医薬品の特許をめぐる問題というのは大変な対立を生み出しているマターです。RCEPでもそうです。
私、きょう、資料の中で、一番最後のページに、十五ページに写真をつけさせていただきました。これは、RCEP交渉、昨年の七月にインドのハイデラバードで行われたときに私も行きましたけれども、これはTPPと関係ないじゃないかと思われるかもしれませんが、関係あるんです。
日本政府及び韓国政府は、RCEPの中でも、TPPと同じようなレベルの特許権保護、つまり、WTOのTRIPs協定というものがありまして、それよりももっと保護強化をしよう、つまり、医薬品会社の利益をもっと高めよう、そういうWTOより以上のものを提案しているということがリーク文書でわかりつつあります。このことにインドの人々は非常に抵抗していて、ちょっとショッキングなバナーですけれども、日本と韓国は人々の命をもてあそぶな、こういう厳しい批判というものもあります。
ですから、こういう形で、ルールを高めたという、企業側からすれば利益なのでしょうが、一方、それは、公衆衛生とかさまざまな公共政策、それから気候変動への対応など、いわゆる国際市民社会が重要としている価値とは非常に対立的になっているということがありますので、日本としては、このあたりを、TPPがいいんだというだけでは、やはり他のアジアの国々、世界の人々に対しての責任という観点からは非常に問題があると思っております。
○塩川委員 そういう意味でも、非常に命にかかわる問題だということで、極めて重要、重大だと思います。
その点で、いや、そうはいっても、この有害条項は凍結しているんだという話があるんですけれども、それが本当にそうなのか、その点についてはどうでしょうか。
○内田参考人 済みません、簡潔に。
まず、有害条項と評したのは、今言ったような、その国々の公共政策だとか公衆衛生だとか人権とか、それから環境保護政策、こういうものにとって有害だという条項という意味です。これは、二十二の条項以外にも、私からすれば、まだ多数、TPPの中にはあります。逆に言えば、たった二十二個しか凍結されなかったのかというふうに思っております。
ですから、仮に二十二が凍結されたとしても、先ほど来あるような食の安全のものだとか、それから金融のサービス、国有企業等々、まだまだ我々からすれば問題な条項というのが非常に多く埋め込まれております。ですから、このTPPの危険性というのは、若干は解消されたけれども、基本的には変わっていないというふうに思っております。
〔委員長退席、石原(宏)委員長代理着席〕
○塩川委員 続けて内田参考人にお聞きしたいのはISDSの件ですけれども、先ほど、EUはISDSを否定したという話もありました。
TPP11で、先ほども出た凍結項目としてISDSの話も出てくるわけですけれども、TPP11において、ISDS条項のいわば危険性というのは払拭されたのかということについてお聞かせいただけないでしょうか。
○内田参考人 ISDSは、現時点で累積して、特に九〇年代、二〇〇〇年以降、約七百六十件ほど、世界じゅうでさまざまなケースがあります。そのほとんどは、先進国政府の企業が途上国政府を訴えるという構図が基本的なパターンであります。
ですから、TPPの中では、先ほど中川参考人からもあったように、主に途上国、新興国の政府がやはり提訴の危険というものを重々わかっているわけですね、みんな。ですから、凍結として要求したのだろうと思っております。
その意味では、私は、凍結項目におけるISDSの、一部の縮小ですけれども、これは、途上国政府がやはり辛うじてTPPの中で奪い返したぎりぎりの線だったんだろうと思っております。
日本にとってはどうかといえば、特段の変化はありません。これは、たしか凍結の中で、投資の定義というところで中央政府というところに限っていたと思いますけれども、逆に日本が訴えられなくなるじゃないかという声が、日本の企業が途上国政府を訴えるツールがなくなったんじゃないかという意見がありますけれども、逆に訴えられるリスクが減ったかといえば、特段減ってはいないというふうに思っております。
○塩川委員 ありがとうございます。
次に、鈴木参考人にお尋ねいたします。
TPP11の影響試算のことについてお尋ねしたいんですが、政府は二〇一七年末にTPP11の影響についての試算を出しましたけれども、これは本当に国内対策の検討に使えるのか、恣意的ではないのかという意見をお聞きするわけですけれども、鈴木参考人のお考えをお聞かせください。
○鈴木参考人 私の資料の四ページにもございますように、この影響試算というのは、本来は、これだけの影響が出るということをまず計算して、であるから、どれだけの対策が必要かという順序で進めなきゃいけないはずですが、それを、影響がないように対策をするから影響はないということで計算しておりますので、これは対策を検討するための影響試算にはなり得ないということだと思います。
例えば農産物の価格が十円下がったら、そのためにそれを相殺するだけの政策はやるから生産量も所得も変わらないんだという計算方法でございます。それでは本当の影響というのは見えない。もしそれを正当化するのであれば、その十円下がったときにどういう対策をやるからその十円が相殺されて生産量と所得が変わらないのかについての根拠を示さないといけない。
そういう意味で、まず、対策を入れ込んだ影響試算ではなくて、対策をしなければどういうことが起きるのかという純粋の影響というものを示してから議論すべきである、これが基本的な視点ではないかというふうに考えております。
○塩川委員 その場合、その対策をしなければどのような影響が出るのか、これをきちっと出すことが必要だというお話ですけれども、こういう点について政府に出せという要求をするのは当然のことでありますが、同時に、識者の方から、そういう、対策をしなければどういう影響が出るのかという試算というのは、何らかお示しできるものがあればお示しいただけないでしょうか。
○鈴木参考人 私どもでは、TPP12のときに独自の影響試算をして、政府試算とは全く違う、七倍の数字、一兆六千億円の被害が出るという数字を出しました。これは、基本的にはTPP11になっても変わらない、あるいはそれ以上であると考えなきゃいけない。つまり、TPP11をやるということはTPP12以上の内容を結果的に受け入れるわけですから、少なくとも、TPP12のときの打撃が出るということをまず踏まえる必要が出てくる。
ですので、改めてTPP11だけを切り取って影響試算をすることも可能ではありますが、私はそれを今のところはやっていません。それは今のような理由からでございます。
○塩川委員 ありがとうございます。
もう一点お聞きしたいのが、TPPがそもそも何のために行われるのか。TPPの本質について、やはりアメリカのグローバル企業の要求、便宜供与の問題があるという話、鈴木参考人もおっしゃっておられます。そういう点についてのお考えと、あわせて、このTPPというのは日本のグローバル企業のアジア等における利益追求にも応えるものとなっているのではないのかと思うんですが、そのこともあわせてお答えいただけないでしょうか。
○鈴木参考人 御指摘のとおり、アメリカのグローバル企業、先ほど来出ています製薬会社さんとかが、人の命を縮めても自分たちがもうけられるようなルールをアジア太平洋地域に広めたい、これが端的なTPPの本質ですね。まさにグローバル企業、それが政治家とお友達になって、お友達企業への便宜供与と世界の私物化という現象が起こっている。極端に言えばそういうことだと。
それは日本のグローバル企業にとっても同じことで、おっしゃるとおりでございます。日本の企業が、あるいは小売企業がアジアに行って、直接投資が更に自由化されれば、どんどん展開できる。それによって日本のグローバル企業の経営陣の利益もふえます。しかし、現地の人たちは安く働かされる。そして、日本の国内では、国内の人々が結局安い賃金で働くか、あるいは失業して、例えばベトナムの方々の賃金は日本の二十分の一から三十分の一ですから、そういう方々が更にふえる、あるいは企業が出ていく。
いずれにしましても、グローバル企業の経営陣にとってのメリットは、それは日米ともにあることは間違いない。しかし、それが一般国民の九九%の方々の生活をプラスにするかというと、それは逆行してしまう。ここをどのように調整できるのかということが問われているんじゃないかというふうに思います。
○塩川委員 終わります。ありがとうございました。