【内閣委員会】戦後初めて警察庁に捜査権/警察庁直轄のサイバー隊創設

 戦後初めて警察庁に捜査権を与え、直属のサイバー特別捜査隊の創設を盛り込んだ警察法改正案について、警察庁の権限拡大は慎重に行う必要があり、その検討過程も不透明だと批判しました。

 私は、警察庁の部局改編が他の府省庁と異なり法律で定められているのは、警察の捜査が個人の権利と自由に多大な影響を与え、国会の関与と民主的統制のもとに置かれる必要があるためだと指摘。

 それなのに、今回のサイバー特捜隊創設の構想は昨年6月に小此木八郎前国家公安委員長から突如、記者会見で表明されたもので、政府の検討過程が一切不明だと批判。

 警察庁は昨年より前には検討していなかったことを認め、さらに、その後の検討過程すらも提出を拒否しました。私は、一向に明らかにしないのは許されないと厳しく批判しました。

 私は、構想が示される直前、骨太方針に経済安保が据えられ「インテリジェンス能力の強化」が盛り込まれたと指摘し、今回の法改正が経済安保のための体制強化ではないかと質問。

 警察庁は「経済安保『法案』と連動していない」と正面から答えませんでした。

 私は、経済安保に絡んだ警察捜査で深刻な人権侵害の事例が発生しており、その反省もなく、国民のプライバシー権、思想信条の自由が侵されかねないと批判し、戦前の人権侵害の反省から警察庁は捜査権を持たないという原則の転換は重大だと強調しました。

 衆院内閣委員会は同法案を採決し、共産党とれいわ新選組は反対しましたが、賛成多数で可決されました。


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「議事録」<質疑>

<第208通常国会 2022年3月2日 内閣委員会 第5号>

○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 警察法改正案について質問いたします。
 二之湯委員長にお尋ねをいたします。
 霞が関、国の府省庁におきましては、部や局の改編は法定事項ではなく政令事項となっております。しかしながら、警察庁については法律で定めることが維持されておりますが、それはなぜでしょうか。
○二之湯国務大臣 お答えいたします。
 府省の内部部局の設置などについては、かつて各府省設置法等において定めていましたが、国の行政機関の組織編成の弾力化を図る観点から、昭和五十八年に、政令で規定することとされております。
 そうした中で、警察庁については、国家公安委員会の下に置かれる特別の機関であり、第一線において警察活動を行う都道府県警察の指揮監督を行う組織であるということを踏まえ、その内部部局である局や部の設置などについて国会の判断に委ねることが適当であると判断されたものと認識をしております。
 捜査などの警察活動は、個人の権利と自由に関わり、影響を与えるものであることから、このような警察活動を行う都道府県警察の指揮監督などを行う警察庁の局や部については、民主的統制の下で、国会の判断により法律で規定することとなっているものと承知しております。
○塩川委員 今お答えいただきましたように、個人の権利と自由に影響を与える、捜査等の警察活動に係る警察組織の改編は大変重いものであり、国会の関与、民主的統制の下で慎重な対応が求められるものであります。
 続けてお尋ねしますが、今回の法改正は、重大サイバー事案に対処するための警察の活動に関する規定の整備を行うものですが、その検討過程が全く分かりません。
 昨年六月、小此木国家公安委員長が、サイバー局の設置と、その下に捜査権を持つサイバー隊の設置を公表しました。
 政府内では、事前にどのような検討を行ったんでしょうか。
○二之湯国務大臣 サイバー空間における脅威に対処するための組織改正の必要性については、以前から警察庁において議論があったものと私は聞いております。
 その後、令和二年秋以降のデジタル庁創設に向けた動きなどを踏まえて、令和三年からは令和四年度の組織改正に向けて更に具体的な検討を行い、昨年六月の公表に至ったものと聞いております。
○塩川委員 令和三年から検討を行ったと言うんですけれども、その検討過程というのは、今までお出しいただいていないんですが。
○小島政府参考人 お答えいたします。
 具体的には、サイバー空間における脅威に対処する業務を所掌する部局や執行事務を行う部隊を設置する必要性、警察庁の警察官の職権の在り方、執行事務を行う部隊を設置する機関や場所、都道府県警察との関係等につきまして、警察庁内の関係各課が様々な観点から意見を出し合い、活発な議論が行われたというものでございます。
○塩川委員 ですから、その警察庁内の検討過程についての文書を出してくれと頼んだんですよ。出てきていないじゃないですか。
○小島政府参考人 お答えいたします。
 昨年六月に組織改編の概要を公表いたしましてから、るる御説明を申し上げているところでございます。
○塩川委員 いや、だから、昨年六月の小此木国家公安委員長の発表の前でどんな検討を行ったのかと。検討していたと言っているんですから、前でどういう検討を行ったのかというのを明らかにするのは当然じゃないですか。
○小島政府参考人 重ねて同じ答弁で恐縮でございますけれども、先ほど申し上げましたように、サイバー空間における脅威に関する情勢であるとか、あるいは警察庁の警察官の職権の在り方であるとか等々につきまして議論を交わしてきたものというものでございます。
○塩川委員 国会でやはり審議をするそういった法案の中身について、どういう検討を行ったのかという、その検討過程そのものも極めて重要なわけですよ。それについて出さないままで、これでお願いしますというわけにはいかないと言わざるを得ません。
 例えば、昨年三月に公表された警察庁の有識者会議、サイバーセキュリティ政策会議の報告書、去年の三月ですよ、警察庁内に置かれている有識者会議、政策会議においても全く触れられていないんですよ。
 あるいは、政府の司令塔となっているサイバーセキュリティー戦略二〇二一、この検討過程においても、昨年五月に戦略の骨子というのが大きく出ていました。その戦略の骨子、六月の直前ですよ、このサイバーセキュリティー戦略二〇二一の戦略の骨子にも一言も触れられていないんですよ。
 政府内で検討した形跡がないんじゃないですか。
○小島政府参考人 お答えいたします。
 検討の過程につきましては、行政文書の保存ルールに従って、適切に文書として保管をしてございます。
○塩川委員 保管じゃなくて、私は出してくれと言ったのに、一向に出さなかったじゃないですか。それでここに至っているわけですよ。こんな格好で、経緯も分からないまま、曖昧なまま、まともな議論ができないのは許されないと言わざるを得ません。
 私が指摘したいのは、小此木国家公安委員長の公表の直前にあったのは何かというと、自民党による政府骨太方針に向けた経済安保に関する提言であります。新国際秩序創造戦略本部、中間取りまとめであります。そこでは、経済安保体制の抜本的強化として、「関係府省庁において、専従の新規ポストの設置や抜本的な人員増強を含む更なる体制整備・予算措置が急務」とあります。これを受けて、骨太に経済安保が据えられ、インテリジェンス能力強化が掲げられました。
 今回の法改正は、このような経済安保を推進するための体制強化の一つということではありませんか。
○小島政府参考人 お答えいたします。
 サイバー事案に対処するための検討でございます。
○塩川委員 経済安保と関係、関与するのかしないのか。
○小島政府参考人 お答えいたします。
 今回の警察法改正につきましては、経済安全保障推進法案と制度的に連動するものではございません。
 サイバー警察とサイバー特別捜査隊が創設されることに伴い、重要インフラ等におけるサイバーセキュリティーに関する取組がより一層効果的になるように行うというものでございます。
○塩川委員 整合的に連動するものじゃない。セットのものじゃないということだと思いますけれども、でも、関与、関連は当然するわけですよね。
○小島政府参考人 警察におきましては、先端技術を有する企業や重要インフラ事業者に対するサイバー事案につきまして、犯罪の捜査や手口の分析を進めているというところでございます。
 その上で、こうした産業におけるサイバーセキュリティーの強化に資するため、捜査等で判明した事項につきまして、NISCを始めとする関係省庁とも可能な範囲で共有するなどの取組を進めているところであります。
 今回の警察法改正につきましては、先ほど申し上げたとおり、経済安全保障推進法案と制度的に連動するものではございませんが、サイバー警察局とサイバー特別捜査隊が創設されることに伴い、重要インフラ等におけるサイバーセキュリティーに関する取組をより一層効果的にするよう、改正をお願いしているものでございます。
○塩川委員 ですから、重要インフラ、基幹インフラの関係では、サイバーの方がしっかりやりますよという話ということであります。
 その点で、遡って、この自民党の新国際秩序創造戦略本部の経済安全保障戦略策定に向けた提言では、「政府において機微な技術を保有する民間企業や大学等との連携を強化する枠組みを構築し、民間企業における経済インテリジェンスの機能強化を図るべきである。更に、こうしたわが国自身による情報機能強化に加え、ファイブアイズへの参画を含む国際連携の深化やそのための体制を強化すべきである。」と述べています。
 こういったことを念頭にお尋ねしますが、小林経済安保担当大臣は、経済安全保障に関する機密情報の取扱資格者を政府が認定をする適性評価制度、セキュリティークリアランスについて、今後検討していくべき課題と述べておりますが、このようなセキュリティークリアランスに関与する組織につながりはしないのか。この点はどうでしょうか。
○小島政府参考人 お答えいたします。
 先ほども御答弁申し上げましたとおり、今回の警察法改正につきましては、経済安全保障推進法案と制度的に連動するものではございません。
○塩川委員 整合的に連動するものではない。関与、関連はするという話に取れます。
 時事などによると、政府は、適性評価制度、セキュリティークリアランスについて、この秋に法制化をする検討に入ったと報じております。
 民間人に対する適性評価制度は、ファイブアイズと呼ばれる枠組みで機密情報を共有している五か国などが導入をしております。適性評価は、家族や交友関係、資産、飲酒歴なども審査対象となるとされております。特定秘密保護法の拡大ではないかと個人情報保護に対する懸念の声も上がっております。
 今回の法案がこのような問題点とどのような関連があるのか。整合的に連動していないというだけでは、それでは説明を尽くしたことにはなりません。明確に答えず、冒頭申し上げましたように、検討過程が全く不透明であります。国会にまともに説明をしないままでは、民主的統制が利かない。この点でも極めて重大だと言わざるを得ません。
 そこで、二之湯国家公安委員長、お尋ねしますが、戦後の警察組織においては、犯罪の捜査等の警察活動は都道府県警察の任務とし、警察庁は警察運営、犯罪鑑識、犯罪統計などの所掌事務について都道府県警察を指揮監督する仕組みとなっている、このような認識でよろしいでしょうか。
○二之湯国務大臣 現在の警察法では、都道府県警察がその管轄の区域につき警察の責務を有しており、犯罪の捜査などの活動を行っております。その上で、警察法に規定する警察庁の所掌事務について警察庁長官が都道府県警察を指揮監督することとされております。
○塩川委員 戦後の出発点はこういう仕組みで、その後の警察法改正においても、警察庁について、個々の事件の個々の捜査の指揮は行っていない、一九五四年の改正ですとか、一九九六年の改正におきましても、具体的な捜査活動における個々の方針や方法の指揮を行うものではないと、警察庁が捜査権を持たないことを繰り返し答弁をしてまいりました。
 今回の法案はこの根本の原則を大きく覆す、転換をするものとなる、こういうことでよろしいでしょうか。
○二之湯国務大臣 今回の警察法改正案につきましては、最近におけるサイバーセキュリティーの脅威の深刻化に鑑み、重大サイバー事案について国の組織が直接捜査を行うことができるようになるわけでございます。今回の改正により警察庁が直接捜査を行うこととなりますが、これは重大サイバー事案に限ってという意味で、極めて例外的なものであり、都道府県警察がそれぞれの管轄区域について警察の責務を有することは何ら変更はなく、今後も犯罪の捜査などの活動は原則として都道府県警察が行い、警察庁長官が指揮監督することとなります。
○塩川委員 極めて例外的とは言いますけれども、基本の原則を転換するものとなるという点で、やはり戦後の警察組織においては、戦後のスタートにおきます、当時の片山総理が述べているように、警察力が国家の政治問題と絡んで、一部のために利用せられるという弊害を根本的に除去する、この立場から、警察庁、国の警察組織においては捜査権は持たない、これを基本としてきたわけであります。警察組織の民主的運営の基礎としてきた原則の転換は極めて重大だと言わなければなりません。
 現在も、警察の職権濫用による人権侵害が後を絶たない状況があります。この間報道されてきました経済安保に関わる冤罪事件があります。
 警視庁の公安部は、噴霧乾燥機、スプレードライヤーを中国にある企業に不正に輸出したとして、大川原化工機の社長ら三名を逮捕、無実の人を十一か月間も長期勾留しました。お一人の方はこの長期勾留中に体調が悪化をして亡くなられました。一度は起訴されたものの、輸出が規制されている製品に当たることを立証できず、公判期日の直前で異例の起訴取消しとなりました。
 立件ありきで証拠も不十分なまま逮捕、勾留した大川原化工機事件に対する反省、謝罪がありますか。
○二之湯国務大臣 お尋ねの件につきましては、警視庁が外国為替及び外国貿易法違反に当たるとして捜査を行い、東京地方検察庁が起訴した会社とその社長らを被告人とする不正輸出事件と聞いております。
 この事件については、昨年七月に東京地検、検察庁が公訴を取り消しており、その後、九月には、東京都と国に対する国家賠償請求訴訟が提起されております。
 現在、訴訟係属中でございますから、事件捜査の適否についてはコメントすることは差し控えさせていただきますが、警察において法と証拠に基づく適正な捜査が行われるよう、引き続き指導してまいりたいと考えております。
○塩川委員 国賠訴訟がされているというのは、検察や警察がわびていない、それはおかしいじゃないか、これが出発点なんですよ。本来、反省、謝罪があってしかるべきじゃないですか。そこのところを、是非、国家公安委員長としてお答えいただけませんか。
○二之湯国務大臣 繰り返しになりますけれども、現在、訴訟係属中でございますから、私としてコメントを差し控えさせていただきたいと思います。
○塩川委員 昨年の十二月に、東京地裁は、刑事補償計千百三十万円を支払うことを決定しました。刑事補償というのは、身体拘束された人が無罪となったときの補償制度であります。つまり、この事件は無罪ということが、地裁として明らかにし、刑事補償を行った。
 裁判長は、関係記録によれば、仮に起訴内容について審理が続いた場合に、無罪判決を受けるべきと認められる十分な理由があると述べたということです。これは、そのとおりですね。
○櫻澤政府参考人 答弁いたします。
 裁判で裁判長から発言があったこと等について、行政部署からコメントすることについては差し控えたいと考えております。
○塩川委員 当事者の皆さんが無罪だということも明らかにされております。無罪なんですよ。だとしたら、この不当な捜査、冤罪事件について反省、謝罪があってしかるべきじゃないですか。そういったことについて、国家公安委員長としてしかるべき対応、対策を取るべきじゃないですか。
○二之湯国務大臣 度々繰り返しになりますけれども、現在まだ係属中でございますから、この事件捜査の適否について私の感想を述べることは差し控えさせていただきたいと思います。
○塩川委員 警察組織を監督する立場の国家公安委員会の国家公安委員長なんですから、まさにそれが機能していないということを逆に示すようなことでいいのかと言わざるを得ません。
 こういったことについて真摯な反省、謝罪もなしに新たな体制強化を図るというのは、これは理解が得られないということも言わざるを得ません。そうじゃないですか。だって、まともな反省、謝罪がないんですよ、無罪だとされているのに。こういった問題についてしっかりとした対処があってこそ、その先に行くという話じゃないでしょうか。
 こういった問題について国家公安委員長がしかるべき対応をするということの表明もないままで、こういった、検討過程も曖昧なまま、資料も出さないといったことで、国会の民主的統制が必要だという、こういう警察法の組織改編の議論において、まともな前提を欠いているということを言わざるを得ません。
 人権侵害、プライバシー侵害に反省がない、こういった警察組織の権限拡大、体制の増強を図ることは認められないということを申し上げて、質問を終わります。

 

「議事録」<反対討論>

<第208通常国会 2022年3月2日 内閣委員会 第5号>

○塩川委員 私は、日本共産党を代表して、警察法改正案に反対の討論を行います。
 本案は、戦後初めて国の機関である警察庁に捜査権限を付与、警察庁直轄のサイバー特別捜査隊を設置するものです。
 個人の権利と自由に影響を与える、捜査等の警察活動、警察組織の改編は大変重いものであり、国会の関与、民主的統制の下で慎重であるべきです。
 サイバー特別捜査隊の設置は、昨年六月二十四日の小此木国家公安委員会委員長の記者会見で突如示されたものです。それ以前には、サイバー特別捜査隊が必要だとする警察庁の文書は示されておりません。今日の質疑でも、政府内での検討過程は明らかにされませんでした。
 警察庁に捜査権限を付与し、権限を拡大するという大転換を図るにもかかわらず、組織の在り方に関する議論の内容を曖昧にしたままでは、本案に同意することはできません。
 本案の重大サイバー事案の定義には具体的な線引きがなく、恣意的に警察庁が権限行使する可能性があります。今日の質疑でも指摘したように、強大な権限を持ったサイバー特別捜査隊が経済安全保障の分野に関わるようになることは明白です。経済安全保障の名の下で、不正輸出を捏造し、三人を逮捕した大川原化工機事件のように、警察による人権侵害が起きています。その反省もないままに、このような部隊をつくることは、国民への監視、プライバシー、思想信条の自由の侵害への懸念が拭えません。
 日本の警察は、都道府県警察が捜査を行い、警察庁は指揮監督のみとしています。これは、戦前の警察が、政府の意向により、国民の人権や自由を侵害してきた反省を踏まえたものです。警察力が国家の政治問題と絡んで、一部のために利用せられるという弊害を根本的に除去することが、警察改革の基本です。
 以上、反対討論を終わります。