○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
放送法改正案の中身について質問をいたします。
まず、経営基盤強化計画についてであります。
政府は、放送事業者の経営支援を行う経営基盤強化計画の認定制度を創設するとしております。ラジオ放送事業者の経営が深刻と政府は説明しておりますが、この仕組みというのはラジオに限定されているものなんでしょうか。
○新藤国務大臣 本制度は、地域経済の低迷等に起因して放送事業者の経営状況が悪化する中、経営基盤の強化に取り組む事業者の放送が、地域住民の生活に必要な基幹メディアとして引き続き存続できるようにするための制度であります。
それは、ラジオに限定されず、AM、FMそしてテレビといった放送の区分に応じて、それぞれの放送対象地域ごとに、経済事情の変動により放送系の数の目標の達成が困難となるおそれがあるなどの事由があるか否かを検討し、そのような事由があると認められる放送対象地域を指定放送対象地域として総務大臣が指定することができる、こういう制度でありまして、特別にラジオのみに限定しているものではございません。
○塩川委員 ラジオのみに限定することなく、テレビなども対象となり得るということです。
もう一点、大臣にお尋ねしますけれども、指定放送対象地域の指定についてであります。
チャンネル数の目標の達成が困難となるおそれがあり、かつ目標変更が適切でないと認められるものを指定放送対象地域として指定するとしております。この指定というのは告示で行うということですけれども、それはどのようなものを想定しているのかについて確認をいたします。
○新藤国務大臣 改正法の施行時点におきましては、収入の現状、先行きの見通しともに厳しいAM、FMのラジオについては、全ての放送対象地域を指定放送対象地域に指定をするのではないかということを想定しているわけであります。
○塩川委員 まずは告示でAM、FMラジオに限る、そういう想定のもとで、全放送対象地域を指定するのはAM、FMという御説明でありました。これも告示の定めですから、その内容を改めることでテレビにもということは排除はされていないという法文上の規定であります。
そこで、経営基盤強化計画に記載すべき事項について確認をいたします。ちょっと事前にお願いしていたものからはしょりますけれども、経営基盤強化による収益性の向上の程度とありますけれども、これはどのような指標を示すことを考えているんでしょうか。
○福岡政府参考人 お答えをいたします。
経営基盤の強化に取り組むことによりまして売り上げの増、あるいは効率化による経費の削減などにより収益性の向上が見込まれるところでございますけれども、具体的な目標といったようなことにつきましては、一つは、放送事業者の自律的な、自主的な経営判断を尊重するという観点、それから、この制度におきましては、いろいろな強化の手法を、こういった手法に限るようにといった限定もしてございませんので、この程度につきまして、一律の目標というものを課すということは考えてはございません。
ただ、御参考にあえて幾つか例を申し上げますと、例えば、情報システムや機械設備の導入によって間接経費をこれぐらい削減するといった削減の程度、あるいはそれに伴って経常利益の改善の程度など、こういったようなものを記載していただくといったことが想定されるところでございます。
○塩川委員 こういった財務指標の改善などについては、いろいろな指標があるわけです。例えば、ROAとかROEとか有形固定資産回転率とか従業員当たりの付加価値額とか、こういった指標などがよく活用されますけれども、そういうものは入れないということでしょうか。
○福岡政府参考人 今御指摘をいただきましたような指標、これをもちろん排除するということではございません。ただ、今のようなものを必ず、認定申請をいただくときに、例えばROA、ROEといったものをあらかじめ絶対に書いてくださいといった形にするようなこれからの具体的な制度設計は考えていないということでございます。
その趣旨は、やはりいろいろな経営計画、改善の計画があり得るだろうと考えておりますので、そこは幅広に、事業者さんが、どのような指標がより計画に沿って妥当かどうかといったことをまず第一義的に御判断いただきまして、私どもは、そのいただいたものを見て、なるほど、確かに向上に資するかなといったようなことで判断させていただくというものをまずは基本に考えているということでございます。
〔委員長退席、土屋(正)委員長代理着席〕
○塩川委員 排除するということではない、絶対に書いてくださいということを求めるものではないけれども、そういう点では、事業者のサイドで上げてもらうものについてそれを尊重しましょうと。そういう点では、売り上げの増、経費削減になるような、そういったスキームの中での指標としてのあり方ということであります。
私が今紹介したような生産性向上の指標というのは、以前は産活法、今では産業競争力強化法において事業再編計画など一連の計画がありますけれども、その際に示されている生産性向上の指標を例示したものであります。
例えば、ROA、ROEというのは株主へのリターンですよね。これを高めていくという目標です。そうなりますと、たくさんのステークホルダーがある中で、いわば株主の利益を追求するという経営にシフトしていく、こういう性格がどうしてもROA、ROEというものには設けられることになります。
また、有形固定資産回転率などは、在庫を減らすとか資産を減らすとかという方向に働きますけれども、いわば不採算部門の切り出しという形での事業再編を図るという点での指標につながっていくものでありますし、従業員当たりの付加価値額について言えば、やはりどうしても賃金を減らすという方向に動きますので、そういう意味では、従業員の賃金を減らす、従業員そのものを減らすという方向にもなりかねない、リストラとの関連ということでも大いに懸念をされるということで、いずれも、こういった生産性向上の指標は放送事業者のそもそもの性格をゆがめていくものになりはしないのかと、こういう指標を使うのであれば懸念をするところであります。
関連して、経営基盤強化の内容と言っているものはどのようなものでしょうか。
○福岡政府参考人 お尋ねの経営基盤強化の内容でございますけれども、これにつきましても、放送事業者の自主的な経営判断をまずは尊重してまいりますために、特定の手法、例えば合併でございますとか事業譲渡をするとかいったような、そのような特定の手法を必須とするというものではなくて、どのような具体的内容にするかということにつきましては、個々の事業者の経営判断にまず委ねられている、そういう制度にしておるものでございます。
例ということで申し上げますと、例えば、業務プロセスの効率化につながる情報システムやあるいは機械設備を導入いたします、また、管理部門を統合する、不採算部門の売却などの組織、事業の再編成を行う、また、売り上げの向上につながる新たな事業に進出するといった、多種多様な内容を想定しているものでございます。
○塩川委員 組織再編を伴うものが想定をされているということです。
次に、経営基盤強化に伴う労務に関する事項、これはどういうものを書くことになるんでしょうか。
○福岡政府参考人 お答えをいたします。
想定しておりますのは、経営基盤強化計画の開始及び終了の時期における従業員の数でございますとか、あるいは経営基盤を強化することに伴う新規の採用あるいは出向者数等をどのような数にするかといったようなことを記載していただこうということでございます。
この考え方でございますけれども、経営基盤強化の実施に当たりまして、従業員の解雇や労働条件の引き下げ等を行うことによりまして、その地位が不当に害されることがないようにするということは重要なことと考えてございます。具体的に、この改正法案の百十六条の三第三項第三号におきまして、「経営基盤強化計画に係る経営基盤強化の実施により従業員の地位が不当に害されるものでないこと。」ということを認定の基準の一つとして法定させていただいているところでございます。
そこで、この認定に当たりましては、経営基盤強化を実施する際に労働組合等と必要な協議を行い、労使間で十分に話し合いを行うなど、雇用の安定等に最大限配慮するものとなっているかといったようなことを審査するものでございます。
○塩川委員 労使間で必要な協議を行い、十分に話し合うことを求めるものだということですけれども、労使協議、しかし、合意や同意を求めているわけではありませんから、そういう点では、労働者側が納得しないという場合についても、場合によっては、十分な話し合いを行ったということを前提に、この要件は満たしていますねということも考えられるという点、雇用への影響が懸念されるところでもあります。
それから、特定放送番組の同一化ですけれども、二以上の国内基幹放送の放送時間の全部または一部について、同一の放送番組の放送を同時に行うことについてですが、二以上の放送の放送時間の全部について、これは同一の放送番組の放送も行われ得るということでよろしいんでしょうか。
○福岡政府参考人 お答えいたします。
放送番組の同一化を行うかどうかということ自体も、まずは経営基盤強化計画を申請されようとする事業者の判断でございますが、そのような希望、やりたいということであれば、異なる放送対象地域において、これは本来は別の番組ということでございますけれども、それの番組の同一化を行うということは、この制度の一つの特例として可能にしようというものでございます。
○塩川委員 この計画に基づけば、もちろん手挙げでやるわけですけれども、複数の放送局の番組が全て同じということになります。
あわせて、一部同一の場合に、「総務省令で定める割合を超える場合に限る。」と規定がされていますけれども、この場合に、総務省令で定める割合というのはどのぐらいを考えておられますか。
〔土屋(正)委員長代理退席、委員長着席〕
○福岡政府参考人 お答えいたします。
異なる放送対象地域におきまして放送番組の同一化が行われるといたしますと、番組制作費の削減に加えまして、番組の送出設備を統合できる、あるいは県境の中継局の設備設置の効率化といったような経費削減効果が見込まれるというものでございます。
他方、御指摘のように、番組同一化の程度が非常に低い場合には、異なる放送番組が相当程度残るといいますか、異なる形で放送されますために、今申し上げました経費の削減効果といったものが相当減殺されるということになります。
したがいまして、省令で定める同一化の水準につきましては、一〇〇%は当然でございますが、一〇〇%に準じた水準、例えば八割とか九割といったレベルにまで同一化される必要があるのかなというふうに考えているところでございますが、具体的には、この法案を成立いただきましたら、パブリックコメントを経るなどいたしまして、関係者の意見をよく伺いまして、省令で定めていきたいと考えております。
○塩川委員 一〇〇%に準じた水準ということで、八割、九割までの同一化を総務省令で定めることを想定しているというお話でした。
そうなりますと、この計画というのが、やはり、自主制作番組を減らす、さらにはなくすことを行っていくということを求めるものになります。ラジオなどは自主制作番組の割合が比較的高いわけで、ローカルラジオ局でいえば、AMラジオが五三・一%、FMラジオは五〇・〇%と承知をしております。計画に手を挙げるということは、結果として番組制作の独自性が後退をすることになるということを指摘せざるを得ません。
その関連で、地域性確保措置を求めるということですけれども、これはどんなものなんでしょうか。典型例などはどういうことでしょうか。
○福岡政府参考人 御指摘いただきました典型例ということで申し上げますと、例えば災害時には、ある放送対象地域の中でも特定の被災地域ができるということが想定されますので、その際には、その被災地域向けの情報を発信できるように体制をとっておく、あるいは、場合によっては、そのための放送設備等を確保しておくといったようなこと、また、平時よりそれぞれの放送対象地域ごとに取材の拠点を維持しておく、また、放送番組審議機関の委員の構成に関して地域バランスを確保する、そういったようなことが想定されるところでございます。
ただ、実際には、個別の事業者の経営状況や、放送番組の同一化の対象となる放送対象地域の実情、いろいろあろうかと思いますので、求めるべき措置の水準でございますとか内容等はいろいろと異なってくるものということを想定しているところでございます。
○塩川委員 施設設備といった取材拠点がないような場合でも、機能を残すという趣旨でのお話でもありました。
こういった経営基盤強化計画ですけれども、これを法改正につなげていく上で前提となった議論が、放送政策に関する調査研究会の第二次取りまとめであります。
そこでは、この新たな認定制度、経営基盤強化計画は、「規制の特例を措置するものであり、財政的な支援措置を講ずるものではないが、この新たな認定制度と、先般成立した産業競争力強化法上の事業再編計画認定制度等とを併用することにより、より効果的な事業再編が可能となる」とあります。
大臣にお尋ねしますが、今回の法改正での経営基盤強化計画と産業競争力強化法上の事業再編計画というのは併用ができる、ともに申請、認定を求めることができるというふうに考えてよろしいでしょうか。
○新藤国務大臣 両制度の併用は可能でございます。それぞれの制度を有効に活用することによって、放送事業者が効果的に経営基盤強化を図っていっていただけるんじゃないか、このように考えております。
○塩川委員 そうしますと、もともと、産活法上の認定基準として、一連の計画をつくる際に、事業分野別の指針をつくるというので、放送分野についてもつくりました。分社化や持ち株会社化等による主体的な事業再構築を後押しするための環境整備を行うことが、昨年七月の強靱化に関する検討会中間取りまとめで提言としても出されております。
この放送分野における事業分野別指針のポイントとして、認定放送持ち株会社制度、ハード・ソフト分離制度等の新しい制度を活用した分社化、合併、子会社化、持ち株会社化等の事業再編といった、事業再構築を進めることが期待されるとしていました。つまり、事業分野別指針を定める趣旨というのが、その業界が過剰供給構造にあるということが前提となっており、国が業界再編を求めるための指針というのがこの大きなスキームであります。
産業競争力強化法が昨年秋に成立をし、産活法は廃止をされましたが、その中身は産業競争力強化法に引き継いでおります。事業分野別指針もことし一月に廃止をされましたけれども、一方、この三月には、総務省は、産業競争力強化法活用のために、放送分野の生産性向上の指標を示しております。
この産業競争力強化法活用のための放送分野の生産性向上の指標には、事業分野別指針にも書いてあった認定放送持ち株会社制度、ハード・ソフト分離制度等の新しい制度を活用した分社化、合併、子会社化、持ち株会社化等の事業再編といったことが期待されるということが書かれていると思うんですけれども、その点、確認でお願いできますか。
○福岡政府参考人 ただいま御指摘をいただきましたいわゆる旧産活法、また、これも御指摘いただきました新しい産業競争力強化法、これは、申し上げるまでもなく、非常に業種横断的に、我が国の企業の競争力を高める上で、分割ですとか事業譲渡ですとか、そういうより効果のあるような事業再編というものをもともと全体としては目指すという枠組みの中で考えられているものでございますので、私ども、この産業競争力強化法等のスキームを放送事業者が活用する場合には、やはりそちらの考え方にのっとったもの、それを放送業界についていいますと、認定放送持ち株会社等々の類似の制度がございますので、そういったものを活用することが考えられるという形で指針等をつくらせていただいているところでございます。
ただ、今回の放送法の経営基盤強化計画に係るものと、今、併用は可能でございますけれども、それはある意味では並び立っているものでございますので、放送法の方は比較的、幾つかこれまで申し上げましたように、その内容につきましては柔軟性を持っているというふうに御理解いただければと思います。
○塩川委員 要するに、ラジオが大変だから経営基盤強化計画というんじゃなくて、大枠として、もう事業再編だけじゃなくて業界再編をしていこうじゃないか、放送分野というのは過剰供給構造なんだから、それを見直す、そういう方向性があって、その中の一つのいわばツールとしてこの経営基盤強化計画というのは入るということになるんじゃないんですか。
というのは、先ほど経営基盤強化計画と事業再編計画は併用が可能と大臣は答弁されました。それを求めるということは、例えば、経営基盤強化計画の収益性の向上の指標、事業再編計画の生産性向上の指標、これは対応関係にあるということで併用ということも可能になってくるわけで、そうなりますと、先ほど紹介したように、ROA、ROEみたいに株主へのリターンを追求するような指標を設けるということが併用の前提になってくるわけです。あるいは、従業員のコストをダウンするということが指標になってくるわけで、広いステークホルダーを持つような、放送を担うこういった放送事業者の事業再編を進めていく、さらには業界再編を進めていくというツールとしてこういう計画をもたらすというのは、私は、放送事業者の国民から期待されるあり方をゆがめることになるんじゃないのかと率直に思うんですけれども、大臣のお考えはいかがですか。
○新藤国務大臣 産業競争力強化法は、合併や会社分割、分割した赤字会社に対する出資、融資など、対象となる事業再編の手法を限定した上で、その認定事業者は税制上の支援を受けることができる、こういう仕組みですね。今度の放送法の改正案は、経営基盤強化の手法を合併などに限定せずに、大臣認定を受けた放送事業者に対して放送法、電波法上の規制の特例措置を講ずる、こういう仕組みの差がございます。
例えば、合併を伴う経営改善に取り組もうとする放送事業者が、産業競争力強化法に従って事業再編計画の認定を受けて税制上の支援を受けるとともに、放送法の経営基盤強化計画の認定を受けて放送法、電波法上の規制の特例措置の適用を受ける、こういったこともできるということで、それぞれの特性を生かして、経営基盤の強化だったりそういったものに資するようなものにしようということであります。
例えばROEとか指標を設定することが、ステークホルダーに対する利益の還元が高まってという、数字の設定そのものは指標としてチェックするものでありますから、それをもって一概に、どちら向きに経営がシフトされるのかということには当たらないのではないかな、私はそのように考えております。
○塩川委員 そういう指標を併用するということが前提になれば、やはりこの間、問題となっているのは、株主利益を追求するだけの経営というのは本来あってはならないというのが大きな声にもなってきているときに、それを放送分野に持ち込むような仕組みの一環としてのこういう計画づくりというのは、私は納得することができないということを申し上げて、質問を終わります。