日付:2015-07-21 |
【「しんぶん赤旗」日刊紙・2015年7月21日付・8面より】
安倍晋三内閣は、海外の産業基盤(インフラ)整備の受注を通じ(日本企業の海外展開を促進する「インフラシステム輸出戦略」を進めています。2020年には、日本企業による受注額を現在(2010年)の3倍の約30兆円にすることを目指しています。「アベノミクス」(安倍政権の経済政策)の「成長戦略」の柱の一つです。
(金子豊弘、佐久間亮)
政府が「インフラシステム輸出」で目指しているのは、日本企業の「機器」の輸出だけではありません。産業基盤(インフラ)の設計、建設、運営、管理を含んだ「システム」としての受注による直接的な利益だけではなく、日本企業の進出拠点整備や現地市場獲得につなげることが狙い。政府開発援助(ODA)や公的金融支援、進出先国との人脈など、政府が持つ経済外交機能を、大企業の利益獲得のために動員しようというものです。
安倍首相が指示
13年1月25日に開かれた第3回の日本経済再生本部にたいし、安倍首相は、「世界各地の現場で働く邦人の安全を最優先で確保しつつ、エネルギー鉱物資源の海外権益確保とわが国の世界最先端インフラシステムの輸出を後押しする」との総理指示を出しました。海外で勤務する日本の人々の「安全」を確保しつつ、「海外権益」を確保することが強調されました。
これを受け、政府は同年3月に官房長官を議長とし、関係閣僚をメンバーとする「経協インフラ戦略会議」を立ち上げました。「経協」とは、「海外経済協力」のことです。
戦略会議の役割は、対象となる国や地域ごとに「優先度の高い分野やプロジェクトについての議論をより具体的に深めていく」ことです。会議は非公開で行われています。
地域ごとに戦略
戦略会議は、海外展開の対象国・地域の市場を大きく三つに分類して、それぞれ受注戦略を立てています。
①約3万社の日系企業が進出し、すでに現地で相当程度の産業集積がある中国・東南アジア諸国連合(ASEAN)のグループ。貿易投資でもインフラ海外展開でも「日本にとって『絶対に失えない、負けられない市場』」と位置付けています。
②高所得層・中間層が育ち、市場規模が大きく、成長率が高い西南アジア、中東、ロシア、中南米諸国のグループ。ここでは「競合国に先んじて重要な案件の受注を勝ち取るべく、集中的に取リ組む」としています。
③資源が多く、今後大幅な人口増が起こり、市場も大規模な拡大が見込まれるものの、日系企業の進出が進んでいないアフリカ諸国のグループ。ここでは、「資源確保の観点を含め、ODAとも連携して『一つでも多くの成功事例』を生み出す」ことを戦略にしています。
首相や閣僚の外国訪問に大企業トップが同行して海外事業の受注機会を広げるトップセールスに政府をあげて取り組んでいます。
日本共産党の塩川鉄也衆院議員の調べによると、第2次安倍内閣発足(2012年12月)以降、首相外遊に企業・団体などを同行させた回数は10回にのぼり、訪問国は延べ27力国、同行した企業・団体数は526、参加者は1556人に及んでいます。同行企業・団体は、安倍首相の意向で総理官邸が「一本釣り」で勧誘。ロシア、中東訪問の際、大企業のトップを政府専用機に同乗させていたことも分かっています。
政府は、今後も首相・閣僚レベルのトップセールスを毎年10回以上実施する計画です。
自衛隊の活用も
「インフラシステムの輸出を後押しする」との総理指示が出た日本経済再生本部の会合で岸田文雄外相は、「海外に進出する日本企業・日本人の安全確保は海外展開支援における極めて重要な課題であり、真剣に対応していく」との考えを強調していました。その後、安倍内閣は自衛隊法を改悪し、緊急時に日本人を退避させるため自衛隊の車両による陸上輸送を可能にしました。自衛隊の派遣自体が敵対行為とみなされ、攻撃対象となる危険があります。
戦争法案によって、自衛隊が海外で武力行使するようになれば、世界で活動している日本人が憎悪の対象となり、最悪の事態すら想定されます。
住民に移住強制、生活破壊
安倍首相は14年1月にアフリカ・モザンビークを訪れた際、同国の港湾や鉄道整備に今後5年間で約700億円の政府開発援助(ODA)を表明しました。天然ガスや石炭などの鉱物資源が豊富な同国を支援することで、日本のエネルギー安定確保に役立てるといいます。
訪問には日本の大企業が30社以上同行。訪問の11ヵ月後には、同行した三井物産が、同国での炭鉱と鉄道・港湾インフラ事業参画を決定しました。
今月、日本政府に支援のあり方を見直すよう求めるため来日した同国の全国農民連合のメンバーは都内での講演で、同国で進む石炭開発に伴って採炭地域の約1万人の農民が土地を奪われ、強制移住を迫られていると告発しました。採掘した石炭は国内では使われず、建設予定の石炭火力発電所も全ての電気を南アフリカに輸出する計画だといいます。
整備される鉄道は植民地時代に収穫物を運び出すための道に沿っており、鉄道の上を走るのは石炭など貨物だけだと指摘。「誰のための開発なのか」と訴えました。
トルコやベトナムへの原発輸出、インドネシアへの石炭火力発電でも、住民生活を脅かすとして厳しい反対運動が起きています。