日付:2012-07-02 |
「通信文化新報」2012年7月2日号より
公益性守るには公的事業体が最適
[共産党]塩川鉄也衆院議員
改正郵政民営化法が、与野党議員の圧倒的な賛成多数で成立した意義は大きい。とはいえ、地方を疲弊させた小泉構造改革を抜本的に見直す観点からすると〝まず第一歩〟との見方が強い。公益性や地域性を取り戻し、三事業一体の郵政事業、郵便局ネットワークを真に国民のためのものとするため、法律や経営の継続的な見直しが求められるだろう。衆院郵政改革特別委員会の委員を務めた共産党の塩川鉄也衆院議員は「仮設住宅地域に郵便ポストが設置されていない」など、他の議員が気づかなかった地域住民への細やかな配慮も指摘していた。一貫して「郵政事業の経営形態は公的事業体がふさわしい」と主張する塩川議員に聞いた。
《インタビュー=永冨雅文編集長、園田万里子記者》
金融ユニバーサル担保は不十分
■改正郵政民営化法の採決時に反対した理由は。
平成二十一年八月に小泉構造改革への審判があり、自公政権が退場した。その際の課題の一つに郵政民営化の見直しがあった。我々も見直しについて一緒にできるものはやろうという思いがあり、同年十月に発表された「郵政改革の基本方針」は、小泉民営化を是正した点で評価していた。
しかし、そのときも経営形態を株式会社に限定した点は不満を持っていた。株式会社の場合、株式保有比率の違いによって幅があるが、利潤追求にならざるを得ない。それが本来の郵政事業にふさわしいのかは疑問があった。
改正郵政民営化法の中身を見ると、目的部分に“民間でできるところは民間に”という小泉元首相が繰り返していたフレーズが残っている。郵政改革の原点と相入れないと考えた。
郵便局会社と郵便事業会社を一体化するのは、利用者の利便性を考えても、職場における効率性を考えても当たり前のことだ。一方で、金融ユニバーサルサービスを持ち株会社と日本郵便に義務づけても、金融二社には義務づけしていないため、担保の仕組みとしては十分と言えない。
改革法案のときも議論があり、定款の変更を阻止するために株式三分の一超の保有が規定されていたが、今回の全株処分も可能になるような表現では、金融ユニバーサルサービスが制度的に保証されることにはつながらないと考えている。
■改正法で明確にできなかった部分、運用方針について現在、省令案が示されているが。
改正法では三事業を実施していない郵便局が、置局義務からはずれる。法文で規定しようとしていたものを省令に変更する点は、制度的な後退であり、懸念が残る。
また、エリアサービス体制見直しの問題もある。エリアマネジメントが公平に行われていなければ、郵便局が残ったとしても“隔日営業”になるなど金融ユニバーサルサービスの後退にもなりかねない。
■民営化では郵政事業が本来持っていた“公益性”や“地域性”が失われた。改正法の条文ではそれが復活しているが、それだけではユニバーサルサービスの担保には足りないということだろうか。
総合担務ができるようになった点などは前進だが、営業日を減らすような話が出てきてしまうと疑問を感じる。本来のユニバーサルサービスの観点から、郵便局だけを置けばそれでよいという発想では足りない。営業日を間引きすることは過疎地に一層住みづらくなる条件を作る。
地方の公共交通機関で採算が取れずに撤退したり、バスなどの本数を減らすことが、過疎化を加速させている。同じことが、郵便局ネットワークサービスでも起きてしまう。
一つの懸念は、経営形態を維持することが優先されて、国民へのサービスが後退しないかという点だ。結局、肥大化路線で経営は良くなったが、サービスが後退したのでは何のための見直しだったのかということになりかねない。
「金融社会権」 構築する経営を
■共党は一貫して三事業一体の公社に戻すべきだと主張してきた。平成二十二年四月に国会へ提出された郵政改革法案の採決も反対していた。
郵政事業の改革は、小泉民営化の抜本的見直しこそが求められている。小泉民営化は、金融ユニバーサルサービスをはずして、金融二社を切り離し、日米金融資本などの収益の対象にする意図があった。そうした歪みを是正することが、郵政改革の出発点であるべきだ。
公社形態で差し障りがあったかと言えば、そうではなかった。公的事業体がふさわしいと考えていた。
TPP(環太平洋経済連携協定)の議論を見ても、日本での業務を抑え込み、外資の利益を確保し、米国の保険会社の要求に応えるような流れが、郵政民営化の背景にあったことを多くの国民が認識している。
■ねじれ国会などの政治状況により、結果的に郵政民営化法を改正することになった。やむを得ない部分もあり、“苦肉の策”だったと思われる。
我々も政権交代の際に長谷川憲正前参議院議員と折衝しているが、金融ユニバーサルサービスを担保するのにふさわしい経営形態を考えるべきということでは、認識に大きな相違がないという印象を抱いていた。
しかし、与党の中には民営化法の改正でもよいと考える議員もいて、結果的に政権の議論の経緯の中で、民営化法の改正という形で決着したが、国民的な要求と政界の要求には大きなずれがあると思う。
■東日本大震災の際に、三事業一体の効率性が損なわれた問題点が、浮き彫りになった。
郵便局会社も郵便事業会社も、自ら被災しながら懸命に復旧活動をした。郵便を届けること自体が被災者支援であり、復興に懸命に努力するという大役を果たした。そうした力を遺憾なく発揮させる状況を作ることが、郵政民営化の真の見直しだ。
被災地では様々な問題点が明らかになった。例えば仮設住宅の郵便ポストの設置状況は、総務省もよく実態を把握していなかった。被災者は、これまで住んでいたところは流されて、新たに移り住んだ場所にはポストがない。
行政の監督体制は民営化路線の下で非常に弱まった。こちらからの指摘によって、地元の要望があれば設置をすることを郵便事業会社も表明した。
■郵便事業会社をはじめ、郵政グループの経営は厳しい。郵貯残高や保険の保有契約は急激に減少してきている。
郵便と金融のユニバーサルサービスを確保することが、国民の基本的人権を保障する観点からも必要で、それにふさわしい経営形態が求められる。世界を見渡せば郵政事業の事業体は三分の二が国営、三分の一が株式会社形態。株式会社形態といっても、株式の保有状況を見ると全株保有がほとんどだ。
日本郵政のように株式三分の一超だけの保有の方が珍しい。世界的に見ても公的な経営形態を選択すべきで、営利追求ではない形で事業を行うのが郵政事業の本来の姿だ。
金融ユニバーサルサービスを保障し、“金融難民”を生まない金融社会権を構築するような経営形態にすべきだ。百数十兆円規模があれば国債の利率を考えても採算が合う。郵政のビジネスモデルは小口の貯蓄を守ることを貫く方向で進めるべきというのが、基本的な立場だ。
郵便事業は安定的な収益を確保する状況にない。民間参入を拡大し、メール便など良いとこ取りを許してきた規制緩和に大きな要因がある。郵便に関する規制緩和を見直す方向で行ってこそ、郵政事業の安定的な経営が維持される。日本でも非正規社員が一番多い職場が日本郵政グループのため、規制緩和を見直すことによって安定雇用を生みだし、地域の雇用を支える力にもなる。
郵政事業には深い信頼あり
■郵政事業は国民生活のインフラだ。地方に行くと、金融機関は唯一郵便局という地域がある。郵政事業は税金を一円も使わず、独立採算で効率的に行ってきた。それも三事業一体だったからだ。地方の郵便局は単独では採算が取れにくい。今後、全国あまねくのユニバーサルコストを、どのように捻出していくかを考えることも重要な課題と思われる。
分社化による窓口手数料に係る消費税の支払い問題は厳然として残っている。業法の世界にゆうちょ銀行とかんぽ生命を置くことで、預金保険料の負担が発生している。特殊会社形態であれば余計な負担は発生しない。
郵便局は確かにライフラインだ。公共性に対する優遇策を実施すべきだろう。税金を投入せずに賄ってきた仕組みをどう維持するのかは、知恵の出しどころだ。
かつて離島に行ったときにクロネコヤマトが、宅急便にゆうパックのラベルを貼って出していた。クロネコヤマトが行かないところにも、郵便事業が果たしてきた信頼がある。その役割に応えていただきたい。
■改正法成立後、国会は一変して消費税論議がたけなわだ。
社会保障充実と言っても、それに使われるのは一部だろう。年収一億円超の高額所得者に、優遇措置が積み重ねられてきたことを見直すことなどを進めてほしい。大手企業であればあるほど、税負担が軽くなるような在り方を見直すことは可能だろう。
国際的に法人税引き下げ競争はG20(主要二十か国・地域首脳会合)やOECD(経済協力開発機構)の会合でも課題として取り上げられている。