日付:2012-11-06 |
財団法人日本離島センター広報誌「しま」2012年9月 231号 より
特集/離島振興法改正/3)改正法の成立
安心して住み続けられる離島を目指して
日本共産党 離島振興対策委員会事務局長 塩川鉄也
●「住み続けられる離島」を改正の眼目に
今回、一〇年ぶりの法改正に向けて、日本共産党としても党国会議員団の離島振興対策委員会(責任者は赤嶺政賢衆議院議員)で調査や懇談、議論を重ねてきました。その結果、「住み続けられる離島」をつくることが一番の眼目になったわけです。
この視点に立つと、大きく二つの点が重要になってきます。一つは、広い意味でのライフラインの確保と充実です。医療や介護、障害者福祉などの社会保障分野でのさまざまな施策を離島においてきちんと確保し、充実させるには、島ならではの困難性を踏まえた補助制度などの創設と拡充が必要だということです。また、離島では学校の存在が極めて大きな要であり、核となっている。そういったことも踏まえて、学校現場での人材確保のために標準法(公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律)における特例措置などが必要となってきます。さらに、離島航路や航空路への助成の拡充も重要な課題です。
もう一つは、就労・就業の場の確保・創出に全力を挙げることです。これまで島外からの企業誘致などに期待しても、実際にはうまくいっていない事例が多いことを考えると、やはり島の地域資源を最大限活用した地場産業振興を柱とする取り組みが重要ではないか。この点でも離島振興の困難さの主要因である輸送コスト問題の解消、つまり燃油価格や運賃の低廉化措置が不可欠です。また、地域資源を活用した起業支援に力を入れる意味では、島の方々、あるいは島外の二〇代、三〇代などの若手の力をどう引き出していくのか。若い世代の交流や定住、起業につながる一貫した支援体制の構築も求められています。
さらに、島では漁業で生計を立てている方が少なくありません。島の方々の所得向上に向けて、離島の沿岸漁業者の漁業権の拡大を図るという観点も必要だと議論をし、改正協議に臨んだわけです。
●国会の場で確認した四つのポイント
各党協議の出発点として確認したのが、最大の課題である「人が住み続けられる環境整備」「定住または移住の促進」を踏まえた、法改正にしていこうということでした。これまでハード中心だった離島振興の施策について、定住促進に資するソフト事業の抜本的な拡充を図ることが大きな特徴だったわけです。この点、各党の皆さんが本当にさまざまな知恵を出されて、じつに内容豊かな法改正になったと思います。
国会審議では、衆議院国土交通委員会において穀田(こくた)恵二議員(党国会議員団国土交通部会長)にたいへんお世話になりました。また参議院では井上哲士(さとし)議員が質問をしました。わずかな時間ですが四つポイントを確認し、打越議員や赤嶺議員が答弁に立ったわけです。
一つ目が、離島活性化交付金の具体的な対象事業について。これは附帯決議でも掲げられた点ですけれども、離島の側が積極的に離島交付金を活用できるように、メニュー範囲の拡大をしっかり位置づけようということです。
二つ目は、離島の輸送コスト支援の問題。これは昨年、国交省が概算要求で掲げていた離島輸送コストの支援事業(ソフト分)が、本予算では計上されなかったという経緯があります。こういった支援事業をしっかりと予算化できる根拠規定についてあらためて確認をしたわけです。
三点目に、社会保障サービスにかかる住民負担の軽減問題です。新たに盛り込まれることとなった妊婦の通院・出産支援のほかにも、本土で高度医療を受ける際など、さまざまな負担がかかります。これは介護や高齢者福祉、保育の分野でも当然起こり得るわけで、そういった離島住民の負担軽減について、条文に必要な規定を書き込んだことも、積極的な対応だったと考えます。
最後に、高校教職員の加配についても、条文の新設とあわせて標準法の改正を附則に盛り込みました。都道県に対して積極的な離島への加配措置を要望しながらも、国としてもしっかりと措置を講ずることに資するのではないかと思っております。
これらを踏まえ、住み続けられる離島をつくる上で、改正法が積極的な役割を果たすよう期待しているところです。
●離島の問題改善にとって重要な特区制度
このほか「離島特区」制度については、地域資源を活用した振興策につながる仕組みづくりが重要だと考えています。また、離島は人口が少ないため、介護関係などではサービスに対する報酬が見合わなかったりするかもしれません。報酬の上乗せという要求は当然のことで、離島の抱える問題を改善するツールとして、税・財政・金融なども含めた特別措置という意味で特区制度は重要だと考えます。
ただ、特区制度や地域主権改革が、社会保障や教育の分野でのナショナルミニマムを後退させるツールとして使われてきた面も否めません。保育制度を例にとると、施設の最低基準などを定めているわけです。待機児童が多い東京や大阪などでは、施設を増やす方向ではなく、既存施設の定員を拡大してより一層の詰め込みをする形で解消する規制緩和を行っているところが現にあります。離島など困難さをともなう地域において、もしそのような形でこの制度が使われるようであれば、定住促進という主旨にそぐわないのではないのかと申し上げておきたいと思います。
●予算化の根拠として活用してほしい配慮規定
改正法が施行される来年四月までに、市町村が住民の意見を反映した計画案の作成をし、都道県がその案をもとに計画をつくって国に提出することになります。その際、改正法にはさまざまな配慮規定を盛り込んでおりますので、住民の要望をもとに予算化を図る根拠、足がかりとして積極的に活用していただきたい。私たちとしても、施策の具体化が重要だと考えます。来年度の予算に向けてしっかりとその中身を反映できるよう、離島関係団体の皆さんからの予算要望などもしっかり受けとめて、党派を超えて取り組んでいきたいと思います。
また、厳しい自然的・社会的条件など、離島の条件不利性に対応した離島への地方財政措置、離島関係の予算が確実に関係市町村に交付されるような仕組みづくりを、国の段階で具体化していく必要があるだろうと考えています。
あわせて、離島振興法だけにはとどまらない支援策、あるいは離島振興に差し障りが出るおそれのある動きについては、一言申し上げたい。わが党の立場として、離島での暮らしや経済に大きな影響を与えるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の導入に対しては断固反対したいと思っていますし、そもそも物価の高い離島に対してより一層の負担を強いることになる消費税増税についてもやるべきではないと考えます。
さらに、地域主権改革の取り組みが進められておりますが、国の出先機関について、とくに離島においては、住民の一人でもある公務員の果たす役割は大きいものがあります。離島において出先機関の安易な縮小・廃止はやるべきではないと、一言申し上げておきたいと思います。
私も、数は少ないですけれども、離島に実際に足を運んでお話をうかがいました。そこで、条件は不利だが知恵を出して努力しょう、という離島の皆さんの真剣な想いに応えられる改正法にしなければと考えたわけです。これからも、離島の皆さんから積極的なご提案をいただき、国政において積極的に応えていくよう頑張りたいと思います。