【「しんぶん赤旗」掲載】改定子ども・子育て支援法/“無償化”うたうが多くの危険

「しんぶん赤旗」5月11日付・3面より

 幼児教育・保育を一部「無償化」する改定子ども・子育て支援法が10日、参院本会議で成立しました。幼児教育・保育の「無償化」は、安倍晋三首相が2017年の総選挙前に選挙目的で打ち出したもので、今年10月からの実施を狙う消費税率10%への引き上げを財源としています。安倍政権は、幼児教育・保育の「無償化」をうたい、宣伝しようとしていますが、その中身は、子どもの権利を保障するためのものではなく、今後の無償化や保育施設の拡充を進める際にも消費税増税が迫られかねないなど、数多くの危険を含んでいます。

消費税増税痛みさらに

 消費税には、低所得者ほど重くのしかかる逆進性があり、経済的困難に苦しむ世帯をより一層追い詰める悪税です。そのうえ、保育料は所得に応じて傾斜配分されており、住民税非課税の一人親世帯などの保育料は免除されているため、低所得者層には「無償化」の恩恵は極めて限定的か全くなく、消費税増税による痛みだけが押し付けられることになります。

 さらに、安倍政権は幼児教育・保育の「無償化」の財源を消費税増税に求めているため今後、無償化や保育施策の拡充を進めるために、さらなる増税が迫られかねません。

 すべての子どもに、良質な幼児教育・保育を費用の負担なく提供するというなら、その財源は所得税や法人税などの応分負担で、公正な税制によって賄われる必要があります。

保育最低基準掘り崩す

 「無償化」の対象施設から、認可外保育施設の最低基準を満たさない悪質な施設も排除していないことも大問題です。安心・安全な保育の最低基準を掘り崩しかねません。

 安倍政権が2016年からスタートさせた企業主導型保育事業は、保育士のいっせい退職や定員割れによる閉園、助成金の不正受給などが相次ぎ発生し、政府でさえ「量の整備に重点が置かれ過ぎ、質の確保への意識が必ずしも十分ではなかった」(宮腰光寛少子化対策担当相、4月3日の衆院内閣委での日本共産党の塩川鉄也議員への答弁)と認めざるをえないほど、破たんが明らかになっています。

 ところが、改定法では、企業主導型保育事業よりもさらに緩い基準である認可外保育施設の基準さえ満たさない施設も、5年間の経過措置期間中は補助の対象となっています。

 7日の参院内閣委員会での参考人質疑では、保育事故で生後5カ月の娘を亡くした当事者から「基準に満たない施設や事業は『保育』として適切ではない」「保育内容の差をそのままにして全てを無償化の対象とすれば、国が『どれも同様に安全だ』とお墨付きを与えることになる」など疑問の声があがりました。

 保育制度は、政府・与党によって規制緩和路線が推し進められた結果、質・量ともに深刻な課題を抱えています。とりわけ、待機児童を解消するための認可保育所の整備、保育士の配置基準や処遇の改善は待ったなしの課題です。そうした課題に真正面から向き合わず、選挙目当ての「無償化」を無理やり優先させるだけでは、矛盾は拡大するだけです。

 日本共産党は、保育の質・量を確保しながら、保護者の負担軽減を進めるよう提案しています。

公的保育制度の後退に

 改定法では、「無償化」にかかる市町村の負担割合が対象施設によって異なります。私立保育所は国から2分の1補助が出るのに対し、公立保育所は市町村の10割負担となります。これでは、公立保育所が多いほど自治体の負担が増えることになります。

 保育経験を長年積み重ねてきた公立保育所は、研修や相談先、手のかかる困難事例の受け入れなど、保育の質を確保する上で重要な役割を果たしています。また、自治体の指導監督や巡回指導の人材の供給源としても欠かすことができません。

 ところが、公立保育所の運営費が一般財源化された2004年以降、公立保育所の施設数は激減。公立保育所に勤務する保育士数も過去14年間で8割に減少しています(グラフ)。このうえ、「無償化」でさらに市町村の負担を増やせば、民営化がさらに加速し、自治体が保育に責任をおう公的保育制度が後退することは避けられません。

給食実費化で現場混乱

 今回の「無償化」によって、これまで教育保育給付に含まれていた食材費が、公的給付から外されて実費徴収の対象となります。

 保育の現場からは「給食もおやつも保育の一環で、なぜここだけ切り出して『実費徴収』なのか」と批判の声が上がっています。さらに事務処理の負担も保育現場に押し付けられます。未納が起きるリスクも、それぞれの保育所が背負うことになりかねません。

 日本共産党の田村智子議員は9日の参院内閣委員会で、「施設や保育士の事務負担の重さが保育士不足の要因の一つと認めながら、何ら手当てをしないということは納得できない」と追及。しかし、宮腰担当相は「丁寧に周知説明を行い、円滑な実施に努める」というだけでまともに答弁できませんでした。