【「しんぶん赤旗」掲載】行政のデジタル化は何をもたらすか/塩川鉄也衆院議員に聞く(2)

「しんぶん赤旗」12月9日付・6面より

情報集約/漏えいの危険

 ▶情報が集約されると、プライバシー侵害の不安がぬぐえませんが、どうでしょうか。

 個人データの保護の問題は重大です。

マイナンバーカードの登録で多様な機能が利用可能になると紹介するマイナポータルログィン画面

 マイナンバー制度は、社会保障・税・災害対策の3分野についてのみ共通番号を導入しています。情報漏えいやなりすましの防止のため、個人情報を一元管理せず、年金の情報は年金事務所、地方税の情報は市町村と、分散して管理することになっているのです。それを、マイナンバーカードの認証を利用してマイナポータルで情報をまとめようというのですから、3分野以外にも制度を広げることになります。分散管理による安全性を揺るがし、マイナンバー制度を大本から変えることになります。

本人知らぬ間/不利益使用も

 利便性の高さはセキュリティーレベルの低さと表裏一体であることが、ドコモ口座の不正引き出し事件であらわになりました。マイナンバーカードやマイナポータルも同じことがいえます。さらに、行政機関は「国内最大のデータホルダー(保有者)」です。情報は集積されるほど利用価値が高まり、攻撃されやすくなります。情報漏えいを100%防ぐ完全なシステム構築は不可能で、一度、漏れた情報は流通・売買され、取り返しがつきません。プライバシー侵害の恐れが高まることになるのです。

 また、これらの個人データが捜査機関へ照会されない保証はなく、監視社会へ導く危険もあります。

 現在のIT(情報技術)社会では、国家や企業などに集積された個人データが、本人の知らないところでやりとりされ、プロファイリング(※↓)やスコアリング(格付け)され、本人に不利益な使い方をされる懸念があります。

 昨年、学生就職支援サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア社が、就活生の閲覧履歴などから採用試験の合否を左右しかねない内定辞退率を勝手に算出し、採用企業に販売していた問題が発覚しました。通販大手のアマゾンではAI(人工知能)を用いた人事採用システムが過去の傾向などから女性の求職者に不利な評価を行うといった差別も発覚しています。ビッグデータやAIを利用して、個人にレッテルを貼り、信用力を点数化してサービスや取引から排除するといったことも行われています。プロファイリングやスコアリングが、個人の人生に大きな影響を与える事態を引き起こしているのです。

個人情報保護/ルール強化を

 だからこそ、個人情報保護のルールを強化する必要があります。しかし、今年の個人情報保護法改定は、個人の権利利益が実質的に守られるものになっていません。政府は、私の質問に対し、リクナビ事件のような事例は起きないと答弁できませんでした。

 日本の法律は、インターネット上に残る個人データの削除・消去、利用停止権(いわゆる「忘れられる権利」)の保障からは程遠く、EUの一般データ保護規則(GDPR)で保障されている「忘れられる権利」や「プロファイリング」に関する規程が明記されていません。

 個人情報の定義は狭く、閲覧履歴など端末情報も保護されておらず、利用目的が公表されていれば本人に自覚がなくても同意したとみなされます。

 個人情報は、「個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきもの」であり、プライバシーを守る権利は、憲法が保障する基本的人権です。どんな自己情報が集められているかを知り、不当に使われないよう関与する権利、自己情報コントロール権、情報の自己決定権を保障することが、いまこそ必要です。

※プロファイリング=ICT(情報通信技術)などで集約した個人情報を人工知能(AI)などで自動的に分析して人物像を推定し、評価・差別・選別する手法のこと。

(つづく)