【内閣委員会】デジタル関連法案/個人情報/保護より利活用へ/参考人から危惧の声

 デジタル関連5法案の参考人質疑が行われ、大学教授ら4人が意見を陳述しました。

 専修大学の山田健太教授は、法案では個人情報の保護よりも利用が優先されていると指摘。情報を集中する方向に強める内容も含まれており、漏えいの危険性も増しかねないと述べました。

 三宅弘弁護士も法案にはプライバシーや個人情報保護の点で危険があると強調。個人情報保護制度が自治体も含めて原則一本化されるが、先進的な自治体の保護体制のレベルダウンや自治体の条例制定権への制約になりかねないと指摘しました。

 私は、わが国の個人情報保護法制について尋ねた。

 山田教授は、個人情報保護法は現在第3世代ともいうべきもので、2015年の改正においていわば「ビックデータ活用法」へと大きく性格を変えられてきた。今回の法案は、第4世代で、「フルスペックで利活用できる」法制へと変えられようとしていると指摘。

 背景には、経済界の要求があり、IT企業の利権についても言及。損をするのは住民と自治体だと述べました。

 行政手続きのデジタル化に関しては「対面とデジタルの両方を行う法設計をしていくことでデメリットを埋めていく形にしていただきたい」と話しました。

 私の質問に、三宅氏は、日本では行政機関の個人情報の取り扱い方をチェックする体制が欧州と比べても弱いことを説明し強化を提案。

 自治体の個人情報保護条例の一元化の問題についても「保護をきめ細かくしようとするなら共通ルールプラス自治体の上乗せを十分図っていけるようにすべきだ」と述べました。


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「議事録」

<第204通常国会 2021年3月18日 内閣委員会 10号>

○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 四人の参考人の皆様には、貴重な御意見を賜り、本当にありがとうございます。
 それでは、まず松尾参考人と石井参考人にお尋ねいたします。
 この間、個人情報をめぐる様々な問題が起こっております。リクナビ問題は、学生たちの就職活動、個人情報のスコアリングやプロファイリングによって、人生に不利益をもたらす影響を与えてしまった可能性というのは否定のしようがありません。また、今のLINEの問題は、本人同意がないままに第三者に情報提供が行われる、本人同意があろうとなかろうと、トーク内容を勝手に閲覧できる状況はプライバシーの侵害と言わざるを得ません。
 このような、個人の権利を守るための規制というのが改めて求められているのではないのか。この点について、お二方から御意見をお伺いしたいと思います。
○松尾参考人 御質問ありがとうございます。
 個人情報の管理を各企業がきっちりしないといけないというのはそのとおりかと思いますが、私は、逆に、産業の立場から、産業競争力を強化するという立場からお話をさせていただきますと、やはりAIの活用、それからデジタルの活用において、スピード感を持ってやっていくということも重要ですし、その思想として、リーンであるとかアジャイルであるとか、そういう形で、やってみて駄目だったらすぐに修正していくということを繰り返すことによってよくしていくというのがもう文化になっております。
 グーグル、フェイスブックを始め、そういった形でいいサービスを提供しておりまして、そういう観点からしますと、そういう問題が出たときにはやはり速やかに対処をして、ただ、それによって大きなレピュテーションのリスクを負わないように、また慎重になり過ぎてイノベーションが起こらなくなるということがないように、そういう側面も十分に考慮すべきではないかなというふうに感じております。
 以上です。
○石井参考人 御質問いただき、ありがとうございます。
 リクナビの事件もLINEの事件も、どちらも民間事業者に関する事案になっておりますけれども、リクナビに関しましては、令和二年の改正で、個人関連情報に関する規律ですとか、あとは不適正な利用を制限すること、それから罰則の強化など、必要な手当ては令和二年改正の方でなされてきているという面はあろうかと思います。
 LINEの方は、説明義務ですとか、同意の範囲の問題ですとか、安全管理措置ですとか、様々な問題があろうかと思いますけれども、現行の個人情報保護法制に基づいて対応できるものであるというように考えておりますし、何か新しい事案が生じて、それが個人情報保護法で対応できないとなったときに、今度は新たな規律を考えるということになろうかと思いますので、法の作り方としてはそういうことになろうかと思います。
 今回の個人情報保護法の改正は、あくまで官民一体のルールをつくるということについて、個人情報保護委員会が監督権限を包括的に行使できるようになるというところが主眼になっておりますので、その点について適切であるということを改めて強調しておきたいと思います。
 以上です。
○塩川委員 ありがとうございます。
 三宅参考人にお尋ねをいたします。
 今のように、民間部門での個人情報保護の問題についての様々な懸念というのは率直に言ってあるところであります。今回、官民一体のルール、個人情報保護法でつくる、そういう際に、この間の政府の対応というのが、個人情報保護とデータの利活用の両立と言いますけれども、実際にはデータの利活用が優先されるような状況になっているのではないのか。そういう点で、個人情報保護がないがしろにされているのではないのか。
 この間、保護法制に関わってこられた三宅参考人として、どのように受け止めておられるのか、お聞かせください。
○三宅参考人 私は、先ほど申しましたように、行政機関法の制定のほか、民間部門の個人情報保護法制の制定の際にも個人情報保護法制定の検討部会の委員を務めたりしましたし、政府・与党社会保障改革検討本部の個人情報検討チームも行いましたが、民間法の方でどこまで進んでいるのかというお話をしますと、認定個人情報保護団体というものも従前の個人情報保護法の方にございまして、私はクレジット協会の個人情報保護推進委員会の委員というのも務めておりますが、クレジット業者が、登録業者が個人情報の利活用ということで濫用した場合には、直ちに調査に行って、それを所管の官庁に上げ、個人情報保護委員会に報告するということで、機能的にはかなり進んでいて、ただ、時々、認定個人情報保護団体がフォローできていないところを役所が率先して調査したりするのも経験しておりまして、民間部門についてはかなりできてきているのではないかなと思っております。
 やはり、公的部門の方が、先ほど、個別の条文の比較で、勧告権限にとどまっているというところがありましたが、これが欧州の場合は、行政機関もきっちりチェックをして個人情報の保護をやった上で、民間部門で一般データ保護規則等のようなもので、行政機関プラス民間部門の保護ということができているところですが、まだ日本は縦割り行政の影響下で、個人情報保護委員会の権限がやはり弱かった、全くなかったところを、今回、統一法にして権限を強化しましょうという方向性はいいとは思うんですけれども、まだまだ民間部門と同レベルの法体系になっていないところをどう詰めていくのかということが、これは、日本の法制の在り方とともに、特に欧州から見たときに、これで十分なものと言われるのかどうか、この辺りも特に注意していかないといけないところではないかと考えております。
 もうちょっと役所に対しても立入調査等がやはりできるように、先ほど申しましたが、そういうことを国会の審議で十分言質を取っていただくことが必要ではないか。できたらやはり条文改正まで本当は行きたいところだと考えておりますので、その辺、十分な審議をお願いしたいと思っております。
○塩川委員 ありがとうございます。
 重ねて三宅参考人に伺います。
 冒頭の意見陳述でもお話がありました自治体の個人情報保護制度のことですけれども、自治体の個人情報保護も含め、ルールの一本化が原則とされる今回の法改正で、条例を定めた際には個人情報保護委員会に届け出なければならない。条例制定権への大きな制約となるのではないのかというお話がありました。
 そういう点でも、自治体における個人情報保護条例、先進的な事例などもあるかと思いますけれども、そういうことについて御紹介いただければと思いますし、今回の法改正で、自治体の取組において、住民の要望も踏まえた条例制定権の制約、懸念される点についてお聞かせいただけないでしょうか。
○三宅参考人 自治体の条例は、歴史的に言えば、国の個人情報保護法よりも早めに、一九八〇年代から法整備が進みましたから、やはり分散管理で自治体が個別に積極的にやりましょうということになったわけで、二〇〇三年の個人情報保護法ができたときに、全国全ての自治体で個人情報保護条例を作るということになりました。
 ただ、それぞれ一律のものでございませんので、足並みが乱れたりしたことはございますが、これを集中管理しようとすると、その足並みの乱れが気になるというのが今回の法律の統一ルールの制定だと思います。
 ただ、毎年、私、個人情報保護についての全ての自治体の答申例を分析しておりますが、一つ一つの自治体の審議会では、こういうセンシティブ情報を集めましょうかというときには、個人情報保護審議会で、これはここの自治体でも集めましょう、オーケーということでやって集めるので、やはり自治体の住民にとってはとても安心感があるんですね。
 その安心感が、先ほど石井委員からもありましたが、数か月に一回の審議会でしかそれはしないと、もうこの利活用のスピード感のところに対応できないというお話があったんですけれども、そうであれば、自治体の審議会はそれぞれちゃんと今までどおり残して、しかし、国の個人情報保護委員会から、こういうことをやってくださいと言ったら、スピード感を持ってそれに対応できて、自治体ごとの上乗せ条例の部分もできるような、そういう対応を、個人情報保護委員会と自治体の個人情報保護行政、やはり、自治体に極めてセンシティブな情報がたくさんありますので、そこの保護というところをきめ細かにしようと思うと、共通ルールプラス自治体の上乗せを十分図っていけるように。
 そのとき、届出のところで、これはちょっとやめてくださいよとかと個人情報保護委員会に言われて自治体が萎縮してしまうことになると、やはり条例制定権の侵害という問題が起きますので、これは運用で十分できるように、個人情報保護の上乗せの部分はきっちり自治体の条例で確保できるような法運用になるように、ここのところは、許認可でなく届出制にしたというのは、微妙なバランスを取られたんだと思いますが、やはり運用が大事でございますので、そういうところを十分できるようなことをこの審議を通じて明らかにしていただく必要があると思いますので、議員の先生方の皆様のここについての着眼、質問、それできっちり国会の議事録に残していただくという方向づけがとても大事なので、そういう意味でも、特に慎重に審議をしていただきたいところだろうと思っております。
○塩川委員 ありがとうございます。
 それでは、山田参考人にお尋ねをいたします。
 この間、個人情報の利活用がどんどん進められる、その際に、安倍政権時代以降から様々な規制緩和措置もあったと思います。これがどのようなものなのか、また、こういった利活用を進める人、利用する人というのは、どういった人たちなのか、何をしたいのか。このことについての御説明をいただけないでしょうか。
○山田参考人 お答えいたします。
 第一点につきましては、現在のは個人情報保護法と言っておりますけれども、今の個人情報保護法は第三世代なんですね。
 最初の世代は、一九八八年だったと思いますが、コンピューター上の行政機関保有情報に関する保護法ができ上がりました。第二世代の個人情報保護法が、今私たちが何となく言っている個人情報保護法の大本でありまして、二〇〇〇年代に入ってからでき上がったものでして、個人情報保護法と行政機関個人情報保護法、それから、その姉妹法であります独立法人の個人情報保護法であります。そして第三世代が、二〇一五年に改正されました改正個人情報保護法です。何かといいますと、これによって、これは実際上はビッグデータ活用法になっているということで、大きく性格が変わったわけであります。
 さらに、今回の改正によって一元化される個人情報保護法によって、まさに第四世代、いわゆるフルスペックで、利活用がしやすい形での個人情報保護法に変わるというところが大きなポイントでして、まさにそれは、大きな流れとしましては、規制緩和というふうに言っていいのかどうか分かりませんが、いわゆる個人の権利化、強化ではなくて、より利活用のための法案になりつつあるということが言えると思います。
 二つ目の質問に対するお答えでありますけれども、これはなかなか難しい面がありますが、はっきり分かるのは二つ。経済界の求めというものがあろうかと思います。
 それは、経済界が、経団連ほかがDX推進というものに邁進しておりまして、まさに、ITビジネスとしての、データビジネスとしての個人情報の利活用を非常に強く望んでいるということがありますし、あるいは、ビッグデータ利活用だけに限らずに、そもそも、この大きなシステム、とりわけ、まさに除染ビジネスにおけるスーパーゼネコンじゃありませんけれども、今回のコロナ禍において、ほとんど青天井の予算の中で、非常に大きな形で、IT企業が、いわゆる電算化、デジタル化に対して大きな興味を持っているということは間違いないかと思います。
 それからもう一つ、この二つ目は推測が入りますけれども、やはり政府や警察の利便性があろうかと思います。
 先ほど、三宅参考人から監視法案という言い方が出ておりましたけれども、捜査上、住民監視が一元化されて非常に容易になってしまう。あるいは、コロナ禍において、民間企業からの個人情報の提供も進んでいる。本来は時限措置というはずだったものが恒久化されつつあるということもあります。そういう中で、まさに例外の一般化というものが起きている。あるいは、今日一番最初にお話しした大原則と例外の逆転も起きてきてしまっている。そういう状況の中で、どうしても損をするのは、やはり住民である、あるいは、一番業務を負っている自治体が、膨大な事務、人手と労力によって非常に大きなデメリットを負っているということが言えるかなと思います。
 以上です。
○塩川委員 最後に、個人情報の利活用で起こる弊害、問題点、そして、それに対して、これを防ぐための対策についての御意見をお聞かせいただけないでしょうか。
○木原委員長 山田参考人、時間が来ておりますので、簡潔にお願いいたします。
○山田参考人 はい。一言お答えいたします。
 最後のページに、こぶというふうに言いましたけれども、まさに先ほど出たように、対面とデジタル署名のものを両方やるというのもいいかもしれません。まさにそういう形で、きちんと実際に、いわゆる、するっと抜けるんではなくて、きちんとしたこぶを作る、あるいは余白を作るという形で法設計をしていくということによって、まさにそのデメリットの部分を埋めていく形にしていただきたいというふうに思っております。
 以上です。
○塩川委員 終わります。ありがとうございました。