【内閣委員会】子どもコミッショナーは中核的義務/学校の全ての場面で子どもの権利保障が不可欠/子ども関連法案参考人質疑

 こども関連法案の参考人質疑を行い、質問に立ちました。

 意見陳述で、日弁連子どもの権利委員会の野村武司幹事は、政府案と与党案には含まれていない「子どもの権利擁護機関」(いわゆる子どもコミッショナー)について、「子どもの権利を促進・保護するものとして、子どもの権利条約締約国の中核的義務と位置付けられているもの」で、「政府から独立した組織が必要だ」と述べました。

 日本大学の末富芳教授は、こども施策として「児童手当、年少扶養控除、保育、教育、医療の無償化などをパッケージとして示していくことが必要だ」と強調しました。

 私は質疑で、与党は、こども基本法ができたとしても教育の現場に権利条約の意見表明権などは及ばないとしていることについて意見を求めました。

 野村氏は、法案で一番危惧したのはその点だとして「生徒指導や特別支援教育、いじめ問題の解決など、子どもが最も多くの時間を費やす学校の全ての場面で子どもの権利を保障し、最善の利益を守る観点から、学校教育を子ども政策に位置付けることは不可欠だ」と述べました。


衆議院TV・ビデオライブラリから見る


「議事録」

<第208通常国会 2022年4月28日 内閣委員会 第23号>

○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 参考人の皆様には、貴重な御意見を賜り、本当にありがとうございます。
 最初に、四人の参考人の皆様に御質問をいたします。
 やはり、子供関連の法案ということで、子どもの権利条約、これが、今の政治、社会、どのように発揮をされているのかということが問われることだと思っております。
 その点で、日本においてこの子どもの権利条約の実施状況が不十分ではないのかと私は受け止めておりますが、そうお考えであれば、どのような分野で、どのような権利保障が不十分だとお考えか、この点についてお聞かせいただきたいということと、あわせて、今回、閣法で出しましたこども家庭庁設置法案、子どもの権利条約の四つの一般原則に係る部分の記述が任務等に書かれておりますが、子どもの権利条約という文言そのものはありません。これまで、子供施策に係る法律におきましても、子ども・若者育成支援推進法や児童福祉法には、子どもの権利条約の理念にのっとり、子どもの権利条約の精神にのっとりと書いているんですが、この子どもの権利条約という文言がこども家庭庁設置法案に入っていない点についてはどのようにお考えかということについて皆さんからお考えをお聞かせください。
○古賀参考人 ありがとうございます。
 私も、権利条約の内容については、かなりいろいろ盛り込まれているんだなということは読ませていただいて思っております。その言葉が入るか入らないかというのは、それぞれの政治的御判断だと思いますので、私は、絶対それが必要かということについてはそうでもないのではないかなと思っております。
 ただ、子供の意見表明権とか、それから多様なダイバーシティーを保障する部分とか、これはやはり必須の条件というふうに思っておりますので、私どもも、先ほど御紹介したように、有識者会議でも意見募集事業、これはネットを使ったりもしております。いろいろな媒体を使って子供の声を拾い上げるという形を取っております。こういった作業は、やはり今後も続けなきゃいけないし、必要だと思いますので、そういう子どもの権利条約の要素を一つ一つの事業に含み込んでやっていくという作業が必要だと思っております。
 以上です。
○土肥参考人 私も古賀参考人と同じ意見でして、子どもの権利条約という文言は入っていないかもしれませんが、子どもの権利条約に必要な要素はかなり盛り込まれている内容になっているのではないかというふうに考えています。
 その上で、これまで足りなかった部分という意味では、私の専門からいえば、意見表明に関しては、非常に日本の中では遅れていた部分ではないかというふうに思っていまして、こども家庭庁は非常に意見表明や参画ということを積極的に取り入れているのではないかというふうに考えておりますので、そこに期待をしている部分です。
○野村参考人 まず、子どもの権利条約が批准されて、それが我が国においてどこが不十分なのかという点ですけれども、これは、私、国連の予備審査にも参加していまして、その雰囲気は感じ取ってきていますけれども、基本的に総括所見に上がっていることということにはなりますが、何よりもずっと言われてきたのは、やはり子供の権利に関しての総合的な、包括的な法律がないということ。
 それから、私が先ほど発言させていただいた子供コミッショナーに当たるもの、コアオブリゲーションズというふうに国連子どもの権利委員会は言っていて、条約の一般的意見の二号でそれが言われ、十二号でも繰り返し言われている、しかも各国でこれを取りそろえてきている、これがないということが非常に大きな問題であるように思っています。
 ただ、本国会の中でこれが議論にのったということは、私はすばらしいことだと思っていて、いろいろな進化過程はあると思いますけれども、是非そういう観点から議論をしていただければというふうに思っています。
 そのほか、個別にはいろいろありますけれども、国連の議論に参加していて一番感じたのは、やはり暴力の問題、家庭での暴力、学校での暴力、体罰の問題というのは国連の子どもの権利委員会の委員の非常に大きな関心になっていて、日本では法制度も含めて禁止の方向に向かっているという報告があったんだけれども、国連子どもの権利委員会で言っている暴力の禁止というのは、スパンキングという言い方をしていましたけれども、軽くたたくことだって駄目だというふうに認識しているんだということを非常に強い調子で言われていたということは非常に印象的です。
 その他、緊急的に取るべき措置というのが、たしかパラグラフの最初の方に載っていたと思いますので、ちょっと思い出せませんが、そこにあるものということになろうかと思います。
 それから、今回の法案に、子どもの権利条約ですけれども、設置法についてどうかというのはなかなか判断がつきにくいところがあるんですけれども、ただ、設置法でも、子供の権利についての一般原則、四つのものというのは上がっているということは評価していますし、基本法についても、各党のものを見てみますと、基本的に子供の権利についての一般原則が上がっているということはすばらしいことかなというふうに思っています。
 それをどのように実現していくのかというのは、その法体系の問題と今後の取組ということになってきますので、こんなに前向きな議論がなされている国会というのは私は本当にすばらしいと思っていますので、是非、それを踏まえて議論をしていただければなというふうに期待として思っています。
 以上です。
○末冨参考人 まず、最初の御質問につきましてですが、塩川先生へのお答えとして申し上げたいのは、まず子供の生命、生存に関する権利の保障こそが最重要であるということです。コロナの前からこの国の貧困世帯のおよそ一割強は、三食満足に食べられない家庭です。
 あわせまして、昨年度内閣府が実施しました国として初めての子供の貧困調査では、逆境経験というものを聞いております。暴力、暴言だけではなく、自分は誰からも愛されていないなどのとても厳しい環境で生きている子供たちは、貧困世帯の場合およそ半数、そして、貧困ではない世帯でも一五%程度存在することが分かっています。
 親の所得状況にかかわらず、このように自分自身の生命や生存、そして尊厳が脅かされている状態こそ、この国の子供の権利の状況としては最も深刻なものであり、一番最初に解消されるべきものであるというふうに考えます。
 あわせまして、今次国会に提出されておりますこども基本法あるいはこども家庭庁設置法や立憲民主党法案、維新法案等につきましては、それぞれに、子供の権利を基盤とし、子供のための組織をつくるんだということをおっしゃっておられますけれども、やはり重要なのは、その組織において、子供を守り、子供と進むという具体の政策領域や国としての責任領域をどのように明示していくかということが重要であると思われます。その点についての議論を深め、よりよい法案としていただくことが皆様方に期待することです。
 以上です。
○塩川委員 ありがとうございます。
 次に、野村参考人と末冨参考人にお尋ねいたします。
 いわゆる子供コミッショナー制度の関係ですけれども、政府から独立をし、政府を監視、評価、制度改善を求める第三者機関、そして子供の権利侵害の相談・救済機関として、いわゆる子供コミッショナー制度が必要だと考えております。
 その点で、こども家庭庁設置法案や与党案などには、子供の権利を保障するための独立した監視機関が明記をされていない。この点についてどのようにお考えか、お聞かせください。
○野村参考人 ありがとうございます。
 先ほどの意見の中で申し上げましたが、コミッショナー制度ということを持つということが子どもの権利条約を批准している国のコアオブリゲーション、中核的な義務ということでありますので、これがあるとないということでは非常に大きな違いがあるというふうに考えています。
 いろいろな議論は承知していますけれども、監視だとか独立だとか勧告だとか意見表明だとかという非常に厳しい言葉が並んでいるがために、要らぬ予断とともに議論がなされていることが本当に心苦しく感じているんですけれども、今日意見を述べさせていただいたのは、実は、勧告であるとか意見だとか独立ということは、こういうことなんだということを事例をもって示したいなというふうに思いまして、自治体の事例でありましたけれども示させていただいたという次第です。しかも、我が国に経験がないかというと、地方分権の分野で実はこういうものもあるというのが先ほどの例ですけれども。
 いずれにせよ、少し離れた立場から子供の意見を届けて、それを子供の最善の利益に結びつけていく、それが救済であったり、制度改善であったり、あるいは広報啓発であったりという、その役割というのは、子どもの権利条約の観点からも非常に重要なものというふうに理解をしています。
 なので、前向きな議論を望んでいるということになります。
○末冨参考人 私のスライドの、また二十六ページを使って説明をさせていただきます。
 独立性という言葉が、確かに子供の権利擁護機関については非常に私もよく聞きました。そして、その点について心配をされる国会議員の方たちがいらっしゃることも確かであろうと存じます。
 民主主義と申しますのは、同じ意見を持つ人たちだけではなく、やはり違う立場に、あるいは子供たちのために違う視角からの光を当ててくださる方たちの御意見を大事にしなければなりません。
 そうしたことを鑑みて、私自身、子供コミッショナーについて真剣に議論を交わし、検討してまいりました。
 その結果、たどり着きましたのが二十六ページのこちらの諸原則になりますが、独立性だけではなく、様々なお考えのある国民の信頼と負託に応えるためには、やはり中立性や公平性の原則というものが必要になります。ただし、あわせて、子供自身の状況をよくするためには迅速性や専門性といった諸原理がある。そうした諸原理をきちんと実現していく、その際に何の原理原則が大事なのかということを決める場こそ、恐らく国会の機能ではないでしょうか。
 ただし、独立性につきましては、私自身は、教育委員会のいじめ隠蔽等に対しての国の役割を発揮する際に再度検討されることになるのではないかと予測しております。なぜならば、教育委員会も、政治的中立性を持ち、独立性を持つ行政委員会の一つだからです。こうしたいじめ隠蔽事件に対し国や地方が十分な機能を発揮する際に何が必要なのかという中で、改めて独立性に視点が当てられる場合もあろうかと存じますが、それは、個別の事例、そして国の司令塔機能の発揮といったものの中で、しっかり丁寧に検証されるべきであろうと思います。
 ただし、何より大事なのは子供の最善の利益です。
 以上です。御質問ありがとうございます。
○塩川委員 ありがとうございます。
 続けて、野村参考人と末冨参考人にお尋ねいたします。
 子どもの権利条約は、当然、子供に係る、子供施策に広く及ぶものです。もちろん、教育や学校教育の内容にも及ぶものでありますけれども。
 ただ、与党提出のこども基本法案、この間質疑をしてまいりまして、子どもの権利条約の四つの一般原則を掲げたこのこども基本法案については、学校教育の内容には踏み込まないという答弁です。そうしますと、学校教育の内容についてはこの法案が及ばないということですと、十分その役割を果たすことができるのかと受け止めたんですが、その点についてお考えをお聞かせいただけないでしょうか。
○野村参考人 ありがとうございます。
 今回の自民党、公明党提出の基本法案を拝見して、私が一番危惧したのはその点です。
 もちろん、学校現場における教育内容をどうするのかという問題等については、これは先生が、生き生きと伸び伸びと、子供に直接接して教育をしてもらう、そういう役割というのは十分果たしてもらわなければいけないということは当然ですけれども。
 しかしながら、例えば、生徒指導の在り方であるとか、あるいは教育確保法の分野の問題であるとか、あと特別支援教育の問題であるとか、あるいはもちろんいじめの問題であるとか、学校教育の周辺もありますけれども、学校教育の内容。つまり、子供を真ん中に置いて考えるということは、子供の生活場面、全生活場面において子供の権利保障をするということですから、子供が最も多くの時間を費やす学校の現場がそこから抜けてしまうということになると、それはこどもまんなかという話にはならないだろうというふうに思っています。
 ただし、教育法の様々な基本原則や原理があって、いろいろ難しい議論も当然あるのはもちろん承知はしているんですけれども、それを踏まえた上でも、子供の最善の利益あるいは子供の人権の観点からは、学校教育というのを子供施策の中にきちんと位置づけるということは、私は不可欠であろうというふうに考えています。
○末冨参考人 御質問ありがとうございます。
 こども基本法やこども家庭庁が学校教育に踏み込まないんだというような御心配があるということは承知しておりますし、私も懸念はしました。ただし、そのようなことは法の建前上もないというふうに考えております。
 なぜかと申しますと、既に、教育の世界では、本日御説明申し上げたように、子供の権利を前提として、九ページあるいは十ページにありますように、実際の教育政策や教育実践が行われつつあるからです。
 文部科学省も、では、子供の権利を無視しているかというとそういうことではなく、今議論されております生徒指導提要という例えば校則の根拠となっている方針においては、児童の権利条約が明記されております。すなわち、子供を権利の主体として位置づけ、子供の意見を表明することや尊重することも大事にしていこうねということが申し述べられております。
 なぜそのような議論になるのかと申しますと、与党案のこども基本法のすばらしいところは、日本国憲法の精神に基づくという一文が入っていることです。教育基本法の前文にも日本国憲法の精神に基づくという文言が入っており、当然のことながら、子供も権利の主体であり、基本的人権を持ち、主体的な国家及び社会の形成者として成長していくことが、この二つの法律に共通するものだと考えています。
 そうした日本国憲法の精神を基盤とするこの二つの法律は、対立するものではなく、相補いながら進んでいくものであり、文部科学省や関連する省庁の政策においても、教育政策か子供政策かではなく、両方とも大事にした実践が進むということを期待しております。
 こども家庭庁も、当然のことながら、そうした視点に立って、子供の最善の利益を実現するための司令塔として、子供の権利は大事ですよねということを全ての省庁にきちんと横串を通していってくださるものと期待をしております。
 御質問ありがとうございます。
○塩川委員 終わります。ありがとうございました。