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第193 通常国会 2017/1/20~2017/6/18
日付:2017-07-27
2017年通常国会の取り組み【2】環境問題
(1)カルタヘナ法改正案質疑
(3月31日、環境委)
カルタヘナ法(遺伝子組み換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律)の改正案を全会一致で可決。2012年に日本が署名した名古屋・クアラルンプール補足議定書に盛り込まれた「遺伝子組み換え生物による損害に対する回復措置」を担保するための改正です。
採決に先立つ質疑で、11年に沖縄県で未承認の遺伝子組み換えパパイアの苗が流通し、その後すべて伐採された事例を紹介。農家には何の責任もなかったにもかかわらず、損害の補償は苗の提供だけだった。補足議定書にのっとってカルタヘナ法でこのような損害に対する補償の仕組みを検討すべきだと迫りました。
山本公一環境相は「基本的には民事で解決すべき問題だ」としつつ「今後も同様の事例があるようなら、課題として考える必要があるかもしれない」と述べた。
補足議定書は人の健康や農業など広い範囲を回復措置の対象としているのに、改定案では重要な種・地域に対象を限定しています。カルタヘナ法でも幅広く回復措置の対象とすべきです。環境省は「回復措置を広く求めることは(事業者の)負担がある。限定して対処法を考えることが必要」と答弁しました。
(2)土壌汚染対策法改定案質疑
1)規制強化の流れに逆行すると追及
(4月7日、環境委)
改定案は、自然由来等の汚染土壌なら▽形質変更時(造成工事など)に必要な事前届け出を、沿岸部の工業地帯などでは年1回の事後届け出制に変更▽汚染土壌搬出の際の汚染土壌処理業者への委託義務の緩和―などを盛り込んでいます。
2009年の同法改正で「形質変更時の事前届け出制」「汚染土壌処理業者への処理の委託義務」「自然由来の汚染土壌の法の対象化」などの規制強化が図られました。改定案は09年の規制強化を緩和するもので、土壌汚染対策強化に逆行すると批判しました。環境省は「人への健康リスクはない。前回の改正の趣旨には反しない」と答弁しました。
自然由来の汚染と人為由来の汚染をどう区別するのかと質問。環境省は「技術基準を定める」と答えました。同省の中央環境審議会で石油連盟が「自然由来か操業由来か埋め立て由来かの区別は困難」と述べたことを示し、「実態として判別は困難だ」と指摘。改定案は「汚染原因者である事業者の処理責任をあいまいにするものだ」と強調しました。
2)産業活性化などの名目で規制緩和する改定案について参考人質疑
(4月11日、環境委)
畑明郎元環境学会会長はいったん土壌が汚染されれば完全に除去することはできないとし緩和に反対を表明しました。
畑氏は、改定案で臨海部の工業地帯などでの造成工事(形質変更)にかかる都道府県への届け出を事前から事後に変更することについて「臨海部の大規模工場は土壌汚染されている場合が多い。チェックの機会はできるだけ増やすべきだ」と主張。
また、汚染土壌の公共事業への再利用については「豊洲新市場予定地の問題から明らかなように、公共事業など自治体が進める事業を、その自治体自らチェックする仕組みでは内部で馴れ合いが起きる問題がある」と指摘しました。
わたしは、豊洲新市場のモニタリング調査で、汚染対策工事を行ったゼネコンが地下水調査を受注し、子会社に採水などの作業を実施させていた問題について質問。
早稲田大学の大塚直教授は「子会社は控えるなどの運用が信頼性を高めるうえで重要」とし、畑氏も「監督する側の自治体とゼネコンの利害が一致する場合もある。自治体任せでなくクロスチェックが必要」と主張しました。
3)豊洲新市場の土壌汚染対策を追及
(4月11日、環境委)
東京都の豊洲新市場におけるモニタリング調査の4~8回目までの採水・分析が随意契約で大手ゼネコンの鹿島、清水、大成が幹事社の共同企業体(JV)が受注していた問題を取り上げました。
JVの3幹事社は汚染対策工事も受注しています。土壌汚染浄化対策を実施した事業者が、土地が浄化されたかどうかの調査を受注するのはおかしいと質問。山本公一環境相は「好ましいことではない」と答弁しました。
5街区の4~8回目までの調査でパージ(調査のための排水作業)と採水作業を鹿島建設の100%子会社のケミカルグラウトが行っていた。土対法では、親会社が汚染対策工事を行った場合、子会社が調査することを除外する仕組みがあるかと追及。環境省は「排除はしていない」と認めました。
調査の公平性を保つ仕組みづくりは環境省の責任だ。土対法の欠陥を見直すべきです。環境省は「指摘を踏まえ今後検討していく」と答弁しました。
土壌汚染対策法改定案は、衆院環境委員会で賛成多数で可決。日本共産党は反対しました。
(3)種の保存法改正案質疑
1)生息地保護を訴え
(4月21日、環境委)
絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)の改定案について、多様性の保全のためには、生息地域を保護すべきだと訴えました。
国内では208種が、同法に基づく国内希少野生動植物種(希少種)に指定されていますが、レッドデータブックの絶滅危惧種数3600種と比べて、種の保存法による希少種の指定が少ないのはなぜかと質問。環境省は「指定のためのデータをそろえるのに時間がかかる」として、人員不足が原因だと認めました。
現在、国指定の生息地等保護区は9カ所しかありません。希少種の保護のためには、希少種の指定を増やすと同時に、生息地保護なしには成り立たない。
山本公一環境相は、「必要な人員と予算の確保に力を入れていきたい」と答弁しました。
非政府組織(NGO)からの要望で改定案に盛り込まれた希少種の指定に関する科学委員会の法定化と、国民の意見を反映する「提案募集制度」の創設に触れ、「これらの制度をさらに拡充し、生物の多様性の保護を進めるべきだ」と強調しました。
2)参考人質疑
(4月25日、環境委)
参考人に対して、海洋生物版レッドリスト作成への水産庁の関与について「本来、環境省が一本で対応すべきではないか」と質問しました。
大阪府立大学の石井実理事・副学長は「水産庁は水産資源が重要なので科学的にできるか難しいかもしれない。環境省側で海洋生物について科学的に指定するのが望ましい」と指摘。
日本自然保護協会の辻村千尋保護室長も「環境省が水産庁からデータ提供を受け科学的にリストをつくるべきだ」と主張しました。
辻村氏は、改定案に希少種指定に関する科学委員会の法定化や国民からの提案募集制度が盛り込まれていることを評価しつつ、「国内では絶滅危惧種に指定される種が増加し続けている。改定案でこの危機的状況を脱することができるとは思えない。保護のための予算や人員の拡充が必要だ」と訴えました。
3)ジュゴンの保護をただす
(4月25日、環境委)
ジュゴンなどの海洋生物の保護と沖縄県名護市辺野古で進められている米軍新基地建設問題について質問。
ジュゴンは国内では沖縄県周辺に数頭しか確認されていないにもかかわらず、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種に指定されていません。ジュゴンは鳥獣保護法などによる個体の保護にとどまっています。種の保存法に基づく国内希少種への指定が必要ではないかとただしました。環境省は「今後検討していきたい」と答えました。
ジュゴンの保護と回復には国内希少種への指定だけでは不十分。保護増殖事業の実施や生息地等保護区の設定へ踏み出すべきです。環境省は「保護増殖事業もセットで考えていきたい」と述べました。
安倍政権が新基地建設工事を強行したことに抗議。基地建設工事で大量の石材や土砂が投入されれば元には戻れない。オール沖縄の声に応え、米軍新基地建設は中止すべきだと求めました。
(4)廃掃法改正案質疑
(5月12日、環境委)
廃棄物の処理および清掃に関する法律(廃掃法)改正案に関連し、ヤード(置き場)に保管されている「雑品スクラップ」が火災などの問題を引き起こしていることをただしました。
雑品スクラップは、廃家電と他の金属スクラップとを混合したもので、鉛などの有害物質が含まれます。有価物か廃棄物かの判断が難しく、法の規制がかかりにくい状況です。
改正案でどのような規制がかかるのかとの質問に、環境省は「ヤードに廃家電などが保管されていることが確認できれば、廃棄物と同様の保管・処分に関する基準の順守が求められ、都道府県の立ち入り検査なども可能になる」と答えました。
廃家電が雑品スクラップに紛れ込むのは、家電リサイクル法で処理費用を後払いとしていることが要因の一つです。根本解決にはメーカーが自社製品から生ずる廃棄物の費用を負担する拡大生産者責任こそ必要だと追及しました。
山本公一環境相は「企業の責任ももちろんあるが、ユーザーの責任もある」などと後ろ向きな姿勢を示しました。
(5)バーゼル法改正案質疑
(5月16日、環境委)
特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律(バーゼル法)の改定案にかかわり、バーゼル条約が定める有害廃棄物の排出抑制と国内処理の原則を貫くよう求めました。
バーゼル法は、有害廃棄物の国境を超える移動を規制し、原則として国内での処理を定めたバーゼル条約の担保法。改定案は、新たに認定制度を設け、有害廃棄物の輸入業者が認定を受けた場合、環境省からの事前の輸入承認を不要とするなどの規制緩和が盛り込まれています。
有害廃棄物の輸入量が2011年の5300トンから15年には3万8500トンに増加したことを確認。「輸入承認をなくしても大丈夫か」とただした。
環境省は「国内での規制措置として、廃掃法の産廃処分事業者の基準を参考に収集や運搬、施設の構造など省令で規制をかける。認定制度でしっかり見ていく」と答弁しました。
認定制度による規制緩和は製錬業界からの要望に基づくものです。業界団体の社会的責任は重い。バーゼル条約の原則を貫くべきだと強調しました。
(6)イノシシによる人身被害の実態把握を求める
(5月9日)
全国で発生しているイノシシによる人身被害を取り上げ、政府の対応をただしました。
環境省の調査では、イノシシの推定個体数は約88万頭で、生息範囲は過去36年間に1.7倍に広がり、市街地への出没が大きな問題となっています。
埼玉県神川町で3人がイノシシに襲われ重傷を負い、群馬県桐生市では男性が死亡した事例があります。イノシシによる人身被害数を集計しているかと質問。環境省は「把握していない」と答弁しました。
環境省がクマによる人身被害については全国的な状況を把握し、対応マニュアルも作成しながら、イノシシによる人身被害については、軽く見ていると思われても仕方がない。イノシシについても人身被害状況を把握し対応マニュアルも作成するよう要求しました。
山本公一環境相は、「まずは都道府県における把握状況を確認し、検討をしていきたい」と答弁。対応マニュアルについては「人身被害という観点から見てこなかった。現状を踏まえて、考えていく」と述べました。
鳥獣保護管理を進めるために、自治体での専門職員配置や、そのための財政支援も求めました。