【内閣委員会】「推薦に基づき全員任命」文書存在/学術会議人事介入を追及

 日本学術会議が新会員として推薦した6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題について追及しました。この中で内閣府は1983年の同会議法改定の際の「任命は形式的なもの」などの一連の国会答弁は認識しているとし、内閣法制局も「推薦に基づき全員を任命する」とした文書の存在を明らかにしました。菅首相の任命拒否が、国会審議で確定した法の解釈をねじ曲げた違法な行為だと事実上認めた形です。

 私は、任命拒否は日本の学術全体の問題であり、国民に対する挑戦だ、と批判。その上で、会員の公選制から推薦制に改めた83年の法改定の際、推薦と任命の関係が1年かけて徹底的に議論されていると指摘。「(推薦は)210名ぴったりを出していただく。それを形式的に任命行為を行う」(83年5月12日、総理大臣官房総務審議官)、「(推薦を)その通り内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというように条文を解釈している。内閣法制局における法律案の審査の時に十分詰めた」(同日、総理大臣官房参事官)などの答弁を示しました。

 これに対し、内閣法制局の木村陽一第一部長は「説明資料と思われる資料のなかに推薦人の推薦に基づいて全員を任命することになっているという記述がある」と答弁。

 私は、法案審議で十分詰めた結果全員任命することになっている。それを後付けで改めようとするのが今のやり方だ、と批判。

 また、83年当時の「推薦をしていただいた者は拒否はしない」との政府答弁も示し、総理大臣が形式的に任命するという法律のスキーム(制度)も変わっていない、と指摘。

 日本学術会議の福井仁史事務局長は「スキームは変わっていない」と認めました。

 一方で、内閣府の大塚幸寛官房長は、一連の国会答弁を認め「法解釈は変更していない」としながら、「憲法15条の公務員の選定罷免権が国民固有の権利であるという考え方からすれば、任命権者たる総理大臣が推薦の通り任命しなければならないというわけではない」などと強弁しました。

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「議事録」

<第202通常国会 2020年10月7日 内閣委員会 2号>

○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 きょうは、日本学術会議会員の任命拒否問題について質問をいたします。
 今回の問題は、単に六人の任命問題ではありません。日本の学術全体の問題であり、国民に対する挑戦であります。学術と政治の関係を壊し、学問の自由に介入したものであり、日本の民主主義が問われています。
 そもそも、一九四九年に設立した日本学術会議とはいかなる存在か。
 日本学術会議法は、教育基本法や国立国会図書館法と並び、前文を持つ理念的で特別な法律であります。その前文には、「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される。」とあります。
 ところが、この学者の国会を政権の思いどおりにしようとしてきたのが歴代の自民党政治であります。
 日本学術会議が発足当時、日本学術会議は、一定の資格を有する全国の科学及び技術の研究者によって選挙される会員をもって民主的に組織されるとしておりました。それを、一九八三年の法改正で、日本学術会議に登録された一定の要件を備える科学者の団体を基礎とする研究連絡委員会ごとの推薦制に改めたものです。ですから、会員の選任を、一九八三年に公選制から推薦制に変えました。
 このとき、当事者である学術会議の了承、同意を得ずに法案を提出をし、強行した。学術会議は抗議声明を出して、大問題となりました。そして、国会審議の焦点となったのが、まさに学術会議の推薦と総理大臣の任命の関係であります。
 お尋ねしますが、一九八三年五月十二日の参議院文教委員会での中曽根首相の答弁には、法律に書かれているように、独立性を重んじていくという政府の態度はいささかも変わらない、学問の自由は憲法でも保障しており、特に日本学術会議法には独立性を保障する条文もあり、そういう点については今後政府も特段に留意をしていく、こういう答弁に間違いはありませんね。
○大塚政府参考人 お答えを申し上げます。
 委員から、学術会議法の前文から始まり、御紹介がございました。
 今のその独立云々というところでございますが、まさしくその第三条におきまして、日本学術会議は、独立して次の職務を行うとして、「科学に関する重要事項を審議し、その実現を図ること。」もう一つが「科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。」この二つの職務に関して独立性が定められているというふうに認識をしております。
 一方におきまして、第七条を見ますと、第七条の二項におきまして、会員は、十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命をするというふうになっておりまして、一方で、ここで総理の任命権が明定をされているというふうに理解をしております。
○塩川委員 ですから、この答弁には、今後政府も特段に留意をしていくとあるように、日本学術会議の独立性を改めて確認をするというものだったわけであります。
 そして、法解釈についても明確に示しております。
 同じ一九八三年五月十二日の参議院文教委員会で、内閣総理大臣官房総務審議官は、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右することは考えていない、何か多数推薦されたうちから総理大臣がいい人を選ぶのじゃないか、そういう印象を与えているのじゃないか、研連から出していただくのはちょうど二百十名ぴったりを出していただく、それを形式的に任命行為を行うと答弁をしております。
 この答弁は、そのとおりで間違いありませんね。
○大塚政府参考人 お答えを申し上げます。
 昭和五十八年の日本学術会議法の改正の際に、その形式的な発令行為である云々の趣旨の政府答弁があったことは承知をしております。
 その上で、憲法第十五条第一項の規定に明らかにされているとおり、公務員の選定、罷免権が国民固有の権利であるという考え方からすれば、これは、任命権者たる内閣総理大臣が推薦のとおりに任命しなければならないというわけではないということでございまして、これは、この会議の会員が任命制になったときからこのような考え方を前提にしており、解釈変更を行ったものではないということをあわせて申し上げます。
○塩川委員 そういう後段の説明は全く納得いく話ではありません。
 そもそも、この八三年の法改正のときに、公選制を推薦制に変える、その推薦と総理の任命の関係が十分議論されてきているわけですよ。八三年、一年かけて、この問題を中心に議論をしているんですから、この八三年の国会答弁でこそ整理がされている話のはずなんです。そういう点でも、二百十名ぴったりを出していただく、それを形式的に任命行為を行うといったことがまさに重く受けとめられる話であります。
 この総務審議官の答弁の後に、内閣総理大臣官房参事官は、この条文について、会員は、第二十二条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命するとは、二百十人の会員が研連から推薦されてきて、それをそのとおり内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというように条文を解釈している、この点については、内閣法制局における法律案の審査のときに十分詰めたと言っているわけであります。
 こういう答弁については、内閣府の方、また内閣法制局も、間違いありませんか。
○大塚政府参考人 委員今御紹介のございました答弁のその逐一の記録を今全て私として記憶しているわけではございませんが、ただ、あくまでも、先ほど申しましたとおり、総理の任命権が法律上きちんと規定をされている、それにのっとって今回の任命を行った結果でございます。
○塩川委員 法制局にも確認します。
○木村政府参考人 昭和五十八年の審議におきまして、法制局として答弁を申し上げているわけではございませんが、当時の資料を確認をいたしますと、説明資料と思われる資料の中に、推薦人の推薦に基づいて全員を任命することとなっており、この任命は形式的任命であるという記述はございます。
 ただ、その記述がどういう理由で、あるいはどういう経緯で盛り込まれているのか、当時、具体的にどのようなやりとりがあったのかということにつきましては、残念ながら、つまびらかではございません。
○塩川委員 全員任命するとなっているというのが記録であるということじゃないですか。つまり、内閣法制局における法律案の審査のときに十分詰めた、その詰めた結果が全員任命するとなっているということになる。まさに一九八三年の国会答弁はそういうことじゃないですか。
○大塚政府参考人 お答えを申し上げます。
 公務員の選定、罷免権が、これは憲法に基づく国民固有の権利であり、そして、法律の中で、総理大臣が推薦のとおりに任命しなければならないというわけではないということも法制局と確認をさせていただいております。
 これに基づきまして、任命制になったときから、このようになったときからこのような考え方を前提としており、考え方を変えたということはございません。
○塩川委員 この一九八三年の国会答弁のときに、今言った点については、議論というのはされているんですか。何らか確認しているんですか。
○大塚政府参考人 ただいまの御答弁は、平成三十年のときの法制局との確認結果に基づいて申し上げました。
○塩川委員 だから、一九八三年当時、そういうのはないんですよ。十分詰めている話なんです。詰めた上で、一応記録として残っているところには、全員については任命するとなっているということですから、それを後づけで改めようというのがまさに今のやり方じゃないですか。
 この一九八三年の十一月二十四日の法改正審議における政府答弁では、今度はいわゆる推薦制にしていこうということであり、その推薦制もちゃんと歯どめをつけて、ただ形だけの推薦制であって、学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない、そのとおりの形だけ任命をしていくと明確に答弁をしているわけであります。
 ですから、学会の方から推薦していただいた者は拒否はしないという、日本学術会議が推薦をし、総理大臣が形式的に任命するという法律のスキームは何ら変わっていないですよね。
○福井政府参考人 日本学術会議法についてのお問合せでございますので、お答えさせていただきます。
 昭和五十八年の改正以来、日本学術会議から推薦をして内閣総理大臣が任命するというスキームは変わっておりません。
○塩川委員 ですから、まさにそういうことで、法律のスキームは何ら変わっていないのに、後づけの解釈だけ突き出してくるというのが今回の話であって、全く納得のいく話ではありません。
 それから、昨日の野党合同ヒアリングで内閣府から提出をされた資料、二〇一八年の内閣府日本学術会議事務局ペーパー、内閣総理大臣の任命権のあり方についてでは、次のようにあります。
 日本学術会議が内閣総理大臣の所轄のもとの国の行政機関であることから、憲法六十五条、七十二条の規定の趣旨に照らし、内閣総理大臣は、会員の任命権者として、日本学術会議に人事を通じて一定の監督権を行使することができるものであると考えられるとしていますけれども、しかし、一九八三年、法改正のときの日本学術会議関係想定問答、政府の文書では、特に法律に規定するものを除き、内閣総理大臣は、日本学術会議の職務に対し指揮監督権を持っていないと考える、指揮監督権の具体的内容としては、予算、事務局職員の人事及び庁舎管理、会員、委員の海外派遣命令等である。ここでは、事務局職員人事の監督権には触れていますが、会員の人事に関する監督権には触れていないわけであります。
 ですから、八三年の想定問答、国会対応としてはこのように書かれていたということですよね。
○大塚政府参考人 お答えを申し上げます。
 今委員が読み上げられましたその想定問答は今手元に持ち合わせておりませんが、今その読み上げた内容をお聞きする限りは、その職務に関するところのいわば独立性と申しましょうか、そこは先ほど私も条文で申し上げました第三条のところで、独立して職務を行うとなっておりますので、基本は、職務については独立性が認められている。そこで何か監督権が及ぶのは極めて限られたところであろうというのは、そのとおりだと考えております。
 一方で、第七条におきまして、こちらは、その職務を独立して行うという条文と全く同じ、その一つの法律の中の別の条文として総理の任命権が規定をされておりますので、この総理の任命権は任命権としてきちんと位置づけられているものと考えております。
○塩川委員 事務局職員の人事については書いてあるけれども、会員の人事について触れていないんですよ。それはそういう整理だというのが想定問答の中にあるということは改めて確認しておきます。
 それで、昭和二十四年一月の日本学術会議の発会式における吉田総理の祝辞があります。日本学術会議はもちろん国の機関ではありますが、その使命達成のためには、時々の政治的便宜のための制肘を受けることのないよう、高度の自主性が与えられている。
 この祝辞を紹介をした我が党の吉川春子参議院議員の質問への丹羽兵助総理府総務長官答弁では、あくまで学術会議は国の代表的な機関であると、学術会議こそ大切なものだという考え方、それがこれに干渉したり中傷したり運営等に口を入れるなどという考えは、吉田総理がその当時言われたことと変わってはおりませんし、変えるべきではないと。
 政府が干渉したり中傷したり運営に口を入れるという考えはない、変えるべきではない、このようにはっきりと答えていたんじゃないですか。
○大塚政府参考人 お答え申し上げます。
 ただいまの委員のその引用のポイントも、運営に何か関与をするといったような趣旨で今受けとめさせていただきましたが、ここはまさしく、独立してその職務を行うと言っているところの、その職務を行う上での独立性、ここは当然、法律にも書かれておりますように、私どももそこは十分踏まえているという考え方でございます。
 ただ、一方で、会員の任命のところは、これは、職務の独立性を定めた第三条と同じように、法律の中で別の条文で決められておりますので、任命についての、総理大臣が任命権限を、責任を持ってきちんと任命をするということとこの職務の独立性ということは、直接関係はないと考えております。
○塩川委員 この吉田総理の祝辞は、学術会議の使命達成のためには、時々の政治的便宜のための制肘を受けることのないよう、高度の自主性が与えられていると。それは、当然、人事にも及ぶ話であって、まさに人事を通じて学術会議の高度の自主性を侵害する、まさにその時々の政治的便宜のための制肘を加えたんじゃないのか。このことが問われているときに、こういう答弁をしっかりと踏まえるということこそ求められているわけであります。
 この一八年のペーパーでは、「憲法第十五条第一項の規定に明らかにされているところの公務員の終局的任命権が国民にあるという国民主権の原理からすれば、任命権者たる内閣総理大臣が、会員の任命について国民及び国会に対して責任を負えるものでなければならない」としていますけれども、ということは、今回、六人の任命を外したことについて、任命権者たる総理が責任を持って外したということですね。
○大塚政府参考人 お答えを申し上げます。
 法律に基づく任命権者として今回の判断をされたということであるというふうに承知をしております。
○塩川委員 まさにそこが問われているんですよ。
 吉田総理の祝辞で指摘をしているような、政治的便宜のための制肘になっているんじゃないのか、そういった点で菅総理の関与そのものが問われている。菅総理自身にしっかりと国会でも答弁してもらわないといけない。そういう場をしっかりと設けることを求めたいと思います。
 そもそも、条文は変わっていない、解釈は変えていない、じゃ、この二〇一八年の文書、ペーパーというのは何なのか。総理が責任を持って任命を外すことそのものが、学問の自由への介入であり侵害だ。会員の任命拒否は、日本学術会議の独立性、自律性を否定するものであり、学問の自由を侵害する政治介入だと言わざるを得ません。
 今回の任命を拒否された松宮孝明教授は、この問題の被害者は、日本の学術によって恩恵を受ける人々全体です、任命されなかった我々自身は被害者だとは考えていません、日本の学術がきちんとこれから伸びていけるのか、日本と世界の人々にその恩恵を与え、成果を還元することができるのかということに関する影響が一番大きい。国民全体が被害者という大問題なんです。
 日本学術会議の要望のとおり、推薦した会員候補者が任命されない理由を明らかにしてほしい、任命されていない六人について速やかに任命すべきだ、任命権者である総理が説明責任を果たせと強く求めて、質問を終わります。