【内閣委員会】カジノ法案/存・多重債務に導く/事業者の金貸し批判

 カジノ実施法案がカジノ事業者による賭博資金貸し付けを認めていることについて、多重債務やギャンブル依存症を助長するものだ――と追及しました。

 同法案は、カジノ事業者が客に賭博資金を貸し付ける「特定資金貸付業務」を認め、外国人客のほか日本人でも、事前に一定額を預託した者には場内で賭博資金を貸し付けるとしています。

 深刻な多重債務問題を契機に2006年に行われた貸金業法の抜本改正で、過剰貸し付け抑制策として総量規制(借入を年収の3分の1までに制限)が導入されました。

 わたしは、今回の賭博資金貸し付けで、貸金業法の枠外に新たな貸金制度をつくる理由をただしました。

 中川真IR推進本部事務局次長は貸金業法の総量規制を理解しているとしながら、「カジノ事業者は貸金業法の事業者ではない」と答えました。

 在日米国商工会議所が意見書で「金融サービスの提供」を「不可欠」と求めていた。日本への進出をねらう、カジノ事業者の要求に応えたものだ。

 石井啓一IR(統合型リゾート)担当相は「(今後定める預託金を)簡単に預託できる額にはせず富裕層に限定する」と答えました。

 カジノで会社の資金106億円を失った大王製紙元会長の事例でカジノ事業者からの借り入れがのめり込みのきっかけになった。対策を講じるというが制度設計が大問題だ。カジノ事業者の貸付業務は多重債務・依存症問題を助長する。

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「議事録」
<第196通常国会 2018年06月01日 内閣委員会 24号>

○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 カジノ実施法案、いわゆるIR実施法案について質問をいたします。
 最初に、カジノ実施法案ではカジノ事業者に対してカジノ客への金銭貸付業務を認めておりますが、どんな仕組みになっているのかについて簡単に説明してもらえますか。

○中川政府参考人 お答え申し上げます。
 カジノにおける貸付けは、本来、顧客はみずからの資力の範囲でカジノ行為を行うべきであるという原則に立ちまして、あくまでもカジノ行為に付随した顧客へのサービスとして、その必要性の範囲内で認められるべきものというふうに考えてございます。
 このため、この整備法案の中におきましては、貸付けにつきましては、貸金業法とは少し異なりますけれども、まず、貸付対象を原則外国人非居住者に限りまして、さらに、日本人などにつきましては一定以上の金銭をカジノ事業者に預託できる資力を有する者に限定をするということをしております。また、返済期間を短期間に限定いたしまして、保証契約の締結を禁止するとともに、さらに、カジノ事業者が貸付けで収益を上げないよう、無利息での貸付けを義務づけるといった措置を講じることにより、極めて限定的に認めることとしております。

○塩川委員 一定金額預託をすれば、日本国民も貸付けの対象になるということであります。
 そこで、金融庁にお聞きしますけれども、この特定資金貸付業務の規制については、貸金業法と同様の規定が条文に書かれているところです。貸金業法については、この間、総量規制が導入をされました。総量規制とは何か、なぜ導入をしたのか、その効果はどうか、この三点でお答えいただけますか。

○松尾政府参考人 お答え申し上げます。
 いわゆる総量規制は、借り手の返済能力を超える貸付けによって多重債務問題が深刻化したことを受けて、過剰貸付けを防止することを目的として、平成十八年の貸金業法改正により導入されたものでございます。
 具体的には、貸金業者は、個人である資金需要者に対して貸付契約を締結しようとする場合には、指定信用情報機関の保有する情報を使用して返済能力を調査することとされており、その結果、資金需要者当たりの貸付金額の合算額が原則として年収の三分の一を超える場合には、当該貸付契約を締結することが禁止されているものという内容でございます。
 この平成十八年貸金業法、総合的にいろいろな点を改正しておりまして、その中で、多重債務者の相談件数等々、減少しているところでございます。

○塩川委員 減少しているということで、もちろん、銀行系のノンバンクの話とか、全体としたらどうなのかというのはあるわけですけれども。しかし、貸金業法として、もちろんグレーゾーンの解消の話もありました、この総量規制というのも相まって、貸金業法の対象となるような人たちの多重債務問題の改善につながったというのは、確かにそのとおりだと思います。
 IRの事務局の方に伺いますけれども、この法案で、カジノ事業者の顧客への貸付けというのは貸金業法の総量規制の枠内になるのか枠外になるのか、この点についてお答えください。

○中川政府参考人 お答え申し上げます。
 この整備法案の中で提案しております特定金融業務につきましては、貸付業務につきましては、貸金業法の総量規制こそ採用しておりませんけれども、貸金業法と同様の手法によって返済能力に関する調査を行わなければいけないとしており、また、顧客一人一人の貸付限度額の設定を事業者に義務づけておりますし、その貸付限度額を超えた貸付けを禁止するということになってございます。

○塩川委員 ですから、貸金業法の総量規制は採用していないということで、もちろん個々の顧客に対して資力を踏まえた貸付限度額を定めるということになっているわけですけれども、でも、そもそも、多重債務問題が深刻になった、こういった貸金業法の改正が行われたという背景の一つに、やはりギャンブルの依存症を含めた多重債務問題というのがあったわけですよね。
 そういったことを考えたときに、やはりこういった貸付けについての総量規制というのは必要なんじゃないのか。貸金業法で年収の三分の一以内に抑えるということで決めたというのが効果を発揮していると金融庁も言っているわけですから、だとしたら、その枠内におさめるということが、やはり多重債務問題の解消、ギャンブル依存症の対策に対しては非常に生きていくことになるのではないのかと思うんですけれども、カジノ事業者に対しても貸金業法を適用して。
 過剰貸付け抑制のための総量規制をかけない、それはなぜですか。

○中川政府参考人 お答え申し上げます。
 まず第一に、カジノ事業者は兼業を、IR事業者は兼業することを禁じておりますので、貸金業法で言う貸金事業者になれないということが一つございます。
 そういう法制度上の制約の中で、どうやってこの事業を規制していくかという観点が重要になるわけでございます。
 今、塩川委員御指摘の点につきましては、この整備法案の中でも、貸金業法で定められております指定信用情報機関を必ず使って顧客の信用情報を確認するということを義務づけておりますので、こういう措置をとることによって、今委員が御指摘の、顧客一人一人が総量としてどれぐらいの負債状況にあるのか、それから、過剰債務の状態になっていないのかどうかということを確認しながら、先ほど御答弁申し上げたような貸付業務の規制の中で適切に貸付けが行われることになるというふうに考えているところでございます。

○塩川委員 今説明があったように、カジノにおける貸付けについても、貸金業法上に規定をされている指定信用情報機関の情報を使わなければならないと書いてあるわけですよね、この法案にも。であれば、そもそも貸金業法で定めている総量規制、年収の三分の一以内、そこに入れたらいいじゃないですか。そのことの方が、過剰貸付けの防止につながる。依存症対策の面でもこれは効果的なんじゃないですか。そうしたらいいじゃないですか。

○中川政府参考人 お答え申し上げます。
 先ほど御答弁申し上げましたように、カジノ事業者、つまりカジノ事業免許を取得している認定IR事業者ということになるわけですけれども、認定IR事業者はこの法律案の中で兼業が禁止してございますので、もちろん、貸金業務を、特定金融業務を行うか行わないかはそれぞれの事業者の判断だとは思いますけれども、貸金業法の中で定められている事業者になることはできないという制約はございます。

○塩川委員 であれば、総量規制の対象にすればいい。総量規制の対象にして、年収の三分の一以内、それを超えるものにならないという範囲としてこのカジノの貸付けも入れたらいいじゃないですか。

○中川政府参考人 お答え申し上げます。
 先ほど金融庁からも答弁がございましたように、貸金業法に基づく総量規制は、貸金業者から借りて過剰債務に陥る国民が非常に多くなっている、社会的にそういう問題が出てきたことへの対応だというふうに理解をしてございます。
 一方、カジノ事業者が行う特定金融業務につきましては、冒頭御答弁申し上げましたとおり、すべからく顧客一般を対象にするものではございませんで、そもそも日本人等は貸付けの対象になってございません。日本人の中では一定以上の金額をカジノ事業者にあらかじめ預託できる資力を持っている者に限定しているわけでございまして、極めて限定的な顧客だけを対象に、しかも、ほかの、貸付業務についての条件をさまざまにつけた上で、しかも無利息でございますので、全く大きな違いがあるだろうというふうに考えている次第でございます。

○塩川委員 だから、その預託がどうなるのかというのも当然あるわけですけれども、別に富裕層に限定とか、そういうのはどこにも書いてないわけですよ。
 もともと総量規制の年収の三分の一の枠内におさめるように制度設計すれば過剰貸付けの心配はないでしょうということについては、全くお答えにならない。何でこんなことになるのか。
 昨日の参考人質疑におきまして、多重債務問題にも取り組んでこられた新里宏二弁護士は、これまで、日本の公営ギャンブル、パチンコで事業者が現場で貸付けをすることはないし、あってはならないことと考えられてきた、ギャンブル依存症に直結するからにほかならないと述べていたわけです。カジノ事業者の貸付業務は、公営ギャンブルの違法性の阻却との関係で、射幸性の程度、副次的被害の防止について大きく逸脱するものだということを指摘しているわけです。
 ですから、結果として、この法案というのは、いろいろ公営ギャンブル等のギャンブルの事業者はあるわけですけれども、そういう中でこういう総量規制の枠外にするという扱いという点でいえば、カジノ事業者を特別扱いするものだ。
 何でカジノ事業者を特別扱いするのか、お答えください。

○中川政府参考人 お答え申し上げます。
 先ほど来御答弁申し上げていますように、カジノ事業者が行う特定金融業務につきましては、これはそもそも、特に貸付業務につきましては外国人非居住者に限るというのがまず第一の原則でございます。
 そして、日本人等に貸付けを行う場合には、繰り返しになりますけれども、一定以上の金銭をカジノ事業者に預託できる、そういう資力を有する者に限定をするという形での事業内容になってございますので、一般の国民がすべからく顧客になり得ることを前提にしている貸金業法の体系とは全く異なる法制度になるということを御理解賜りたいというふうに思います。

○塩川委員 ですから、貸金業法の上にこのIRでの貸付けのことも乗っかるということでいえば、それも含んだ、そういう制度設計にすればいいだけの話であって、こういうのでは全く理解できません。
 大臣にお尋ねします。
 こういった貸付けについて、顧客の利便性云々という話なんかもしますけれども、そもそも、在日米国商工会議所の意見書、統合型リゾートが日本経済の活性化に寄与するための枠組みの構築という文書を出しております。この在日米国商工会議所の意見書では、IRにおける顧客への金融サービスの提供を認めること、これは日本でカジノビジネスが成功する上で不可欠であると要求をしています。
 まさにカジノ事業者の要望に応えるというものをこの制度設計で盛り込まれたということですね。

○石井国務大臣 先ほど政府参考人が述べましたが、IR整備法案においては、カジノ事業者による日本人等に対する貸付けにつきましては、対象者を一定の資力を有する者に限定をいたします、預託金を預託できる者。
 この金額については、今後改めて定めていきますけれども、国民の平均年収等を勘案して、簡単に預託ができるという額にするつもりはございませんので、富裕層がどれぐらい、富裕層という定義ははっきりしませんけれども、一般的にかなりの富裕層と言ってもいい方に限定されるのではないかと私は思っております。

○塩川委員 この問題については、本当に経済効果があるのかということについての検証といいますか試算も出さない中での議論が深まりを欠いているわけで、しっかりとした負の影響も含めた、経済効果があるというんだったら、そういう試算をちゃんと示して議論することが必要であるわけです。
 その上でも、地方においてはいろいろ試算は出しているわけですよ。そういう地方における試算を見ても、日本国民の利用者の割合が非常に高いわけですよね。七割、八割で、海外からというのは、空港の近くであればちょこっとふえるかもしれないけれども、北海道なんかでは大半が日本国民。道民だったり、道外から日本国民の方がいらっしゃる。そういったときに、やはり過剰貸付けになるようなこういう仕組みを入れていいのかということが問われているんじゃないでしょうか。
 あわせて、富裕層だったら構わないという話にもならないんですよ。この間も紹介されていますように、大王製紙の元会長の井川意高氏のように、貸付けがカジノののめり込みの契機となったということが紹介をされています。二〇〇八年から頻繁にカジノに通い始めた井川氏は、グループ企業から無利子で膨大な借金を重ねて、三年足らずの間に総額百六億八千万円をカジノで失ったわけであります。
 大臣、やはりこういった事実があるんですから、これはしっかり重く受けとめる必要があるわけです。カジノ事業者による貸付業務は、新たな依存症者を生み、新たな債務者を生み出すことにつながるんじゃないですか。大臣、ぜひ、はっきりとお答えください。

○石井国務大臣 カジノ事業者による日本人等に対する貸付けにつきましては、先ほど申し上げたとおり、対象者を一定の資力を有する者に限定するとともに、厳格な返済能力調査に応じた貸付けの義務づけをしておりますので、野方図に貸付けをするということにはまずなりません。
 このほか、IR整備法案におきましては、依存防止対策としまして、IR区域数の限定やカジノ施設の規模の制限、一つのIR区域におけるカジノ施設の数を一つに限定すること、日本人等を対象とした一律の入場回数制限や入場料の賦課、依存防止規程に基づく本人、家族の申出等による利用制限措置や相談窓口の設置といった利用者の個別の事情に応じた対応、広告、勧誘等の誘客時における規制といった重層的、多段階的な取組を制度的に整備をしておりまして、カジノ行為への依存につきましては万全な対策を講じているものと考えております。

○塩川委員 対策を講じるんだったら、やはり貸付けの総量規制の枠内にカジノへの貸付けも含めるべきだ。そういうこともないような今の制度設計そのものが大問題であるわけで、カジノ事業者に貸付業務を認めるということは、多重債務や依存症を一層助長するだけだということを強く指摘をしておくものであります。