【「しんぶん赤旗」掲載】行政のデジタル化は何をもたらすか/塩川鉄也衆院議員に聞く(3)

「しんぶん赤旗」12月10日付・8面より

役所のサービス低下

 ▶行政手続きのデジタル化・オンライン化の問題点は何でしょうか。

 デジタル化・オンライン化のみでは、多様で多面的な国民ニーズに応えられないということが問題です。

利用できぬ人 置いてきぼり

 コロナ禍のもと給付金のデジタル申請をめぐって、さまざまな問題が起きました。政府は、マイナンバーカードの普及が1割程度であることを知っていながら、マイナンバーカードでのオンライン申請を押し付けたことで、国民と自治体に混乱を広げました。特に原則デジタル申請である持続化給付金や家賃支援金、文化芸術支援金は、高齢者や障害者が申請に苦労されている声も届いており、申請・給付に時間がかかるという問題も指摘されています。

 また、災害時ではデジタルよりもアナログ手続きの方が安定的な手段となっています。デジタルの最大の弱点は、電源・電波と水没です。この間の災害時に、電源の確保の問題、情報通信機能のマヒ、自治体のサーバーの水没などが問題となりました。

 デジタル化の大前提はデジタル・デバイド(※↓)の是正です。しかし、政府の対応は、障害者や高齢者などデジタルを使いこなすことが困難な条件や環境にある人、経済的事情でIT機器が利用できない人などへの具体策はありません。サポートセンターなどでデジタルを習熟せよと求めるだけです。これでは、デジタル化できない人には、利便性を感じないどころか、従来の書面申請や、相談しながら申請を行う対面による窓口手続きがなくなっていく。役所はますます遠くなるということです。結果、利便性は後退し、行政サービスが低下する。サービスそのものが届かなくなるのです。

前橋市の「マイタク」をマイナンバーカード活用事例として高く評価する総務省の資料

 実際に、コンビニなどでマイナンバーカード利用による住民票の写しの交付が可能となったことを理由に、窓口が減らされている自治体(東京都北区は区民事務所7分室撤廃、東京都練馬区は17の出張所廃止)も出ています。群馬県前橋市では、移動困難者対策のタクシー運賃助成制度「マイタク」について、2022年度に紙の登録証と利用券を廃止し、マイナンバーカード利用へ完全移行する方針を明らかにしています。マイナンバーカードを所持しない高齢者などの利用者を排除するもので、批判の声が上がっています。

 デジタル化による「行政の効率化」を口実に、行政サービスの入り口がないがしろにされ、個人情報保護は置いてきぼりのまま、オンライン化された行政手続きの利用は自己責任とされ、行政サービスは使える人が使えればいいということになりかねない。このことが、問題です。

対面サービス向上こそ必要

 国には国民の命と暮らしを守る責任があります。「自助」「効率化」といって、その責任を放棄することは許されません。多様で多面的な住民ニーズに応えるには、対面サービスの向上、住民の身近な窓口である自治体業務の拡充こそ求められています。しかし、国、地方の公務員が減らされ続けていることで職務遂行に支障が生じていることも、災害やコロナ禍であらわになっています。

 いま必要なのは、憲法が規定する「全体の奉仕者」としての公務員制度に変革し、その役割を果たすことができる体制にすることです。

※デジタル・デバイド=ICT(情報通信技術)を利用できる人と利用できない人との間に生じる格差

(つづく)