【内閣委員会】経済安全保障法案・参考人質疑/井原参考人が軍事研究推進の危険を指摘

 経済安全保障法案の参考人質疑を行いました。

 井原聰(東北大名誉教授)参考人は、法案の「特定重要技術」と「特許の非公開制度」に多くの問題があると陳述しました。

 井原参考人は、「特定重要技術」の研究開発のために防衛省が研究者に「伴走支援」を行えば、「防衛・軍事研究推進になりかねない」と警鐘をならしました。

 私は、競争的研究費を乱発すれば基礎研究がおろそかになると、井原参考人が指摘していることを紹介。政府の基礎研究軽視の問題と研究者の育成について質問。

 井原参考人は「科学技術の基盤を育てなければ、社会課題に応える成果は生まれない」「自発性を育むには裾野の広い多様な研究の土壌が必要だ」と述べました。

 また、井原参考人が法案の特許非公開による研究発表の差し止めなどについて、戦前の秘密特許が平和憲法になじまず廃止されたことなど問題を指摘していることについて、私が質問。

 井原参考人は「特許制度は広く文化の問題だ。公開によって周りの研究者をはげますことになる」と述べました。

 他の参考人からも、佐橋亮(東大准教授)参考人は、法案が曖昧であるため、基幹インフラの防衛で「民間企業等の負担が大きい」、サプライチェーンについても「罰則をもって営業秘密を含む情報を要求することは好ましくない」と述べました。

 さらに、佐橋参考人は「若手研究者の研究環境が悪くなっている」と述べ、鈴木一人(東大教授)参考人も「理系だけでなく、文系の研究者も非常に苦労している」と訴えました。



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経済安全保障法案に対する井原東北大学名誉教授の陳述(要旨)/衆院内閣委参考人質疑

「しんぶん赤旗」4月1日付・4面より

 衆院内閣委員会が31日に行った参考人質疑での井原聰・東北大名誉教授の経済安全保障法案に対する陳述の要旨は以下の通りです。

 法案の内容は政省令で示され、国会での議論が担保されていません。民主的側面からの工夫が必要です。

 法案は、特定重要物資の安定供給などで「有事に備える」といいます。「有事」が何か語られず、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛整備計画との関係が不明なまま議論が進むことに非常に不安です。

 米国防高等研究計画局(DARPA)に似せた組織設立の議論まで進んでいます。米国の「経済安全保障」の肝は防衛問題であり、防衛・軍事上の優位性、不可欠性をどう強化するつもりか、法案からは読み取れません。

 法案は特定重要技術の研究開発のための大掛かりな「協議会」の設置を定めていますが、なぜ必要か不明です。防衛省が「伴走支援」すれば防衛・軍事研究推進になりかねません。

 「協議会」メンバーには守秘義務と罰則を科しており、「協議会」からの離脱が自由か否かは大きな問題です。ユネスコの「科学および科学研究者に関する勧告」に照らせば、研究者は自由な離脱や意見表明の権利と責任を罰則のために放棄しなければならなくなります。

 野依良治氏は「学術研究に従事する者が、自らの内在的動機に基づき行う研究は尊重されるべきであり、これにより全体として研究の多様性が確保されるのである」と提起しました。研究の多様性こそ基盤です。国立大学協会の調査では、40歳未満の若手研究者の約60%がパートタイマーであり、常勤の若手研究者の母数を増やすことが喫緊の課題です。

 法案が位置付けるシンクタンクによる「調査研究」が、人工知能(AI)で監視するような調査ならば、研究者が国家によって監視されかねません。

 特許制度は、科学や技術の発達だけでなく、学術研究体制や産業や文化の一部です。

 法案は秘密特許制度を導入し、事前審査を行うとしています。事前審査を忌避できる環境がつくられるのか、「特定重要技術」が軍民両用の場合、その特許が保全指定され産業化できない不利益を十全に補償されるのか、支払う側の国が損失額の査定を行うことで公正が保たれるのか、大きな問題が含まれています。

 公開を原則とする特許制度に軍事機密を持ち込むことは矛盾です。

 大学発ベンチャー・ビジネスがたくさん生まれ始め、特に宇宙・海洋、量子、電磁気、サイバー、センサー分野の先端分野での活動が盛んです。秘密特許や特定重要技術としての囲い込みが、この分野の成長を鈍化させることも危惧(きぐ)します。

 多くの問題を「特定重要技術」と秘密特許の問題に見ることができる。抜本的な見直しを求めます。


「議事録」

<第208通常国会 2022年3月31日 内閣委員会 第14号>

○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
 今日は、四人の参考人の皆様に貴重な御意見を賜り、ありがとうございます。
 最初に、四人の参考人の方全員にお尋ねをしたいと思っております。
 官民技術協力の関係で、先ほど鈴木参考人もちょっと触れておられましたが、セキュリティークリアランス、適性評価制度についてお尋ねしたいと思っています。
 小林大臣は、今後の検討課題の一つと答弁をしておられます。セキュリティークリアランス、適性評価制度については、その必要性を訴える声とともに、プライバシーの侵害や学問の自由の侵害、また、労働者の不利益取扱いといった問題が生じるのではないのかといった懸念の声もあります。
 このセキュリティークリアランス、適性評価制度への評価、課題ついて、それぞれお答えいただけないでしょうか。
○佐橋参考人 ありがとうございます。
 セキュリティークリアランスは、今回の法案が残した課題の一つであるというふうに私も理解しております。
 そういった中で、このセキュリティークリアランスというものは、今後、国際競争や、機微技術の取扱いに関して国際的な共同開発などに入るときに、民間でも非常に有用になってくると思います。
 ただ、このときに考えなくてはいけないのは、国際的に通用する枠組みにするということでありまして、そのためには、かなり、背景調査を含めた綿密な制度設計というのが必要になってきます。
 私は、もし導入するのであれば、本格的な導入、国際的に通用するものが必要であって、簡易的な形で導入するということではなく、そういったしっかりとした制度設計にしていただきたいと思っております。
○村山参考人 私の方は、国際共同技術開発プロジェクトにおける重要性というのをお話ししたいと思います。
 というのは、経済安全保障で、民間がある技術をいかに安全保障だとか国の安全に使うかというのは非常に重要なんですけれども、それを国際的にもやらなきゃならないと思います。そのときに、相手がセキュリティークリアランスが要ると言った場合、今は、政府からはいけるんですけれども、民間企業はいけないんですよね。だから、民間企業がいいものを持っていて、それを生かそうと思っても、セキュリティークリアランスをクリアできていないから参加できないということがあるということですね。だから、国際的にもそれをクリアできないと、日本の民間技術が使えない。
 実は、私の場合も、そういう会議に行った場合、セキュリティークリアランスがありませんので、やはり、出てくる資料が、おまえには見せないみたいなところが結構、黒塗りした部分しか見せられないということがあるんですよね。そうなると、やはり研究にも非常に支障を来すわけですから、国際的にそういうことをやるためには、やはり国際的な標準をクリアしておく必要があるかなというふうに思います。
○鈴木参考人 もう既に佐橋参考人それから村山参考人からお話しされたことと私も同意するところが多々ありますが、一つだけ。
 今回の法案でシンクタンクの設立が議論されておりますけれども、こういったところでの情報収集、そして、例えばアメリカでいうとランドですとかエアロスペース・コーポレーションといった、こうした政府にかなり近い政策提言をするシンクタンクも、やはりセキュリティークリアランスを持つことによって政府との情報交換ですとかそういったことを行っていて、それが結果的に政策提言につながっているというようなこともありますので、その点も含めてセキュリティークリアランスの問題というのは考えていくべきではないかというふうに考えております。
○井原参考人 私は、原則反対でございます。
 人権に関わるわけですが、当人だけではなくて、その背後に連なる関係者たちにも大きな影響を与えます。
 これは、御承知のように、企業と共同研究しているときに、特許で関わるようなそういう研究をするときに、隣にいる人とも口が利けないような、そういう環境というのは幾らでも、現状でもあるんですね。面白いというのはおかしな発言ですが、ドクター論文の審査のときに、白紙になっているんですよ。そういうので、何が学問、あるいは、その分野の研究が進むんだろうかと。
 これまでも、かなり際どい議論をしながらやってきたわけですね。だから、今ここで力と力というふうな形でこれを進めようとすると、どうしてもこういう問題で規制をしなきゃいけないという形になるので、私は、そうじゃなくて、国際協調的なそういう精神で、研究の分野でも大いにそういうことができるだろう、技術開発の分野でも、少なくても、そういう機微な議論にどれだけ関わったらいいのかということにもなるだろうと思います。
 以上です。
○塩川委員 ありがとうございます。
 次に、井原参考人にお尋ねをいたします。
 井原参考人は科学史、技術史が御専門ということで、日本の、政府の科学技術政策の問題についてお尋ねしたいんですが、井原参考人は、大学や研究機関の研究者の七割が非正規の短期雇用の下に置かれており、政府の競争的研究費を申請するために目先の成果に追われる研究者が多数いることを指摘をしておられます。政府が社会実装を目指す研究費を乱発すれば、基礎研究がおろそかになり、研究基盤が掘り崩され、日本の基礎科学がしぼんでいくと述べておられます。
 基礎研究を軽視をした政府のこの間の科学技術政策の実態、問題点についてお話をお聞きしたいと思います。
○井原参考人 ありがとうございます。
 実は、第三期科学技術基本計画のフォローアップをしたときに、当時の理工系大学院の海外調査、比較研究というのをやらせてもらったことがありますが、研究の基盤的なところがどれだけ大事かということで、そんな経験を持っているものですから、これはやはり、先ほどもちらっと出ていたようですが、科学技術基盤、ここを育てないと、こういう研究やこういう課題を解決してほしいんだという、そういう社会的な課題はいっぱいあると思うんですが、はい、これやって、これやってというふうな形で、うまい成果というのは基本的には生まれないだろう、そんなふうに思っています。
 そういう意味では、科学技術基本計画の中で、基盤研究をどう豊かにしていくか、そこのところはやはりもっと明瞭に提起しないといけないだろう。特に研究者の、今、先ほども委員が出されたように、全体の三割は常勤で、七割しか。常勤の先生がいない、物すごい多忙になっているわけですね。
 だから、そういう意味で、そこのところをどうやって底上げしていくかということがやはり科学技術政策の根幹になっていないといけないだろう。それが、何しろ、課題がこんなにあって、お金はこれだけつけましたから研究をやってくださいといっても、なかなか成果が上がるものではないというふうに考えております。
 以上です。
○塩川委員 ありがとうございます。
 続けて、井原参考人にお尋ねいたします。
 研究者の人材養成、人材育成のことですけれども、井原参考人は、科学技術の発展は、時の政府や企業等のためにのみ貢献するのではなく、人類の福祉と尊厳、人権を損なうことのない行動を研究者は求められている、協議会に囲い込み、各省庁が社会実装に向けて支援伴走する方式は人材養成にはならないと述べておられます。
 この法案での官民技術協力が人材養成にならないというのはどういうことか、本来、人材養成に必要なことは何なのか、この点についてお教えください。
○井原参考人 端的に言いますと、今回話題になっている、省庁が支援伴走するというふうな形で、何しろ研究を社会的実装に持っていこうというふうにけしかけている。私から見ると、お尻をたたいて、早く研究しろというふうにしか見えなくて、研究者の自発的なアイデアが、そういうところで、やはり豊かな土壌がないと、どうしても出なくなっちゃう、実りが少ないというふうなことですね。
 ここでちょっと野依さんの例を出させていただいて、やはり富士山の、裾野が広ければ高いものが当然できてくるわけで、その裾野を、どうやって多様な裾野をつくるかということが面白い研究や先端的な研究を生み出すポイントだというふうに思っています。
 そういうわけで、ここで強調されている、何しろ、私から見ると、尻をたたいて、早く研究せいという、そういうやり方では恐らく人材は、一つの特定の課題の研究の人材はできる、でも、それで終わりになる、私に言わせると、これは消耗品になっちゃうんじゃないか、そういう思いがしております。
 以上です。
○塩川委員 ありがとうございます。
 もう一問、井原参考人にお尋ねをいたします。
 特許制度の非公開の問題で、特許制度は科学や技術の発達の欠かせない制度として定着をしてきた、戦前の秘密特許は平和憲法になじまないとして廃止されたと述べ、法案の問題点として、特許非公開に関わる研究発表の差止め、技術開発の停滞を、配付されました資料の中でも指摘をしておられます。
 このような特許制度の非公開の仕組みについての問題点について、補足して御説明いただくことがあれば、お願いをしたいと思います。
○井原参考人 ありがとうございます。
 特許制度は、私もその資料に書いたとおりに、知的財産の問題、知財の問題だけではなくて、広く文化の問題だというふうに考えているんですね。
 御承知の方もいるかもしれませんが、そこに書いてあるように、アインシュタインが冷蔵庫のある種の特許を取っていた。知っている方もおられるかもしれませんが、物すごく幅の広い研究の中から、えっ、そんな実用的なことを彼は考えていたのと。そういうものだと思うんですね。彼なんかがそんな特許を取ってどうするのかというふうに思うわけですが、でも、研究というのはそういうものですから。
 ユニークな研究や何かが生まれてくる、それをやはり特許にして本人のプライオリティーや利益をきっちり守っていく、そのことが周りの人を励ましていく、そういう関係になっているわけで、それをやはり、特許は即公開ということで、あっ、もう特許を取られちゃっている、じゃ、次のところをやらなきゃと。でも、それが隠されていると、そこのところをやる人が出てくる。これは、戦時中、そうですよね。三本か四本、並行的に同じ研究がやられていた。そういうのをつくって競争に勝てますかという思いが私はして、やはり特許は公開が原則。
 だから、よく、秘匿しなきゃいけない、僕も理解できるんですが、それはもっと違う工夫が必要だろうと。それは、企業ではそうやってずっとやられている。ノウハウをどうやって仕込むか、そういう工夫をしないで、手軽にこれでと。それは、ますますそういう分野を狭くしていっちゃうということになりますので。そういうふうに考えます。
 以上です。
○塩川委員 ありがとうございます。
 それでは、佐橋参考人にお尋ねいたします。
 お話の中で、基幹インフラの防護のことがございました。必要性とともに、経済団体の負担が大きいというお話がございました。
 どのような負担が生じ得るのか、その点についての心配といいますか、懸念というか、現場の声なども含めて御紹介いただけないでしょうか。
○佐橋参考人 ありがとうございます。
 基幹インフラに関しては、結局のところ、ここに関しては事業者が負担をしなくてはいけないわけです。もちろん、事前相談などの機会はあるわけですが。ただ、やはり一番大きい負担感というのは、じゃ、どれを使ったらいいのかというのが明示されていないということに尽きるんだというふうに思います。
 ですが、そういったことは、結局は、事前相談の運用に関わってくるというふうに思っておりまして、各省庁が窓口で受けるというふうに承知しておりますけれども、その事前相談をかなり真剣に運用していくことで負担感の軽減につながるというふうには思います。
○塩川委員 時間が参りました。ありがとうございました。