国民の通信情報を常時収集・監視し、政府の判断で警察・自衛隊がサーバーに侵入・無害化できる「能動的サイバー防御法案」について参考人質疑を行い、私が質間に立ちました。
冒頭の意見陳述で防衛大学校の黒崎将広教授は、「アクセス・無害化措置」が、「武力の行使」に当たるのかについて、「国際法上、武力の行使について普遍的に合意された定義はない。日本の行為を武力の行使であると批判する国が出てくることは理論的には否定できない」と述べました。
私は、国家による警察権は、自国の領域内でのみ行使できるのが国際法の原則だと指摘。同法案では警察が海外にあるサーバーに侵入するため、領域外で讐察権を用いることになり、国際法の原則に反するのではないかと質間しました。「中曽根康弘世界平和研究所」の大沢淳主任研究員は「領域外で警察権を用いた行動が想定される」と認め、「国際法上、正当だと理由づける必要がある」と述べました。
私は、フランスは自国のネットワークに影響をもたらす外国のサイバー行動は「主権侵害」になるとの立場を示していると指摘。日本政府が「主権侵害」とみなされた場合、国際法の「緊急避難」を適用すれば違法性を否定できると主張していることについて見解をただしました。黒崎氏は、緊急避難は先例や判例があまり確立していないと述べました。
「武力行使」否定できず/能動的サイバー防御/塩川氏に参考人/衆院内閣委
衆院内閣委員会は28日、国民の通信情報を常時収集・監視し、政府の判断で警察・自衛隊がサーバーに侵入・「無害化」=破壊できる「能動的サイバー防御法案」の参考人質疑を行い、日本共産党から塩川鉄也議員が質問に立ちました。
意見陳述で防衛大学校の黒崎将広教授は「アクセス・無害化措置」が「武力行使」に当たるのかについて、「国際法上、武力の行使について普遍的に合意された定義はない。日本の行為を武力の行使だと批判する国が出てくることは理論的には否定できない」と述べました。
塩川氏は、国家の警察権は、自国の領域内でのみ行使できるのが国際法の原則だと指摘。同法案では警察が海外のサーバーに侵入するため、領域外で警察権を用いることになり、国際法の原則に反するのではないかと質問しました。「中曽根康弘世界平和研究所」の大沢淳主任研究員は「領域外で警察権を用いた行動が想定される」と認め、「国際法上、正当だと理由づける必要がある」と述べました。
塩川氏は、フランスは自国のネットワークに影響をもたらす外国のサイバー行動は「主権侵害」だとの立場だと指摘。日本政府は、自らの行為が「主権侵害」とみなされた場合、国際法の「緊急避難」を適用すれば違法性を否定できると主張していることへの見解をただしました。黒崎教授は、緊急避難は先例や判例があまり確立していないと述べました。
「議事録」
第217回通常国会 令和7年3月28日(金曜日)内閣委員会 第9号
○塩川委員 日本共産党の塩川鉄也です。
四人の参考人の皆様に貴重な御意見を賜り、ありがとうございます。
最初に、吉岡参考人にお尋ねをいたします。
サイバーセキュリティーに関する研究開発に従事をしてこられたということで、吉岡さんのメディア等での発言等々を拝見をした中に、攻撃者は得られるメリットの大きさだけでターゲットを決めるわけではない、攻撃にかかるコストが低ければ小さな組織も魅力的なターゲットとなり得ると述べておられました。
中小企業など小さな組織においてセキュリティー対策を強めるとすれば、国としてどのような取組が求められるのか、この点について教えていただけないでしょうか。
○吉岡参考人 お答えさせていただきます。
今御指摘ありましたように、重要なシステムですとか、大企業ですとか国だけが攻撃対象になっているかというと、そうではないということが、いろいろな研究で、そのように認識しております。
中小企業となりますと、やはり一番足りないところは、人的又は技術的な意味でもリソースが足りていないということです。やらなければいけないことは分かっていながらも、何から取り組んでいいのかということが十分に認識できていないですとか、危機感がまだ十分にないというところが、一つ大きいところかと思います。
ですので、既に国の方でも、最低限中小企業で行うべき対策のチェックリストですとか、そういったものを用意いただいていると思います。さらに、それをうまく活用して、リストは準備しても、それが浸透していない、普及していなければその効果は求められませんので、そういった現状のサイバー攻撃の状況というのをしっかりと認知していただくような活動というのも重要になってくるかと思っております。
以上です。
○塩川委員 ありがとうございます。
次に、黒崎参考人にお尋ねいたします。
サイバー分野の国際法は発展途上というお話がございました。フランスは、自国のネットワークに影響をもたらす全ての外国のサイバー行動は主権侵害になり得ることを示唆する立場ということを伺っております。
そのような国がある下で、法案におけるアクセス・無害化措置がサイバー攻撃と判断される、そういう危惧についてはどのようにお考えでしょうか。
○黒崎参考人 お答えいたします。
確かに、現時点では、フランスにつきましては、ネットワークに対して影響を及ぼすものについては主権侵害の可能性があるというような見解を示しているというふうに私も認識しております。
問題は、ネットワークへの影響とは何なのかというようなところはやはり国際法学者としては気になるところでございます。これを、低い烈度というか、敷居が非常に低いと見るか、あるいは、実は言っていることはほかの国と、例えば物理的な被害とか機能喪失とかといったことと変わらないかもしれない。ただ、だから、そこら辺は、その国の安全保障に対する考え方というものがやはり背景にあって、ある意味、戦術的にと申しますか、というような形で表現をして、他国の出方を見たりして、どういう形で見解が収れんしていくのかという段階に今あるんだと思います。
例えば、フランスとは反対に、イギリスとかいうものについては、内政干渉にならないのだったら主権侵害にもならないという、つまり内政干渉の方が重要なんだみたいな形で、主権よりもそっちの方が重要だというような考え方の国もあるんですが、それも本当に違うのか、ほかの国が言っていることと、とか。
というような形で、だから、こういうふうに、一見違うようなことに見えるけれども本当に違うのかというところを今見極めなきゃいけない状態というところで、私自身が、発展途上の、一つの状況把握としては考えております。
以上です。
○塩川委員 関連して、緊急避難についてですけれども、国際法学者は適用できるケースを非常に限定して考えており、これを理由にすれば対抗措置以上に論争を呼ぶ可能性がある、日本政府は緊急避難を援用することも国際法上認められると考えると主張しているが、同様の主張をしている国はまだ多くはないと述べておられます。
そういった点での危惧を覚えるところなんですが、この点についてはいかがでしょうか。
○黒崎参考人 お答えいたします。
まず、国際法上、一般論といたしまして、違法性阻却事由というものについては、緊急避難よりも、緊急状態と政府は言っていると思いますが、緊急状態よりも対抗措置の方がより確立した、つまり、先例とか判例もしっかりしているということで、よりそちらの方が支持が得られる違法性阻却事由として、教科書でもそのような形で書かれていると思います。
そういう意味では、緊急避難というものは、国際法をやっている人間は余りそこまでしっかり勉強しなかったというぐらい、余り注目されてこなかったというものであると思います。そういうものを反映して、緊急避難というものについて、サイバーの文脈で援用する国々がやはりいないということも影響しているんだと思いますが。
ただ、しかしながら、やはり対抗措置というものをサイバーの文脈で援用するということは極めて難しいという問題点もございます。それはやはり、対抗措置を援用するためには、相手の国が先に違法行為をしていなきゃならない。つまり、それは、国家がやったというところまで持っていかなきゃいけないという、いわゆるアトリビューション、帰属という問題が出てきます。これがサイバーの実態に非常にそぐわない。
という中で、でも、しかしながら、市來先生がおっしゃったような違法性阻却事由の懸念という、対策も考えなきゃいけないと私は申し上げましたが、第二段階ということで、サイバーに一番その特性に見合った国際法の違法性阻却事由とは何かというようなことを考えると、これは、確かに濫用の危険性というのはこれまで主張されてきたものではありますけれども、ただ、国家の安全保障上の、ここで言う国家責任条文での緊急避難というようなところでございますが、重大かつ差し迫った危険から根本的利益を守るために、つまり、相手の先行違法行為が国によって行われているというようなことを、考えなくても言える、それはそれでまた濫用のリスクがあるじゃないかというふうに思われるかもしれないんですが、ただ、しかしながら、サイバー攻撃の実態を鑑みると、一番これが適切であるというような国が必ずしも今の現状では少なくても、一番サイバーの実態に合った違法性阻却事由として主張しているというのも事実でございます。
そういうような判断がこれから恐らく日本を中心に、私の模範事例というような話にも合うと思うんですが、事情を、特性を考えて、違法性阻却事由というものが、対抗措置と緊急避難、どっちが本当にいいのかというようなことを考えていかなきゃいけない、そういうふうに考えております。
以上です。
○塩川委員 ありがとうございます。
もう一問、黒崎参考人にお尋ねしますが、今回の法案は日本の安全保障における転換点となり得る、第一に、警察が安全保障に関わるようになること、第二は、外国からの不正なサイバー攻撃に対して犯罪処罰とは別の目的で域外実力行使を警察がし得ること、警察は従来、刑事犯罪への対処と国内の脅威を対象とする治安、公共秩序の維持を主たる任務としていたが、その垣根を越えると述べておられました。
今回の法案は、このような、警察の活動に質的な大きな変化をもたらすものということなんでしょうか。
○黒崎参考人 お答えいたします。
まず、国際法上に限って、国内法であれば行政警察権とか、また警察か自衛隊であるかというのは重要な要素になると思いますが、国際法上は、先ほどお答えさせていただきましたように、国が何をするか、警察機関がやるか自衛隊がやるかとか、そういうようなことで、それ自体で決まるというわけではございません。
その国がどういう目的で行動を行うのか、国際関係において、ということですので、その意味では、日本の警察組織がこれまで関わらなかったことをやるようになったことは画期的だというふうに申し上げましたが、国際法からしますと、いろいろな、警察であっても安全保障に関わる任務を行うということは国家機関としてありますし、また、国際法上の軍隊にいたしましても、そのような警察活動、公共秩序維持というようなことでございますが、日本でいうと行政警察ということになると思いますが、そういうようなことをするというようなことであります。
ただ、国際法上では、警察か軍事行動であるかというようなことがきっちりとそれ自体で分けられているということではございませんので、その意味では、特にそれ自体で画期的だというふうな、国際法上の評価からすると言えるのではないかと思いますが、ただ、日本のいろいろな背景からすると、警察というものが実際そういう任務を、これまで、海上保安庁はまた別だと思うんですが、警察庁が域外の任務を与えられるということは非常に重要である、画期的であるというような認識は変わらないと思います。
以上です。
○塩川委員 ありがとうございます。
次に、大澤参考人にお尋ねいたします。
冒頭の意見陳述の中で、警察権の関係のお話がございました。今回、アクセス・無害化措置を我が国の領域外で警察権を用いて実施することは、国内法を外国の領域で行使する執行管轄権の行使に当たるため、国家管轄権である執行管轄権は原則としてそれぞれの自国領域内に限り認められるという国際法の属地主義の原則に反する可能性が生じるということですけれども、こういった点についてはどのように対応することなのか、その点についてお聞かせください。
○大澤参考人 お答え申し上げます。
諸外国ですと、こういった領域外の措置は自衛権の行使で行っております。ところが、我が国では自衛権の行使は非常にハードルが高い、平時にはなかなか実施をできないということで、平時から、いきなり有事になると自衛権の行使になる。ただ、諸外国においてはシームレスに斜めに上がっていきますので、そういった点で、今回の法案では警察権を用いて領域外での行動が想定をされているということになります。
ただ、そうしますと、諸外国でやっている自衛権の行使と明らかに条件が異なりますので、そういった国内の法執行を外で行うということに関して、冒頭でも述べましたように、国際法上正当である、違法性が阻却できるということをきちっと理由づけた上で活動する必要が出てまいります。
そういった点では、先ほど来議論をいただいております緊急避難ないしは対抗措置、こういったもので理屈づけをして域外での法執行を行う、こういったことが必要になるというふうに考えております。
○塩川委員 ありがとうございます。
次に、高見澤参考人にお尋ねいたします。
意見陳述の中で、警察と自衛権の共同の措置が重要ということを述べておられました。その意味するところはどういうものなのかについて、高見澤参考人にお尋ねいたします。
○高見澤参考人 私が共同措置が非常に意味があると申し上げていますのは、やはり現在の日本の憲法体系なりの下でいろいろなことを考えてできた今回の法案における一つの特徴は、警察と自衛隊が共に共同して、いろいろな情報を共有しながらシームレスに対応しようということがうたわれておりますので、その意味で、警察が全体的に、前面に立ってやるということではなくて、少なくとも国外からの、その要件に該当するようなものについては、警察と自衛隊が協力してやるんだということがはっきり出ているという意味において、それなりに、自衛隊の権限の行使ということあるいは警察の関係ということを政府全体としてやる体制がそこにできているのではないか。だから、実際の行動に対しても比較的スムーズに迅速な対応が期待できるのではないか。さらには、いろいろな形で、共同の施設なり、あるいは近い施設で警察と自衛隊が協力してやるというふうなことはそれなりに意味があるのではないか。つまり、今回の法案の一つの悩みというか、その部分がうまく反映されているのではないかなというふうに理解しているところでございます。
○塩川委員 ありがとうございます。
最後に、高見澤参考人と大澤参考人にお尋ねいたします。
自衛隊が通信防護措置を行う場合の要件の一つに、自衛隊が対処する特別の必要があるときというのが挙げられております。自衛隊が有する特別な技術又は情報が必要不可欠であるなどとしておりますが、この自衛隊が有する特別な技術、情報というのはどのようなものなのかについて教えていただけないでしょうか。
○高見澤参考人 私は、少なくとも外国の高度な組織的なものに対するサイバー防衛ということを考えた場合に、自衛隊は、日本有事の場合にどういうふうな形をするかということで、各国との情報交換もやっておりますので、その意味で、そういった技術なりというのは持っているわけですし、また、総合的な情報ということについても警察とはまた違ったものがあるかというふうに思いますので、そういうことを背景として、実際に対処する上でやはり自衛隊の存在が必要になるということが日常的にも考えられるわけでございますので、そういった意味で、この要件というのは、まさに自衛隊にとって重要な内容のものに対応するための権限ということになるのではないかというふうに理解をしております。
○大澤参考人 現時点では、具体的にどういう技術なのかというのは、公開情報でもありませんので推定になりますけれども、警察が国内のサイバー攻撃を扱う中で、自衛隊は外国からの、特に、ちょっと国名を申し上げるとあれですが、隣国の、想定される攻撃者の攻撃手法、こういったものを研究しながらということになりますので、そういった攻撃手法やマルウェア、こういったものの技術解析とか、逆に相手のネットワークに入るというふうになりますと、ウィンドウズベースではない、その国のOSとかソフトウェアで守られているということになりますので、当然、そこにアクセスをして無害化をするということになりますと、その国のスペックに合った、OSに対してどうやって侵入するのかという、ふだん恐らく警察が実行しないようなアクセス・無害化措置やソフトウェアとかマルウェアを使うことになりますので、そういう点では、自衛隊が外国からの攻撃を想定して有している技術がこういった高度な技術になるというふうに考えております。
○塩川委員 終わります。ありがとうございました。