2010年12月26日「しんぶん赤旗」掲載記事を転載します。

アナログ停波200日/崖っぷちの地デジ(1)


スカイツリー/建設遅れムダな出費に

 観光客に人気の「東京スカイツリー」(東京都墨田区)。電波塔としては世界一高い634メートルに達し、2012年春に開業する予定です。本来の役割は、地上デジタル放送を首都圏に送信するテレビ塔だということをご存じでしょうか。

 現在の東京タワー(港区、333メートル)に替わって、新たにタワーを造る理由は何か。スカイツリーのホームページでは、「都心部に林立する200メートル級超高層ビルの影響を低減できる」「『ワンセグ』のエリア拡大」と解説しています。

 問題なのが、実際にスカイツリーから本格的に地デジ電波が発射される時期。当初の予定では、来年7月の地デジ完全移行に間に合う予定でしたが、計画の遅れで本放送が始まるのは早くても12年冬以降。アナログ停渡から1年半も遅れる時間差″が、思わぬ波紋を呼んでいます。

 東京都内で電器店を経営していた奈良原さんは「送信点が東京タワーからスカイツリーに替わると、アンテナの向きを変える必要が出てきたり、新たに難視聴になってしまう家が必ず出る」と懸念します。

 総務省地上放送課では「高さが倍になるので影響はほとんどない」と説明。これに対して、「実際にスカイツリーから電波を出してみなければわからない」と奈良原さんは反論します。

あわてずとも


 地デジ問題に詳しい砂川浩慶・立教大学准教授は、「スカイツリーの建設が遅れたことで、これまで東京タワーの電波で行ってきたアンテナ調整や、ビル陰難視聴対策がムダな投資になってしまいます」と指摘します。

 実際、地域住民にムダな地デジ投資をしないよう、「学習会」を開いて呼びかけているのが、日本共産党台東区議団。杉山光男区議は、地デジテレビのアンテナ端子に針金を巻きつけるだけでもテレビが映る実験″をして、参加者を驚かせます。

 「地デジの電波は強力です。東京タワーからの電波でも、少なくない家庭で値段の安い室内アンテナで十分受信できます。スカイツリーができればさらに電波の条件がよくなる。あわててケーブルテレビに加入したり、高いお金を払って準備する必要はありません」

政策に大問題


 党区議団が地デジ学習会を開いてきたのは、区民からの地デジ相談が相次いだためでした。代表的な事例が、簡易なアンテナでも十分受信できるのに、業者から月額料金の高いケーブルテレビへの加入を迫られたり、高額なアンテナ工事代を請求されたというもの。ビル陰共聴施設の改修に数百万円をかけたマンションのオーナーの例もありました。

 相談を受けてきた、はしづめ高志区議は「アナログ停波とスカイツリーの開業の順序が逆です。来年7月までに地デジの準備をしろ″と脅して、地デジの知識のない人や高齢者に余分な負担を強いる国の政策は大問題」と怒ります。

 砂川さんも言います。「スカイツリー建設の計画が遅れたのなら、アナログ停波もそれに合わせて延期すればいいのです。その方が余計な対策に税金を使わなくても済みます。延期するのに何の問題もありません」

◇    ◇    ◇    ◇

 地デジに完全移行し、アナログ波を止める来年7月24日まで、あと200日余と迫りました。しかし、低所得者層への地デジ受信機の普及や共聴施設の地デジ対応の遅れなど、課題は山積。NHKの内部試算では、受信契約数が約60万〜440万件減ると予測しました。事実上の「テレビ難民」です。崖っぷちに立たされた地デジの課題を探ります。  (つづく)


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